なぅ、ぷりんてぃんぐ! ~二次元美少女を実体印刷!!~   作:きゃら める

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第一部 二次元美少女を実体印刷!! 第五章 2

 

       * 2 *

 

 

 小さな店がたくさん集まったショッピングモールの建物の上に設置されたヘリポートからは、東京湾を見渡すことができた。

 そしていま、湾内で白波を引きながら蠢き進んでいるのは、ヤマタノオロチ。

 海風が吹く中、ヘリポートの上に落ちるように降ってきた紅い光。

 着地する直前に弾けた光から現れたのは、黒いドレスのような服を身につけた少女だった。

 彼女が右手に持っているのは、鎌のような、斧のような刃を備えた彼女の身長よりも長い杖。

 ヤマタノオロチの上空に淡く桜色の光を発するエルと、黄色い光を噴射しながら滞空している白と青のボディのソフィアのことを見、サクヤはニヤリと笑みを浮かべた。

「ここは本当、あの子たちの戦いがよく見える場所よね」

 ヘリポートの隅に腰掛け、振り返りながらサクヤに声をかけてきたのは女性。

 黄土色のロングコートの裾を海風にはためかせながら立ち上がり、サクヤへと向き直った女性は楽しそうに笑う。

「遅かったじゃない。もっと早くに来ると思ったのに」

「……なんで、アタシがここに来るのがわかった? 輝美」

「勘、と言いたいところだけど、まぁここが一番戦いを見るのにいい場所だからね。それに貴女は、この手の自分の仕掛けの結果がどうなるのか、見ずにはいられない性格だったからね、昔から。……久しぶり、サクヤ」

 とくに警戒した様子もなく近づき、猫背の和輝にも近い長身の輝美は、少女と言うにも背の低いサクヤを少し距離を取って見下ろす。

「老けたね、プチシャイニー」

「その名前で呼ばないでよ。引退してからどれくらい経ってると思ってるの。老けもするわよ。それでもまだ若いって言われるんだけど? そういう貴女はちんちくりんで幼いまんま。胸もぜーんぜんちっさいままだし」

 魔法少女として現役だった頃の名前で呼ばれ顔を顰める輝美。しかしサクヤのドレスの上からでもわかる凹凸のない胸を指摘し、苦々しい表情を浮かべる彼女に優越の笑みを浮かべる。

「あっちの手伝いはいいの?」

「いいのよ、あっちは。ワタシの息子たちが頑張ってるみたいだしね」

「彦根と結婚したのね、輝美」

「彦根とぉ?」

 サクヤとともに魔法少女を名乗って戦っていたとき、相棒として背中を預けていた男の名前を言われ、輝美は眉を顰める。

「あいつなら中学に入った頃に振ったわよ。同じ学校に進学したけど、その頃からモテ始めて、振られて傷心だって子のことを構って恋人のワタシのことを蔑ろにして、どういうつもりなのか問いつめてもウジウジしてはっきりしなかったからね。戦いの相棒としては頼りになっても、男としては頼りにならなかったのよ、あの莫迦野郎は」

「……何? アタシを差し置いてあれだけラブラブだったのに、振ったわけ? 誰よ、あのぼんやりした感じの息子の父親は!」

 一瞬唖然としながらも怒った表情を浮かべるサクヤに、そう思えば彼女も彦根に告白して振られていたのだということを思い出す。

「そうねぇ。振るくらいだったら貴女に譲っておけばよかったかしら? まぁあのときはワタシも彦根のこと好きだったし、仕方ないわよね。彦根もワタシのことを選んだんだし。まぁそんなことはともかく、あの子の父親は貴女も知ってる人よ」

「わかるわけないでしょ。ってか、まさかあのロリコン男じゃないわよね?」

「そんなわけないでしょー。ロリコン野郎は一日だけいろいろやってくれた報酬につき合って、それで終わり。あの子の父親、ワタシの旦那は蔵雄よ」

「蔵雄?」

 思い出すように視線を外し、目を細めるサクヤ。

「まさか、剣聖グラフィス? あいつ、生きてたの?」

「えぇ。あの戦いの後もどうにかね。彦根と別れた後、ゴミ捨て場にゴミみたいに寝転がってるのを偶然見つけて、拾って帰って、まぁその後いろいろあって、高校の頃からつき合って、ワタシが大学卒業するのと同時に結婚したの」

「はぁー? 何よそれ。グラフィスの息子があんな根暗なオタク野郎だって言うの? ……いや、根暗なのは、同じか」

 納得したように頷いたり、否定するように首を振るサクヤの様子に、昔と変わらないものを感じて、輝美は思わず笑みを漏らしていた。

「本当に懐かしいわね。貴女と一緒に聖邪王と戦ったのはもう三〇年近く前になるのね……。その後のことがなければ、いい想い出話だったのに」

「仕方ないでしょう、輝美。アタシには、どうしても力が必要だったんだから」

 輝美とサクヤが魔法少女として、彦根とともに戦ったのは、闇の軍団を率いて地上を滅ぼそうと画策した聖邪王。その過程で戦った魔人、剣聖グラフを倒し、後にグラフが気まぐれに育てていた人間の子供、グラフィスとも輝美は戦った。

 いまでは文部省の官僚となっているロリコン男とその父親、祖父の協力を得て表沙汰にならなかった闇の戦いに、輝美たちは勝利した。

 その後に残ったのは、聖邪王の遺骸から生み出された聖邪結晶。

 聖邪王の城に聖邪軍の生き残りの守護の元に保管されることとなった結晶を、力を求めたサクヤは奪い取り、自分のものとした。

 世界を、滅ぼすために。

 二度目の世界滅亡の危機を輝美は彦根と、さらに結晶を取り戻ことを目的とする二代目剣聖となったグラフィスを新たな仲間に戦い、サクヤを倒すことに成功していた。

 聖邪結晶を砕いて力を減らし、しかしサクヤを殺す決断ができなかった輝美は、時間が停止した世界への封印を施した。千年は出てこれないはずの封印を破り、サクヤはいま輝美の目の前に立っている。

 リアライズプリンタの中に取り付けられていた紅いレンズは、聖邪結晶の欠片。

 サクヤが封印を破っていたことは、それを見たときに輝美は気づいていた。

「相変わらず、貴女は世界を、人類を滅ぼしたいの?」

「そうよ。何が悪いの? アタシのことを受け入れず、排除した世界を、人間たちを、逆にアタシが排除して何が悪いって言うの?」

「いいわけないでしょ。あのときも言ったけど、貴女のその独りよがりな性格、直しなさいって。……貴女の意志が変わらないなら仕方ない。いま持ってる結晶を差し出して、リアライズプリンタの配布先を吐いてもらうわよ。素直に従うなら、いまだったら許してあげる、サクヤ」

 言って輝美は、コートの中に手を入れ、大振りのナイフを引き抜く。

 突き出し、開いていた左手をつかむようにして出現させたのは、まるでオモチャのように飾り立てられた、バトンほどの長さの杖。魔法少女時代から愛用している、これを手に入れたからこそ魔法の力に目覚めた、魔法の杖だった。

「従うわけないでしょ? 結晶砕かれてそりゃ力は減っちゃったけど、その恥ずかしい杖をいまでも使ってる年老いた元魔法少女ごときに、現役魔法少女のアタシが負けると思ってるの? あの身動きひとつできない空間で、ずっと貴女を倒す方法を考え続けてたんだから。さぁいらっしゃい、アタシの可愛い人形たちよ」

 長い杖をサクヤが天にかざすと、複雑な文様が描かれた魔法陣がいくつも空に浮かび上がる。

 そこから現れたのは、鎧。

 現実の騎士甲冑とは違い、デフォルメされたような姿の金属の鎧たちは、剣と盾を持ち、次々とヘリポートに降り立つ。

「輝美は一対一での戦いは得意だったけど、軍団戦は苦手だったもんね。これだけの魔法の傀儡なら、貴女でも簡単には倒せないでしょう?」

「さすがにこれは面倒臭いな」

 ひしめくほどの数となった鎧人形の向こうで楽しそうに笑うサクヤを睨み、輝美は小さくため息を漏らしていた。

 

 

          *

 

 

「厳しい、か?」

 蠢く首を相手にエルとソフィアは善戦していたが、状況は決してよくなかった。

 斬り落としても次々に首は再生し、ふたりの攻撃を受けつつもヤマタノオロチは徐々に陸に接近していた。俺がいる船着き場の最接近までは、あと三〇〇メートルもない。

 再生のブレスを吐く首に近づこうにも、他の首の攻撃が激しいため難しく、赤坂さんを助け出すことも、首を斬り落として再生を止めることもできなかった。

 ヴァルキリージャベリンを陽動にしたソフィアによる胴体への攻撃も、各種ブレスによって阻まれ、有効打にはなっていない。

 赤坂さんを助け出し、ライフルやバズーカや、他にも多数ある射撃武器を使えるようになれば戦況は大きく改善するだろうが、いまの状況では難しかった。

 逆に、この前の学校と違って広さに制限がないため、自由に飛び回るエルとソフィアは、ヤマタノオロチの攻撃を余裕を持って躱していた。

「大丈夫かな? ふたりとも」

「わからない。いい状況じゃないのは確かだ」

 お互い決定打を持たない戦いは、ヤマタノオロチの上陸によって悪化するのは目に見えている。何か方策が必要なのは確かだったが、戦う力のない俺や千夜では見ている以外のことは何もできなかった。

「あれ? ソフィア?」

 奥歯を噛みしめて船着き場の先端で戦いの趨勢を見ていたとき、ソフィアが戦線を離脱してこちらに向かってやってきた。

 船着き場に力なく四つん這いになったソフィア。

 見ていた限りブレスの直撃は食らっておらず、見上げたボディにも多少の焦げ跡はあっても、大きな傷はない。どうしたのかと思っていると、ソフィアが言った。

『――&%$』

「え? エネルギー不足? ど、どうしようっ」

「……そっか。そんなのもあったっけ」

 ソフィアのエネルギーは、原作ロボであるアルドレッドやアルドレッド・ソアラに搭載された小型核融合炉ではなく、ファンタジーな設定であるハートフルジェネレータによりまかなわれている、ということになってる。

 ハートフルジェネレータは人間の想いや感情を稼働エネルギーや武装のエネルギーに転換するもの。物理的にはどうなっているかはかなり謎だが、そういう設定でリアライズされ、動いているんだから大丈夫なんだろう、と思って深く考えるのは辞めた。

 ただ通常時はマスターである千夜の側にいることによって充分に供給され、蓄積できているが、戦場と千夜との距離が遠く、機動性も攻撃力も増したアルティメットモデルになって燃費が悪化したいまは、供給が追いつかなくなったんだろう。

「じゃああたしが乗って――」

「俺が乗る」

 千夜を手で制して、俺はソフィアの方に一歩進み出る。

「何でよっ。ソフィアのマスターはあたしよ? あたしが乗るのが普通でしょ」

「それはわかるけど、千夜はジェットコースターとか苦手だろ。それに乗り物酔いもするし」

「うっ……。で、でもソフィアのことはあたしがよくわかってるし!」

 背伸びをするように詰め寄ってくる千夜に、振り返った俺は彼女の肩に手を置き、言う。

「俺が、乗りたいんだ。この戦いを始めたのは俺だ。赤坂さんを助けたいと思ってるのも」

「助けたいのはあたしも同じ! 和輝だけじゃないんだから!!」

「だけど……」

 怒ったようにツーサイドアップの髪を揺らしてさらに詰め寄ってくる千夜から視線を外し、俺はソフィアが抜け、苦戦を強いられている、海上を舞うエルのことを見る。

「俺は、エルの助けになりたいんだ。エルはまだ迷いながら戦ってる。彼女の迷いを生んだのは俺だ。俺が彼女をこの世界にリアライズしたのが原因だから、俺が彼女の助けになりたいんだ」

 言って俺は千夜の瞳を真っ直ぐに見つめた。

 頬を膨らませて怒っていた千夜は、徐々に頬の膨らみをすぼめ、唇を尖らせていく。

「……しょうがないな、和輝は。いいところは本当、いつも持っていくんだもんっ」

「ゴメン」

「ん。でも絶対に戻ってきてね! 約束だからね!」

「努力する」

 瞳に不満そうな色を残しつつも笑ってくれた千夜に笑みを返して、俺は片膝を着いた姿勢になったソフィアに近づいていった。差し出された左手に乗り、女性らしい胸の膨らみのようなアーマーの下にある、コックピットハッチが開くのを待ってそこに乗り込んだ。

 原作アニメにおいて、アルドレッドシリーズはすべてパイロット搭乗型のロボットだ。

 狭さを感じるほどのコックピットの中の柔らかな感触の椅子に座り、四点式のシートベルトを締めて上から下りてきたヘルメットを被る。正式にはパイロットスーツを着なければならないはずだが、いまはそんなものはない。

『――ようこそ和輝様。シートベルトの装着を確認。セーフティプロテクターを搭乗位置へ。操縦桿を握ってください』

 耳に、というより頭の中に落ち着いた感じの女性の声が響いた。

「ソフィアって、こんな声してたんだ」

『――はい。パイロット搭乗時はヘルメットを介して意思疎通が可能となります』

 俺の身体の前面を覆うようにせり出してきた、衝撃で投げ出されるのを防止したり、外圧からの防御のためのセーフティプロテクターの下から手を出して、俺は操縦桿を握った。

 左右の操縦桿はレバーになっているわけじゃなく、握るだけのものだ。操縦はヘルメットと操縦桿から伝えられる、搭乗者の意志によって行う。

 完全自律行動はファンタジー設定を持つソフィアにしかない機能だが、アルドレッドシリーズのすべてはマスコット的人工個性を搭載している。それは機体と搭乗者との仲介を行い、ノイズとなる戦闘に関わらない意志をシャットアウトしたり、搭乗者が気絶した際に臨時で機体を動かすためのものだ。

『――リュンクスシステム、起動します。身体を楽にして、目を閉じてください』

 操縦には肉眼は使わない。リュンクスシステム起動と同時に、ヘルメットのバイザーは黒変して、様々なランプが灯っていたコックピット内の視界を閉ざした。

 ソフィアに言われたように半分寝るような格好のシートに身体を預け、目をつむる。目は閉じたままにも関わらず、俺の頭の中には起動シークエンスの情報が見え、その後に外の様子が映し出される。

 ヘルメット型のスマートギアをさらに進化させたようなリュンクスシステムは、スマートギアが脳波を受信するだけのものであるのに対して、映像情報や機体情報などを脳に送信する機能を持っている。操縦方法や戦闘に関わる情報は頭の中に入ってくるし、必要なことは思考で要求すれば表示されるから、俺でも問題はない。

 いま俺は、ソフィアの外部カメラを通して、外にいたときには広いと感じていた船着き場が、狭いと感じるほどのサイズに見えていた。

『――気をつけてください。通常の感覚とサイズが大きく異なっています。見えているものが同じでもサイズは十分の一ほどとお考えください』

「ジオラマを見てるみたいな感覚だな」

 立ち上がったソフィアの視界で見た世界は、大きめのジオラマか、怪獣ものの特撮セットに立ったような感じだった。視界の隅に映る警告表示のところに立っている千夜は、小人のように見えた。

「俺のことは燃料タンクだと考えてくれていい。戦えるような力があるわけじゃない」

『――はい。わかりました。けれどわたくしの戦闘データは基礎情報程度しか入っていません。必要な戦術、戦略がありましたら遠慮なくわたくしの身体を操縦してください』

「わかった」

 ソフィアを通じて千夜のことを見下ろし、俺は言う。

「行ってくる」

『気をつけて、和輝!』

 手を振る千夜に影響がないよう弱い噴射で身体を浮き上がらせ、ある程度上昇したところで加速を開始した。

「赤坂さんを取り戻して、エルを、助けるぞ!」

『――はい! この、和輝様の想いの強さは……。想像以上です。表面エネルギーコーティング出力二〇パーセントアップ。スラスター出力一〇パーセントアップに設定!』

「あんまり振り回さないでくれよ。俺はそんなに鍛えてる方じゃない」

『――大丈夫です。すでに和輝様の身体データは収集済みです。緊急時以外は無理はしません』

 ソフィアと言葉を交わしながら、俺は上空からヴァルキリージャベリンを投擲していたエルの隣に並ぶ。

「待たせた、エル!」

『和輝? 何をしに来た! ソフィア! エネルギーの補充をするだけではなかったのか?! 和輝も、危険だ。すぐに戻ってそこから下りるんだ!』

「アルティメットモデルはパイロットがいないとエネルギー消費に供給が追いつかないんだ。俺が乗りたいって言って乗ったんだ。エル、一緒に戦わせてくれ。これは俺の戦いでもあるんだ!」

 ソフィアの顔の横に並び、苦々しい表情を浮かべながら睨みつけてくるエル。

 けれど、迷っている時間はもうあまりなかった。

『――内蔵エネルギープール、フルチャージ完了。全兵装、リミッター解除します』

「来るぞ、エル!」

『くっ。無茶してくれるなよ、和輝! ソフィアも、和輝のことを守ってくれ!』

『――はい!』

 上空に向けて首をもたげたヤマタノオロチが、雷撃を飛ばしてくる。

 逃れたエルの代わりに、俺はソフィアを攻撃の正面に立たせる。表面防御を強化した盾を構え、ソフィアは雷撃をものともせずに急降下していく。

 ソフィアが持つ右手のビームソードの感触を確かめながら、俺は赤坂さんを助けるために、俺の戦いを開始した。

 

 

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