そしてfateはまずアーチャーとランサーがスタートだ。
大好きだった父親と頼もしくて優しかった大好きな姉が死んで何年たっただろうか? 自分は数えていない。お墓に行く度胸すらない。
根暗で臆病で視野が狭くて見栄っ張りな私――――。
父親と姉が死んだ折に父親の知古の手によって移植された魔術刻印――優秀だった姉の代わりに継いだ家。
立派な父と父を超えた才能を持った姉――彼等は私を置いて事故で死んだ。
立派な魔術師だった父と姉は簡単に死んだ。呆気なかった。
そして姉と比べれば大きく魔術師として劣る自分は魔術を覚えれば覚えるほど差がわかって嫌になる。
やっぱり私は根暗だ。
死んだ姉の背中をいつまでも追い掛けて死んだ人にコンプレックスを抱いてる。
もう姉の背中なんて小さいしもう姉の二倍は生きてるのに…………。
私は未だに小さいままだ。
魔術師なのに未熟な私。
未だに魔術を使うための鳩の屠殺もできない。
そのせいで自分の住んでる洋館は鳩まみれ。
それを見る度に嫌になる。これじゃあ人としての道を外れ真理を研究する魔術師には到底なれない。
大好きなお父さんに顔向けできない。
やっぱりお姉ちゃんには敵わない。
だって……だって! だって!! 私は魔術師ですらないナイフを持った一般人に追い掛けられただけで魔術を使えばいいのに怖くなって逃げているだけなんだから…………。
「待っててば! お嬢ちゃん! 君には供物になってもらわないと困るって! 面白いこと思い付いたんだからさぁー! それが超COOLでさぁー!」
どうしてこうなったんだろう? 偶々、強烈な魔力を感じて町外れに好奇心で行ったら凄まじい戦いを見た。
緑色の髪をした顔は見えないが女性だろうか? その女性の足が土と一体化し土がまるで波のよう揺らめき槍や剣の形になり噴火のように空に飛び上がり――、
――そして黄金の船に乗った誰かが煌めきと黄金の波紋と共に空から幾つもの光を降り下ろす。
それは空中で凄まじい爆音と魔力の渦を生み出し神秘を撒き散らす。
自分には欠片も理解できない事だが……魔術関係の現象だろう。
ただ……その現象は生半可な魔術師ではおこせない神秘を感じる戦いと言うだけだ。
勿論、逃げた。とてもではないが自分に対応できるとは思えない。
それを少女――沙条綾香は臆病と恥を覚えつつも逃げる。
逃げる。逃げる。がむしゃらに走り続ける。
そして立ち止まる。息が切れたのもあったが……綾香は周りを見回す。
冬木市住みだがここら辺は来たことが無い。壁の落書きやハエが集るゴミの山を見てここは何処かの裏路地なんだと察する。
体なら吹き出る汗とゴミの山から出る臭いに顔をしかめながら裏路地から出ようとした。
「あれ~? 君どうしたの? こんな時間に~? ダメじゃん。女の子なんだからささー」
その時だ。通路の端から紫色の服を着た二十歳くらいの男性がテンション高く話し掛けてきたのだ。
その男性は気さくそうに話し掛けそして懐からナイフを取り出した。
「怖~い人に連れてかれちゃうよ~! でもそれって超COOLだよね!!!」
あ……。と思った時には襲いかかられまた逃げる事になった。
あの男はどうやら巷を賑わす連続猟奇殺人事件の犯人のようだ。
さっきから言葉も返していないのに一人で人がいないからか一人で喋り続けている。
そこから正体を見破った。何せ自分で人を殺した近況を語っていた。
その行いをみて綾香は相手はそもそも自分の話を聞く気もなければ相手に理解も求めていないと理解する。
たとえ理解を求めていても録な事は言わないだろう。
あの男は恐らく魔術師ですら理解できない精神をしているに違いない。
綾香はあれが本当の異常者であると本能で察知していた。
あの濁りきった瞳に喜悦を映した狂気。とてもでは無いが常識の範疇にはいないだろう。
綾香は足が何度も縺れそうになるのを堪えながら走り続ける。
だがそもそも警察から何度も逃げ仰せ人を殺し続けている成人男性の殺人鬼と魔術師とはいえただの少女である綾香が普通に追い掛けっこをしたところで逃げ続けられる訳もない。
そして綾香が今いる場所は彼女が良く知らない道だ、だがあの猟奇殺人鬼――雨生龍之介にとって裏路地こそがホームグラウンドだ。
先回りなど容易い事だ。
「捕まえーた!! ははっ! 可愛い手だね~!!」
左から手を強く捕まれ痛みで立ち止まる。そして掴んだ男に嫌悪感と恐怖を覚えて振り払おうとするが力が強く振り払えない。
そしてナイフはしまったらしい右手からスタンガンを見つけ――バチッという音と一瞬の鋭い痛みと共に意識が遠退くを感じた。
綾香が最後に見たのは目の前の男の三日月のような笑う唇だった。
――閉じろ《|みたせ》? 閉じ? ろ?
――――5度? に時をなんだぁ?
「――――え?」
と綾香は声を出そうとして自分の状況を思い返し更に口を塞がれてるのを知覚して辺りを見回す。
綾香の視界にはただの一般家庭のリビングしかないが……カーテンは締め切られあるのはテレビの音と何か水が滴るような音と男の呟く声だけだ。
なんだ? 何をしているんだ? と綾香は体を動かす。
そして自分の後ろに自分を捕まえた男がバケツに脚を突っ込みそれを地面に塗っているのが見えた。
そしてその横に小さな子供が縛られているのを見つけた。
その子供は男の子で怖いんだろう。震えている。
当然だろう。綾香からは良く見えないがバケツの中にあるのはその男の子の親を殺して抜いた血なのだ。
男の子はいきなり捕まり、その捕まえた男――雨生龍之介は男の子の両親を殺し屋から見ても見事な手際で殺し喉に穴を開けそこから両親の血をバケツ一杯に抜き取り男の子を供物に家の倉にあった悪魔を召喚する呪文を唱えていた。
だがなかなか上手くいかずそしてその本を読んで考えたのは供物を増やす事と触媒に神社にあった呪いを封印したとされる石とやらを使い召喚する事だった。
そして神社にいき危険をおかしてまで石を盗みそして触媒と共に新しい供物として綾香は連れてこられたのだった。
「あれ? お嬢ちゃん? 起きたんだ? ははっ! 見ててよ。今から悪魔を召喚するんだ~超COOLじゃねぇ!?」
悪魔召喚? この男も魔術師なのだろうか?
一瞬、考えてしまうが違うと解る。魔術師が儀式を行うにはこの家は適しているとは綾香にはとても思えなかった。
これで降霊や召喚が行えるとは思えない。
何より、人の血を媒介に魔術を行うのは正しい選択の一つだとは思えるがそれを一般家庭のリビングで行う必要など何処にもない。
綾香は縛られた両手を動かしながら更に辺りを見回し喉が干上がり体が震える感覚を覚えながら戦慄した。
自分の真横にソファーに座る男女の喉元に良くみるとホースが突き刺さりそこから血が垂れ流されているからだ。
二人とも死んでいる。苦悶の表情を浮かべて………………。
「っあ……………んっ!!!!」
嫌だ……!! 嫌だ……!! 嫌だ……!!
恐い……!!!!
体が竦む。息が粗い。頭がチカチカして脚が震えている。
「よぅし! できた!! 会心のできだ! COOL!! COOL!!! さぁてここに呪いの石とやらをおいてっと! 後はボウヤとお嬢ちゃんを供物に……ってあーボウヤ! どこいくの!!」
男の子がジタバタともがいて暴れている。そのお陰だろう。縛られた縄がほどけたようだ。少年は泣き叫ぶ声を上げながら玄関に出ようとする。
綾香の事など目もくれない。あるのは子供ながらに感じる自分の終わりの光景――――ただそれだけだった。当然だろう。
子供にこんな状況を勇気と知恵があろうともどうにかできるわけない。
逃げようと脚が動くだけでも勇気があると行ってもいい。
普通の子供なら縄がほどけようとも動くことすらできないだろう。
だが所詮、只の子供だった。警察から延々と人を殺しながら逃げ続ける男から運が良くとも逃げられない。玄関まで行き着いた。
………………だが
「~~~~~~~~~~~ッ!!!」
ガタッ! ゴトッ! と靴棚がたおれる音と誰かのくぐもった悲鳴が聞こえる。
そして…………何かを叩き付ける様な音が何度も何度も響く。
「あ~あ、ったく。つい殺しちゃった。悪魔おこるかな~~いや、待てよ? 悪魔は死体でもいいのかな? だって人を悪魔は食べるだろうし…………そうだ!! このボウヤは晩ご飯に出してあげよう!! いいと思わない? お嬢さん!?」
「~~~~っ!」
綾香は涙を流していた。まるでぬいぐるみを抱えるように赤い何かを抱えて笑う男……。
わかっている。あれは………あれは…………。
さっきの男の子だ。
抱えてて笑顔で近づいてくる。
(来ないで…………!!!)
血塗れの格好で…………
(来ないで…………!!!)
次は自分なんだ……と語りかけるように。
(助けて!!! お父さん!!)
ただ運命は数奇だった。何かが彼女を生かすかの様に奇跡が起きる。
彼女の手の甲に宿ったそれはまるで彼女を守るかの様に光を放つ。
「な、なんだ!? 悪魔がやっときたのか!?」
男の驚愕の声と綾香の目の前で迸る魔方陣からの光…………。
「マスターのピンチに呼ばれて飛び出て女性でもイケイケな良妻サーヴァント玉藻ちゃん登場!! そして! バリバリ呪うぞ♥」
「グゲッ! あえ? あ、俺、死ぬのか? これが俺が見たかった知りたかった事か? 最高にCOOLじゃん…………」
綾香は目を見開いていた。魔方陣から変な女性が出てきたのもあったが…………狐のような耳に桃色の髪。そして何故か持っている稲穂。そして平安時代でお姫様が着ているような綺麗な羽織をだらしなく着崩しそして三つの尻尾。
何が何だか解らない。あの男は少年を抱えたまま笑顔で倒れている。
死んだのだろう。あの目の前の女性が自分の命を守る為に…………。
綾香は意識が遠退くを感じた。体から何かが抜け出るような感覚。
それが魔力消費によるものだと気付いた時にはもう眠りに落ちていた。
女性のふざけた様な真面目な様な声を子守唄にしながら…………。
「あら? マスター? 気絶ですか? 良いですよ。しっかり休んでくださいましね。後始末はこの良妻がしておきますから♥」
こうして運命の夜が始まった――――。