なぅ、ぷりんてぃんぐ! ~二次元美少女を実体印刷!!~   作:きゃら める

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第一部 二次元美少女を実体印刷!! 第二部 5

       * 5 *

 

 

「今回は完売早かったねぇ。エルとソフィアと、……あたしのおかげ?」

 少し前を歩いていた千夜が身体ごと振り向き、上目遣いにそんなことを言ってくる。

 戦乙女のコスプレから着替え、ひらひらの多いピンク色のワンピースに厚手のジャケットを合わせた千夜は、見た目からはロボフェチとはわからないほどに可愛らしい。

 お袋から依頼されてるモデルバイトの成果なのか、大きめに開いた襟元から覗きそうで覗いていない胸元がまぶしく、彼女の魅力を引き出した体勢に、俺は視線を逸らすしかなかった。

「まぁ、そうだな」

 今日一番注目を浴びていたのはエルだが、ソフィアをじっくり見ている人も多かったし、千夜に向けられていた視線も多かったのは確かだ。

 閉会までまだずいぶん時間があるのに、新刊はもちろん他の本もあらかた売り切れてしまったのは、三人のおかげだろう。いつもなら閉会間際までいるのに、今日はさっさと会場を引けて駅へと向かっていた。

 俺の隣を歩くエルは、何か疲れた表情を見せながら、少し俯いて考え事をしているようだった。

 さすがにいまは戦乙女の鎧姿ではなく、お袋から渡された普段着だ。

 膝上丈の濃紺のジャンパースカートに薄手のシャツを着、コートを羽織っているエル。

 さすがはお袋と言うべきか、エルの胸をさりげなく強調するようなデザインの服は、彼女によく似合っていた。

 たぶん自分の物語が本として売られていたことについてまだ考えているんだと思うが、それに対してどんな声をかけていいのかわからず、俺はただ、たまに俺の方をちらちらと見てくるエルの顔を眺めていることしかできなかった。

「――$%&#!!」

「え? どういうこと? ソフィア」

「何? どちらの方向だ?」

 まだあまり人通りが多くない駅までの道を歩いてる途中、ソフィアが鋭い声を発した。内容は俺にはわからなかったが、千夜とエルが反応する。

 何か深刻そうな事態に、俺たちは立ち止まってソフィアの次の声を待つ。

「――&%$」

 何かを言って、少し顎を引いたソフィア。

 次の瞬間彼女の長い髪の間から現れたのは、真っ白なウサギの耳。

「なんでウサギの耳……」

「いや、いろんな耳があると可愛いかなぁ、って」

 コメントにも書いてなかったのに、どんな設定が追加されているんだと、誤魔化すような表情を浮かべている千夜のことを睨みつけていたとき、ウサミミをピンと立てていたソフィアが、平日しかやっていない企業向けショールームなどが入っている建物の方を指さした。

「――%&$!」

「わかった」

 ソフィアの声に真っ先に駆け出したのは、エル。

 その後ろについて走り出した俺は、千夜に訊ねる。

「いったい何があるんだ?」

「何かまた、この前みたいな不穏なエネルギーと、微かなうめき声が聞こえたんだって」

「うめき声?」

 言ってる間に駅へと続く道からは見えない建物の裏側の方へと曲がる。

 そこにいたのは、巨人。

 身長五メートルはある、黒い身体をし、目鼻が有るべき場所には何もない黒い無貌の魔神だった。

 そしてそいつのことを、俺は知っていた。

「ゾディアーグ!」

 俺よりも先に奴の名を叫んだのは、エル。

 放浪の戦乙女第一部で最後に戦ったボス格の敵。巨人族の魔法によって人々の恐怖や怒り、怨嗟を固めて生まれた魔神ゾディアーグが、立っていた。

 ――でも、違う?

 両腕をだらりと垂らし、斜め上の方、空を見つめるようにしているゾディアーグは、俺がマンガの中に描いた奴とは印象が違っていた。

 俺たちに気づいたらしい奴は、目も鼻もない顔をこちらに向け、口もないクセに動物が威嚇するようにグルルッと喉を鳴らす。

 ――やっぱり違う!

「待て、エル!」

 戦乙女の装束を喚び出し、剣を抜こうとするエルの肩をつかんで止める。

「ソフィア、うめき声をした方向は?」

「――*$%」

「わかった。ソフィア、ここは頼む! あんまり大きな音は立てないでくれ。エルはこっちだ!」

 うめき声の方向を指さすソフィアにゾディアーグのことを任せると、数歩進み出た彼女は即座に全高十二メートルのアルドレッドモードへと変身し、奴と対峙した。

 エルの右手をつかんだ俺は、ソフィアが差した方向に走り出す。建物の出っ張った構造物の影のところまで来て、俺はそこにいる奴らの姿に足を止めた。

「千夜、待て。こっちまで来るな」

「う、うん」

 立ち止まった千夜の向こうでは、アルドレッド・ソフィアとゾディアーグが睨み合っている。

 それを確認してから、俺はエルに言う。

「治癒の術を頼む」

「和輝! この男たちはっ」

 そこに倒れていたのは、つい先日、体育館の廊下で俺に金を集ろうとしてきた二年の男子たち。

 ゾディアーグにやられたのだろう、ひとりは右腕と左足を千切り取られ、ひとりは両脚がおかしな方向に曲がり、最後のひとりは腹から大量の血を流していた。

 けど、三人ともまだかろうじて息がある。こんな状態になってからまだたいした時間が経っていないからだろう。

「わかってる。でも、頼む。すぐに傷だけでも塞がないとこいつらは死ぬ」

「……後で理由は聞かせてもらうぞ」

 怒りを浮かべた碧い瞳で俺を睨みつけてから、男たちに目を向けるエル。

 千切れて飛んで行ってしまっていた腕と脚を拾って傷口の側に置き、手に光を宿して腹を引き裂かれた男子の傷を癒すエルを手伝う。

 三人目の治療に入ったところで後ろを振り向くと、ソフィアとゾディアーグの戦いは、もう決着がつくところだった。

 右肩がおかしな感じで伸び、右足を引き摺って、それでも残った腕で殴りかかろうとしているのは、ゾディアーグ。

 身長五メートルのゾディアーグに対して、アルドレッド・ソフィアの全高は十二メートル。

 大きさが強さの基準ではないが、マンガの中でできるだけ描こうとした迫力を感じないゾディアーグは、ソフィアの敵ではなかった。

 腰からヒレのように伸びるスラスターに装着された剣を抜くソフィア。刃の部分を赤熱させた肘下の長さほどのそれは、ヒートエッジ。

 膝蹴りで腰までも高さのないゾディアーグを吹き飛ばしたソフィアは、大きく踏み込む。

 下から上への一閃。

 身体を左右ふたつに別たれ、さすがに立っていられなくなったゾディアーグ。だがそんな状態にされても這いずってソフィアに近づこうとする。死に絶える様子もない。

「――$%&#!」

「え? うんっ。和輝、どこか影に隠れてって!」

 剣を仕舞い、開いた両手を這いずるゾディアーグに向けたソフィア。

 その体勢と千夜の言葉で彼女の次の行動を感じ取った俺は、エルが治療を続けている建物の影へと、千夜の腕を引いて胸に抱き寄せ隠れる。

 ジュッというこの前も聞いた何かが焼ける音がした直後、熱風が通り過ぎていった。

 熱さを感じなくなった頃にソフィアの方を見てみると、地面にはゾディアーグの右半身と左半身が別々に、影絵のような焦げ跡になっていた。

「治療も終わったぞ、和輝」

 言われてエルの方を振り向くと、服は血塗れのままだが、千切れた手足は繋がれ、腹から新たな血も流していない三人が、多少荒いもののしっかりとした息をして寝かされていた。

「骨折や細かな傷など命に関わらない傷は癒していない。しかしこれですぐ死ぬようなことはないはずだ」

「充分だ。ありがとう、エル」

「ふんっ」

 ゾディアーグの焦げ跡を見、俺を睨みつけたエルは、不満そうな表情で視線を逸らした。

 ソフィアの戦いは激しいものにはならず、おそらく誰にも気づかれてはいないだろう。

 この後の面倒事に巻き込まれるのも嫌なので、レディモードになって近づいてきたソフィアと、千夜とエルに言う。

「とにかく、あとは適当に人を呼んで帰ろう」

 駅まで行って男が倒れていることを伝えておこうと思いつつ、それぞれ別の表情を浮かべている女子三人とともに、俺は駅に向かって歩き始めた。

 

 

          *

 

 

「……何これ」

 屋上ではない、建物のてっぺんに立った少女は、下に広がる風景に目を丸くしていた。

 潮の匂いを感じるそこには、何台もの救急車とパトカーが停まり、野次馬を含めて多くの人が集まっている。

 黒く長い髪をし、ドレスのような黒い服を身につけた、美少女と言って遜色のない顔立ちの少女は、そんな地上の様子に唇を尖らせる。

「せっかく面白そうな気配がしたから来てみたのに。誰よ、倒しちゃったの」

 少女が海の近くの大規模イベント会場の側にある建物に到着したときには、すでに気配は動かないものとなっていた。

 地上に残っていて、大きすぎて誰も気づかず踏みつけにされている両断された人型と思しき焦げ跡。おそらくそれが気配の正体だと気づいていたが、あの状態にされていてはもう活動することはできないだろうと思われた。

「この前もなんかそんな感じで倒されてたみたいだし、他人がリアライズしたものを倒して回るって、いったい何を考えてるのかしら?」

 幼さの残す顔で頬を膨らませ、不満を露わにする少女は、膨らんだ頬に指を当てて考え込む。

「ま、あれだけすごいのリアライズできる人がいるんだったら、アタシの目的は近いうちに達成できるかなぁ」

 言いながら地上に興味を失ったらしく踵を返した瞬間、少女の姿は忽然と消えていた。

 

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