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私がこの世界に来てから二十数年がたった。
その間、私は魔法世界の各地を転々としていた。
理由は、強者と出会い、教えを乞うこと。
山奥や森の奥深くでひっそりと暮らしている武術家や魔道士と出合い、弟子入りのまねごとをする、あるいは戦って技を盗む。
そんなことを繰り返していた。
索敵能力を使って持っている気や魔力が高い者たちを探せばわりと簡単に見つかるし、習得速度が速くなる能力を作ったので盗むのもわりと楽だった。
――どんな技も簡単に会得してしまうので、自信を無くす強者たちを量産してしまってからは、少しは自重することにしたが。
出会う強者の大半は世捨て人だったので、私のことが噂になることも少なかった。
そして私はその合間を縫っては各地の町で、村で、自作の魔法具を売って歩いた。
魔法具と言ってもすべてが防御にしか使えない物だ。
所有者を襲う攻撃を防ぐ、あるいは傷ついた者を回復する。
そんなものばかりを売って歩いた。
――自分の作ったものが、人を傷つける道具にされるのはごめんだったから。
売るときには道化のような仮面をかぶっているので目立つし、買おうとする人に『人を傷つけるためには使わず、身を守るために使ってほしい』とお願いしているため、噂になるのも早かった。
道具作成能力と、概念貼り付け能力をフルに使ったおかげで、性能は最高級であり、美術的価値も高いものとなり、しかもわりと低い値段で売ったため、そこそこ有名になってからはかなり売れるようになった。
客のほとんどは近くの村に住み、盗賊などの脅威におびえているものや、強盗を恐れる旅の商人、医療関係者だった。
売り始めてから二、三年もたつ頃には、自作の魔道具を売って歩く仮面の男としてかなり有名になっているらしく、最近では
普通の人には作り出せないような高等な魔法具を大量に作り出し、売り歩くことから名づけられたらしい。
それがそのままブランド名となることもあるようで、ある商人同士の会話で、
『見ろよ、
などと自慢している姿を偶に目にするようになった。
だが、大抵の場合は、購入時に交わされる約束や、使用者を設定するときに行う契約めいた儀式(魔法具のどこかについた宝石に使用者の血液を垂らす)、さらには、使用時に魔法具のどこかに現れる(魔力を通したときに浮かび上がる)光の文字『testament』にちなんで、テスタメントと呼ばれることが多いようだ。
この『testament』の文字には私にしか行えないような細工がしてある。
これにより、見るものが見れば真贋が判断できるようになっており、この文字が、私の作品の特徴とされるようになるまで、そう長い時間はかからなかった。
さらに、この文字には秘密の術式が仕込まれている。
この術式は、私が設定した状況になった場合にのみ発動するものであり、『testament』の文字と共にすべての作品に刻み込まれている。
この術式を解除すると魔法具の効果もなくなるので、はずそうにもはずすことはできない。
……まあ、普通に生活していればまず発動することはないので、ほとんどの者には知られていないが。
『武者修行の男』とは違い、『
そんなある日のこと。
ある町を仮面にローブといういつもの格好で歩いていると、いつものように住人に呼び止められ、商談をしていると、いつの間にか数人の武装した男たちに取り囲まれた。
どうやら兵士のようで、今日に客の中に犯罪者でもいるのか、などと考えていると、客は全員商談を中止して逃げて行ってしまった。
それでもなお兵士たちが離れていかないのを見ると、狙いは私か、あるいは私の持っているものであろう。まあ、十中八九後者であろうが。
そんなことを考えていると、兵士の一人に呼びかけられた。
「貴様、『
「そのように呼ぶものもいるようだ。……自分から名乗ったことはないがな」
今私がかぶっている仮面には軽い認識阻害(仮面しか印象に残らないようにする)とともに変声効果も付随されているので、中年の男のような低くもはっきりした声であり、口調もそれに合うようにしている。
ちなみに、仮面をつけ始めた時は若い男の声になるようにしていた。それから5年ごとにだんだん声を低くしていき年を取ったように変えていったので、年を取っていないことはばれていない。
私の答えを聞くとその男はそうか、と言い、
「このあたりを収める領主様がお待ちだ、ついてこい!」
と言い放った。
「ふむ、何の御用で?」
「ついてくればわかる。とにかくこい! 領主様を待たせるな!」
……この兵士に聞いても無駄なようだね。
一瞬逃げることも考えたが、
……まあ、この程度の者たちからならばいつでも逃げられるね。
と思い直し、ついていくことにした。
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今いる町はかなり大きな町であり、一人の領主がまとめている。
その様子は、認められていないだけで、もはや国ともいえるほどになっている。
だが、今は十分な大きさの町であるが、100年も前は小さな村であったようだ。
その村が、盗賊などの被害から身を守るために近隣の村と協力し村の規模を大きくした。
それに伴い、その近くの村、またその近くの村と、大きな木の下に集まるようにどんどん協力してくる村が集まってきた。
組織の規模が大きくなれば、それをまとめるリーダーが必要になってくる。
その村でも例外ではなく、最初に協力の話を出した村の長がリーダーの座に収まった。
そのリーダーは頭がよく、さまざまなことを考え、実行に移した。
それぞれの村から男たちを集め、鍛え、町の警護につかせたり。
いろいろものを知っている老人たちを教師とした簡単な学校のようなものを取り決めたり。
税金の制度を作り、その税により学校の建物を作り、多くの子どもたちの教育をしたり。
それぞれの町にいた医者と他から呼び寄せた医者と知識の共有を図り、医療を充実させたり。
鍛え上げた男たちを組織して、このあたりを根城にしていた盗賊集団を殲滅したり。
そのほかにもさまざまなことをして、村を発展させていった。
その結果、村は平和に、豊かになった。
だが、その優秀な長も亡くなり、その息子が二代目の長となってからしばらくすると、人口が膨れ上がり、村では抱えきれなくなった。
二代目の長は少々気性が荒い人物だったようで、『狭いならば広げればいい。そこに住んでいるものがいても構わない。奪い取ってしまえばいい』と考え、盗賊を退治しても、有事の際に備えて訓練を続けていた男たちを兵士として組織し直し、さらにそれ以外の男たちも徴兵して、武力によって領地を広げていった。
最初は躊躇していた村のほかの者も、豊かになっていく生活に、取りつかれていった。
そうして蹂躙と発展を繰り返し、世代が変わり、三代目の長になるころには、今と同じくらい領土を持っていた。
必然的に長を領主とした都市のようなものが出来上がっていった。
三代目は穏やかな人物で、領土を外へ広げることよりも、領土の中をより豊かにすることを考え、近隣の領主たちと同盟を結び、これ以上戦いのない生活を目指そうとした。
その考えはうまくいき、領地は発展し続け、近隣の領主とも良い関係が持たれていった。
だが、四代目、つまり今の領主はまた気性の荒い人物になり、また時期悪くこのあたりを日照りが襲った。
今までの備蓄があるため、すぐにどうこうなりはしないが、このままではダメなのは誰が見ても明らかだった。
そして今の領主はその気性故、領地内で何とかやりくりするよりも、近隣の領土から奪ったほうが良いと考え、兵の準備をしているらしい。
これがこの町の歴史と、近隣の町やこの町の住民から聞いた噂であった。
そして今、『
そんなことを考えている間に、一行はこのあたりでは一番大きな建物にたどり着いた。
兵士に促され建物に入り、導かれるままに大きく立派な扉の前にたどり着いた。
そのまま兵士は扉をたたき、
「領主様、『
「うむ、入れ」
中に向かって声をかけた兵士に、中年男性の重苦しい声が返事をした。
その言葉に、兵士は扉を開きながら私にささやきかける。
「入れ。粗相のないようにな」
今まで無礼な態度だった兵士のその言葉に少々腹が立ったので、
「ああ、少なくとも君よりは礼儀を心得ているとも」
と返し、眉を寄せた兵士を尻目に、扉の向こうに進んでいった。
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扉の向こうには小さな家の敷地ほどの部屋があり、その部屋の真ん中にある大きく立派な机に豪華な服を着た中年男性が座っていた。
この部屋もまた豪華であり、敷物から壁にかかっている絵画まで、この町の一般人には手の届かなそうなものばかりだった。
その部屋の主であろうその男も肥え太っており、日ごろの生活がうかがえる。
そんなことを思っていると、その男が声を上げた。
「貴様が、噂に聞いた魔法具職人、『
「あなた様の部下の方にも申し上げました通り、私自身そのような名を名乗ったことは有りませんが、そのように呼ばれていることも事実であります、領主様。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「うむ、その前に貴様、我が前で失礼であろう、そのふざけた面を外さぬか」
「申し訳ありませんが、これは自身の起こした不始末により醜くなった素顔を隠すものです。領主様の気を悪くするのは忍びなくございます」
無論嘘だが、このような噂が広まっているのは本当のことだ。なるべく素顔を隠しておきたい以上、そのようなことを言っておけば安心だろう。
案の定、領主は素顔への関心を無くしたらしく、
「まあ良い。早速だが、ここに呼んだ訳を話そう」
と切り出してきた。
「実は我が領土は、近隣の領主たちから狙われておってな。それ故にこの町を守るための装備を整えねばならぬ。そんなときに貴様がこの町に来ていると聞いてな、すぐに迎えをゆかせたのだ。貴様はすぐれた魔法具を作ると聞いておるからな、その魔法具を売ってほしいのだ」
やはりな、と思いつつ、
「魔法具、とは、具体的にどのような効果のものをいくつほどでしょうか?」
「うむ。とりあえず防御用の物を500、回復用の物を250ほど売ってほしい。どうだ?」
「……数は十分に在庫がありますので問題はありませんが、さすがに今はそんなには持っておりません。領主様の前にお出しできるのは明日以降になりますが……」
「おお、それはいい。明日にでも持ってこられるならば十分だ」
領主は嬉しそうにそういうと、今度はニヤニヤ笑いだし、
「……ところで相談なのだがな。貴様は身を守る魔法具は数多く作り、安価で売っておるようだが、攻撃用の物は一つも売っていないと聞く、それは本当か?」
「真実でございます」
「……それは何故か?」
「私は、自分の作ったものが戦いに使われ、人殺しに使われるのが嫌なのでございます。それ故に、戦いには役立たず、身を守ることしかできない魔法具のみを作るのでございます」
「我は領地を守る力として、貴様の魔法具を使いたいと申しておる。それでもか?」
「はい、それでもでございます。確かに領主様は立派な人格者でございましょう。ですが、領主様の部下の方々、次代おの領主様とその部下の方々は、はたして私の魔法具を攻撃のために使わないと断言できますでしょうか? それに、万が一私の魔法具が盗賊どもの手に渡った場合、大変なことになります。それは避けねばなりません」
ウソも方便とはよく言ったものだと思う。
「ですので、申し訳ありませんが、作れません」
「我が頼んでおるのにか?」
「無理でございます」
「わかっておらんな。……我は作れと言っておるのだぞ?」
その言葉と共に、扉が開き、兵達が飛び込んできて私に武器を突き付け、取り囲んだ。
「作ると言うなら無傷で解放すると約束しよう。だが断るならば……」
本当に、立派な人格者だな。
「作りません」
「……貴様は今の状況がわかっていないのか?」
「わかっていないのは領主様の方でございます。貴方が欲しいのは私の持つ魔法具。それは私を殺せば隠し場所がわからなくなり、手に入るのは今私が持っている数点のみになるでしょう。それでは意味がありません。金の卵を生む鶏を殺しては意味が無いでしょう?」
「……我が欲しいのは貴様の作る魔法具だ。別に五体満足の貴様ではない。……わかるか? 我には貴様の両足を切り落とし、閉じ込めて魔法具を作らせると言う選択肢もあるのだぞ? 魔法具作成に必要な知識と腕さえあればよいのだからな」
「無理でございます」
「そうか、そんなに作りたくないか。ならば仕方ない。――やれ、殺すなよ」
その言葉と共に、周りの兵の武器が私の足を襲う。
……だが、
「……お忘れですか?」
その武器は、私まで届く事はない。
その刃が私の体に届く前に、見えない壁にぶつかったかのように止められているからだ。
驚く領主を見る私の目は相当に冷たいものだろう。
「噂に高き創造王が誰か。この世界でテスタメントを一番多く所持しているのは誰か。……私が先程言った『無理だ』とは武器を作る事に対してではありません。私を害する事に対してでございます」
ちなみに、今まで作った製品は全て私が持ち歩いている。ローブのポケットを別空間につながるように改造すれば倉庫がわりにもなる。隠し場所云々は嘘だ。
「お分かりですか? 貴方では私を傷付ける事はできません」
領主の悔しそうな顔に、少し溜飲が下がる思いがする。
「それでは、私はこれで帰らせていただきます。……ああ、ご心配なく。商品はきちんと明日お渡しいたします。料金は門番の方に知らせておきますので、きちんとご用意いただきますようにお願いいたします」
そういい残し、呆然とする領主を気にせず部屋を出て屋敷を後にした。
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次の日、言われた個数を納品しに屋敷へ向かったが、中には入れて貰えず、門番が内容を確認したあと料金を渡して来た。
聞けば領主は気分が悪いとのことだ。
私は仕方なく幻術を使って屋敷に入り、領主のいる部屋まで向かって行った。やがて領主の部屋までたどり着くと、気付かれないように領主の部屋に入り、机に着いて何かの書類を羊皮紙に書きなぐっている領主の背後に立つと、幻覚で体を縛り、動きを封じてから話しかけた。
「ごきげんよう、領主様」
「――!!!」
人を呼ばれても厄介なので、声も封じておいたのだが、自分の状況に驚き、目を白黒させる姿は、とても滑稽だった。
「落ち着いてください。私はあなたに危害を加えるつもりはありません。騒がないと約束していただけるのならば、拘束を解きましょう。……約束していただけますね?」
その言葉に、領主はぶんぶんと頷きを返す。
それを見て、とりあえず口をきけるようにした瞬間、
「曲者じゃ!! 早く我を守れ!!!」
と案の定叫び声をあげた。
だが何も反応は帰ってこない。
どうせこうなるであろうと思っていたので、開放する前に防音用の結界を張っておいたからだ。
話を続けたかった私は、返事が返って来ない事に戸惑いの表情を浮かべる領主に対し声をかける
「話を続けても構いませんか?」
「き、貴様! 我の部下をどうした!?」
「どうもしておりません 貴方様の声を届かせないように防音処理を施しただけです」
「一体何が目的だ!? 金か!?」
「落ち着いて下さいと申しております。私は金にはそれ程困っておりません。日々の生活が出来れば十分でございますし、もう一生分の蓄えは出来ております。今日こちらへ参りましたのは、注意事項を伝えに来ただけでございます」
「注意事項だと!? 使い方ならわかっておるし、金は貴様の言い値を払ったぞ! 他に何が有ると言うのだ!」
「私は私の魔法具を買って頂いた方には必ずある約束をしていただいております。本来ならば今回お売りする500と250の魔法具の所有者となられる方々全てに会って約束をして頂きたいのですが、さすがにそれは骨が折れますので、代表である領主様にお話ししようかと」
「約束だと? なんだそれは!?」
「簡単なことでございます。……私がお売りした魔法具は、決して人殺しには使用しないで頂きたいのです」
「……何?」
「正確には、人殺しの補助にも使わないで頂きたいのです。元々私の魔法具は全て護身用に作った物ですので、それ以外の用途には使えない用になっているのです。本来の用途以外の用途で使って、どんな不具合が起こっても保障はいたしかねます。……どうですか? 約束して頂けますか?」
「……わかった。約束しよう。もとより貴様から魔法具を買ったのは我が領土を守るため。侵略に使う気はない」
「……そうですか、それはよかった。ではその旨、部下の皆様にもお伝え頂けますよう。それでは私の用事はこれで終わりです。お邪魔いたしました、領主様。またのご利用お待ちしています」
言い終えると同時に気配と姿を消す。
そのまま待っていると、領主の顔はおびえから驚きに変わり、体の自由が戻っていることに気づいて、安堵を経て怒りに変わり、
「貴様ら! 何をしておるか!」
部屋の外に向かって叫んだ。
すぐに領主の部下達が扉を開けて飛び込んできて、
「領主様! 何事ですか?!」
「何事も何もあるか! 警備担当は何をしておった!」
「……? 賊でも入り込んだのですか?」
「……先程までそこに
苛立ちを隠すことなく姿を消した私が立っている場所を指差す。
「
「……約束をしに来たんだそうだ」
「約束? どんな約束ですか?」
「あの魔法具を殺すためには使うな、だそうだ」
「確かに、
「……しなければどうなっていたかわからなかったからな」
「よろしいのですか? あれは元々隣の領土へ攻め込むために……」
「わかっておる。……何、かまわん。誓約の呪いの類をかけられた様子はない。破っても何の影響もない。無意味な約束だ」
「ですが、相手はあの……」
「やかましい! さっさと戦の準備を進めろ! それと、今の警備担当は減給だ! 伝えておけ!」
「……はい、わかりました」
納得できない感情と不安と不満が混ざり合った顔を作った部下は、それでも領主に返事をして部屋から出て行く。
……横暴で浅慮な上司の元で働くと苦労するね。
そう思いながら、私もその部下と一緒に出て行く。
……それにしても、やはりこうなったか。
あの領主の噂と、実際に会って話してみた感じから、自分の忠告など聞かないであろうとは思っていたが、案の定だった。
「これであの領主も終わりかね……」
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『testament』に刻み込んだ術式。
それは、人を殺したとき(厳密には致命傷を与えたとき)に発動する、傷ついた者を回復させる術式だ。
テスタメントを使用する際には、装備者がテスタメントの宝石部分に血をたらし、契約のようなモノを行わなければならない。
そしてその使用者が人を深く傷つけたとき、使用者の魔力か気を強制的に吸い取り、怪我を回復させる。
無論、回復させるための魔力や気は対象の怪我の具合によるが、たいていの場合自身の魔力と気をほとんどもっていかれる。
そんなことをされた装備者はたまったものではない。気と魔力がほとんどゼロになれば、戦いどころか動くことすら儘ならないだろう。
さらに今回売ったものに限っては、装備者が傷つけたものはもちろん、その周りで致命傷を負ったものにも回復魔法がかかるように調整をしておいた。
ただし、完全に回復させるのではなく、生き残れる程度の回復だ。
これならば、一人の魔力や気でも何人かは回復できるし、完全に回復するわけではないので戦いも長引かない。
けが人はかなり出るだろうが、両陣営ともに死人はほとんど出ないだろう。
……私の作った道具で死人なんぞ出させてやるものかね。
どんな者が、どんな楽しみを持っているかわからないのだから、出会う前に死んでしまわれてはつまらない。
……ここは私の遊び場だ。私の手が届く範囲では面白くない事態など起こさせはせんよ。
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一ヵ月後、とある地方にある奇妙な噂が流れた。
それは、ある地方の領主が隣の領主に戦いを挑んだが、敗戦したというものだ。
原因としては、戦いの直前に購入した魔道具の欠陥らしい。
前線からどんどん崩されて行き、結局領土は奪われ、領主は追放されたらしい。
だが不思議なことに、この戦争で、死者は一人も出なかったそうだ。
さらに、領主が追放され、新しい領主が納めるようになった土地では、以前の悪政から開放された領民が大喜びだそうだ。
と、こんな噂だった。
さらにそれと同時期に流れたもう一つの噂がある。
魔法具を受け取ったときの言葉により制約が魂に刻まれ、人を殺した所有者に裁きを下すらしい。
これは、
二つ目の噂を聞いて、苦笑した人物がいるとかいないとか。
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