なぅ、ぷりんてぃんぐ! ~二次元美少女を実体印刷!!~   作:きゃら める

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第一部 終章 魂の伴侶
第一部 二次元美少女を実体印刷!! 終章


終章 魂の伴侶

 

 

 

「あれ?」

 目を開けて飛び込んで来たのは、見慣れぬ白い天井。

「生きてる?」

 多少怠さを感じる身体を起こして回りを見てみると、どうやらどこかの病院の個室にいるようだった。

 窓の外に見えるのは海。たぶんだが、ヤマタノオロチと戦ったとき近くにあった病院かも知れなかった。

「――#$%」

「……和輝?」

 声を掛けられて見てみると、俺のベッドに突っ伏して寝ていたらしい千夜が身体を起こし、顔を覗き込むように見つめてきていた。

「よかった……。よかった!!」

 呆然としていた表情を泣き顔にして、千夜は入院服の俺の胸に飛び込んで来た。

「莫迦っ、莫迦っ! 和輝の莫迦っ!」

 莫迦莫迦と繰り返して胸に顔を押しつけてくる千夜の髪を撫でてやりながら、まだ状況がよくわかっていない俺は、少しボォッとする頭で状況を確認しようとする。

 ――そう思えば、身体を潰されたんだっけ。

 千夜の髪を撫でる手が普通に動くことを確認して、不思議に思う。千夜の後ろに控えるように立つソフィアに顔を向けてみても、彼女は小首を傾げるだけで、答えてはくれない。

 感覚を頼りに脚を動かしてみたが、普通に動かすことができた。

 生きていることすら不思議だが、身体にとくに支障を感じないのはもっと不思議だった。

 エルの治癒術でもあの状態の身体は治せるはずがない。どうなっているのかわからず、まだ肩を震わせてしゃくり上げている千夜にも聞けそうにない。

 ――それにあのとき、俺は……。

 唇に微かに残る感触に、指で撫でてみる。

 あれが夢だったのか、現実だったのか、意識を失う直前でよくわからなかった。

「やっと起きたか、莫迦息子」

 言いながらノックもなしに扉を開けたのは、お袋。

「生きて帰れと言ったのに、無茶しやがって」

「いや、生きてるじゃん」

「莫迦。命をつないでもらったんだよ」

「ん?」

 汚いものでも見るような蔑みの視線を向けてくるお袋。涙を手の甲で拭い、何故か頬を膨らませて睨んでくる千夜。

 どういうことなのかわからず、俺は首を傾げるしかない。

「すぐにわかるよ、莫迦息子」

 そう言われるが、わかるわけがない。

 と思ったのに、なんとなくわかってしまった。

 近づいてくるのを感じる。

 凄い速度で接近してくる。

 廊下をそんな早さで走ったら怒られるだろうと思うが、何が近づいているのか、どうしてそんなことを感じているのか、いまひとつ実感がわかない。

「和輝!」

 開きっぱなしの扉から姿を見せたのは、エル。

 彼女の姿を見た瞬間、心臓が強く脈打った。

 ふわりと裾が広がるジャンパースカートにショートコートを重ねた可愛い姿に、じゃない。少し乱れた、でも相変わらず美しい金色の髪にでも、本当に嬉しそうな色を浮かべた碧い瞳にでもない。

 エルディアーナの存在そのものに、俺の心臓は高鳴っていた。

 口を手で覆い、ぽろぽろと涙を零すエル。

 その涙を拭って上げたいと思うのに、いまひとつ上手く動かない俺の身体は、彼女に向かって手を伸ばすことしかできなくて、近づいてきたエルが俺の手に頬を寄せ、自分の手で包み込んでくれる。

「我が勇者よ、我が魂の伴侶よ、目覚めのときを、お待ちしておりました」

「……え?」

 エルから言われた言葉に、気持ちの方は過ぎるほどに納得しているのに、頭の理解が追いつかない。

 ニヤニヤと笑っているお袋を見、さっきよりもさらに不満そうな顔をしている千夜を見、助け船を出してくれる様子もなくにこにこと笑っているソフィアを見て、俺は理解する。

 あのとき死にかけた俺がエルディアーナと交わしたキスが、魂の契約であったことを。

「エ、ル?」

「はい。我が勇者、和輝よ。これから、末長く、よろしくお願いします」

 嬉しそうに笑みを浮かべ、それでも碧い瞳から涙を零れさせるエルは、そう言って俺の胸に顔を埋め、両腕を身体に回して抱きついてきた。

「まぁそういうことよ、和輝。どうやって口説いたのか知らないけど、貴方はエルちゃんの心と魂をゲットしたの。理解した?」

「あー、うん」

 突き刺さるような千夜の視線に気づかない振りをして、さっきとは違ってエルのつややかな髪を撫でながら、俺はお袋に顔を向け続けていた。

 なんだか、気持ちは理解できてしまっているのに、頭が追いつかなくて、なにやら怖い感じがしていたから。

「それで和輝に質問なんだけど、妹と他人、どっちがいい?」

「……なんの話だよ」

 突然想定外な質問をお袋からされて、俺は返事を返すことができない。

「まっ、この様子だと他人の方がいいかしらねぇ……。ちょっと知り合いに頼むかぁ」

「んん?」

 お袋の言ってることがわからず、千夜の視線にも耐えきれず、抱きついてきたままのエルをどうすることもできず、俺のボォッとしている頭はまだ本調子になるにはかなりの時間がかかりそうだった。

 

 

          *

 

 

「本当に皆さんにはご迷惑をおかけしました。申し訳ありません!」

 短い髪を揺らしながら、赤坂このみは深く頭を下げた。

 日曜日、俺の家のダイニングに集まっているのは、いつもの四人に加えて赤坂さんの五人だった。

 検査のために二日ばかり入院して、異常なしってことで俺は退院させられていた。

 戦闘後すぐに意識を取り戻した赤坂さんもひと晩入院したそうだけど、やはり異常はなく、翌朝には退院していたそうだ。

 ずっと頭を下げ続けている赤坂さんの様子に、千夜とソフィアとエルの視線が俺に集まる。何か言えということらしい。

「あー。まぁ、あの三莫迦トリオはまだ入院中だけど命に別状はないし、俺も赤坂さんのおかげでこの通り問題ないし、学校もどうせ来年度から建て直しだったんだし、問題ないだろう」

 赤い縁の眼鏡の向こうで済まなそう色を浮かべた瞳をしつつ顔を上げた赤坂さんは、まだ沈んだ表情で、俺が手で勧めた、いつもならお袋がいる上座の椅子に座った。

 俺の身体が元通りになっていたのは、ハイ・ヴァルキリーになったエルの治癒の術のおかげではなく、赤坂さんのヤマタノオロチの力だ。

 ほぼ真っ二つにされながらも原型を保つことができたというヤマタノオロチは、エルに倒された後は赤坂さんの指示を聞くようになり、回復の首のブレスによって俺の身体を元通りにしてくれていた。

 エルが魂の契約をしていたからこそ死なずに済んでいたが、首から下がほぼぺっちゃんこになっていた俺の身体は、回復のブレスがなければどうなっていたかわからない。

 彼女からは、すべての事情を聞いていた。

 思っていた以上にひどいいじめを受けていたことも、家庭の事情についても、赤坂さんは話してくれた。

「いまはヤマタノオロチはどうしてるの?」

「えぇっと、ここに」

 そう言って赤坂さんがブラウスの胸ポケットから取り出した携帯端末にぶら下がっていそうなサイズの物体。

 手の平に乗せたそれは、確かに八本の首がある、ヤマタノオロチだった。

「……こんなに小さくもなるものだったのか」

「えっと、はい。サイズは自由自在みたいです。どれくらい小さくできて、どれくらいまで大きくなれるかはわかりませんが。私の、全部壊したいって想いが形になったものですけど、いまは大丈夫みたいです。私の言うことを聞いてくれます」

「再生の首ってもしかしたら、あれだったのかもね。えぇっと、家族とかを元に戻したいって、そういう想いからだったのかも」

「そう、かも知れません……」

「千夜」

 話すときもつらそうにしていたことをほじくり返す千夜を睨みつける。言ってから気づいたのか、千夜は済まなそうな顔で「ゴメン」と小さく言って俯いた。

 学校が破壊された翌日には仮校舎が決まったことだとか、あれだけヤマタノオロチと激しい戦いを陸地の近くでしていたにも関わらず、報道のヘリ一機も飛ばず、警察や自衛隊にも動きがなさそうだったこととか、目撃者もいないとか腑に落ちないことは残っているものの、今回の怪物事件はとりあえず収束となったようだった。

 ソフィアが注いでくれた新しい紅茶にミルクを注ぎ、微かな甘さを楽しんだ俺は、ホッと息を吐いていた。

「あの、それでお訊きしたいことがあるのですが」

「何? このみ」

 あっという間に仲良くなって赤坂さんを名前で呼び捨てにしている千夜が、彼女の問いに応じる。

「私を助けようと一番頑張ってくださったのは和輝さんだと聞いたのですが、本当でしょうか?」

「ふむ。確かに一番頑張ったのは和輝だな」

「いや……」

「戦ったのは主にソフィアとエルだけど、和輝が助けるって言って譲らなかったのは確かだね」

「そう、だったんですね……」

 エル、ソフィア、千夜の順で割と胸の大きな面々が揃っている中では、薄いと感じてしまう胸を手で押さえて安堵の息を漏らし、赤坂さんは笑顔を見せる。

「私、ずっと和輝さんのファンだったんです」

「やっぱり、あのときのシンシアのコスプレって、赤坂さんだったんだね」

「はいっ」

 嬉しそうに返事をする彼女は、紅茶を一気に飲み干し、大きく息を吸って、吐いて、立ち上がった。

「それで、和輝さんにお願いしたいことがあるんです」

「うっ……」

 真っ直ぐな目で俺のことを見つめてくる赤坂さんに、俺は何となく嫌な予感と、二方向からの痛みを感じるほどの鋭い視線に、思わずうめき声を上げていた。

「助けていただいたお礼、と言うこととは違うんですが……」

 はにかみむように言葉を濁し、頬をほんのり赤く染め、膝と膝が触れあうほどに近づいてきた赤坂さん。

 真後ろで、音を立てながら椅子を引いて立ち上がったエルが、見えてはいないのに、魂が繋がっているからだろう、激しい感情の波動を発していた。

 机を挟んだ左隣では、千夜が角でも生えてるんじゃないかという表情を浮かべて俺のことを睨みつけてきていた。

 そんなふたりのことを気にしていないのか、それとも気づいていないのか、椅子に引っかけてあった鞄に手を伸ばして折り畳んだ紙を取り出した赤坂さんは、それを広げながら言った。

「私と、家族になってください」

「か、家族?! え? 告白もプロポーズもすっ飛ばして家族って……。そ、そういうのは和輝と一番長く過ごしているあたしを通して話をしてちょうだい、このみ!」

「そのこととこのことは関係ありません。私は和輝さんのことが好きなんです。小姑は口を挟まないでください!」

 怒ると相当怖い千夜の言葉も意に介さず、婚姻届を広げて見せたまま挑発するように顎を反らしてそっぽを向く赤坂さん。

「待て、ふたりとも」

 激しい雰囲気はまとったまま、冷静な声でエルがふたりに待ったをかける。

「幼馴染みでずっと一緒に過ごしてきたんだから、エルとは年季が違うんだけど?」

「横から出てこないでください。これは私と和輝さんの問題です」

「わたしはすでに和輝と魂の契約を交わし、彼はわたしの伴侶となっている。人間の行う結婚などという制度とは違い、わたしと和輝はいま魂と魂で繋がっているのだ。そこに割って入ることなど不可能だ」

「だからそれは!」

「そんなこと関係なくて!」

 頭の上で言い合いを始めた三人に、俺はため息を漏らすくらいしかできることがなかった。

 ふと思って、俺はエルに問うてみる。

「なぁエル」

「なんですか、和輝っ」

 言い合いを中断し、睨むような視線を俺に向けてくる彼女。

「あの魂の契約って、俺はもうほとんど意識なくて、契約が交わされたから俺が生きてるってのもわかるんだけど、ちゃんとした契約になってるのかな? って。確か魂の契約にはお互いの同意が必要だったよな? 片方だけで契約した場合ってどうなるか、設定してなかったよな……」

「ならば改めて契約を交わしましょう、和輝。我が魂の伴侶となってください、我が勇者よ」

 早口に言い、エルは俺の頬に手を添えて顔を近づけてくる。

「ダメ!」

「ダメです!」

 エルの後ろに回って彼女の肩をつかみ、俺から引き離す千夜と赤坂さん。言い合いを再開した彼女たちの声は、徐々に大きくなってきていた。

「赤坂さんの分の宿題をやる予定じゃなかったっけな……」

 すぐ側で展開される言い合いに小さく呟いてみたが、誰も聞いている様子はない。

 この場に居続ける気が失せてきて、俺はひとり静かにお茶を楽しんでいるソフィアに顔を向ける。

「なぁソフィア。ちょっと俺を乗せて、どこかここじゃない場所に連れて行ってくれよ……」

 口を付けていたカップをテーブルに置き、小首を傾げたソフィアは、エプロンのポケットに手を突っ込んでタブレット端末を取り出した。

 たぶんソフィアと接続されている端末はレタッチアプリが立ち上がり、そこに文字が描かれる。

『和輝さんはわたくしの中に入りたいと、そう申されるので?』

「ぐっ……」

 取りようによっては性的な意味にも取れる言葉に、俺はうめき声を上げていた。絶対にソフィアは俺を使って遊んでいる。

「……和輝。魂の伴侶たるわたしがいながら、ソフィアと何をするつもりか?」

「かーずーきーっ。ソフィアにまでちょっかい出すつもりーーっ?!」

「和輝さんっ。不潔です!」

 攻撃の対象が俺に集中し、六つの瞳が俺に鋭く突き刺さる。

「あー、えー、そのー」

 相変わらず目を隠している前髪越しに三人の視線を強く感じた俺は、くるりと振り返ってダイニングから逃走を開始する。

 途中のリビングで引っかけておいたコートを取り、そのまま玄関に向かい、外へと飛び出した。

 これから先いったいどうなるのかもうわからない。

 少なくとも俺はいまこの場にいたくない。

 とにかく俺は逃げの一手を打つために、晴れ渡る十二月の空の下を、隠れられる場所を探して全力で走っていた。

「和輝ーーーっ!」

「逃げるな! 和輝ーっ!」

「和輝さんーーーっ」

 追ってくる声に脇目も振らず、俺は当てもなく走ることしかできなかった。

 

 

          *

 

 

 なんだかんだと騒がしかった冬が終わり、春が来た。

 誰かの作為を感じなくもないが、たった三ヶ月ほどで全壊した校舎の後に新校舎が建ち、二年生最初の登校日となった今日、俺は朝のホームルームを頬杖をついて聞き流していた。

 どうせオタクであることが学校中に知られている俺は、よほどの用事があるとき以外には近づいてくる奴はいない。

 クラス替えもあって教室内のメンツは一部が入れ替わっているが、仲良くなることもないんだ、いままでと変わりはない。

 そう、思っていた。

「今日からこのクラスに編入することになった編入生を紹介する」

 窓の外を眺めたまま、一番後ろの列の一番窓際、俺の隣の席に空きがある理由を、眼鏡の神経質そうな細身の歴史教師の言葉で知った。

 俺は興味もなく、教室に入ってきたらしい編入生を見て悲鳴にも近い歓声を聞き流していた。

 が、聞き流せそうにもなかった。

 胸の中にわき上がったざわめきが、俺を教壇の方に目を向けさせる。

 ボードに自分の名前を書き、振り返って教室内を見渡したのは、金髪碧眼の女の子。

「結城(ゆうき)エルディアーナと申します。これからどうぞよろしくお願いします。……早乙女和輝と、クラスメイトの方々」

 エルの言葉に、一瞬にして教室中の奴らの視線が俺に集まる。

 ――お袋が言ってたことはこのことだったのか……。

 妹と他人どっちがいいか、と目が覚めたときに言われていたのを今更ながらに思い出す。

 どういう手段を使ったのかは知らないが、エルに戸籍や立場を用意したのは、俺の知る限りお袋以外には考えられない。

 教師に言われるまでもなく、空いている机のある俺のところまで来て、みんなの視線を避けるように机に突っ伏している俺に向かって、エルは微笑みかけてくる。

「これまでも、そしてこれからも、末長くよろしく、和輝。我が勇者よ、我が魂の伴侶よ」

 どの言葉に反応したのか、教室内には女子の黄色い歓声と、主に男子のはやし立てるような、やっかむような声が響いた。

 これまでは静かに過ごせていたのに、二年からはそういうわけにはいかなそうだと思いつつ、俺は突っ伏したまま寝たふりをすることに決めた。

 

 

             なぅ、ぷりんてぃんぐ! ~二次元美少女を実体印刷!!~ 了




次回予告

「あ、あの……。戦乙女は、その……、男性とそういう、――経験をしてしまったら、なんと呼ばれるようになるのだろうか?」
 妙な情報を仕入れて困難な質問をしてくるエルディアーナに苦慮する和輝。接近するふたりの関係に飛び込んでくるこのみに、これまでにない積極性を見せる千夜子。ソフィアの本気とも冗談ともわからないセリフが冴える!
 そして現れる新たなリアライザー。暗躍するサクヤと、それを追う輝美。ついに帰還する父、剣聖蔵雄。剣聖と邂逅するエルの反応は如何に?
 荒れ狂う予感しかしない「なぅ、ぷりんてぃんぐ!2 ~(元)二次元美少女の悩み事~」をリアライズ!

 なお、第二部公開時期については未定となっております。
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