影と現身のグリムガル~五つの欠片~   作:?BOX

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更新です。

原作八巻無事、読めました。ハルヒロパーティーそれぞれの思いが見ることができて満足でした。
早く九巻が読みたいです。

では、本文です。


第九話 新メンバー

 

僕たちは手を合わせたあと、すぐに墓場をあとにした。あの場にいるのはつらかったし、なんだか、ハルさんたちの邪魔になりそうな気がしたのもある。

一度、オルタナの中まで戻ってきたが、明らかにみんなの元気がない。当然のことだよね。僕だって悲しい。マナトさんにはほんとにお世話になったから。

…そっか、もう一緒にお酒を飲むって約束も叶わないのか。マナトさんには感謝の思いを伝えたかったけど、できなかった。まだ、マナトさんの死を受け入れられていないのかもしれない。それもそうだ。だってさっき聞いたばっかりだ。マナトさんの死体を直接見た訳じゃない。あのお墓で眠ってるなんて信じられない。だから、まだマナトさんはどこかで生きてるんじゃないか、「やあ、チハル」と後ろから笑顔で声をかけてくれるんじゃないか、と思ってしまう。

…でも、そんなことはないんだろうな。あのハルさんたちを見たらわかる。ほんとに死んでしまったんだって。ハルさんたちは僕たちの何倍もつらいんだろう。マナトさんはいつもあのパーティーの中心にいたリーダーだった。きっと戦闘でも重要な役割だったんだろうな。

 

「チハル、今日はこれからどうするんだ?」

 

そっか。今日はダムローにいく予定だったんだ。どうしよう?まともに戦える?僕は…多分大丈夫だ。みんなは?テルは大丈夫そうだ。堪えてない訳じゃないだろうけど。コウタは元気はないけど、あんまりいつもと変わらないような気がする。気のせいかな?カナちゃんは朝より全然マシみたい。昨日の夜は一人で抱え込むしかなかった訳だし、みんなに話せて少しは楽になったのかな。シズクちゃんは、…一番落ち込んでるようにみえる。いや、落ち込んでるとはなんか違うかも。

 

「そうだね…。一日なにもしないって訳にはいかないから…、森にいく?」

「いや、それはやめとこうぜ。森なら大丈夫とか中途半端な考え方だと気が緩む。いくならダムロー、いかないなら休みにした方がいい」

 

確かにコウタのいうことには一理ある。っていうか、その方がいい。よくない心理状態で森にいくくらいなら、気を引き締めてダムローに挑戦する方がマシなはずだ。

…どっちがいい?リーダーは僕だ。僕がはっきりしないとだ。…よし。

 

「今日はダムローにいこう。でも、ダムローは今日が初めてだよね。絶対無理はしない。ターゲットにするのはゴブリン二体まで。三体だったら戦いは仕掛けない。今日の主な目的はダムローのことを知ること。それでいい?」

「俺は賛成」

「俺も構わない」

 

マナトさんが亡くなったからって足踏みしている訳にはいかない。僕たちだって生きていかないといけない。落ち込んだって仕方ない。僕たちはできることをするだけだ。

 

「カナは大丈夫!気を抜いたりなんてしないよ」

「私は…私も頑張る」

 

カナちゃんは無理なら無理ってちゃんといってくれるよね。…問題はシズクちゃん。どうも無理してるように見える。そんなことを思ってたら、ポンと肩を叩かれた。コウタだ。コウタはシズクをチラッと見てから僕の方を向き直して頷いた。任せろってことか。僕もコウタに頷き返す。コウタがいうなら任せよう。なんか考えがあるんだろう。

 

「わかった、ダムローにいこう。みんな、なんか忘れ物はない?大丈夫だと思うけど確認しとこう」

 

弓に矢筒、矢も十分。食料も持ったし、剣鉈もちゃんとある。忘れ物はない。

 

「あ、またお昼ご飯買い忘れちゃった。ごめん、カナ、朝そんな余裕なくて…」

 

あんなに落ち込んでたんだから無理もないよね。他に忘れ物してないだけすごいよ。

 

「じゃあ、一回市場に寄ってからダムローにいこうか」

 

 

結局、一時間ほどかけて歩き、ダムロー付近に到着したのはちょうど正午ぐらいとなった。道中のチハルの提案で、ダムロー旧市街に出撃する前に付近の茂みで昼食を摂ろうということになった。今はチハルとテルとカナが食事をしている。その間は、俺とシズクが付近の警戒にあたっている。

この少し不思議な采配もチハルの指示によるものだ。このあと食事をするときにシズクのことを解決しろってことなんだろう。まあ、警戒するにも悪くない采配だし、道中はみんながギルドでどんなスキルを習ってきたのかを話していたから、シズクと話す機会がなかった。正直、自分から二人で話そうと誘うのはちょっと、というかかなりハードルが高かったので助かった。俺はこのフォローがなかったら、シズクにどんな声の掛け方をしたんだろうか。…いや、考えるのはやめとこう。

 

「コウタ、シズクちゃん、僕たちは終わったから交代ね」

「了解」

 

すれ違いざまにチハルが俺だけに見えるように親指を立てながら、なんかよくわからない笑みを浮かべていた。なんか、無性に腹が立った。

まあいい、そんなこと気にしてる場合じゃない。今はシズクだ。目の前でショルダーバッグからパンを取り出している。元気がないというより、ずっとなにかを考え込んでいるように見える。

早めに話持ちかけないと。あれが、気のせいじゃなければ…大丈夫なはず。くそ、ビビりすぎだろ、俺。

 

「なあ、シズク…」

「どうしたの?」

 

声を掛けるとなんでもないような振りをする。いや、バレバレだからな。

 

「単刀直入にいうけど、マナトが死んだことどう思ってる?」

「えっ?…どうって?」

「そのままの意味、深い意味はない」

「それは…」

「言葉にできないんだろ?言葉にできるほどの感情が生まれなかった。そうだろ?あるとしても悲しいとかの抽象的な言葉だけだ」

「っ!…何で?!」

「まあ、なんとなく、だ」

 

シズクの表情が強張って、語気が少しだけ荒くなった。やっぱり、間違ってなかった。あのときの「私、まだなにも」って呟きは気のせいじゃなかった。俺も同じだったからな。わかる。

でも、ちょっと強くいいすぎたかもしれない。ああ、ダメだな俺。

 

「…そう、だよ。私、あんなにお世話になったのにマナトさんに向ける言葉が全然浮かんで来なかったの。こんなのおかしいよね。私、こんなに冷たい女だったんだ…」

「それは違うだろ、シズク」

「何で?!だって、私、なにも…」

 

シズクが泣きそうになっている。くそ、どうしよう、そんなつもりじゃなかった。いや、俺のいい方がよくなかったのはわかってるけど…。こういうのは得意じゃないんだよ。いやいや、とにかく最後までいわないとだ。

 

「俺も同じだ」

「えっ?同じ?」

「そうだ。俺だって、なんの言葉も浮かんで来なかった。確かにマナトはグリムガルにきてから一番お世話になった人っていってもいいと思う。でも、考えてもみろよ、マナトと関わったのはほんの数日だけ、しかも一日じゅうずっと一緒にいた訳でもない。それなのに、しっかりした弔いの言葉がポッと出てくる方がおかしい。そんなのただの薄っぺらい建前でしかない」

「……」

 

ちゃんと聞いてはくれてるみたいだ。でも、うつむいてて表情はいまいちわからない。とにかく続けよう。

 

「だから、悲しいとか悔しいとかでいいんじゃねぇか?少なくとも俺はそう思う。それに、マナトのことについてずっと考え込んでたシズクは、冷たい女なんかじゃねぇよ。マナトの死にちゃんと向き合おうとしてたってことだろ?それならむしろパーティーの中で一番優しい女の子ってことだろ」

「…ほんとに?」

「そうだ。カナのことも慰めてたし、シズクは優しい。十分優しい」

「違う、そこじゃなくて。私と同じってとこ」

「ああ、そっちか。…同じだ。多分、みんなも似たようなもんだろ。それくらいが普通だと俺は思う」

「そっか、同じか。コウタ」

「なんだ?」

「ありがとう」

 

可愛い。これが一番最初に出てきた言葉だ。シズクの笑顔ってこんなに可愛かったっけ?涙ぐんでいる感じが儚さを増している。ずっと見ていたいとも思うが、直視してるのもちょっとつらい。

 

「安心したっていい方はよくないかもしれないけど、私だけの悩みじゃないってわかってよかった、うん。でも、私だけじゃないからって割りきれる訳じゃないけど、今は考えるのはやめる。ちゃんと目の前の戦いに集中するから」

「お、おう、ありがとな。俺もシズクがいると心強いからな。援護は任せるぜ」

 

少し動揺してしまった。声が裏返りそうだった。

 

「自信持って任せてとはいえないけど、頑張るから」

「うん、頼む。…とりあえず、さっさと昼飯食わないと」

「そうだね。じゃあ、いただきます」

 

昼飯を食べながらシズクとは、ギルドの先生の愚痴をいい合った。シズクの先生はよく話が逸れるからちょっとめんどくさいらしい。でも、こういう話もできるようになったし、戦闘でも大丈夫だろ。今はマナトのことじゃなくて自分たちのことを考えないと。気持ちを切り換えろ!

俺たちも食事を終えたのでチハルたちを呼び戻す。戻ってきたチハルはシズクと俺をみて頷いた。なんとかうまくいったとに気づいたみたいだ。

 

「ダムローのことはまだ全然わかんないから、いらない荷物はここに置いておこう。よし、みんな準備はいい?いくよ!」

 

エネルギーの補給もできたし、ダガーも研いできた。大丈夫、できることはやった。

 

「「「「「おーっ!」」」」」

 

ダムロー初日だ。気合いを入れるにはこれが一番いい。よし、いける。

 

「コウタ、いつも通りお願い」

 

いつも通り、俺は斥候をやる。ここからはまだダムローの市街を囲っていた崩れた防壁や、中にある建物が見えるだけだ。特に敵は見当たらない。

忍び歩き(スニーキング)を使用しながら素早く進む。うん、なんとか使いこなせてる。みんなもついてきている。

ダムローの外壁に到着した。特に敵もいない。ここならダムロー内の敵からも見つかりにくそうだ。一旦みんなを集めよう。手を振って合図をする。

 

「チハル、ここは一旦俺が一人でダムローに入る。地形把握は得意だし、俺には忍び歩きがある」

「一人は危なくないかな?僕もいこうか?」

「いや、弓は目立つし、人が多い方がどうしても音がでやすい。一人で大丈夫だ」

「わかった。ここで待ってる」

 

外壁からダムロー内を覗き込むように確認する。とりあえず、半径二百メートルぐらいを捜索だ。…高いとこから見れれば楽だ。よし、あの建物がよさげだ。今のところ気配はない。一気に駆け抜ける。

…よし、うまくいった。音もほとんど立てないで走れた。

ドアがあっただろうところから中の気配を窺う。なにもいなさそうだ。顔を覗かせる。…大丈夫、いない。階段は、…あった。

階段に近づいていくと上からなにか聞こえてくる。ゴブリンの声だ。何体いる?無理だ、さすがにわからない。でも、二体以上いることは確かだ。とにかくここにいるのはよくない。逃げよう。

なるべくさっきの建物の死角になるような道を選んで離れる。…また音がする?ゴブリン…じゃない?なんかの鳥だ。気にしなくて大丈夫だろ。とにかく、索敵を続けよう。

いない。いない。いない。ゴブリン四体。逃げる。いない。いない。ゴブリン五体。無理。いない。いない。いない。いない。……

くそ、なんでゴブリンそんな固まってんだよ。二体とか全然いないじゃねぇか!三体でさえ見かけない。三体の集団がいたと思っても物陰にもう一体いたりする。ダムローは見晴らしが悪い。とにかく一旦戻ろう…。

 

「みんな、ただいま」

「コウタ、やっと戻ったね」

 

みんな不安そうな顔をしていた。確かに思ってたより広範囲を捜索していたから時間がかかった。

 

「悪い。ちょっと時間かけすぎた」

「いや、ありがとう。で、どうだった?」

「ダメだ、手頃なゴブリンが全然いない。だいたいが四体以上だ」

「四体か…。今の僕たちじゃ厳しそうだね」

 

テルが二体抑えたとしても俺らで二体相手にしなきゃいけない。無理ではないかもしれないが、やっぱり不安は残る。それに今日は二体までしか相手にしない約束だ。

 

「もうちょっと索敵してみるか?」

「うん、時間もまだあるし、もう一度だけお願いするよ。でも、次で二人組のゴブリンが見つからなかったら今日はオルタナに帰ろう。あんまり焦っても仕方ない」

「オッケー。いってくる」

 

…さっさ向かった方向とは逆を捜索してみるが、四体以上の集団ばっかりで、結局二人組のゴブリンは見つからなかった。くそ、今日は収穫なしか…。さっさとみんなのとこに戻るか。

…ん?なんだか騒がしいな。まさかっ…!

 

…キィィン

「テル、……お願い!」

 

はっきりとは聞こえないがチハルの声だ。金属音も響いてる。戦闘中?!まさかゴブリンに見つかったのか?とにかく急がないと。忍び歩きを使わないで全力で走る。大丈夫だ。ここらへんに敵はいなかった。

…そろそろだ。忍び歩きを発動する。焦るな、仲間を信じろ。そんなに簡単にやられる訳がない。待機していた場所が見える位置まで移動する。

…見えた!敵は三体。テルが二体を引き付けてて、カナがもう一体を受け持っている。チハルとシズクは距離をとって一番近いカナのゴブリンに狙いを定めているようだが、射線上にカナがいるため、狙いが定められないようだ。テルがけっこうつらそうだ。泥ゴブリンと違って装備も比較的綺麗だし、技術もあるように見える。さすがに二体は厳しいのか、テルがジリジリと後退させられている。一番遠いけど、まずはテルのカバーだ。

バレないように忍び歩きを発動し、崩れかけの外壁の内側を身を低くして素早く移動する。回り込んで背後から奇襲を仕掛ける。

位置についてから、顔を覗かせて確認すると、短剣ゴブリンが不思議な光を放つバックラーを装備してるテルの左腕を切り裂いたところだった。くそ、ヤバいじゃねえか。いくしかっ!…いや、落ち着け、傷は浅いみたいだ。むやみに突っ込んでチャンスをムダにできない。テルはバックラーで短剣ゴブを押し出しながら後退する。ダガーゴブが突っ込もうとしているが、槍を薙ぎ払うことで牽制する。

カナの方はシズクがうまく魔法の光弾(マジックミサイル)を操作して石斧ゴブの体力を少しずつ削れているようだ。チハルはテルのゴブリンに狙いを変えるが、こちらも射線がうまく通らない。ゴブリンたちがそう立ち回っているのだろう。

どのタイミングで突っ込む?距離はそこそこある。他に障害物もないし、突っ込むならここから一気に走るしかない。多分バレないのは無理だ。二体もいるし。じゃあ、こっちに引き付けるか?そしたらテルも一対一。うまくいけば、チハルの射線を通せるかもしれない。よし、それでいこう。

近くに転がっている手頃な外壁の破片を掴む。なんか俺、石投げてばっかじゃね?まあ、けっこう有効なんだからそれでいいはずだ。

 

ビュンッ!

 

思いっきりダガーゴブへ向けて投げた。あわよくばダメージも与えられればいい。

 

「グギャ!…グゴ?!」

 

ダガーゴブの左の脇腹辺りに命中した。くそ、ダメか。痛そうな反応はしたがあまりダメージは入ってないようだ。

ダガーゴブがこちらを振り返る。真っ直ぐ突っ込んできた。

 

「…黄昏の訪れ(トワイライトアドヴェント)

 

テルのバックラーの紋章から光が消えた。確かあれは誘いの光(ヘイトライト)だったか。もういらないと判断したんだろう。

俺はダガーを抜き、迎え撃つ準備をする。まずは相手の武器を落とす。

 

ヒュンッ

「クギィッ!」

 

ナイス!チハルの矢がダガーゴブの右太ももを貫く。ダガーゴブが盛大に転んだ。痛みでダガーを手放した。地面を蹴って走り出す。落としたダガーをなにもないところへ蹴り飛ばし、ダガーゴブとのすれ違いざまに右足のアキレス腱にダガーの刃を入れる。これで動けないはずだ。トドメはあとでいい。先にテルのフォローだ。よくみるとテルは左太ももも斬られているようだ。あれでよく動けるな。

短剣ゴブへダガーを突き刺そうと突っ込んでいく。…気づかれた!こっちにくる…?!

短剣ゴブもこちらに向かって短剣を振り上げながら走ってくる。くそ、避けられない。受け止めるしか…!

 

カンッ

 

…いってぇぇ!ヤバい、痛い、痛いって!咄嗟のことでダガーでうまく受け止められなかった。短剣にぶつけることはできたから、方向は逸らせたし、勢いも殺せたが、左肩に刃が食い込んだ。

 

「グッィ…」

 

目の前にいた短剣ゴブから一気に力が抜けた。テルだ。テルが首根っこを一突きで仕止めてくれたみたいだ。ゴブリンを右手で跳ね退ける。くそ、でも、いてえよ。さすがに死にはしない…よな?

 

「カナ!コウタの治療!シズクは短剣抜くの手伝ってあげて!テルはダガーのゴブリンにトドメ!周囲警戒は僕がやる!」

「コウタ!大丈夫?!」

 

シズクとカナが駆け寄ってくる。石斧ゴブは倒せたみたいだ。

 

「ああ、なんとかな」

「シズク、カナが魔法発動させてから短剣抜いて!」

「うん、わかった!」

「いくよ…。光よ、ルミアリスの加護のもとに…癒し手(キュア)!」

 

ブシュッと血が噴き出す音がした。が、すぐに痛みが引いていく。これなら死なないで済みそうだ。

 

「よし、終わり!」

「ありがとう、…大丈夫そうだ」

 

起き上がって左腕をぐるぐると回してみたが、痛みも違和感もなかった。出血もそこまでなかったらしく、フラフラすることもなかった。実際、どのくらいの出血だったかはすぐ横のゴブリンの血と混ざってしまったようで、知るすべもない。

 

「こっちも大丈夫。特に周りにゴブリンはいないみたいだ」

「とどめの方も済んだ」

「じゃあ、戦利品の回収だね」

「テルはこっちにきて治療だよ?」

「ああ、すまない、カナ」

 

シズクとチハルがダガーゴブと石斧ゴブを回収にいった。俺は短剣ゴブから回収した。今回のゴブリンは三体とも腰にゴブリン袋とは違う大きめで丈夫な革袋を身に付けていた。中を確認すると一つは水が入っていて、残りは赤い木の実のようなものがパンパンに入っていた。

チハルによると、ゴブリンたちはダムローの方からじゃなくて森の方からやってきて襲われたらしい。だから気づけなかったみたいだ。

森からやってきてこの荷物ってことはこのゴブリンたちは食料調達の帰りがけだったってところだろう。水が漏れない革袋はなかなか便利なので、ついでに赤い実ごと全部持ち帰ることになった。

 

「遅れて悪かったな、ごめん」

「コウタが謝ることじゃないよ。それにコウタが奇襲かけてくれたから勝負がついたんだし、勝てたのはコウタのおかげだよ、ありがとう」

 

確かに俺がもう少し遅れていたら、テルがもっとひどいことになっていたかもしれない。

だからといって、素直に肯定できなかった。もっと早くたどり着いていたら違ったかもしれない。

 

「とりあえず、今日のところはオルタナまで戻ろう。コウタからダムローの中のことも聞きたいからね」

「賛成だ。いろいろ知識がついてからの方が安全だ」

 

もう、戻るのか…。まあ、正しい判断だよな。でも、今はこうやって、敵地に身をおいている方が気持ち的には少し楽だ。マナトのことを考えないで済むから…な。

 

 

今はパーティーでシェリーの酒場に向かっている。情報収集と今日の反省会をやるためだ。時刻はだいたい夜の七時。シェリーの酒場の料理は大抵割高になっている。だから、宿で夕飯を済ませてきたところだ。

今日の収入だが、意外なことに五シルバーと三十五カパーになった。なんと、ジードの店であの赤い実が一袋一シルバーで買い取ってもらえた。なんでも、あの赤い実はカウの実といって、オルタナで今流行っているナッツ茶のカウヒーという飲み物の原料になるらしい。実自体は食べると甘いのだが、カウヒーは苦くて癖のある飲み物らしい。いつか飲んでみたいものだ。

 

「あ、ハルさんたちだ」

 

シェリーの酒場に入ると奥にハルヒロとランタとモグゾーがいた。女性陣はいないようだ。もちろんマナトもいない。

しかし、同じく青いラインの入った神官服を着ている青い髪の女性が近くに立っていた。その横でちゃらんぽらんな感じの男が激しい身振り手振りで話している。確か前マナトと話していた男だ。見た感じからして女性神官を男に紹介してもらっているようだ。

 

「話しかけられそうな感じじゃないね、いこう」

 

五人で座れる席を探して腰掛ける。給仕がすぐに注文をとりにくる。

 

「僕はビールで」

「俺も」

「俺もだ」

「カナもビール飲んでみたい!」

「私はお酒ちょっと怖いから…レモネードで」

 

シズクは壁に掛けられたメニューを見ながらいう。そういえばみんなでくるのは初めてだ。

カナは朝会ったときと比べるとだいぶ元気になった。気にしないようにしているのか。乗り越えたって訳でもないだろう。

給仕と入れ替えたようにさっきの男が通りかかる。

 

「ああっ!君らもしかして、俺ちゃんの後輩くん?!だよね、だよね。俺ちゃん、キッカワっての。シクヨローっ!」

 

ノリの軽い男だ。こういう男は…苦手だ。

 

「いやいやいや、みんな俺ちゃんのこと変な目で見ないでくれない?!不審者じゃないよ?!俺ちゃんはマナトっちの同期。つまり、パイセンだよ?パイセン」

「この前ここでマナトさんと話してましたよね」

「おっ、見られてた?ハズいねー。お?ビールきた?そーだ、俺ちゃん奢ってあげるよ、パイセンだしね!あ、ルービーもう一個追加ね!」

 

キッカワは正式な団章を見せて全員分のお金を払った。ここでは正式な団章があれば割引がきくらしい。

 

「そんな、悪いですよ…」

「いーのいーの、俺ちゃんたちの出会いにかんぱーい的な?だから、俺ちゃんのくるまで乾杯待ってよ?」

「あはは、待ってますね」

 

こういうときのチハルは頼りになる。世渡り上手ってやつか。俺には絶対真似できない。

 

「お、早いねー。サンキュー、お姉さん!じゃあ、俺ちゃんたちの出会いに、かんぱぁーい!」

「乾杯!」

「かんぱーいっ!」

「…か、乾杯」

 

俺とコウタは無言でジョッキを突き出す。コウタは苦笑いしていた。同じくついていけてないようだ。

 

「ぷはーっ!いやー、やっぱりルービーうまいね」

「僕もけっこう好きですよ。ところでキッカワさん」

「ん?どーした?なんでもウェルカムだよー!」

「さっき、ハルさんたちと話してたところを見たんですけど、なにしてたんです?」

「あ、また見られてた?もしかして、俺ちゃんのファン?なんちゃって!なんだっけ?さっきのこと?ああ、メリイちゃんを紹介してたときね!ハルっちたちが神官いないの激ヤバだっていってたからね。ちょうど酒場にいたから紹介しちゃったって訳よ。ゴイスーでしょ?パーティー入るみたいだし、俺ちゃんいいとこした!」

 

そうか、マナトは神官だった。確かに神官はパーティーに必須だ。でも、少し早すぎはしないか?

 

「…なるほど。ありがとうございます」

「いいっていいって。俺ちゃんこう見えて情報通だからもっともっと聞いちゃっていいよ?後輩たちへのサービスサービスゥ」

「じゃあ、ダムローについて教えてもらってもいいですか?基本的な情報はわかるんですけど、もっと、こう、いった人だから知ってる情報みたいなのが欲しいんです」

「ダムローね。モチのロンでオッケー!でも、そ、の、前、にぃー。君らの名前、教えてクレッシェンドゥゥー?」

 

 

「ふあぁ」

 

藁のベッドの上で伸びをしながら体を起こすと、六時の鐘が聞こえてくる。最近はこの鐘の前にちゃんと起きられるようになった。カナちゃんはまだ寝てる。昨日はマナトさんのこと考えててすぐに寝付けなかったけど、起きるのはいつも通りだった。

いい匂い。モグゾーさんが今日もまた朝御飯の準備をしてるみたい。私たちのパーティーの分まで作ってもらうのが申し訳なくて、変わろうとしたんだけど、「ぼく、好きでやってるだけだから」っていって次の日も早起きしてやってくれていた。この前あんなことがあったばかりなのに、今日もやってくれている。すごいなぁ。今日は手伝いにいこう。

 

「いや、ぼくは多分そのパーティーの人じゃない…かな?」

「じゃあ、そのパーティーの人を呼んできてもらえるかしら?」

 

モグゾーさんの声と知らない女の人の声が聞こえてくる。誰だろう?

中庭に出ると綺麗な赤い髪の女の人がモグゾーさんとしゃべってた。

 

「あ、シズクちゃん。…あの子がそのパーティーのメンバーだと思います…」

「そうか、ありがとう」

 

え?私?女の人がこっちに向かって歩いてくる。その女の人が私の方を見上げて口を開く。

 

「すまないが、私をあなたたちのパーティーに入れてくれないか?…ああ、私はここ、オルタナ出身のアトリトルテ・アルベルトだ。つい先日義勇兵に志願した」

 

女の人はその可愛らしい声とはとても似合わない口調でそういった。




読んでいただきありがとうございます。

そういえば、原作八巻でやっと(のはず)聖騎士の魔法が出ましたね。詠唱は雰囲気からして魔法それぞれで違うっぽいですね。暗黒騎士と同じ感じみたいです。
ただ、この作品では前話で、原作とは違う詠唱で聖騎士の魔法を登場させていました。今のところは変えるつもりはないですが、もしかしたら、そのうち原作に近い形に変更するかもしれません。ご了承下さい。

では、また次回にて(* ̄∇ ̄)ノ
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