Fate/zero ~英雄大戦~   作:赤石なちる

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11話『赤のキャスター ~エレメンタル~』

「ざまーみろ! 臓硯め! 桜ちゃんを苦しめた報いだ!」

 

 聖杯大戦において御三家と呼ばれる家の一つ――間桐家。

 

 そんな誇り高き間桐家において延々と頂点に立ち続けた間桐臓硯は今、全てを奪われ小さな魔術でできた檻に閉じ込められ屈辱に小さな虫の体を震わせていた。

 

『雁夜ぁぁぁぁあ! 貴様、貴様ぁ!! 覚えておれよ! 貴様など恐れるに足らぬと言うのに!! キャスターさえいなければ! 貴様など食い殺してくれるわ!!!』

 

 彼は今や只の羽虫だった。間桐臓硯――――過去、聖杯戦争において世界を救済すべく人の身すら未来の為に捨てた憐れな魔術師は――堕落しきっていた。

 

 その身は腐りきり心もまた腐り落ちた。世界を救う願いを忘れ己の身を永らえさせる事に執着する蟲の化物。

 

 それは小さな少女を己が私欲の為に蟲に陵辱させ汚し笑う外道に落ちた。

 

 遠坂桜――――いや間桐桜か……。その少女は心を壊す事で己を守る憐れな少女。

 

 それを救う為に間桐雁夜は己が逃げた道を舞い戻り桜を救うために寿命を一年に迄、縮めてまででも助ける為に聖杯大戦に参加した。

 

 そしてキャスターを召喚したのだ。たまたまだったが……臓硯にバーサーカーを召喚しろと言われたが何せ臓硯は真の外道だ。それに例えメリットがあろうともデメリットがあるバーサーカーなど呼んだところで雁夜の体が耐えられるとは思えない。

 

 雁夜は素人考えで的確な判断をくだしたのだ。実力もなく魔力すら己の身を蟲に喰わせて産み出す拙い物だ。

 

 ステータスを挙げ狂気に身を委ねさせた所で自滅するだけ……。

 ならばアサシンでも呼べたら良いと踏んだのだ。

 

 遠坂邸に忍び込み時臣を捕まるのすら簡単だろう。

 

 遠坂時臣――桜を魔術の為に地獄に沈めた外道。本人は幸せの為と思っているが。

 

 悪意が無いのが一番たちが悪い。これが親のすることか! と――その行いを後悔させるべくやはりマスター殺しの王道、アサシンを呼ぶべきだろう。

 

 そして雁夜は臓硯の意向を無視し間桐の倉の中にあった……素人の雁夜から見ても神秘を感じさせる――『錆びた短剣の柄』を使いサーヴァントを召喚したのだ。

 

 短剣だ。ならばアサシンの筈だと……。

 

 だが…………。

 

「私は赤のキャスター。――――パラケルスス。初めまして、マスター。友達になりましょう」

 

 出てきたのは穏和そうな美青年だった。だが間桐雁夜はその名に衝撃を受けていた。

 

 パラケルススとはあの賢者の石のパラケルススだろうかと?

 

 ――――そしてパラケルススはマスターたる雁夜の状態を見て即座に異常であるとふみ穏和にそれでいて悼むように話し掛ける。

 

「――――マスター。名を聞く前に聞かねばならない事があるようですね。貴方の状態を教えて貰えますか? あ、それと其処に隠れる蟲にも話を……」

 

『ぬぅ! サーヴァントごときがぁああ! パラケルススだと! バ、バカな! 何故、雁夜がぁ! 勝手なことを!』

 

「臓硯! お前! ああ! どうなったんだ!?」

 

「いえいえ。普通に魂ごと捕縛しただけですよ? あと隣の蟲が蠢く倉の中にいる子供の所にも行くとしましょうか――」

 

 劇的だった。キャスターたる魔術師――パラケルススから見て臓硯は興味深いとは言えるがとるにたる存在などではなく彼にとっては喋る只の蟲にほかならない。

 

 そこから彼は雁夜と桜から体の中にいた全ての蟲を取り除き間桐邸を厳重な神殿にし蟲を全て手中に収めた。

 

 雁夜から情報と雁夜自身の事の話を聞き臓硯と命を天秤にした情報収集を行った。

 

 雁夜は臓硯を殺す事をキャスターに進言したが聖杯大戦が終わるまで生かした方が勝率が上がると言い何時でも誰の手でも殺せるように閉じ込めた。

 

 そして雁夜を生かす為にそして戦うために魔術回路をできる限り整えた。

 

 そこから水の属性と吸収の性質のある蟲をスライムにしそして間桐邸にあった様々、触媒や金銭を使いゴーレムや竜牙兵や様々な道具を作り事に備えた。

 

 そして雁夜の寿命や体を比較的に良好な状態にした。

 彼は栄養を点滴で取り顔は半分、潰れたようになっていたが……ある程度、なりは人に見せれる程度に食事はお粥程度ならば取れるレベルまで回復させ……。

 

 桜は心もある程度持ち直した。桜に臓硯が何もできなくなったことを伝えたのだ。安心したらしく涙を流し三日間、眠りこけた。

 

 それを見て雁夜は安心したと同時に子供にこのような事をした時臣や臓硯に怒りを覚えキャスターにそれを語る。

 

 そしてキャスターは諭すように雁夜に魔術について話す。

 

「良いですか? 雁夜? 魔術は一子相伝なのです。確かに貴方の気持ちは解る。ですが相手の考えを受け入れなくとも理解はするべきです」

 

「でも! いったいどんな気持ちがあれば桜ちゃんをあんな目にあわせられるんだ! 桜ちゃんは時臣が余計な事さえしなかったら!」

 

「幸せだった……ですか?」

 

 キャスターは雁夜の瞳を見る。それに雁夜は心の全てを見透かされたような気がして一瞬、黙ってしまう。

 

 そして黙ったのを見たキャスターは雁夜を宥める。

 

「そうでしょう。桜ちゃんはきっと家族ともに幸せに暮らせたでしょう。当分は……」

 

「当分は?」

 

「ええ。ですが彼女の属性は虚数属性。故に彼女は悪霊や怪異などを引き寄せる。彼女は家族の元にいれば彼女の周りの人間は不幸になる。故に魔術の庇護かにいなければ彼女自身も不幸になる。彼女は恐らく父親の手に余る才能だったのです」

 

「そんな! そんな! なら! どうすれば良いんだ!? 桜ちゃんは葵さんや凛ちゃんの所に帰れないのか!?」

 

 雁夜は慟哭する。桜を母親の元に帰す。その為に戦うと決めたのに彼女の存在が葵さんと凛ちゃんを不幸にする等、認める訳にはいかなかった。

 

 実際の所、時臣がやった事は間桐家に養子に送った以外は正しかった。何せ魔術の庇護を受けなくては怪異に殺されるかホルマリン漬けにされるかのどちらかだったのだから。

 

 彼の間違いは間桐家の魔術の在り方を考えなかった事、そして何故、雁夜が家を出たのかを少しでも慮らなかったこと……そう思慮が浅かったことだけだ。

 

 本来、これが時臣が言ったならば怒るだけだったが自分や桜の命を助けたキャスターを信用していた。

 

 故に彼の言葉を信じていた。そして正しかった。

 

「手はありますよ。雁夜」

 

「え?」

 

 雁夜はキョトンとした顔をしてキャスターを見る。

 

「私に考えがあります。任せてください」

 

 優しげに雁夜に笑いかけるキャスターはどうしようもなく暖かった。

 

 ――――そしてベットの上で死んだ魚のような目をしてベットの天井を見上げる桜は視線を左に映す。

 

「誰?」

 

 そこには穏和そうな美青年がその瞳を優しげに向けていた。

 

 まぁ桜には只の青年だったが……。

 

 桜は彼が蟲倉に蟲を消し飛ばした青年だった事を思い出す。彼が優しげに傷だらけの体を癒したのを

 

『救われて良かった。命があって良かった』

 

 幸せそうに幸福そうに涙を流す雁夜にそれに負けない位、優しそうな青年。

 

「私は赤のキャスター――ヴァン・ホーエンハイム・パラケルススです。よろしく。桜さん?」

 

「――――ゔぁん? ほーえんはいむ?」

 

 子供には少し難しい名前かも知れない。キャスターは小首を傾げる桜を微笑ましげに見る。

 

「ふふ。言いづらいならキャスターで良いですよ?」

 

 心も体も壊されたがまだ何とかなるかもしれない。

 キャスターはそう思ったのだ。

 

 彼女は魔術の被害者だ。魔術とは外法だろう。だが外道であってはならない筈だ。

 

 故に――――

 

「貴女に聞きたいなとがあります。桜さん。辛いことがあったばかりで……心苦しいですが……聞いても良いですか?」

 

 そう彼は真摯な目で桜の瞳を見る。そして桜は……。

 

「…………はい」

 

「良い娘だ。……桜さん。いや間桐桜、私は魔術師です」

 

「!?」

 

 桜は少し身を捩らせる。彼女にとって魔術師とは怖い物だからだ。

 

「そう。恐ろしいでしょう。貴女の心と体をズタズタにした物だ。だからこそ私が問います」

 

「――」

 

 桜は少し怯えを含ませながら彼を見る。時分を助けた雁夜の横にいた自分を救った青年――キャスター。

 

「家族の所に帰りたいですか?」

 

「でも私は養――「家族の所に帰りたいですか?」――――捨てられたから」

 

 彼女は蚊の鳴くような声で……ボソッと呟いた。

 私は養子に出されたと……その言葉に被せるようにキャスターは彼女の奥底の本心を探る。

 

 そう彼女の心にあったのは父親に捨てられたという悲痛な悲しみだ。

 

「捨てられたのではありませんよ――これは悲しい行き違いなのです」

 

「?」

 

「貴女の父親は騙されたのです。貴女の父親は貴女が魔術師として幸せになると、あの老人に騙された。故に貴女はあのような目にあった。父親は貴女を愛していたのです」

 

「捨てられたんじゃないの?」

 

「ええ。貴女は捨てられたのでは無いのですよ。そして父親に怒ってもいい。怒鳴ってもいい。泣いてもいい。だって彼は貴女の気持ちを聞いてはいないのだから。ただ一つだけ……貴女にとっては理不尽ですが」

 

 その言葉に彼女はどう思ったのか……ただ色の無い瞳で涙を流す。

 

「貴女は魔術師としては天才なのです。故に貴女はここに養子に出された。貴女の才能を磨くために……ああ。父親の予想通りになりませんでしたが……故に貴女は帰れるでしょう。家に」

 

「帰れるの? お父さんとお母さんとお姉ちゃんの所へ?」

 

 桜はまるですがるようにキャスターの服の袖を掴む。

 そしてキャスターは悲しむように目を伏せながら彼女に悲しい真実を告げる。

 

「ええ。そしてまた養子に出されるでしょう。貴女の才能は恐らく、貴女のお父様には手が出せませんから」

 

 彼女は絶望したかのような顔をする。またこのような目に合うのかと父は母は姉は何もしてくれないのか? 守ってくれないのか? と……だがキャスターはそんな桜の気持ちを思い……そして覚悟を問うような顔をする。

 

「だから。私が貴女に正しい魔術を教えます。強くなりなさい。桜……自分の人生を決める為に……」

 

「魔術? 蟲の?」

 

 桜にとって魔術は蟲に体を巣くわせる物でしなかった。

 

「これを……触ってみてください」

 

 キャスターの人差し指に光が灯る。まるで蛍が止まったかのように……。それは美しい緑色だった。

 

 桜はおずおずと言われた通りに手を伸ばす。

 

「これは?」

 

 桜は熱の無い綺麗な光を掴む。暑くはなかった……だけど暖かった。

 

 キャスターは優しく微笑みかける。

 

「これが正しい魔術です。あれも魔術ですがあれは愚かな者がやる行いなのです。正しい魔術とは素敵ですよ? 私が教えましょう。貴女の未来を……家族の所に帰るために――貴女自身が強くなるために。そして貴女の悲しみや痛みが誰かの救いになるように」

 

 強く優しげに桜の光に手を伸ばす桜の手を反対の手で掴む。

 

 そして桜は……。

 

「そしたら帰れる?」

 

「ええ。帰れますよ。親は子供の人生を決める権利があります。ですが子供の気持ちを勝手に決める権利は無いのですから」

 

 その言葉に桜は少し救われたような気がした。

 未来はあった。彼女にもちゃんと未来が……。

 

「教えてください。キャスターさん。魔術を――――」

 

「ええ。任せてください。人に物を教えるのは得意なのです。まぁ先ずは雁夜の生きる時間を得るために聖杯をつかんできますので休みなさい」

 

「はい。頑張ってください。キャスターさん」

 

 そしてその言葉を嬉しげに受け止める桜と扉の向こうで涙を流しながら聞く雁夜がいた。

 

「ありがとう。ありがとう。キャスター。俺は……キャスターを呼んで良かった。俺、聖杯を掴むよ。任せてくれ桜ちゃん」

 

 だが雁夜も桜も気付かなかった。彼のたまに見せる氷のような不気味な冷たさを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このままでは勝てませんね……」

 

 雁夜と桜が寝静まった夜、神殿となった間桐邸の中、冷徹な瞳で使い魔から送られてきた映像と情報を見て考えを巡らせる。

 

 遠坂邸から出ていった赤のアーチャーが黒のランサーと戦っているスキに赤のアーチャーの令呪でも奪えたらと刺客を送ったが予想通り同盟を組んでおりアサシンがいた。

 

 凄まじい格闘能力を持っていたが物理だけとふみ対応させたがマスターが槍を取りだしアサシンに渡した途端、凄まじい勢いでスライムとゴーレムを砕き始めた。

 

 それを見てキャスターは彼が問答無用で敵を一撃で破壊する技を持つと看過する。

 

 何せ拳で流動体のスライムが再生すらできずに破壊されたのだから。

 

 だがアサシンはどうにかなりそうだ――とキャスターは安心する。

 

 と思っていたら唐突に普通の魔術師では作れないような使い魔の視線からアサシンが霊体化してもいないのに消えたのを目を向いて驚く。

 

 どうやら魔術ではあのアサシンを感知する事はできないようだ。

 

 成る程。今のままではアサシンにすら勝てないだろう。そしてアキレウスとカルナとアルジュナがいるとホテルに入る魔術師から情報を得た。

 

 そしてアキレウスを確認した。そしてそれに負けず劣らずのサーヴァント達を……。ギルガメッシュとエルキドゥまでいる。最早、自分でどうにかできると思えない。

 

 だが聖杯を根源に至る為に諦める訳にはいかないのだ。

 

「ん? これは――――成る程……ルーラーと言う奴でしょうか……ですが。人? と融合している?」

 

 使い魔からの画像に金髪を三つ編みにしたノースリーブの美女が何故か土下座する青年に困っている謎の映像が映っていた。

 

 映像の意味はわからないがキャスターはそれを冷たい瞳で笑っていた。まるで自嘲するように後悔するように。

 

「この戦い……上手くやれば私の勝利だ」

 

 キャスターの手には視界すら封じられた臓硯が入った魔術の檻と大量の令呪の資料だった。

 

 残念な事に聖杯大戦の仕組みの資料だけは何故か紛失していたが何とかなりそうだ。何せここには蟲の翁がいるのだから。

 

 ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。彼は偉大なる魔術師。

 

 魔術師とは根源に至る為に人の道を外れし者。

 

 即ち魔術師とは外道なのだ。

 

 これは聖杯大戦。賢者の戦いなり――――




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