今回はエントマ戦の後であるヤルダバオトの登場です。
タイトル通りで「ゲヘナ」が実行されます!!
では、始まります。
.hackers、蒼の薔薇陣営
暑苦しい笑い声が響く。その発生源はぴろし3である。その姿を見たエントマはダウンしそうになるのであった。
(嘘でしょお……)
「うーむ。これはどんな状況なのかね?」
「見れば分かるだろう。ガガーランたちがあの蟲と戦っているだけだ」
イビルアイが冷静に状況を分析する。その答えは正解である。しかし、敵であるエントマと知り合いであるということを抜いてだ。
「なつめ、説明!!」
「今説明しただろ」
ぴろし3は無視してなつめからメッセージ会話を行う。
(実は不幸な戦いです。なんとかエントマさんが逃げられるようにフォローしながら戦っているんですがなかなか……)
(なるほどな。ではここは私に任せろ!!)
ぴろし3が重槍を構える。イビルアイも加わり戦う。なつめは皆にバレないようにフォローに徹する。
「殺す気でかかってこい蟲娘よ!!」
「言ったなこの暑苦しい黄金戦士め!!」
巨大なムカデがぴろし3に迫る。
力の限り重槍を前と突き出す。巨大なムカデを砕いて貫いた。これには驚く蒼の薔薇一同。そしてもっとも驚いたのがエントマであった。
(うっそぉおお!?)
「あっはっはっはっは!!」
「やっぱすげえな……ぴろしのやつは」
(やりすぎですよぴろし3!!)
無視するぴろし3。その勢いにガガーランたちも加わる。
「アイツが蟲の魔物なら私の魔法が有効だ」
イビルアイは蒼の薔薇の切り札。実力は確かであり、プレアデスと1対1で戦えるほどの領域に達しているのだ。
これにはエントマは焦る。さらに彼女の使う魔法はエントマにとって天敵であるからだ。
「ヴァーミンべイン・蟲殺し」
普通の蟲系モンスターならば即死する魔法だ。エントマだって確実に効く魔法でもある。
おかげで身体に擬態している蟲をいくつか破壊された。特に大切な口唇蟲が破壊された時は悲しみと怒りが混ざる。
「ヨクモ……!!」
「それが本当の声か……嫌いじゃないぜ」
人間にしては嬉しいことを言ってくれる。しかしエントマにとって本来の声が嫌いなのだ。ぴろし3も「嫌いじゃない」というが勘弁願いたいのであった。
そしてフォローに徹しているなつめを見る。よく見るとなつめは皆に見つからないように破壊されたエントマの身体である蟲をそそくさと回収。回復アイテムをドバドバと使って蘇生させる。
エントマにとって大切な口唇蟲が蘇生したのを見てガラも無くホッとする。
(わあああああ!?)
なつめは心の中で叫びながらエントマの蟲を袋に詰め込んだ。
(グッジョブ……なつめ!!)
今度はガラも無く感謝して安心するのであった。
(後デ渡シテネェ)
フォローしてくれるおかげで安心するが状況的にはマズイ。身体は「ヴァーミンペイン」によってボロボロ。この姿はどこからどう見ても敗北である。
この戦いでぴろし3とイビルアイが参戦したのが敗北の原因である。ぴろし3を除いて人間如きに負けるとは超失態ものだと心の中で吐き出す。
戦いながら自然に逃げる策は失敗に終わった。なつめもエントマもイビルアイの「ヴァーミンペイン」という魔法は予想できなかったのだ。
(コノママジャ捕マルゥ……)
こうなったら形振り構わないと思った時、戦局はまたも変化する。
エントマの前に現れたのは怪しい仮面を付けた大悪魔であった。いきなりの登場にイビルアイたちは警戒する。
「何だお前は!?」
「我が名は大悪魔ヤルダバオト」
ヤルダバオトの正体はデミウルゴス。エントマとなつめはすぐに分かった。
(デミウルゴス様!!)
(ここは私がお相手しましょう。エントマは早く撤退しなさい。なつめは後でエントマに蘇生した蟲を返すように)
ヤルダバオトことデミウルゴスは途中からエントマとなつめたちの戦いを発見したが、すぐにその戦いが演技だと見抜いた。
勘違いで裏切りとは思わない。もし勘違いで問題を起こしたらアインズの顔に泥を塗るからだ。
そう思いながら少し傍観していたが戦いの雲行きが怪しくなったので手助けに入ったのだ。そして少し早いが作戦も実行しようとする。
「そいつの仲間か。ならアンタも捕縛する!!」
「人間如きが私を捕まえるなどおこがましい」
周囲を押し潰すかのようなプレッシャーを放つ。これにはイビルアイでさえ足を少し引いてしまう。
(何だこのプレッシャーは……魔神との戦い並み、それ以上か!?)
一方、ぴろし3となつめはデミウルゴスのプレッシャーを受け流していた。確かにとんでもないプレッシャーであるが彼らはそれ以上のを体験しているので対処できていた。
The Worldで八相との戦いや反存在との戦い。それらは激しい戦いであったのだ。
(す、凄いですねデミウルゴスさんは)
(うむ。さすがは大悪魔を名乗ることはあーる!!)
そんな感想はさて置き、デミウルゴスは威嚇のつもりで魔法を放つ。しかし、ここで予想外な展開が起こった。
殺すつもりはまだ無かったがガガーランとティアがデミウルゴスの魔法に耐え切れずに死亡してしまったのだ。
(何やってんですかデミウルゴスさん!?)
(……ふむ。殺すつもりはまだ無かったのですがね。やはり人間は脆いですね。そもそも貴方たちは無事のようですね)
本当に威嚇のつもりで撃ったのだから弁解は無い。脆すぎる人間が悪いのだと主張するのであった。
その主張には納得出来ないが、カルマ値が最悪のデミウルゴスに何を言っても無駄なので口論をする気は無い。
まずはこの後をどうするかだ。早くガガーランとティアを蘇生させなければならない。
(そしてイビルアイさんを止めないと)
イビルアイは仲間を殺されて怒っている。絶対に許さない。必ず殺すと息巻いている。
その相手は同盟関係だと言えないなつめであった。なつめの「超気まずい」と思うのであった。
「許さないぞ!!」
「許さなくてけっこうです」
イビルアイは確かに強い。しかしヤルダバオトことデミウルゴスを相手にするのは厳しいだろう。奇跡でも起きない限り絶対のレベル差は埋まらない。
彼女は死ぬ覚悟でヤルダバオトに立ち向かう。仲間のために戦うことを決めた。それが絶望的でもだ。
「行くぞ!!」
(仕方ありませんね)
イビルアイが殺しに来るならと反撃するヤルダバオト。逆に殺害しようと迫る。
死の魔の手がイビルアイに迫る。だが、何度も言うように戦いとは何が起こるか分からないのだ。戦いにも運があるのだと誰もが言う。
今回は本当に運が良い。イビルアイは後にそう語る。そして彼女は数百年ぶりに少女らしい思いを抱くこととなる。
「危ないイビルアイ!!」
蒼炎の勇者と漆黒の英雄が乱入する。
モモンことアインズはヤルダバオトの前に立ちふさがり、カイトはイビルアイを間一髪の危機から救った。
「大丈夫かいイビルアイ?」
「あ、ああ」
カイトはイビルアイを安心させるために優しい笑顔を送る。彼女に「もう大丈夫」と思わせるくらいの笑顔だ。
そのまま優しく抱きかかえて安全なところに運ぶ。ここからはカイトとアインズの出番である。
カイトも圧倒的な存在であるヤルダバオトに立ち向かう。その姿を見てイビルアイは一目惚れをして胸がトクゥンと、ときめく。
この時、なつめは新たな敵を発見してしまった。そしてこんな状況でありながらイビルアイを睨むのであった。
「お前は何者だ?」
モモンことアインズはヤルダバオトに質問する。正体は分かっているが。
(これはどういうことか説明してくれるなデミウルゴス)
(はいアインズ様。しかし、ここでは説明できません。詳しくは後ほど説明致します)
(分かった。ではこのままデミウルゴスと戦う演技をして撤退すればいいのだな?)
(さすがはアインズ様。その通りでございます)
まだ詳しくは分からないがするべきことは理解できた。アインズはカイトに説明して、演技という名の戦いを始める。
(分かったよアインズさん。とりあえず激闘を演じれば良いんだね)
(はい。お願いしますよ)
カイトは双剣を構える。アインズは大剣を2つ構える。
「行くぞ大悪魔!!」
「来なさい!!」
カイトとアインズ対ヤルダバオトのぶつかり合いが始まる。カイトとアインズは剣で斬りかかり、ヤルダバオトは鋭く硬い爪を伸ばして反撃する。
その戦いは現地の人から見れば超激戦だ。彼らからしてみれば演技なのだが、そんなことは言わない。
「ラプコーブ。ラプボーブ。ラプドゥ」
「助かるカイトさん!!」
「怒涛の勢いで行くよ!!」
魔法で2人は強化し、怒涛の攻撃を繰り出す。剣閃が何度も煌く。
「はああああ!!」
「疾風双刃!!」
大剣と双剣がヤルダバオトの鋭く硬い爪を切り裂く。2人は同時に跳び、突撃した。
「むうう……人間にも中々強いのがいるようですね」
「我らをナメるな。この漆黒のモモンがいる限り王国を侵攻させん!!」
「この王国はボクらが守る!!」
大剣を軽々しく振るい、自分は強者だと分からせるように魅せる。カイトは蒼炎を纏いて双剣構える。2人は自然とカッコイイポーズをとったのだ。
蒼炎の勇者と漆黒の英雄のダブルポーズである。アドリブとは言え、クールに決まった。
なつめとイビルアイはカイトに見惚れ、ヤルダバオトことデミウルゴスはアインズに見惚れた。
(カイトさんカッコイイです!!)
(カイト……さま)
(なんと凛々しく素晴らしいのですかアインズ様!!)
ここで彼らの演技とも言える戦いは終了する。区切りをつけるにはちょうど良いタイミングである。
ヤルダバオトはアインズとカイトに強さに圧された振りをして撤退する。
「やったな」
「そうだねモモンさん」
だが終わりでは無い。これからが始まるのであった。
撤退後にヤルダバオトが「ゲヘナの炎」を発動した。王都の一画が炎の壁で囲まれて悪魔達による略奪が始まるのであった。
ヤルダバオトことデミウルゴスの考えた作戦「ゲヘナ」の始まりだ。
side変更
王国の一画にゲヘナの炎が出現した。炎の中には悪魔が蠢く。
まさに王国にとって緊急事態。急遽、城に集まる冒険者たちや八本指襲撃部隊。これからゲヘナの対策会議が行われる。
もちろん、その会議にはモモンことアインズとナーベラルがいる。.hackersのカイトやブラックローズたちだっているのだ。
「これから対策会議を始める」
会議により決まった策は簡単だ。ゲヘナの首謀者である大悪魔ヤルダバオトの討伐である。その役目はモモンとカイトに決まった。
彼らなら倒せるとイビルアイが推薦したのだ。実際にその目で圧倒的なヤルダバオトを撤退させたのを見たのだ。妥当な推薦である。
「分かりました。ボクらがヤルダバオトを倒しましょう」
残りの冒険者や八本指襲撃部隊は陽動として動いたり、ゲヘナの炎の中に取り残された民の救出をすることが決まる。
そして会議が終わった後、最後にラキュースは皆に指示を飛ばすのであった。
「早速準備をして作戦実行だ!!」
カイトとアインズは時間がある時に他の冒険者たちと顔合わせする。
最初にあいさつしたのは王国戦士長のガゼフだ。近くにはブレインやオルカ、バルムンクまでいた。
「オルカにバルムンク。無事だったんだね」
「おおともよ。無事に決まってんだろカイト」
カイトとオルカはお互いに拳を合わせて無事を思うのであった。
そしてアインズはガゼフに久しぶりに会えてつい声をかけそうになった。だが、今はアインズではなくてモモンだ。それに関して少し残念であった。
「あんたがバルムンクとオルカが言っていたカイトか。俺はブレインだ」
「ガゼフだ。よろしく頼む」
話は六腕の話となる。戦いの中でウィルスバグの感染者のことを報告する。王国に潜むウィルスバグは感染者としているかもしれないとバルムンクから言われる。
「そっか、気を付けるよ。それにしてもバルムンクが師匠かあ」
「師匠じゃないさ。時間がある時に剣を教えているだけだ」
それを師匠と言うのではないかと思う。
「それにしてもドットハッカーズはメンバーが多いな」
「これでもまだメンバーはいるわよ。残りは他の地域にいるけどね」
「そうだな。残りは違う任務中だ」
「……あんたらも強いな」
ブレインはブラックローズとガルデニアを見てすぐに強者だと気付く。
やはり世界にはまだまだ知らない強者がいるものだと思い知らされる。
「んで、あの黄金戦士は目立つな」
「ぴろし3ですね。いつものことですよ」
ぴろし3もまた強者である。そもそも.hackersのメンバーはこの異世界にて圧倒的である。もちろんナザリックもだ。
「私はテラシマリョーコという女性が気になる」
「私ですか?」
「貴女は天使か?」
「違いますよ」
ガゼフもまた寺島良子を天使と勘違いしていた。
「カイトさん」
「あ、ラキュース。何かな?」
今度は蒼の薔薇がカイトたちの許に来る。それはカイトがイビルアイたちを救い、さらにガガーランとティアを蘇生までしてくれた感謝をするためだ。
「本当にありがとうございますカイトさん、モモンさん」
「彼女たちが無事でよかったよ」
「そうですね。それに私は戦っただけ、カイトさんに感謝をしてください」
「そんなことありません。モモンさんが大悪魔を撤退させたと聞いております。本当にありがとうございます」
リーダーとして仲間を救ってくれた彼らに何度も感謝をする。2人は仲間思いのリーダーだと感じた。
「それにしても、カイトさんも蘇生魔法が使えるんですね。私と同じとは驚きました」
王国にはラキュースしか蘇生魔法を使える人がいない。蘇生魔法はこの異世界にて第五位階に相当する。ならば大魔法使いと言われても変ではない。さらに上の魔法を使えるアインズは魔法の神と言われるだろう。
(アインズさんなら神ですね)
(なんか恥ずかしいですね)
ネットゲームのガチ勢なら神以上になるだろう。神の上があるか分からないが。
「カイト……」
「何かなイビルアイ?」
カイトのそばに寄るイビルアイ。彼女はカイトに助けてもらったことを美化しながら思い出す。
(カイト……さま。私を助けてくれた勇者さま)
イビルアイは本当に惚れている。だが、その気持ちをどう表せばよいか分からないのだ。
とりあえず抱き付くことにしている。
(違うぞイビルアイ。そこは押し倒すんだよ。そして唇を奪え!!)
(イビルアイにも春がきた)
(カイトに嫉妬しそう)
(まさかイビルアイが恋をするなんてね)
蒼の薔薇のメンバーはイビルアイの恋を応援するのであった。なにせ、あのイビルアイが誰かを好きになるなんて思っていなかったからだ。彼女もまた恋する乙女ということ。
(抱き付いたのは良いが、この後はどうしよう!?)
「えーと、イビルアイ?」
その光景を見るブラックローズたちは軽く笑う。外見が12歳に見えるため、恋敵と認識していないのだ。寧ろ、甘えたがりな妹が兄に抱き付いてる認識をしている。
(カイトさま……うああああ!!)
だが、イビルアイの気持ちは甘えたがりな妹という感覚ではない。本気の恋をしている。
勇者に守られる姫の気持ちになったのは嘘でも無い。
気持ちは可愛いものだが、肉体的には動物の本能剥き出しなのだ。具体的には股間の辺りから背筋に電流のようなものが走り抜けたらしいのだ。これは可愛いとは言えない。
もし、言い訳をするなら彼女はこう言うだろう。
(あー!! 仕方がないじゃないか!! あんなにかっこよかったんだぞ!! 私が数百年ぶりに少女らしい思いを抱いたっていいじゃないか!! あんなに強くて、そう……私より強大で素敵な戦士なんだから!!)
どうしようもないかもしれない。
読んでくれてありがとうございます。
今回は「ゲヘナ」の始まりでした。次回は戦士と悪魔の戦いになりますね。
どんな戦いになるかは次回をお待ちください!!
なつめ 「蟲をお返ししますね」
エントマ 「アリガトォ」
そして、カイトはまたフラグを立てました。相手はイビルアイ。
やっぱりヒロインを救うならカイトしかいないと思いました。実際に.hackの原作ではカイトが寺島良子をカッコよく助けるシーンがありましたし。
イビルアイ 「カイトさま」
カイト 「なにかな?」
寺島良子 「気持ちは分かります」
ブラックローズ「アンタはまたしても・・・!!」