なぅ、ぷりんてぃんぐ! ~二次元美少女を実体印刷!!~   作:きゃら める

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第一部 二次元美少女を実体印刷!! 第三章 5

 

       * 5 *

 

 

「さすがに、情報が足りないか……」

 ネットの方も改めて検索してみたが、最初の怪物に関する情報は見つからなかった。

 確かかなりマイナーな本に載っていたはずだし、自分ですら何の本に載っていたのか憶えていないくらいだ、検索しようにも情報が足りな過ぎた。

 何より、その怪物の情報がリアライザーにたどり着くものかどうかもわかっていない。

「はい。どうぞ」

 ノックの音が聞こえて、俺はそれに返事をする。

 お袋でも帰ってきたのかと思ったが、扉を開けて入ってきたのは、臨戦態勢ででもいたのか、戦乙女の普段着スタイルのエルだった。

「ソフィアに機械の使い方を聞いて、コーヒーを淹れてみたのだが、飲むか?」

「ありがとう、エル」

 椅子ごと後ろを向いてそう答えると、わずかに微笑んだエルが机のところまでカップを持ってきてくれる。いつも飲んでいるのを見ていてくれたんだろう、牛乳たっぷりのコーヒーは、俺好みの味になっていた。

「リアライザーは見つかりそうか? 和輝」

「いや。情報が圧倒的に足りない」

 いま考えていたことを、俺はエルに告げる。

「そうか。さすがに手がかりがないのでは難しいな」

 自分の分のカップを手にしていたエルは、それに口をつけながら呟くように言っていた。

「……もう一回くらい怪物が出てきてくれれば、手がかりが増えるかも知れないんだが、そうなると、今度は本当に犠牲者が出るかも知れないからな」

「そのことであれば、先ほど怪物に似た気配があったぞ」

「なっ!」

 二口目のコーヒーを噴き出しそうになって、堪えて飲み込む。

「あぁ、一瞬気配がしただけで、すぐに消えてしまった。気配がした場所にも足を運んでみたが、とくにこれといって痕跡もなかったぞ」

「……そっか。ならいいけど」

 普段着スタイルなのはそういうことか、と納得する。

 机の上に出してある携帯端末には、千夜からの通話着信履歴もメール着信もない。気配がしただけで、気のせいだったのかも知れなかった。

「次、もし何かあったら真っ先に教えてくれ。いまは情報がほしい」

「わかった」

 そう答えたエルは、俺のすぐ側に立って机にお尻を押しつけるようにしてもたせかけ、コーヒーを飲んでいた。まだ話でもあるのか、カップの中身を眺めながら、部屋を出て行く気配がない。俺も声を掛けることができず、椅子を少し離してコーヒーを飲んでいるしかなかった。

 立っている彼女は、やはり美しい。

 見た目には俺とそう歳の変わらない女の子の姿をした戦乙女には、美しいという言葉がふさわしい。自分が描いていたキャラクターであるのに、そう思わずにはいられない。

 お風呂から上がってそれほど経っていないのだろう、少しいつもよりもしんなりとしているが、金色の滝のように背中に流れる髪。

 透き通るように白い肌をしているが、外に出ていて寒かったのか、少し赤くなっている頬は、神の造形美に人間らしい暖かみを与えていた。

 わずかに細められ、何か思い悩むように細められた目。

 いろんなことを考えているらしく、何かが映っているような碧い瞳は、宝石の輝きよりも綺麗だった。

「和輝」

 見とれていた俺は声をかけられて、我に返る。

「あ、うん」

「どうした。ボォッとして。そんなことより、怪物の主というのはどんな人物だと考えているのだ?」

「あー。おそらく読書好きで、ゾディアーグの姿を憶えていたくらいで、たぶん俺の本を読んでるオタクなんだろう。内向的で、根暗な奴かも知れない」

「ふっ、ふふっ」

 カップを机に置き、揃えた指を口に当ててエルは笑う。

「何だよ」

「いや、まさに和輝のような奴なのかな、とな」

「……否定はしないけどな。でもたぶん俺とは違う」

「何が違う?」

「タイプ、かな。あの怪物は破壊の衝動そのものみたいなものだった。恐怖や拒絶、そうしたものの塊のように見えた。性格は似ていても、俺みたいに発散する方法がなくて、溜め込むタイプなんじゃないかと思ってる。自己主張が苦手な人なんじゃないかな」

「なるほど、な」

 何か楽しそうな笑みを浮かべるエルが、碧い瞳で俺のことを見下ろしていた。

「和輝のような者を捜して目星を付ければいいことには変わりなさそうだな」

「そうだけど……。でもやっぱり違うかな」

「そうなのか?」

 いつになく笑った目をしているエルは、桜色の唇に笑みを浮かべていた。

「俺には、エルディアーナ。君がいたからね」

「なっ?!」

 驚いたように目を丸くし、口を小さく開けているエル。

「何を言っているのだ、和輝っ」

「何って、そのままだよ。俺にはマンガがあって、そういう破壊の衝動とか、何かを拒絶するとか、そういう気持ちは、ある程度マンガに描き出すことができた。鬱憤が溜まっていても、マンガを書いていれば気が晴れた。ストレス発散になっていたんだろうな」

「そう、か。そういう意味か。……そうだとしたら、わたしは和輝のストレスのはけ口か?」

「うっ」

 厳しい顔で睨みつけられて、俺はたじろいでしまう。

 マンガのほうではそういう部分はあんまりなかったけど、イラストなんかではそういう気持ちを吐き出したようなものがあるのも確かだった。エルの、割ときわどい絵とか。

 さすがにそんなのは隠してて彼女に見せたことはなかったが。

「そ、そういう話になってないのはエルが一番知ってるだろう?」

「確かにその通りだな。わたしは貴方が想像した話の中で、わたしらしくあり続けることができていた」

「うん、そうそう。そういうこと」

 何とか誤魔化すことができたことにホッとする。

 それから同時に、俺は思う。

「でももう、俺も似たようなものかな。いまはエルの物語を、頭に思い浮かべることもできない。全部、リアライズによって頭の中から外に出しちゃったよ」

「……そうだったな。貴方の想像が消えた代わりに、わたしがいるのだったな。しかし、また描けるのではないか? 例えば、わたしではなくても、登場人物を変えるなどして」

「それは……、できるかも知れない。まだそういうことを考えたことはなかったけど」

 言われてみて、その可能性すら考えていなかったことに思いつく。

 確かにエル以外のキャラクター、例えば過去に描いたブリュンヒルデとかだったら、また描くこともできるかも知れない。

「描けるかも知れないけど、いまはそのつもりはないよ。怪物の主のこともあるし、エルの物語を描くことを諦めたわけじゃないからね」

「ん……。そうか」

 頷いたエルは、柔らかく笑む。

 何かここのところで心境の変化でもあったのか、最初の頃のツンツンとした態度と違って、柔らかさを感じる笑みだった。

 ――まぁ、いまの生活に慣れてきたってことかな。

 エルがいつまでこの家にいるかはわからない。

 一応この前、俺がエルの物語を描き終えるまではいたいと言っていたが、勇者となるべき者を見つけ出したときには、出て行くことになるんだろう。

 彼女の魂の伴侶になる可能性など欠片もない俺は、そのときが来たら止めることなんてできそうにない。

「和輝は、どうして怪物の主を捜そうと思うのだ? 先にも言ったが、戦えないお前では危険だ。リスクがあるのもわかるし、街の平穏を願う気持ちもわからないでもないが、背負う危険が大きすぎる。もしかして、怪物の主と自分を重ねて見ているからか?」

「それはあるかも知れない。俺も、一歩間違えば、エルがいなかったら、同じように怪物を生み出すことになっていたかも知れないからね。でももうひとつ理由がある。いや、ある程度予想してたことが、今日はっきりした感じなんだけどね」

「今日? 何かあったのか?」

「……あぁ」

 頷いた俺は、今日出会った魔法少女サクヤについて、エルに話す。

 リアライズプリンタの造り手であることも、彼女の目的が世界の破壊であることも、含めて。

「なるほど。和輝は最初の頃から、造り手のことを考えていたのだな」

「うん。いくらなんでもこの世界では非常識的過ぎるからね、リアライズプリンタは。俺や千夜や、もうひとりのリアライザー、たぶん他にもいるリアライザーも、サクヤに利用されてるんだ。俺も同じ立場だと考えれば、怪物の主にも、そのことを教えてやりたい」

「和輝にとって怪物の主は、敵ではないのだな」

「たぶんね。わかった上でやってるなら別だけど、そうでないなら、教えて、助けてやりたいと思う」

 俺の言葉を聞いて目をつむったエルは、口元に笑みを浮かべていた。

「そういうことならば、わかった。わたしはお前を手伝おう。住まわせてもらっている恩もあるが、確かにその話を聞けば、わたしも和輝と同じことを考える。できうる限りの力で、わたしは貴方を助ける」

「うん。頼むよ」

 目を開け、笑いかけてくれるエルに、俺も笑みを返していた。

 

 

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