「あやつらは余りにもイカれているな。人の欲を肯定する妾でさえ理解できぬ――――だがまぁ面白い……」
そう呆れたように一人笑いながらワインを飲む女がいた。
その女は暗闇のようなドレスを身に纏った退廃的な雰囲気を漂わせる美女だ。
黒のアサシン――――名はセミラミス……アッシリア帝国に君臨したとされる伝説の女帝であり暴君。
人類最古の毒殺事件の犯人であり、自由の女神のモデルの一人。
幼少の頃より化粧、結髪、装身から舞踏、音楽、天文まで幅広く教養を修め、男を惑わす美貌を持っていた。
一方で贅沢と退廃を好む情熱的な女性。この情熱は恋においてひとりの男を手に入れるために戦争を起こし、政治において夫である王を毒殺する容赦のなさに現れる。
数十年に渡って暴政を敷いたが女王としての手腕は確かで、城壁やイシュタル門の建設、多くの遠征を指導した。
そんな彼女にとって他の女など女ではなく男は只の玩具だった。
まぁそんな玩具である筈の存在に今は良いように使われているのだが……。
そして良いように使われる原因となった男を思いだし水の中に城を沈め隠れるもどかしさを少し忘れて上機嫌になる。
まぁもちろん気付いてはいないが。
「女帝よ。我等は無欲だ。あるのは無辜の民の諸行無常からの解放だ」
そして直ぐに不機嫌になる。その理由は目の前にいる存在のせいだった。
そういう風な存在なのはわかってもこのような異常者が自分の真横に現れるのは気分が悪い。
自分の仮のマスターだとしても。
「――――荒耶宗蓮か。人の死に貼り付く枯れた亡霊が偉そうに諸行無常を説くとはな。貴様は黙ってあの趣味の悪いマンションで大家をやっておれば良かったのだ……」
冷淡に酷薄にアサシンは嘲笑う。あの男の大事な同盟相手であり同じ苦を分かち合う者であり友である。本人はやはり気付いてはいないが嫉妬でもある。
「そう冷たくしないでくれませんか? アサシン……仮にも貴女のマスターとして魔力を分け与えこの逆しまの城を造る為の資金や物を調達した彼を――」
そんな女帝に物を言う若い男性が荒耶宗蓮の後ろから現れた。
その姿を見てセミラミスは服装を無意識に整えてしまう。惚れた男に対する行動なのだがやはり気付いてはいない。
「盟友よ――首尾はどうだ?」
「ボチボチですかね。まぁ当分、私も貴方にもアサシンにも隠れて貰いますが……」
「天草四郎時貞よ。貴様はこのような美女をおいて話すのはこのような男なのか? んん
? 妾をこのような水の底に沈めておいて退屈しのぎの相手もせぬつもりか?」
不機嫌そうに謎の男に話し掛ける。第三次聖杯戦争において受肉したサーヴァントだった男――――天草四郎時貞。
この男は明確な目的を持ってこの戦いに暗躍していた。
「申し訳ない。女帝よ。どうやら少し緊張しているようです」
「ほう? 人類を救済する男が随分、弱気ではないか」
そう言われた男は照れるように頬をかき言う。
「いえね。何せギルガメッシュにエルキドゥにカルナにアルジュナにアキレウスにオジマンディアス、アーサー王にアルテラ、玉藻の前にパラケルススに李書文、挙げ句にヘラクレスにベオウルフ……そしてルーラーにジャンヌ・ダルクまでいるものですから」
「――は?」
女帝は恥を棄て呆然とする。なんだその面子? 世界を滅ぼすのか? てか玉藻の前って神じゃねーか? ヘラクレスもカルナも呼べんの? え? みたいな心境なのだろう。
何せ天草四郎時貞も見たときに呆れた物だ。我が世界を救済する願いを叶える前にとんでもない戦いになったものだと。
世界で最強レベルの英雄が一つの町によってたかって滞在しているのだ。
それを聞いた荒耶宗蓮は黙りそして言葉を放つ。
「盟友よ。しなくてはならない事などとうに決まっている。我等には時間がない。我々は人類の為に根源に至らなくてはならないのだ」
「その通りだ。荒耶宗蓮……人の死を見てきた男よ。我々は天の杯を手に入れ無辜の民に奇跡を与え人類の悲劇の軌跡を払拭する」
「そう。人は死から脱却する。その為に私は全てを尽くす。これが最後のチャンスだ」
「だろうな。荒耶宗蓮のくだらん固有結界もどきを宝具レベルの物をここに最低限、使えるようにわざわざ計らい天草四郎時貞の願いも叶える事ができるサーヴァントなど妾しかおらぬよ――――」
「感謝している。女帝よ。貴様の
荒耶宗蓮は強く語りそして――
「――――救えぬ人間などいはしない」
――極東の聖人が奇跡を誓う。
「人では無くなる事を救いか――――ふはっ! その世界を統べる為に全てを尽くそうではないか――」
人類に対する歪な愛と信念と一人の男に尽くす女の戦いが今、始まる