創造王の遊び場   作:金乃宮

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第十六話

   ●

 

 

 ミコトの発した言葉に、エヴァンジェリンは少し驚き、それから苦笑いを浮かべ、

 

「『新しい世界を創る魔法具』、か。……随分と大それたことを考えているじゃないか。 そこまで行くと神の領域の話だな。その話を異端審問会に聞かれたら問答無用で処刑だぞ?」

「なに、神など所詮は効果の不安定な精神安定剤でしかない。その程度のモノは恐るるに足らんよ」

「……本当に処刑されるぞ? ……まあいい。それで、新しい世界とは具体的にどんなものなんだ?」

 

 その言葉に、ミコトは顎に手を添えて考えながら、

 

「ふむ、先程も言ったが、この閉鎖空間内限定でこの世界にはない法則が適用されるようにする。具体的にはまだ決めていないが、……そうだね、やろうと思えば『触るとやけどするほど高温の氷が存在できる世界』なんてものも作れるかもしれないね」

「……なるほど。この世界では不可能なことができる世界、つまりは『新しい世界』、と言う訳か。……と言うか、なんでそんなものを作ろうと思ったんだ?」

「特に理由はない。強いて言えば『面白そうだから』、これに尽きる。私にとって友人関係以外で行動理由となるモノは興味だけだからね。今まで経験したことのない状況で戦闘を行えば面白くなると思わないかね?」

「発言だけ聞いていると普通にマッドだなお前。……お前と言う存在を十分に理解すると異常にマッドだと感じるんだが……。……ん? 待てよ? その法則は世界の法則なのだから、そこにいるものならば敵でも味方でも全員に適応されるのか?」

「うむ、そう言うことになるね。……何か変かね?」

「それだと敵も味方も同じ条件で戦うことになるから結局戦力差は変わらないだろうに。 むしろ相性が良かった場合敵が有利になるんじゃないか?」

「そこも楽しむポイントの一つだよ、エヴァ君。今までにない法則をいかに早く理解し、戦術に応用するか。それが今まで誰も考え付かなかったような戦術ならばなおの事良し。私はその敵を尊敬し、そしていかにその戦術を打ち破るか考えられるという楽しみを得る。いい事しかないではないか」

 

 ミコトが当然のように言い放ったその言葉に、エヴァンジェリンは心底呆れたようで、

 

「お前は頭が良いのにどうしてそんなにバカなんだ……? しかもその言葉が慢心からではなく好奇心からきているのがわかるからもう何も言えんよ」

 

 とこぼした。

 そのつぶやきを聞いてミコトは少し首をかしげたが、特に気にすることなく、

 

「さて、環境も整ったし、それではさっそく模擬戦を始めようか。ルールは特になし。武器を使おうが魔法を使おうが何でもあり。勝敗は互いが着いたと思った時点で終了。ぶっちゃけ不死者同士の戦いだから腕を飛ばそうが腹を抉られようがすぐ治るから寸止めとかは一切なし。そんなところでどうかね?」

「上等じゃないか。それで構わん」

「そうかね。……では、開始の合図はコインで決めようか。このコインが地面に落ちたら試合開始だ。……君がやりたまえ」

 

 そういうとミコトはエヴァンジェリンに懐から取り出したコインを投げた。

 それを受け取ったエヴァンジェリンはコインに何の仕掛けも無いことを確かめると、

 

「……よし。では行くぞ」

 

 と言ってコインを真上にはじいた。

 コインはくるくると回転しながら空に向かって飛んでいき、だんだんゆっくりになり、そして一瞬止まり、すぐに進行方向を地面に変えた。

 コインはだんだん地面に近付いていき……、

 

 

 

 

 

 

 落ちていく途中でエヴァンジェリンにキャッチされ、地面にたたきつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、コインと地面との間で起きた『チャリーン』と言う音の余韻がまだ消えないうちに、エヴァンジェリンがミコトに殴りかかっていった。

 

「死ねーーーーーー!!!!」

「不死者に対して言うことではないというか、そこまでするかね普通!?」

 

 ミコトの顔面に向かって突き刺さろうとするエヴァンジェリンの拳を、ミコトは若干あわてながらも、掌で受け止めた。

 その事実にエヴァンジェリンは少し眉を顰め、舌打ちと共につぶやく。

 

「ッチィ! やはりこの程度ではダメか!!」

 

 そのまま拳が触れるミコトの掌に向かって力を込めるが、ミコトもしっかり踏ん張っているため、両者の力は拮抗する。

 力の天秤を釣り合わせたまま、ミコトが言い放つ。

 

「そんな姑息な手を使ってまで勝ちたいのかね!?」

 

 その言葉に、エヴァンジェリンは口の端をゆがめながら返す。

 

「っは! 経験は単純計算で倍以上、気の量は足元にも及ばず魔力量は同じぐらい、さらには理不尽な性能の魔法具を持つような相手に普通にあたって勝てるわけがない! ならば勝つための手段は選ばん!! 卑怯も奇策も裏技も、すべてを含めた私の全力でぶつかる、ただそれだけだ!! どの道この身は吸血鬼、闇に生きる生物だ。まっとうな光の道など歩めるわけがない! きれいな世界になんぞいられるわけもない! ならば泥にまみれようと勝ち抜き生き残り、前に向かって進み続ける!! これまでも、これからも、それが私の生き方だ!!」

 

 エヴァンジェリンの言葉が響き、それを受け止めたミコトの口の端もすっと持ちあがり、

 

「……ふむ、その言や良し! ならば、証明してみたまえ……!」

「無論……、そのつもり、っだ!!」

 

 最後の一声と共にエヴァンジェリンは拳をことさら強く押し付け、逆に足の力は緩めて自ら拮抗を破り、その反動でミコトから飛び退くように離れながら無詠唱で魔法の射手(サギタ・マギカ)を50ほど魔力に任せて打ち込み、さらに続けて闇の吹雪を数発追加してから煙幕の方を見ながらさらに距離を取る。

 連続で打ち込んだ魔法を煙幕代わりにして姿を見失わせ、離れながら影の中から掴んで引きずり出したチャチャゼロを煙幕の中に放り込む。

 何やら『ナンダナンダナニゴトダ!?』とか『む? その声はチャチャゼロ君かね?』とか聞こえる中に向かって、

 

「チャチャゼロ! ミコトを相手に時間を稼げ!」

 

 と命じてから、もはやバックステップではなく敵に背を向けた全力の走りでミコトから離れて行く。

 閉鎖空間のぎりぎりまで離れてから、煙幕の中で金属音をガキンガキン響かせている一人と一体を放っておいて、呪文の詠唱を始める。

 煙幕から聞こえる鈍い音のみの音楽会はテンポをどんどん早くしていき、ついにはドラムロールのようなれんだのみとなる。

 だがそのテンポもだんだん崩れていき、

 

「……解放(エーミッサ)固定(スタグネット) 『千年氷華』……」

 

 詠唱がほとんど終わり仕上げのみとなったとき、『オワー!?』と声を上げながらチャチャゼロがほとんど晴れた煙幕の中から吹き飛んで行った。

 見た感じ大きな破損はないから、まあ大丈夫だろう。気合気合。

 そして、煙幕が晴れるとそこには刀を持ったミコトがいた。

 その刀が普通のモノなのか斬魄刀なのかはわからないが、とりあえず斬魄刀だと思っておくことにするエヴァンジェリンに、ミコトが歩み寄りながら声をかけてくる。

 

「……少々人形使いが荒くないかね、エヴァ君? チャチャゼロ君もいきなりの事で訳が分からず実力の半分も出せていなかったよ?」

「それでも時間は十分稼いでくれた。私がほしかったのはそのほんの少しの時間だからな」

 

 そういうと、エヴァンジェリンはその手にある、発動直前で無理やり圧縮して固めた魔法を見せつける。

 

 『ゴオオオオオ……』と音を立てて渦巻く魔力の塊を見て、ミコトは遠くで身構えながら、

 

「そのわずかな時間で準備したのがそれかね? 確かにものすごい魔力だし、直撃すれば痛いではすまんだろうが……」

「くくく……安心しろ、これを直接ぶつけるようなことはしないさ。……これは、こうするんだ!!」

「……!!?」

 

 魔力の塊を保持する手に力を込め始めたエヴァンジェリンの様子に何かを感じたのか、ミコトは勢いよく駆け寄ってくるが……、

 

「(遅い! これだけ離れていれば、たどり着く前にこちらの準備が整う!!)掌握(コンプレクシオー)!! 」

 

 その言葉と共に、魔力塊を握りつぶすように体に取り込む。

 それと同時にミコトの刃がエヴァンジェリンに届き、

 

 

 

 

 

 

 突如出現した大量の氷の槍に押し戻された。

 

 

 

 

 

 ミコトがいきなりの攻撃に驚きながらも飛び退いて距離を取ると、その槍の上にふわりとエヴァンジェリンが降り立つ。

 

(プロ)式兵装(・アルマティオーネ) 『氷の女王』。どうだ? これが私の開発した新技法、『闇の魔法(マギア・エレベア)』だ!!」

 

 高所に立ち、体の周りに冷気をまとったその姿は、まさに氷の女王と呼ぶにふさわしい物だった。

 

 

   ●

 

 

 氷の女王はミコトを見下ろしながら言う。

 

「さて、ずいぶんと待たせてしまったようだが、本番はこれからだ。さあ、ダンスを始めよう。……私と踊ってくれるか、ミコト?」

 

 その立ち居振る舞いは自信に満ち溢れており、吸血鬼の真祖としてのプライドからか、あるいは貴族の血筋故か、人の上に立つ者が、人を従える者のみが放つ覇気を感じさせる。

 とはいえ、その程度ではミコトがひるむはずもなく、

 

「ふむ、生憎ダンスの研究はまだ未完成でね。あまり見せられたものではないのだよ。……だから、足を踏まれぬように気を付けたまえ」

「ふふふ……。 ……上等だ!!」

 

 エヴァンジェリンは獣のような獰猛な笑みを浮かべている。

 それに対するミコトは涼しげな顔をしながらも、その眼は楽しそうに細められ、笑っている。

 

「さあ、第二幕の開始だ」

 

 エヴァンジェリンは変わらず立ち続け、

 

「コインはいるかね?」

 

 ミコトは剣を下段に構え、

 

「そんなものはもういらん。邪魔なだけだ。……始めたいときに始めればいい」

 

 爆発の時を待ち、

 

「それもそうだね。……では――」

 

 そして――、

 

 

 

 

 

 

 「「――始めよう!」」

 

 

 

 

 

 

 

   ●

 

 

 最初に動いたのはエヴァンジェリンだった。

 少し離れたところにいるミコトに向かって、己の周りに作り出した氷の塊を連続で叩き込む。

 その氷は撃たれてはまた生成され、またすぐに放たれる。

 常に身の回りには射出待ちの氷塊が数個浮いている状態だ。

 だが、ミコトはそれをひょい、ひょいっと体を半歩動かすだけの動作で避けていく。

 どうしても避けられない場合は手に持つ刀で切り捨てるか、受け流す。

 そのようにしてすべての氷塊に対処している。

 

 ……ふむ、やはりただの氷塊では意味がない、か。

 

 相手は自分の倍以上の戦闘経験を積んでいる。

 しかも、エヴァンジェリンのように逃げる中で仕方なく行った戦闘の経験ではなく、自分を鍛えるために自分から得に行った経験だ。

 当然習熟度の差は大きい。と言うより経験の密度が違う。

 その経験から、誘導も付けずに飛んでくる目視可能な速度の氷塊などよけるのは簡単なのだ。

 しかもどのように飛んでくるかもわかるので、動きも最低限に留まり、体力の消費も抑えられる。

 

 ……馬鹿正直に障壁でも張ってくれれば簡単につぶせたものを……。

 

 ただの氷塊とはいえ、質量はかなりのものだし、何より数が多い。

 普通の剣士が張っている簡単な障壁ならばもちろん、後衛型の魔法使いの障壁だって多少の時間は必要だろうが絶対に破る自信がある。

 数の力というモノは、それほどまでに恐ろしい。

 ミコトもそれをわかっていて、このような対処をしているのだろう。

 

 ……それをわかっていても、攻撃の手を休めるわけにはいかんがな……。

 

 少しでも攻撃を緩めて後手に回ると、勝率がかなり下がる。

 この男(ミコト)はそれほどの力を持っている。

 そのことは出会ったばかりの時の戦闘で十分に理解した。

 そして何より、研究者と言う面を持つこの男にあまり長時間手の内を晒すというのも良くない。

 情報を与えれば与えるだけ、この男は対策を練って来るだろう。

 かといって、出し惜しみをして勝てる相手でもない。

 

 ……もうひと押ししてみるか……。

 

 とりあえず、氷塊を生成するテンポは変えず、そこに魔法の射手を誘導ありで加えてみた。

 

 

   ●

 

 

 ……防戦一方、か……。

 

 ミコトは迫りくる攻撃を涼しい顔でさばきながら、その実驚いていた。

 簡単に勝たせてくれはしないとは思っていたが、まさかこれほどとは思わなかった。

 先ほどまでは氷塊の投擲を難なく避けていたが、そこに魔法の射手を織り込んでくるようになって状況が変わった。

 おそらく最初の氷塊は様子見だったのだろうが、そこに一手加えるだけでかなりやりづらくなった。

 何しろ、氷塊をよけたと思ったらその陰から体勢の崩れた自分に向かって魔法の射手が飛んでくるのだ。

 しかも誘導がついているため、少しよけた程度ではよけきれない。

 必然的に刀で砕くしかなくなるわけだが、魔法の射手のみに注意を向けていると氷塊の対処が遅れる。

 これだけでも厄介なのに、さらに厄介なのが、

 

「轟かせ――」

「――隙あり!!」

 

 これだ。

 

 氷塊と射手の隙間を縫っていったん止まり、刀を構えて言葉を紡ごうとした瞬間に射手が集中して飛んでくる。

 無限に続くような攻撃をしのぎ切るために 防御の刀を解放しようとすると集中攻撃にあう。

 そのおかげで開放に必要な一瞬の集中を乱され、空牙を出すことができない。

 相手は攻撃を放ち続け、こちらの口が動いたら射手を叩き込めばいいのだから簡単だ。

 無論、名前を呼ばずとも解放はできるが、その方法は本来は声を出せない状況で隠れながら解放するためのもので、名前を呼ぶときに比べて余計に集中を必要とする。

 それでも数秒程度なのだが、この攻撃の中数秒間棒立ちになるのは自殺行為だ。

 

 飛んでくる氷の塊をかわし、死角から突き刺さってくる射手を右手の刀で切り飛ばす。

 そうしてから刀を左手に持ち替え、左側から飛んできた氷と射手を一度に切り落とす。

 体を反射に任せて動かしながら、勝つための思考は止まらない。

 

 ……一度距離を取るのは、……無駄だろうな……。

 

 エヴァンジェリンは遠中近全ての範囲をこなせるタイプの戦士だ。

 しかも一番得意なのが魔法を使った遠~中距離戦である為、離れても不利になるだけである。

 

 ……ならば……!

 

 方針は決まった。後は実行するだけだ。

 そう思い、ミコトは右手に刀を持ち替え、何も持っていない左手に新たな力を掴み取る。

 

 

   ●

 

 

 氷塊と魔法の射手をかいくぐりながらミコトが自分の方に近付いてくるのをエヴァンジェリンは見ていた。

 

 ……まあ、そう来ると思ってはいたが……。

 

 両者とも一応は遠中近どの範囲の戦闘もこなせるが、自分と違いミコトが得意なのは刀を使った近~中距離戦闘だ。

 だから、ミコトが距離を詰めて接近戦を仕掛けてくるのは予想していた。だが……、

 

 ……二刀流、と言うのは聞いていなかったな……。

 

 ミコトは先ほど虚空より取り出したもう一本の刀を左手に逆手に持ち、今までの刀を右手に順手で持ってこちらに向かってきている。

 無論こちらもそれを黙って見ているわけではなく、氷塊と射手を密度濃くぶつけてはいるが……、

 

 ……すべてはじくか切り捨てているな……。

 

 それも、右の刀は向かってくるものを切り捨て、そこから漏れたもののうち体に当たりそうなものを左の刀ではじいたり受け流したりしている。

 どうやら攻撃と防御が決まっているらしい。 

 

 ……攻撃の右と防御の左、か……。

 

 ならばミコトの左側(ミコトから見て右手側)に攻撃を集中させればいいと考え、実際にそうしたが、もともと刀一本で先ほどまでの攻撃を避けていた男であるから、大した意味はないだろう。

 

 ……しかし、これがこいつの本来の戦闘スタイルか……?

 

 予想の通り攻撃をすべてしのいでいるミコトを見ていても、その動きにぎこちなさはなく、今までのスタイルが偽りだったのでは、とも思わせるが、先ほどまでの一刀流にも不自然さはなかった。

 

 ……どうせあいつの事だ、『どちらも面白そうだ』とか思って両方とも極めたんだろうな……。

 

 おそらくそれで正解なのだと思う。

刀一本で戦う一刀流と、攻防がはっきり分かれた変則的な二刀流。

この二つのスタイルを極めた末に折衷として生まれたのが先ほどの刀を右手から左手へ、左手から右手へと持ち替えて振るう滅茶苦茶な扱い方なのだろう。

 そんなことを思っているうちにミコトがかなり近くまで来てしまった。

 

 ……さて、これ以上中距離戦闘を続けるのは不可能か……。ならば……。

 

 エヴァンジェリンは今まで以上に大量の氷と射手を作り出すと、それらすべてを一度にはなった。

 それは、ミコトから見れば氷の壁が猛スピードで向かってくるように見えるだろう。

 しかし、エヴァンジェリンはそこで攻撃をやめることはなく、ミコトに合わせて両腕に魔力の剣、『断罪の剣』を作り出すと、高密度の氷塊にまぎれてミコトに突っ込んで行った。

 

 

   ●

 

 

 目の前に迫ってきた氷の弾丸による壁を前にしても、ミコトのやることは変わらなかった。

 ただ、自分に迫る物を切り捨てる。それだけだ。

 

 ……だが、さすがにこの量は多すぎるね。

 

 刀二本で切り捨てるのは不可能であるほどの氷の弾丸は、もはや津波と言ってもいいかもしれない。

 そんな絶望的な状況を目の前にしても、ミコトの顔色に焦りはない。

 散歩の途中のように、涼しい顔で走り続ける。

 そして、走りながらふと思いついたような自然な動きで右手の刀の切っ先を地面にあて、少しの間地面に浅い切込みを入れると、大地をすくい上げるような切り上げを思い切り放つ。

 たったそれだけの動きでミコトの前方の大地の形が変わり、固くとがった土の槍がいくつも現れ、氷の津波に向かって突き進んでいく。

 大地の槍は当たり前のように津波の一点にぶつかっていった。

 いくら硬度の上では土の槍が勝るとはいえ、氷の弾幕は厚く、何度も氷を砕くうちに土の槍も耐久性を失い砕かれ、後に控える槍が氷を砕いていく。

 

 土の槍と氷の槍がぶつかり合い、互いを折り、貫き、砕きあっていき、そして土の槍が尽きたと同時、氷の壁にも穴が開いて、その向こうの世界をのぞかせた。

 ミコトはその穴を抜け、

 

「――やっと会えたね、エヴァ君」

 

 氷の女王と刃をぶつけ合った。

 

 

   ●

 

 

 エヴァンジェリンは、自らの作りだした氷の弾幕に風穴を開けて抜けてきたミコトに切りかかっていった。

 自分の攻撃を切り抜けられたことに対する驚きはない。

 むしろ、この男ならばこの程度は切り抜けられて当然だとすら思っていた。

 だから、涼しい顔でこちらに話しかけながら切りかかってきたミコトにもひるむことなく断罪の剣をたたきつけた。

 だが、この男が壁を抜けるために用いた方法には驚いていた。

 

 ……無詠唱の土属性魔法、か?

 

 魔法も使えるであろうことは予想していた。

 研究者ならば、しかも人外である自分に匹敵するほどの魔力を持っているこの男ならば、魔法の研究くらいはやっていて当然だろうし、資料庫にもそう言う類の資料があったから有効活用させてもらっていた。

 しかし、この男は剣士だという思い込みの為か、無詠唱をこなすほどの魔法使いであることなど予想していなかったし、それに……、

 

 ……この男の資料庫には炎・雷・風の三つの属性の魔法の研究資料が多かった……。

 

 自分の得意な氷属性の資料も無いわけではなかったが、他の物に比べると少なかったので、それらの資料は必要ない、つまりは使えない属性なのだと思っていた。

 しかし現実として、この男は土の魔法を無詠唱で、しかも土を操作するだけの簡単な部類の魔法で自分の氷の壁に大穴を開けたほどの土魔法使いだ。

 ならばなぜ研究者であるこの男のもとに研究資料が十分になかったのか、それがわからない。

 気になったので、目の前で自分の断罪の剣としのぎを削っている二刀流の男に聞いてみることにした。

 

「おいミコト。お前、土の属性も使えたのか? それにしては土関係の魔法の資料が少なかったが……?」

「ん……? ……ああ、そういうことか。なに、ちょっとした裏技でね。確かに私の資質は炎・雷・風だけだが、その裏技によって本来資質のない属性である土の魔法も使えているのさ」

 

 もちろん、こうやって話している間も戦闘は行っているが、私もミコトも戦闘は反射に任せて会話を続ける。

 ミコトの右手の刀が私の胴を薙ごうとするのを私の左手の剣ではじき、がら空きのミコトの胴体に左手の剣で突きを放つ。

 だがその突きも、ミコトの左の刀に受け流される。

 そうしたやり取りを繰り返しながら、私たちの世間話は止まらない。

 

「裏技? なんだそれは?」

 

 おお、今の下段切りは危なかったな。右足を持って行かれるところだった。

 

「ああ、以前……、具体的には100年程前に炎の上級精霊と友になってね。今も時々一緒に宴会を開いているのだが、その精霊たちとの伝手(つて)でね、土の上級精霊たちとも仲良くなった。主に酒で」

「お前の交友関係はどうなってるんだ……? 普通そういう存在はよっぽどの変わり者でもない限り人から離れて生きているはずなんだがな……?」

 

 ――ちっ! 今のコンビネーションも避けるか……。

 

「本来ならばそうなんだが……、どうやら彼らの中では私と言う存在は人間ではない、と言う認識らしくてね。一度『一応私は人間だ』と言ったら大笑いされたよ。『お前はユーモアのセンスが足りないな』、とね」

「まあ、不老不死ならば十分に人外だと思うがな……」

 

 というか、お前が人間だと言われても私だって信じられん――、ぅお! あぶなっ!

 

「……私としては人間からそこまで逸脱してはいないと思うのだがね……。まあそんなわけで、上級の精霊たちと仲がいい存在であるということはそこいらにいるほとんど意思のない下級精霊にもわかるらしくてね。彼らから見れば私は王様の友人のようなものだ。それ故に私の言うことを素直に聞いてくれるようになったんだ」

「なるほどな。だから無詠唱であんなことができたのか……!」

 

 くそっ! こいつ、防御に隙がない――!

 

「そうだ。……まあ、逆に言えばそれしかできないんだがね。本来適性が全くない土属性の魔法では詠唱しようがしまいが地面の形を変えるぐらいの事しかできない。だから研究もあまり進んでいないんだ。ゆえに資料も少ない」

「……それでもあれだけできれば大したものだろうに。大体、剣に加えて魔法までできる方が異常なんだ。普通はどちらかひとつにしぼるものだぞ? 何だそのふざけた剣技は? 斬魄刀と普通の刀の二刀流と言うだけならまだしも、短剣以外で逆手持ちとか聞いたことないぞ」

 

 ああもう、なんでこの刀は切れないんだ!? 『断罪の剣』はふれた物を全て気化する魔法だぞ!? 気だか魔力だかを込めて強化しているんだろうが、いい加減イライラしてくる……!

 

「ああ、私も私以外にこのような戦い方をするものに会った事はない。……まあ、私の斬魄刀の特性上このような戦い方になってしまうのは仕方がないことなのだが……」

「特性? ……ああ、確かにお前の空牙は盾みたいなものだからな。片方の剣を防御用に使って、攻撃は他の普通の剣に頼る戦い方になるわけか……」

 

 それにしたって頑丈すぎるだろうこの刀! ええい、さっさと折れてしまえ!!

 

「まあ、おおむね間違ってはいないが、一つだけ訂正がある。……この攻撃に使っている刀も斬魄刀だよ?」

「……は? お前、空牙を二本作ったのか?」

 

 だとするとどれだけ攻めづらくなるか、わかったものではないな……。

 

「……いや、もう一本は別物だよ。……それより、気が付かないかね?」

「うん? 何がだ?」

 

 お前の理不尽さにはもう気が付いているぞ?

 

「……私の得意な属性は炎・雷・風の三つだ」

「……だからなんだというんだ……!」

 

 私の得意な属性とほとんどかぶらんから魔法に関しては共通の話題が少なくなっているというだけだろうに!

 

「そして私はさっき、何と友だと言ったか覚えているかね?」

「……馬鹿にしているのか? 炎の上級精霊だと言っていたでは――」

 

 ……ん? まさか――、

 

「そう、炎の上級精霊だ。そして、精霊と友になるとその属性については加護が得られるのだが、当然炎の魔法についても例外ではない」

「……それは、つまり……」

 

 まさか、まさか……!

 

「つまり、土属性と違って、本来得意な炎属性の魔法ならば、私はその加護を十全に使えるのだよ。……だからとりあえず――」

「お、おいミコト。お前の後ろにある大量の炎の射手は、一体……?」

 

 やばいやばいやばいやばいやばい……!!

 

 

 

 

「とりあえず、先ほどのお返しとして5000程いってみようか?」

 

 

 

 

 ……もう、ミコトに対して理不尽な攻撃をするのはやめよう。倍返しされる……。

 

 

 

 

   ●

 

 

 私が無詠唱で放った炎の射手5000発を、エヴァ君は一度飛び退いてから即座に氷の射手で迎撃、相殺していた。

 約一分間の炎と氷のぶつかり合いの末、辺りには炎に触れて蒸発した水による靄が広がり、そしてその真ん中には、靄をうっとうしそうに凍らせ、微細な氷の粒に変えたエヴァ君が肩で息をしながら立っていた。

 

「――はぁ、はぁ……。無茶苦茶しおって。さすがの私も死ぬかと思ったぞ……」

「ははは、不死者のくせに何を行っているのかね。例え全身を焼き尽くされたところで君ならばすぐに元に戻れるだろうに」

「肉体再生はかなり疲れるんだぞ……? それにさすがの私も全身再生はやったことがないからな、どうなるかわからん」

 エヴァ君はものすごく嫌そうな顔をしている。そこまで嫌なのだろうか。ならば仕方ない、全身再生はまたの機会にしよう。

 

「しかし、すごい物だね『闇の魔法』とは。あれだけの数の射手を相殺するとは……」

「……ふん、まあな。魔法を自分の体に取り込み、霊体に融合させることで力を得る技法でな、自分自身を擬似的に魔法そのものにするようなものだ。取り込む魔法によって付加される効果は変わるが、今回の場合は――」

「――氷属性の魔法を無詠唱で無制限に使える、と言ったところかね?」

 

 自分の言葉にかぶせるように放たれた私の言葉に、エヴァ君は眉を顰め舌打ちし、

 

「チッ、もうそこまでたどり着いたか……。……ああそうだよ。お前の推察通りだ。さすがに『おわるせかい』クラスは無詠唱で撃てはしないがな」

「それでも、初級魔法である『魔法の射手』程度であればほぼ無制限に撃てるわけだね。だから、先ほどの私の射手も相殺できた、と」

「ああ、そうだ。……と言うか、私みたいな技法なしで私と同じことができるお前の方が異常だと思うけど、――な!!」

 

 最後の言葉と共に、エヴァ君が魔力の剣――『断罪の剣』と言うらしい――を振りかぶって私に突っ込んできた。

 大上段から振り下ろされる剣に、私はある仕掛けを施すとすぐに真横に飛び退く。

 

 

   ●

 

 

 思い切り振りかぶり切りかかったエヴァンジェリンの剣を、ミコトがエヴァンジェリンから見て左に跳び退いてよけるのが見えた。

 3メートルほど跳んでから地面を踏み、少し音を立てて大地を削ってから先ほどエヴァンジェリンが行ったように刀を振りかぶって切りかかってくるのがエヴァンジェリンにはわかり、だから剣を振り下ろした姿勢のまま左側のミコトの姿に視線を送ってから、

 

 

 

 右側の何も(・・・・・)見えない空間(・・・・・・)に剣を叩き込んだ。

 

 

 

 エヴァンジェリンのその攻撃は『キィン』と言う耳障りな音と共に見えない何かに受け止められ、

 

「……驚いたね。どうしてわかったのかね?」

 

 何もなかった空間に、ミコトが剣を刀で受け止めた姿勢で現れた。

 

 

   ●

 

 

 私とミコトは剣と刀ごしに会話を続けた。

 ちなみに後ろにいたミコトは今目の前にいるミコトが目に見えるようになった時点で消えている。

 

「ふん、私がお前の持つ能力の内、要注意だと判断したものは三つ。一つは多彩な魔法具。二つ目は斬魄刀・空牙。そして最後に幻術能力だ。一つ目と二つ目についての対策は、使う隙や解放する隙を与えないこと。特に魔法具についてはどんなものが出てくるかわからんから、それ以外に対処のしようがないからな。ついでに言うと、空牙を出させたら勝てる確率は一割も無いだろうと考えていた。あの防御性能は異常だからな」

「だが、三つ目の幻術能力は相手に思い通りの幻覚を見せるものだ。視覚だけでなく、猛獣用に五感全てと探査魔法、気配察知もごまかせる優れものなのだがね」

「そう、その能力が一番厄介だった。普通幻術の類は人の五感に訴えかけて発動させる。私の場合は『吸血鬼の真祖』のスキルとして幻術を使えるが、それも目を合わせた者を幻想空間に落とすという、視覚に訴えかけるものだ。……だが、お前の幻術はそうじゃない。お前の意思一つで発動し、相手を幻術に落とすことができる。一瞬で五感が思い通りにされるから、発動されたこともわからず思うがままにされ、やられる。……正直言って、対策なしにこれにはまった場合の勝率は、ゼロだ」

「……ならば、どうやって見抜いたのかな?」

「簡単だ。五感や気配察知以外の感覚を用いればいい」

「五感や気配察知以外の感覚……? そんなことが……」

 

 あのミコトを出し抜けたことに、私の顔がにやけそうになるが何とかこらえた。

 

「できるのさ。念のために熱源探知などいくつか用意してきたが、今回使ったのはな、……ほら、見えないか? よく見てみろ、お前の目の前にもあるだろう? 細かいキラキラしたものが……」

 

 そう言われて目を凝らしたミコトはすぐに目を見開き、

 

「――これは、まさか……!」

「そう、『氷』だよ」

「……氷。君の魔法で出した物か……。だが、そんなものでどうやって……?」

「先ほど言っただろう? 『闇の魔法』は自身を擬似的に魔法そのものにする、とな。つまり、私と言う魔法から生み出された氷と言う魔法も、私自身なのさ。だから氷がどこにあるのかは手に取るようにわかる。そこで、細かい氷の粒をこのあたり一帯にくまなく散布して浮遊させておけば、氷が存在しないところがお前のいる場所だ」

「……ならば……!」

 

 私の説明を聞いて、ミコトが魔力を高めるが……、

 

「このあたり一帯を焼き払って氷を溶かすか? やめて置け、私が闇の魔法を発動している限り、またすぐに氷の粒は出せる。溶けたり蒸発したりしたところで、水分は消えるわけではない。闇の魔法発動時において、すべての水は私の味方だ」

「――くっ!」

「ついでに言うと、これを破ったとしても他にもいくつか手は残っている。もう私に幻術はきかんよ」

 ミコトのこんな顔が見れるとはな。苦労して情報を集めて対策をとった甲斐があるというモノだ。

 

「……良いだろう、ならばここからは……」

「ああ、小細工なしの純粋な勝負だ」

 

 ようやく、ようやくここまで持ってこれた。

 

 ……問題はここからだがな……。

 

 こいつは小細工抜きでも十分な強さだ。ここまでやっても勝率は五分五分が良いところだろう。

 

 ……それでもやるしかない、か。

 

 計算はここまで。後は何も考えずにただ動くのみだ!

 

 ……さあ、私の力を見せてやろう!!

 

 

   ●

 

 

 戦闘の再開は、お互いがお互いを弾き飛ばしあうことから始まった。

 先ほどまでいた場所から数メートル離れ、そしてすぐにその距離はゼロになる。

 激突した瞬間から、刀と剣とが奏でる激突の音が閉鎖空間内に響き渡っていく。

 剣を使う者は魔法で作った剣を、刀を使う者は己の自信作である刀を。

 そのため両者とも刃こぼれの心配など一切せず、己の武器をぶつけ合っていく。

 互いに相手の武器以外、つまり体を狙っているのだが、そのたびに相手の持つ武器に己の武器を当てることになる。

 

 片方は今まで積み重ねてきた経験から。

 もう一方はハイスペックな人外の体と魔法の力に助けられながら。

 それぞれが相手を喰らいつくそうと互いの隙へ狙いを定め武器をふるう。

 それはさながらチェスを指しているようで、互いに互いの弱いところを教え合っているという、そんな印象を得られる。

 そして、対処を怠ればそこから崩され、一気に負ける。

 だが、そんなことはわかりきったことであった。

 だからこそ、エヴァンジェリンは最初から、ミコトは先ほどまでは自身の能力を封じられたことから無表情だったがすぐにそれも崩され、それぞれが獰猛な笑顔を見せている。

 

 そして、そのぶつかり合いはどんどん加速していく。

 

 

   ●

 

 

 エヴァンジェリンの左手による上段からの袈裟切りに、ミコトは左手の刀を掲げることで受け止める。

 だが、そこでできたミコトの左わき腹の隙に、エヴァンジェリンの右手の剣が突き刺さろうとする。

 それを胴体ごと体を右にずらすことで避けたミコトは両手から刀を一瞬離し、両方の手首を返して右手の刀を逆手持ちに、左手を順手持ちにする。

 そのでたらめな行為に目を見開き硬直するエヴァンジェリンの頭に、ミコトは左手による上段から真っ直ぐ下に斬撃を放つが、エヴァンジェリンも右に跳んで体をずらし、刀を振り下ろしきって体制の崩れたミコトの首を飛ばそうと左手の剣を横に薙ぐ。

 

 ミコトはそれを体を起こしながら胴をひねり体の左側に差し出した右手の刀で受け止め、エヴァンジェリンの剣をはじいた勢いを利用して自身もまた右に跳び、着地したところでまた右手の刀を一瞬空中に置き去りにして持ち方を変え、両手が順手持ちの形になりながら自身のもとに左側から飛来した数本の射手を左手の刀による下段からの切り上げで全て切り捨てる。

 切り上げた左手の刀の速度を一瞬でゼロにすると、今度は左手の刀を持ち替えて逆手にして、すぐに体の前に楯のように左の刀を掲げながら右の刀を真っ直ぐ前に伸ばしエヴァンジェリンに向かって体ごと跳びこみ突きを放つが、エヴァンジェリンもミコトの方に向かっており、互いが互いの左側を駆け抜ける結果になった。

 

 エヴァンジェリンはすぐに体ごと振り返り右の剣をミコトの胴に向けて突き込んでくる。

 対するミコトは首だけで後ろを振り向きながら左の逆手持ちの刀をエヴァンジェリンの頭に向かって突き刺そうとする。

 そして――

 

 

   ●

 

 

「ここまで、かね……」

「ああ、そのようだな……」

 

 唐突に両者の動きが止まる。

 エヴァンジェリンは低い姿勢から走り出そうとするような構えで前に向けて伸ばした右腕から伸びる剣をミコトの背中に向けて突き付けた状態で。

 ミコトは首だけで振り返りながら左手の逆手持ちの刀を左脇の下から差し出して切っ先をエヴァンジェリンの頭に突き付けた状態で。

 

 それぞれが停止していた。

 

 少ししてミコトが構えを解き、刀をそれぞれ鞘に戻し虚空にしまい、エヴァンジェリンもそれを見て断罪の剣と闇の魔法を解除する。

 エヴァンジェリンが元の状態に戻るのと同時にミコトが右足を地面に向かって『ドンッ』と踏み鳴らす。

 そうすると地面が盛り上がり、向かい合うように配置された椅子の形になる。

 そこに虚空から出した大きめの布をかぶせれば、物は悪くとも立派な椅子になる。

 ミコトはそこに座り、エヴァンジェリンも目の前に現れたモノをポンポンと叩いて耐久性を確かめてから座る。

 後はそこにテーブルとティーセット、それに菓子などを並べれば茶会が行えるだろう。

 座り込んだ二人は一息つくと、

 

「さて、今回の模擬戦の結果だが、……どう思うかね、エヴァ君?」

 

 とミコトがきりだし、それにエヴァンジェリンが答える。

 

「どうもこうも、どちらも勝ちだろうよ。お前が不死者でなければ私の勝ちだし、その逆もまた成り立つ。不死者に相討ちはない。傷を負ってもすぐに治るからな」

「そうだね、私もそう思う。ならば、今回の結果は引き分けだね」

「残念ながら、そのようだな……。……しかし、お前の剣技は何だ? 滅茶苦茶な使い方をしおってからに。なんで刀を空中で手放して順手と逆手を入れ替えるんだ? 一歩間違えれば剣を取り落とすし、相手に弾き飛ばされるぞ。……ジャグリングのつもりか?」

「いろいろ考えて戦いやすくしていったらああいう形になってしまってね。攻撃のときは順手持ち、防御のときは逆手持ちの方がやりやすかったんだが、それだと右手と左手の役割が固定されてしまうからね、それでは攻略されやすくなってしまう。だから攻守の役割を入れ替えられるようにしたんだ」

「……剣術の指南役が見たら泡を吹いて卒倒すると思う……」

「それを言うなら、君の『闇の魔法』もなかなかのものだよ。君が今回取り込んだ氷系の魔法であのような効果が出たんだ。他の魔法を取り込めばもっと違う効果が出るのではないかね?」

「それはそうかもしれんが……、試したことはないからな……。……お前がやってみるか?」

「ふむ、そうだね。物は試しと言うし、やってみようか」

 

 早速、エヴァから簡単な理論とやり方の手ほどきを受け、注意事項を確認しながらの軽い練習ののち、本番に入る。

 ミコトは椅子を地面に戻すと空間の中心に立ち、右手を前に突き出して構えを取り、

 

「エンデ・クロニス・ホラグニス  契約に従い 我に従え炎雷の王 来たれ 砕きの雷 消滅の炎! 生きとし生けるものを原初の存在に帰せ 其は無常なる定めなり  『流転の輝き』!」

 

 魔法を発動させ、いつもならば解き放つところを

 

「……解放(エーミッサ)固定(スタグネット)……」

 

 本来ならば広がるはずの魔力を掌の一点に集め、

 

「……掌握(コンプレクシオー)!! 」

 

 握りつぶす。

 

 するとミコトの周りに炎と雷が渦巻き、まとわりつくようになった。

 吐く息は灼熱の炎となり、髪の毛にはパリパリと電気が走っている、物語に出てくる魔神のような姿を成す。

 それを見たエヴァンジェリンはミコトに駆け寄り、

 

「すごいじゃないか、ミコト!! こんなにあっさり成功させるとは!!」

 

 と興奮したように笑いかけてきたが、ミコトが動かないのを見るといぶかしげになり、

 

「……? どうしたミコト? 何かおかしいのか?」

 

 と尋ねてくるが、ミコトはゆっくりと己の手を眺め、

 

「エヴァ君、この技法は普通の体の者には負荷が大きすぎるようだ。現に私も魔力が抑えきれず、今にも暴発しそうだ」

 

 ゆっくりと告げられた事実に驚くエヴァンジェリンに、ミコトはさらに続けて言う。

 

「……ここは、今まで言いたかったあのセリフを叫ぶチャンスかもしれないね……。……エヴァ君、今すぐ私のそばから離れたまえ。巻き添えを食うよ……」

 

 今やミコトの体には無数のひびが入っているが、それでもミコトは冷静に話しかける。

 

「だ、だが、それではお前が……!!」

 

 ミコトがどうにかなってしまうことを恐れたエヴァンジェリンにミコトはにこりと笑いかけ、

 

「大丈夫、私が不死なのは知っているだろう? この程度では私は死なん。それよりも、君が巻き込まれてしまうことの方が私は心配だ。……さあ、離れたまえ」

 

 そういうと、エヴァンジェリンはしぶしぶながらも離れて行った。

 それを確認すると、ミコトは先ほどの優しい笑みとは違った、にやりという恐ろしい笑みを浮かべると、一度息を吐き、それから吸い込み、手を大きく広げて空間全体に声を広げる。

 

「『あ、それでは皆様、ご唱和ください……』」

 

 そういうと、もう一度息を大きく吸い込み、

 

 「『It's All Fictio――』」

 

 言い切る前に魔力が暴発し、大爆発が起こった。

 

 

   ●

 

 

 ミコトが何やら妙な話し方で妙なことを口走りながら自爆したのを、衝撃を防ぐための魔法障壁の中で知り、爆発の衝撃をやり過ごした後、エヴァンジェリンはすぐにミコトのもとへと駆け寄った。

 すると、爆発の中心地にはミコトが体中からぶすぶすと煙を上げながら横たわっていた。

 だが、エヴァンジェリンが駆け寄ってくる音を聞くと指が『ピクリ』と動き、エヴァンジェリンがそばに立った瞬間『ムクリ』と起き上がった。

 呆然と立ちすくむエヴァンジェリンに、にこやかに手を上げながら、

 

「ははは、心配はいらないよ。私の体はこの通り全然平気だ。ぴんぴんしているとも!」

 

 と言ってエヴァンジェリンがほっとした笑顔を見せたと同時に、体を覆っていた服が限界を迎えて『ボロボロ』と崩れ去った。

 笑顔のまま『ピシリ』と固まったエヴァンジェリンの前で、生まれたままの姿になったミコトは自分の体を見下ろすと一つ頷き、

 

「……うむ! エヴァ君、安心したまえ。こういうこともあろうかと、我が肉体には見せて恥ずかしいところなど一切ないよ!! 其れよりエヴァ君、ナイスラッキースケベだね!!」

 

 と、いい笑顔でサムズアップを掲げてくるミコトにエヴァンジェリンの悲鳴と全力の蹴り(ツッコミ)が入るのは、自明の事だった。

 

 

   ●

 





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