なぅ、ぷりんてぃんぐ! ~二次元美少女を実体印刷!!~ 作:きゃら める
* 3 *
アニメに出てくるパワードスーツに近い形状の鎧人形たちは、ぱっと見ただけで五〇体ほどまで増え、輝美はげっそりとした表情を浮かべていた。
ちらりと後ろを見ると、一時戦線を離脱していたアルドレッド・ソフィアが復帰し、ヤマタノオロチとの戦いは第二ラウンドが開始されたところのようだった。
「いったい、どんだけつくったのよ、この木偶人形」
「もちろん、貴女を圧倒して勝てるだけの数に決まってるでしょう? ずっと貴女を倒す方法を、あの世界で考えてたんだから。一体だって貴女の力と能力じゃ手こずるはずよ」
「あーそー」
投げやりに言いながら、おもむろに一番近い鎧人形に左手の杖の先端を向けた輝美は、予備動作も詠唱もなしにワインレッドの太い光を発射する。
人の胴体ほどの太さがある光は、しかし鎧人形の数センチ手前で青で描かれた魔法陣に激突し、拡散して散ってしまった。人形には焼け焦げひとつ着いていない。
「うへー。っと」
音もなく近づいてきた別の人形の斬撃を軽やかに躱し、右手に持った大振りのナイフをすれ違い様に押しつけ、斬りつける。
振り返ってみると、ヘリポートを照らすスポットライトのような照明の下で、斬られたはずの鎧人形は、わずかに横腹にナイフの傷跡を残すだけで、動きに支障を来した様子もない。
「魔法攻撃も物理攻撃も効くわけがないでしょ? 貴女の攻撃に適した魔法防御も施してあるんだし、魔法で強化した素材は、射撃魔法使いのクセに接近戦好きの貴女の斬撃にも堪えられるくらい強くしてあるんだから! 貴女は手も足も出ずに、こいつらに蹂躙されるしかないのよ!」
ひしめく鎧人形の向こう側で下品な高笑いを上げているサクヤにちらりと視線を飛ばし、輝美は大きく息を吐く。
ニヤリと笑みを浮かべた輝美は、言った。
「さて、それはどうかしらね?」
腰を落とした輝美は近づいてきていた三体の鎧人形のうち一体に接近し、胸元に魔法の杖をあてがう。
杖の先端から発射されたのは、先ほどと同じ太さのワインレッドの魔法光。
しかし魔法陣による防御が発動することはなく、胸から上を失った鎧人形は動きを止め、後ろに倒れていった。
次の人形が振り下ろしてくる剣をナイフで逸らし、体勢を崩させた瞬間、頭頂部に押し当ててからナイフを一気に振り下ろした。
縦に真っ二つにされた人形は、がらんどうの身体を曝しバラバラのパーツとなって崩れ落ちた。
「な……、んで?」
サクヤが驚きの声を漏らしている間にも、輝美は次々に鎧人形に躍りかかり、ナイフで両断し、杖からの射撃魔法で撃ち抜く。
さらに回し蹴りで切り裂き、膝蹴りを食らわせると同時に発動させた「膝からビーム」で貫き、どんどんサクヤへと近づいて行っていた。
対する鎧人形たちは、人間以上の素早い動きで剣を振るうものの、輝美はそれ以上の動きで斬撃を避け、紙一重で躱し、すれ違う間の反撃で倒されていった。
「何なのよいったい! どうして貴女がこの子たちを倒せるのよ! それにその動きは!!」
「何って、まぁ……。貴女が施した魔法干渉障壁は、本体のだいたい六センチのところで発動するものでしょ? それより内側からの魔法には反応しない。だから杖を当ててから射撃魔法を使えば問題にもならないし、斬れ味強化の魔法だって有効なのよ」
周囲の鎧人形をすべてガラクタに変えた輝美は、ためらうように接近してこない敵を油断なく見渡しながら言う。
「それに、中学入るときには魔法少女は引退したけど、別に魔法を失ったわけじゃないし、その後も蔵雄と一緒に鍛えてたからね。んで、アクションものの映画を見ててふと思いついたのよ。その映画は拳銃と格闘術を組み合わせたものだったんだけど、似たようなことを魔法と格闘術でできないかな、って。それで編み出したのが、これ」
後ろから接近してきた二体をナイフと射撃魔法で瞬時に屠り、ガラクタへと変える。
「結局、格闘でも武器戦闘でも銃撃戦でも魔法戦でも、同じなのよ。他と違って魔法の場合、対抗魔法とか防御魔法が充実してて防ぐ手段が多いけど、要は敵の本体にダメージを与えて倒すってことには変わりない。その手段が拳か剣か銃弾か、魔法かの違いだけ。防ぐ手段が多い魔法はたいてい力押しの戦いになるけど、格闘術は相手の力を利用したり、攻撃を回避したり、動く相手に有効打を当てる技の勝負。組み会わせたらどうなるかな、って思ってやってみたら、できたのよ。魔法と格闘術を組み合わせたワタシの戦法は、映画の技に習って、マギ=カタと名付けてみたわ。ただ無駄に年老いてたわけじゃないのよ、サクヤ。ワタシはワタシで、いまでも成長中なのよ?」
言い終えた輝美は、顔の前でナイフと杖を交差するように構え、サクヤへと走る。
彼女をガードするように走り寄る鎧人形の斬撃を避け、すり抜け、切り刻み、撃ち抜き、囲いを突破した輝美。
恐怖に表情を強張らせたサクヤの頬に、右手に持ったナイフのナックルガードを食い込ませた。
*
――キツいか?
俺がソフィアに乗り込んだことで戦況は有利に運んでいるが、瞬時に再生する首の再生速度を上回ることができない。
すでに千夜のいる船着き場の最接近を終え、速度は落ちたもののヤマタノオロチの進行を止めることができないでいた。
『和輝! どうするつもりだ! このままでは上陸されてしまう!!』
首の一本を切り落とし、ヴァルキリージャベリンを投げながら接近してきたエルが外部集音マイク越しに声を掛けてくる。
「どうすると言われても……」
せめて空を飛んでくれれば、赤坂さんの首に危害が加わらない方向からライフルなりバズーカなりで攻撃して、いまよりもっと大きなダメージを与えられるが、身体の半分以上を海中に沈めているいまはそれを行うこともできない。
正直、埒が空かない状況になっているのは確かだった。
『この際、赤坂このみのことは目をつむって、陸地の被害を最小限にとどめるべきではないのか?!』
「それはできない!」
『しかし!』
睨みつけてくるエルに、俺もソフィア越しに彼女のことを睨みつける。
確かにもう時間はいくらも残されていない。決断するなら早いほうがいい。
そうだとわかっていても、俺は決断できずにいた。
『――よろしいですか? 和輝様』
「どうした? ソフィア」
『――おそらくヤマタノオロチの首の力そのものは、それほど強いものではありません。和輝様を乗せたいまのわたくしの力であれば、振りほどかれずに組み付けると思います』
「……そっか。エル! 一か八かになるけど、首をできるだけ斬り落としてくれ!」
『どうするつもりだ?!』
「俺が赤坂さんのいる首に組み付く。エルはその間に彼女の身体を奪い取ってくれ!」
『危険なことをするつもりか! くっ。しかし、仕方がない……』
俺のことを心配してくれているのか、いままで見たことがないほど顔を歪ませたエルは、しかし作戦を了承してくれる。
「行くぞ、エル!」
声とともに俺はソフィアを操って、海面すれすれを飛び、ヤマタノオロチへと迫る。
二本の首が向けられ、喉を膨らませるのを見た俺は、スラスターを最大出力にして一気に距離を詰め、上昇しながらビームソードで二本の首を一度に斬り落とした。
斬り落としたのは大水と雷撃の首。
見るとあちらではエルが、毒霧と大風の首の二本を剣帝フラウスで斬り落としていた。
――行ける!
さらに俺は向けられた一本の首に向かって、右腕を広げながら接近し、ラリアートをかます要領で引っかけ、そのまま再生ブレスの首共々両腕で抱き込んだ。
「いまだ、エル!」
『わかっている!』
いつの間にか背後に隠れるように飛んでいたエルが、ソフィアで捻り潰すつもりで抱き込み動けなくなっている首の一本に接近する。
ソフィアの位置からでは見えなかったが、エルはフラウスでヤマタノオロチの舌を切り取り、その腕に赤坂さんを抱いて口の中から飛び出してきた。
「よしっ!」
嬉しさに叫んだのもつかの間、横合いから残った首二本の頭突きを受け、ソフィアのボディは吹き飛ばされた。
『和輝、これで!』
「あぁ。全力で攻撃して上陸する前に退治する! エルは赤坂さんを千夜のところに……」
喚び出せる武器を確認しながら、隣で滞空しているエルに指示を飛ばしているとき、俺たちに向けて首の一本が向けられた。
避ける暇もあればこそ、炎よりも早い速度で噴き出されたのは、黒い霧状の液体。
「なんだ? これは」
『――毒ではありません。現在成分を解析中』
ソフィアのボディを黒く染めた液体は、水のように滴ることもなく、ゼリーか何かのように付着して留まっている。
赤坂さんを両腕で抱き締めて守ったエルもまた、避けきれずゼリー状の霧の洗礼を受けて鎧や服の一部を黒く染めていた。
大風の首を再生させ、ヤマタノオロチが炎の首と揃えて俺たちに向け、喉を膨らませた。
――まずい!
「エル!」
思ったときには身体が動いていた。
ソフィアのボディを操り、エルの身体を手の平で叩き落とすように海に沈める。赤坂さんのことが心配だが、いまは気にしていられない。
スラスターの出力を上げて自分も避けようとしたときには、すでに遅かった。
広範囲に広がった炎が足先をかすめる。
次の瞬間、ソフィアの全身は炎に包まれていた。
たぶん、ヤマタノオロチが吐き出したのは油だ。それもナパーム弾に使われるような粘液質の。
もしエルが炎を浴びていたら、戦乙女である彼女は耐えられていても、赤坂さんは焼け死んでいただろう。
視界は混乱していた。
外部カメラはすべて炎が踊り、視界を著しく遮っている。温度警告が全身から発せられ、装甲が溶け出す限界温度まではまだ余裕があったが、徐々に限界に近づきつつあった。
「ソフィア! 一端海中に逃げて温度を下げよう!」
『――わかりました』
炎で外が見えず、俺にはどちらが上でどちらが下かもよくわからない。指示通りソフィアが高度を落とし、海面へと接近していく。
けれどその動きは、途中で止められてしまった。
「何が起こった? ソフィア!」
激しい衝撃とともに装甲が軋む音が、コックピットの中にまで聞こえてくる。
『――首の一本に噛みつかれました。逃げられません』
切り替わったカメラの画像で見えたのは、赤いヤマタノオロチの舌と、闇に染まった口内。
火炎、電撃、大風、大水、毒霧、回復、油と来て、最後に残った首はどうやら噛みつき用の首だったようだ。がっちりと噛みつかれて、ソフィアは脱出できない。ちょうどコックピットの正面から腰の辺りにかけて、大きく開いた口が咥え込み、鋭い牙が引っかかって抜けられそうになかった。
『――大丈夫、です。この圧力ならば耐えることができます。それよりも早く脱出しなければ、温度の方が』
ボディの各部を表示している警告では、まもなく表面温度が限界に達しようとしていた。俺はビームソードを持ったままの右腕が動くのを確認し、首を斬り落とそうと振り上げる。
「……ん?」
そのとき見えたのは、黒かったはずの口内。
ソフィアの身体の各部に設置されたランプを反射して光っているのは、口内にすっぽり収まるサイズの、金属の柱状の物体。
「パ、パイルバンカー!!」
俺がそう叫んだときには、迫ってきた金属柱が視界を埋め尽くしていた。