なぅ、ぷりんてぃんぐ! ~二次元美少女を実体印刷!!~ 作:きゃら める
* 2 *
「みんなに頼みたいことがある」
シャワーを浴び終え、制服に着替えてダイニングに集まって朝食を終えた後、俺は椅子から立ち上がってみんなに向かってそう言った。
正面に座る千夜とソフィアは、もう何を言うのかわかっているみたいに笑っていた。
隣にいるエルは、眉根にシワを寄せて疑問の言葉を口にする。
「いったい、何をだ?」
「怪物の主捜しでしょ、和輝」
「うん」
「何のために!」
怒った声を出して立ち上がったエルは、俺の顔を睨みつけてくる。
「わたしやソフィアならばともかく、貴方や千夜は戦えないのだぞ」
「わかってる」
「近くに怪物が現れたのならば戦うのはわかる。知り合いが襲われているのならば助けるのもわかる。しかし戦えない貴方が何故怪物の主を捜そうとするっ。場合によっては貴方がこの前の男たちのようなことになるのかも知れないのだぞ!」
「わかってる。それでも、捜したいんだ」
「わかってない! 千夜も言ってやってくれ。どれだけ無茶なことをしようとしてるのか」
俺のことを心配でもしてくれるのか、それとも別の想いなのか、激昂するエルは同意を求めて声をかけるが、千夜の方は落ち着いた表情で笑っていた。
「まぁ、そのうち言い出すと思ってたし、あたしは手伝うよ。ソフィアと一緒に。ね?」
「――&%$」
ソフィアと頷き合う千夜に、エルは表情を強張らせる。
「とりあえずその先の話を聞こ。和輝も話はこれで終わりじゃないんでしょ」
「うん」
睨みつけるように碧い瞳を細めているエルは、ひとつ大きなため息を漏らした後、椅子に座り直した。
「俺に怪物を倒せるほどの力がないのはわかってるし、危険に首を突っ込みたいわけでもない。……いや、首を突っ込もうとしてるんだけど。とにかく、街が騒がしいのは好きじゃないし、それにいつ、俺の知り合いが怪物に襲われないとも限らない」
「そのときはわたしがまた戦えばいい。この街に住んでいるのだ、街の平穏のためならば頼まれずともわたしは怪物を退治する」
「エルがそうしてくれるだろうとは思ってたけども……。俺は、争いや不幸は物語の中だけで充分だと思ってる。それに、問題は怪物だけのことじゃない」
全員がテーブルに乗り出すようにして、俺の顔を睨むみたいに見つめてくる。
期待のような、不安であるような色を浮かべる瞳を向けられる中で、俺は言った。
「たぶん、怪物の主は俺や千夜の他の、リアライズプリンタの所持者、三人目のリアライザーだ」
「やっぱり和輝もそう考えてたんだ」
「……うん。ゾディアーグが見た目だけで中身は別物だったし」
「――言われてみれば、奴はずる賢い魔神だった。ただ襲いかかってくるだけの獣のような者ではないはずだったな」
「それからこれは確認のしようがないことなんだけど、たぶんリアライズプリンタにはリスクがある」
「リスク?」
声をハモらせる千夜とエルの顔をそれぞれ見て、それから一昨日の夜に気づいたことを話す。
「俺は放浪の戦乙女の次の話を、描けなくなってる。スランプとかそういうことじゃなくて、次の話もだいたい思いついてメモも取っていたのに、描くべきイメージが頭の中に浮かばない。エルのことを、頭の外に出してしまったみたいに」
「それって、もしかして?」
思い当たることがあるのか、千夜が小首を傾げながら疑問の言葉を口にする。
「考えてる通りだと思う。たぶん千夜も、思い当たるんじゃないか?」
「ソフィアがいてくれたからぜんぜん考えてなかったけど、そうかも。和輝みたいに直接的なものじゃないけど、もう来月末のイベント向けに小説書かないといけないのに、何にも思いつかない。あたしも次の話のメモくらいつくってて、話の内容考えてたんだけどね。ロボットへのこだわりっていうか、書きたいって気持ちだけで書いてたのに、いまはそれがぜんぜんない」
「どういうことなんだ? 和輝」
意味がわからないらしいエルの瞳は、揺れていた。
不安、なのだろう。
彼女はもう物語の中の登場人物ではなくなってしまっているけど、自分のことが描かれた物語なんだ、次の話が描けないなんて言われたら不安にもなるだろう。
「詳しくは説明しにくい。後は現れたヤマタノオロチと戦うだけの展開で、どんな風にするかだいたい決めていたはずなのに、描くべき絵が頭に浮かばない。本当にエルディアーナという登場人物を頭の中から取り出してしまったみたいに。いまはエル、ここにいる、実体化した君のことしか頭に思い浮かんでこない」
言って俺の隣に座っているエルのことを見つめる。
驚いたように目を見開き、口を小さく開けていたエルは、俺の言葉が頭に染み渡ったのか、一拍置いて、怒ったように金色の髪が映える白い肌を首まで赤く染める。
「な、何を言っているんだ、和輝」
「いや、怒らせるつもりはなかったんだけど……。千夜もそんな感じだろ?」
「まぁ、そうだけどね」
何か不満でもあるように目を細めて俺のことを睨んでくる千夜。その隣では、ソフィアが手で顔を覆って下を向き、肩を震わせていた。
何なのかよくわからなかったが、登校の時間が迫ってきているために、俺は話を続ける。
「はっきりとはわからないけど、たぶんこれがリアライズプリンタのリスクだと思う。三人目のリアライザーは少なくとも二度、リアライズプリンタを使ってる。もしかしたらもっと使ってるかも知れない。これ以上使い続けたら、どうなるかわからない」
「どうなると考えてるの? 和輝」
「正直なところ、俺にはわからない。でも、リアライズプリンタってのは絵を実体化するものじゃなく、想像や、想いを頭の中から現実に取り出すものなんだと思う。使い続けたり、強すぎる想いを取り出したりしたら、最悪廃人になるかも知れない。そんなことになる前に、俺は怪物の主を止めたい」
「当てはあるの?」
「いくつか。あんまりはっきりした手がかりじゃないけど。あとは登校中に話すよ」
「わかった」
答えて千夜は床に置いてあった鞄を手に取って立ち上がる。手伝ってくれるかどうか確認はしていないが、千夜の答えは聞かなくてもわかってる。そして一瞬俺に微笑みを見せてから千夜の後ろに着いていったソフィアも、千夜と同じ意見なのだろうと思う。
俺も弁当や教具が入った鞄を手にして、玄関に向かって歩き出そうとする。
「和輝」
俺を後ろから呼び止めたのは、エル。
そう思えばエルが手伝ってくれるかどうかを確認してないと思い、振り返る。
彼女は、出会った日に見たのと同じように、泣きそうな顔で、碧い瞳を揺らしていた。
「わたしの、――いや、戦乙女エルディアーナの旅は、あそこで終わってしまうのか?」
「……わからない。本当はあの話は第三部まであって、いまは第二部のクライマックスに入ったところだ。最後まで描くつもりだったし、いまも描こうと思ってる。でも何も思い浮かべることができないんだ」
「そうか……」
「でも想いは積み重ねるものだと思う。これからまたあの話のことをたくさん考えて、想いを重ねれば、また描けるようになるかも知れない」
「本当に、できるのか?」
「わからない。でも、あんなところでエルの話を投げ出したくはないんだ」
「ん……。そうだな」
何かひとつ吹っ切れたように、でも寂しそうに笑みを浮かべるエル。
「エル。君は俺の――」
「手伝うよ、わたしも。和輝、いまは貴方の想いに添おう。三人目のリアライザーの件に方がつくまでは……。いや、できたらわたしの、わたしだった者の物語に結末がつくまでは、この家にいたいと思う。だからわたしは和輝を手伝う。この家に住まわせてもらっている恩は、いまのところそれくらいでしか返すことができないからな」
「頼むよ、エル」
「あぁ。任せろ」
ブレザーの上から形良く盛り上がった胸を叩き、エルは今度こそ元気を感じる笑み見せてくれた。