彼を忘れてたわけではありませんよ。
では始まります。
武の探求者ブレイン・アングラウスは王国戦士長ガゼフの館で眠り続けていた。そして今日、意識をはっきりと覚醒させた。
腹の虫が鳴き、腹を擦る。タイミングが良いのか、館の主であるガゼフが部屋に入ってきた。
「起きたかブレイン。腹が減っているだろう。下に降りてこい」
その言葉に誘導されながら下に降りるとバルムンクとオルカが既にいた。あの時の敗北が夢でなかったことも理解する。
そもそもなぜオルカたちがガゼフの館にいるかというと、話は数日前に遡る。
オルカたちがシャルティアと不幸な戦闘を終えた後にブレインを抱えて王国まで走り続けたのだ。アイテムの快速のタリスマンがあればこその技であった。そして雨の降る王国にて助けたブレインをどうしようかと考えている時にガゼフと出会ったのだ。
後はそのまま館に案内された形となったのだ。
「恩に着るガゼフ。泊まらせてくれて、食事までごちそうになるとはな」
「構わないさバルムンク殿。ゆっくりしていってくれ。それにしてもブレインまでいるとはな。何があったんだ?」
「……圧倒的な存在に自信を砕かれそうになったんだよ」
それは思い出したくない過去である。しかしそのキズはしかと心に刻み込まれた。
「そうか……詳しくは聞かん。話せる時になったら話してくれ」
その一部始終を知っているオルカとバルムンクは朝食に出たベーコンと一緒に腹の中に飲み込んだ。勝手に話すことは無粋だろう。
「ところでブレイン。彼らは一体誰だ? 自己紹介はしてあるが旅人としか聞いていないぞ」
「彼らは命の恩人だ。ま、俺も詳しく知らないがな」
「まあ、あの時は無我夢中で王国まで走ったからな。お前さんと自己紹介すらしてないな」
オルカとバルムンクはブレインに自己紹介をする。それが終えた後にブレインは彼らに頼みごとをする。それは自分に剣を教えてほしいとのことだ。
あの圧倒的すぎる吸血鬼と戦える戦士に剣を教えてもらう。強さを求めるならば当然の頼みであった。
「剣を教えてほしいのか」
バルムンクは悩む。剣を教えるのは構わない。しかし、問題なのは指導している時間があるかどうかである。元々、この王都を訪れたのはウィルスバグを駆除するためだ。その中で剣の指導している暇があるかと問われれば無い。
「オレたちにはやるべき使命がある。剣の指導なんてしている暇は無い」
「……そ、そうか」
「それでも本当に時間がある時だけというならば教える。それでよいか?」
「……ああ!!」
ブレインは希望を見いだす。自分はまだ強くなれる。そう感じたのだ。
「あまり期待するなよ。じゃあ、早速言葉を贈ろう。今日は稽古は出来ないが言葉は贈れるからな」
「言葉?」
「ああ。強くなるのに剣の技術を鍛えるだけじゃダメだ。大切なのは心の在り方だ」
強くなるとは肉体的にも精神的にも成長が必要である。特に成長するには精神面が大きいと考えるのがバルムンクだ。
「圧倒的な敵と対峙した時でも負けない心が必要だ。最後まで抗い食らいつくんだ」
The World時代の時のザワン・シン戦やコルベニクとの最終決戦を思い出す。その時も圧倒的な差があり、勝ち目なんて無いに等しかった。だがリーダーのカイトはあきらめない心を持って戦った。だからバルムンクだってあきらめずに戦ったのだ。そして勝利をもたらしたのだ。
「心の在り方1つで戦いは左右される。だから自分だけの心の強さを持て」
「心の強さ」
「ああ。それだけでも強さは変わるものだ。心は一人ひとつ、お前だけの心の強さを見つけるんだ」
バルムンクはThe Worldで体験した大きな事件を異世界に当てはめて説明した。
「なあ、1つ参考までに聞きたい。あんたらの心の強さは何だ?」
「オレの心の強さは世界の安寧を思う正義だ」
なかなか大それたことを言うがThe Worldで当てはめるならば正解である。
「俺はただのお節介だ。でも関わったなら最後まで関わり抜く。途中で放り出さない」
2人の心の強さを知る。彼らのように何か1つでも折れない心を持つのは確かに必要だろう。
「今日、オレたちは町を出歩くつもりだ。ブレインはどうする?」
「オレか。……どうするか」
「留守番しているか。オレは仕事にそろそろ行くが」
バルムンクたちやガゼフは外に出かける。それを聞いてブレインも外でウロウロすることを決めた。
館に引きこもっているよりも外に出た方が彼にとって良いだろう。外にはいくつかの発見があり、出会いがある。
そしてブレインにとってそれは正解であった。今日はブレインにとって自分を成長させる幕開けの日であったのだ。
バルムンクとオルカはブレインと共に街をウィルスバグについて調査してウロウロしていた。そんな時に彼らは人助けをしていたセバスを目撃した。
目撃していたのはバルムンクたちだけじゃない。熱き心を持った少年戦士であるクライムもセバスの強さを目撃していたのだ。
ブレインとクライムはセバスの強さに惹かれた。先に動いたのはクライムであった。強さを求める彼はすぐさまセバスに剣の稽古を申し込んだのだ。
セバスも最初は迷ったがクライムに1つ質問した。
「なぜ、あなたは強くなりたいのですか?」
そして返ってきた答えがこれだった。
「男ですから」
この答えを聞いてセバスは少しなら訓練に付き合っても良いと考えた。彼からは正義を宿した目をしている。
同じ正義の心を持つ者に自分も少しは影響されたのかもしれない。そう思いながら訓練を早速始めたのであった。
そして訓練を後ろから見ているバルムンクたちとブレイン。特にブレインはバルムンクやオルカの他に出会った強者にまた強く惹かれていた。
外に出て本当に良かったと思っている。やはり外にはまさかの出会いや発見があるのだ。
様子を隠れて見ていたブレインも我慢できずに思わず二人の前に出てしまう。その後を追うようにバルムンクたちもセバスたちの前に出るのであった。
「ようセバス。少年を鍛えているのか?」
「これはオルカ様にバルムンク様」
ナチュラルに会話に混ざる。
「オルカにバルムンクの知り合いなのか?」
「まあな。ちょっとした知り合いだ」
男5人が一箇所に集まる。その5人がそれぞれ強さを持つ。ブラックローズがいればむさ苦しいっと感想を言うもしれない。
「バルムンク様たちの調査はどうですか?」
「いや、著しくないな。まだウィルスバグは見つからない」
「簡単には見つからないってことだぜ。できればさっさと見つけて倒したいんだけどな」
ブレインたちに分からない話をしている。聞いていても分からない。
(ウィルスバグって何だ?)
当然の疑問であろう。
「ブレイン。ちょうど良いからここで少し剣の稽古をやってみようか」
「本当か!?」
バルムンクもセバスが稽古を教えているのを見て感化される。ちょうど良いと思ったのもあったのだ。
それにしても剣を教えるなら砂嵐三十郎も居たらちょうど良かったかもしれない。彼は新しい勇者を育てた経験があるからだ。
ブレインは勇者ではない。しかし強き剣士になる存在だ。同じ剣士として鍛えるのも悪くないものである。
早速鍛錬を始めようとした時、事件が起こる。それは襲撃者が現れたからだ。
バルムンクたちを囲うように現れた襲撃者。手には物騒に武器を持っている。そして何も言わずに襲ってくるのであった。
「迎え撃つぞ!!」
彼らにとって襲撃者は敵ではない。たやすく一蹴する。
なぜ襲ってきたかと襲撃者に尋問する。答えは八本指という組織がセバスを殺して利用できるであろうソリュシャンを狙ったということらしい。
セバスもまたバルムンクたちに説明する。何でも数日前にツアレという女性を助けて八本指に目を付けられたというのだ。
「そんなことがあったのか。ところで八本指ってなんだ?」
八本指に関してはクライムが説明する。元々、クライムもどうにかしようしていた組織だからだ。
説明を聞いてバルムンクは裏犯罪組織ならば見過ごせなかった。そして襲われたならば、また襲ってくる可能性があるだろう。
「申し訳ございません。私の失態に巻き込んでしまうなんて」
「気にするな」
襲撃者からの情報で娼館の裏に八本指が糸を引いていることが分かった。このまま何もしないなんてできない。何もしなくても八本指は見逃さないだろう。
ならば逆にこっちから襲撃してやろうと考える。これに対してセバスも頷く。
「力を貸していただきありがとうございますバルムンク様、オルカ様」
「お互い様だ。八本指とやらを潰すぞ」
まさかのまさか。ウィルスバグを駆除するよりも王国の裏犯罪組織を潰すこととなった。
目指す場所は娼館。今日にでも襲撃するつもりだ。
「待ってくれ。オレにも手伝わせてくれ!!」
「自分もお願いします。八本指に関しては元々戦うつもりだったんです!!」
強さを求める2人も娼館の襲撃班に加わる。5人の男たちが王国の裏犯罪組織との戦いが始まった。
一方、カイトとアインズたちは王国に到着するのが夕刻ごろと予想をしていた。
「暗くなる前には到着したいね」
「そうですね」
読んでくれてありがとうございます。
次回もゆっくりとお待ちください。
今回からセバスたちによる男の戦いが始まりました。
彼らをカッコよく活躍させたいですね。
ブレイン 「強くなる!!」
クライム 「自分もです!!」
バルムンク「頑張れ」
セバス 「貴方たちなら強くなれます」