なぅ、ぷりんてぃんぐ! ~二次元美少女を実体印刷!!~   作:きゃら める

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第一部 二次元美少女を実体印刷!! 第三章 3

 

       * 3 *

 

 

「……ないな」

 棚差しされた本の背表紙を見終わって、俺は呟いていた。

 いまいるのは駅前にある本屋。

 都心部の大型書店に比べれば小さいし、本はネットで電子のものを買うのが当たり前になってるから置いてある本の種類は子供の頃に比べて減ったが、それでも紙の本がいまのところ滅びる気配はない。

 そんな中規模書店のノンUV照明の下で、サブカルチャーコーナーの棚の前に立つ俺は、目的の本を見つけられないでいた。

 三人目のリアライザーを捜すことに決めた今日、俺とエルは本屋古本屋巡りに、千夜とソフィアは図書館にと、別れて本探しを開始していた。

 目的としているのは怪談ないし都市伝説の本。

 最初の怪物の姿が挿絵としてあるはずの本の名前などを確認するためだ。

 手持ちの電子書籍では目的の本を見つけることができず、どこかで借りたか捨てたかした本の書名や発売日から、いつ読んだどんな本だったかが手がかりになるかも知れない、と思って、たいしたものでないなりに探し出そうと考えていた。

 側にいないエルがどこに行ったのかと本屋の中を見てみると、紙の本の方が根強い人気のあるガイドブック系コーナーで、食い入るように本を読んでいるようだった。どうやらグルメ関係の本らしい。

 ちょっと噴き出しそうになりながらも、無害ならばいいかと思って、俺は違うコーナーに目的の本が紛れていないかと店の中を巡る。

 ――俺の同人誌を買ってることだけは、確かなんだよな。

 イベント会場の側に現れたゾディアーグから考えて、放浪の戦乙女の読者であることはほぼ確定していた。

 けれどそれ以上の情報と言えば、最初の怪物がこの街に現れたことと、怪物が俺の記憶の限り本の挿絵になっていたものだと思われることしか手がかりがない。

 でもなんとなく、俺は三人目のリアライザーは、この街の住人のような気がして仕方がなかった。

 マナーモードにしてある携帯端末がジャケットのサイドポケットで震えたのを感じて取り出してみると、千夜からのメール着信だった。

 図書館には該当しそうな本がなかったとの連絡。あっちも空振りだったらしい。

 こちらも見つからなかったこと、夕食を準備するから後で来てほしいと返信して、俺はエルの元へと向かう。

 俺が言い出して手伝ってもらっているのだから、できる限りの恩返しはしたいと思う。戦えない俺ができるのはせいぜい、自分ができるだけの食事をつくることくらいだ。

「エル。ここでは見つからなかった。そろそろ帰ろう」

「……ん? あ、うん。わかったっ」

 声を掛けても一瞬気づかなかったらしいエルは、慌てて本を棚に戻して、出口へと向かって歩き始めた俺の後を着いてくる。

 冬と言える寒さになってすっかり昼間が短くなり、外に出るとそろそろ夕焼けが始まりつつあった。

 何にも下準備をしていないから今日の夕食は何をつくろうかと思いつつ、俺はスーパーへと足を向ける。

 駅前商店街を歩くと、どうにも居心地の悪さを感じてしまう。

 猫背で前髪が隠れるほどのぼさぼさの頭の俺に対して、金髪碧眼で、戦乙女で異世界の存在なのだから当然だが、スタイルも日本人離れしている、斜め後ろを歩くエル。

 並んではいないが、ともすると腕と腕が触れあってしまうほどの距離は知り合いであることは確実なもので、見惚れるような視線をエルに向けた後、驚きや侮蔑の視線が俺に向けられる。

 エルと俺じゃ釣り合わないのは仕方がないし、怪物からの護衛役でもあるから離れるわけにもいかないが、居心地悪いことには変わりない。

「ちょっと買い物してから帰るから、先に帰っていてくれ」

 商店街の中にある大型スーパーの前で立ち止まり、入り口を指さしながらエルを振り返る。

「しかし和輝、わたしは――」

「まぁ、家までそんなに距離あるわけじゃないし、いまは不穏な気配はしてないんだろ? だったら大丈夫だろ。美味しい夕食つくれるように準備するから、家で待っていてくれ」

「ん……。少し街を見回ってから帰ることにする。わたしも遅くならないように貴方の家に帰るさ」

「……道、わかるのか?」

「大丈夫だろう、おそらく。わからなくなった場合は空を飛べば和輝の家くらいは見つけられるだろう」

「勘弁してくれ。普通の人は空飛べないんだから、見つかったら騒ぎになる。迷ったようならソフィアにでも見つけてもらうから、どこかわかりやすいところでおとなしくしておいてくれ」

「むっ。わかった。それではな」

 軽く左手を振って歩き出すエルに若干の不安を感じつつも、俺はスーパーの自動ドアをくぐる。

 そろそろエルにも携帯端末持たせた方がいいのかな、なんてことを考えながら生鮮食料品コーナーを巡って想定する夕食と、冷蔵庫の中にある食材を思い浮かべて、買い物を済ませた。

 空の半分が夕焼けに染まる空の下、俺は十分ほどの家までの道を少しショートカットするために、ちょっと広さのある公園に入った。

「よぉ、少年。アタシと少し話をしないか?」

 どうやら俺に掛けられたらしい声に立ち止まる。

 すぐ側のベンチに座る年下らしい女の子の目を見た瞬間、俺は立ち止まったことを後悔した。

 

 

 

 

「警戒するなよ。別に取って食おうってわけじゃない。訊きたいことがあるだけさ」

 ぶら下げている食材の入ったエコバッグと、担いでいる登校用の鞄の紐を強く握り、俺は後退る。

 別に、外見はただの女の子だった。

 たぶん小学生か、中学生くらい。

 小さく整った造作の顔は可愛らしかったが、どこか人形染みた感じがあって、微笑んで見せているのに異様さを感じていた。

 長い髪の色と同じ黒一色のフリルなんかの飾りが多い服は、ドレスのようにも見え、アニメの中に出てくる魔法少女の服装を思わせた。

 何よりも異様なのは、瞳。

 黒く、澄んでいるように見えるのに、その深さは極々たまにお袋や親父が見せる不安を起こさせるものよりもさらに深く、闇で染めたような、と言う感想がぴったりの色をしていた。

 ――三人目のリアライザー? ……いや、たぶん違う。

 見た目は年下なのに、黒いタイツに包まれた脚を高く組み、不遜な態度を見せる彼女は、見た目の雰囲気とはまた違う、別の深みを持っているように感じられていた。

 まさに悪の黒幕を思わせるような、そんな雰囲気を。

「何を、訊きたいんだ?」

 震えそうになる声を絞り出して問う。

 そんな俺の様子に、くくっ、と喉の奥で笑い声を上げた魔法少女はにやりと笑って言う。

「何故、知らない他人に干渉しようとする?」

「何の、ことだ?」

「リアライザーを捜している件だよ。そりゃあ自分に火の粉が降りかかってくるなら排除するのは当然だが、君自身もずいぶん強い想いをリアライズしているじゃないか。他の人がどんなものをリアライズしていようと、火の粉が飛んで来ないなら気にすることではないだろう?」

 どう説明していいのかわからない質問には答えず、俺は逆に彼女に問う。

「貴女は、誰だ? それと、貴女がリアライズプリンタを造ったのか?」

「くっ、くくくくくっ……」

 何がおかしいのか、お腹を抱えて笑い始める彼女。

「察しの良さは母親譲りということか? まさかリアライザー探しを始めるとは思わなかったし、あいつの子供だってことに気づかなかったのはアタシの落ち度だが。……アタシはサクヤ。魔法少女だよ」

「魔法、少女? 魔女じゃないのか?」

 服装や見た目がそれっぽいとは思ったが、自分で自分を魔法少女だと名乗る人間がいるとは思ってもみなかった。

 何にも言えなくなった俺にニヤニヤと嫌な感じの笑みを浮かべ、魔法少女サクヤは続ける。

「これでも十二歳だからな。まだ魔法少女と言っても別に問題はなかろうよ」

「……本当に?」

「くくっ。本当に鋭いな、お前は。何、ほんの少しばかり、二十数年ほど時間が停止した世界に封印されていただけさ。その間は身体は歳を取っていないんだ、いまはまだ十二歳だよ」

 知らない人が聞いたらどこの中二病患者かと思う話だが、リアライズプリンタの存在を知り、エルやソフィアがリアライズされているいま、サクヤの言葉はすべて本当ではないかも知れないが、すべて嘘だとも思えない。

 言葉通りに取れば、身体は歳を取っていないだけで、頭の方はその封印されていた二十数年過ごしてきているなら、本当に十二歳と言えるのかとか思ったりもするが、そんなことを突っ込んでいられる雰囲気ではない。

「何のために、リアライズプリンタなんてものを造ったんだ?」

「たいした理由ではないさ。想像力豊かなお前のような奴に、好きなものをリアライズしてもらいたかっただけさ」

「怪物のようなものを、……生み出すとしても、か?」

「もちろん。使える道具があれば、人はそれを使うだろう。ただ、お前やお前の幼馴染みのように、リアライズプリンタを上手く使えている奴はまだ少ないがな。リアライズされるものはリアライザーが望んだもの。それが怪物の姿をしているのは、それを本人が望んだからだ」

「それによって……、人や街に、どれだけ被害があると思ってるんだ」

「そんなことは知ったことじゃない。怪物を生み出したリアライザーの責任だろう。アタシは道具を与えただけだ。使って他人に迷惑を掛けるのは、使った本人の問題さ」

「そんな理屈が、通るわけ、ないだろうっ」

 だんだんと俺は、サクヤの態度に怒りを覚え始めていた。

 得体の知れない魔法少女。

 言葉通り魔法少女で、強い力を持っているのか、本当にリアライズプリンタを造った奴なのか、それとも口だけの奴なのかもわからない。

 しかしたいして戦う力を持たない俺が、手を出して大丈夫な相手にも思えず、怒っていてもどうすることもできない。

「元々リアライズプリンタはお前たちの頭の中にある想像を実体化するためのものだ。想像や妄想を実現するための機械だ。想像や妄想は欲望から生まれるもの。お前のように絵を描き、欲望を形づくれる者は多くなかろう。実体化した欲望が怪物の姿をしているのは当然のことさ。結局、欲望の増大は抑圧が原因なのだ。世界が持つストレスなのだ。世界によって抑圧された欲望がリアライズプリンタによって実体化するだけなのだ。それによる罪は、リアライザー本人と、同時に世界の罪でもある! リアライザーたちは、自分の欲望に従って、己のストレスを解放すればいいだけさ!」

「想像力を、想いを失うとしても、か?」

「ぷっ……。くくくくっ。あーーーーっ、はっはっはっはっ!」

 俺の言葉を聞いて途端に大声を上げて笑い出すサクヤ。

「本当にお前は凄いな。まさかこんなに早くリアライズプリンタのリスクに気づく奴がいるとはな! 絵によって欲望を形づくれるからか? それともあの女に育てられた影響か? そうだ! リアライズプリンタはお前たちの想像力をエネルギーとして駆動する機械だ。一度使えば想像力はすり減り、実体化した欲望は減っていく。しかしそれがどうした。この世界には理不尽なことがたくさんある。ストレス源が無数にあるのだ! 抑圧された欲望などいくらでも生み出されるさ。次々と生み出される欲望がリスクになどなるものか! 世界は己に内包したストレスによって崩壊するだけのことなのだ!!」

「それが、貴女がリアライズプリンタを造った理由か」

 ベンチから立ち上がり、両腕を広げて演説するように語ったサクヤに、俺は言葉を投げつける。

「そうさ! こんな世界は大嫌いだ!! だから壊れてしまえばいい! 壊してしまえばいい! そう考え、己の欲望を溜め込んだ者がリアライズプリンタを持てば、必ずや世界は崩壊してくれることだろうよ!!」

「……俺は、そんなのは嫌だ」

「それがお前の理由か? 早乙女和輝! しかしながらお前の望みが実現すると思うか? 欲望に流されない人間がどれほどいると思う? 平穏や平和を望む奴が多いと思うか? 人は欲望によって変わるもの。流されるもの。お前のような者が、そうした者より多ければ世界は救われるだろう。しかし、欲望に流される者が多ければ世界は崩壊することだろう。アタシはお前に勝負を挑もう、早乙女和輝。アタシはアタシの撒いたリアライズプリンタの所持者によって、お前は自分の持つリアライズプリンタとその実体化した被造物によって、この世界を崩壊させられるか、それを止められるかの勝負だ! まずは三人目のリアライザーを止めて見せるがいい!」

 叫ぶように言い、俺の顎ほども身長がないのに、巨大な闇を背負っているようなサクヤは、黒く染まった瞳で俺のことを睨みつけてくる。

「……貴女と勝負なんてしない。俺は俺が望むように、やりたいことをやるだけだ」

「言っているがいい。この世界がそんな悠長なことを言っていられる場所かどうか、近いうちに知ることになるだろう」

 唇の端をつり上げて笑ったサクヤは、くるりと身体を回転させたかと思うと、目の前から消えてなくなった。

 瞬間移動でもしたのか、ソフィアのように見えなくなったのかはわからなかった。

「やっぱり、リアライズプリンタには造った奴がいたんだな……」

 これまで、何となく引っかかっていて、でもわからなかった疑問。

 リアライズプリンタを誰が、何のために造ったのかという疑問。

 それは解消されたが、それよりも大きな問題に発展してしまったような気がした。

 顎に手を当てて考え込みながら、お袋に関係しているらしいサクヤと、そして三人目のリアライザーのことを考えていた。

 

 

 

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