野獣先輩 精霊説   作:ほろろぎ

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MTISKTN「精霊は世界を殺す。されど、精霊は人と分かり合える。共に、戦える」


5話 野獣、吼える

 最新鋭の非難設備を誇る天宮市にあって、その銭湯は異様に古びていた。

 まるで建物だけを5、60年前の年代から引っ張り出して、現在の時間にそのまま置き去りにしたような有様だ。

 士道と野獣がどういった事があってこの銭湯を選んだのかは、さしたる理由は無い。

 ただ単に着いた先にあったというだけの事だ。

 

「おっ開いてんじゃ~ん!」

 

 今にも潰れそうな錆びれた外観に士道は別の場所を探そうと言ったが、野獣はむしろ古風な外観が気に入ったとそこに決めてしまっていた。

 

「お金タダでいいから」

 

 店番をしていた人物は今日で銭湯が閉店となるため、最後の客である2人への親切でサービスしてくれた。

 服を脱ぎ中に入ると、それなりの広さを持つ浴室には2人の他に人はいなかった。貸切状態である。

 

「いいカラダしてんねぇ!」

 

「野獣さんもな。なんかやってたの? スポーツ……すごいガッチリしてるよね」

 

「特にはやってないんすけど、トゥレーニングはし、やってました」

 

 お互いの肉体を褒め合うと、野獣は汗で脂ぎった肌でドヤ顔を決めた。

 そして、まずは汗を流して体を綺麗にしようと士道は石鹸を手にする。

 

「俺が洗ってやるゾ」

 

 野獣が、士道が手にした石鹸を横から奪い取った。

 

「えっ、それは……」

 

「大丈夫だって安心しろよ~。ヘーキヘーキ。」

 

「あっ、ふーん」

 

 ねめつける様な野獣の視線と、軽い口ぶりながら断固として引こうとしない強い意志を感じる口調に何かを察した士道は早々に諦めて、クソデカ溜息を吐くと野獣に背中を向けた。

 石鹸を泡立てたタオルで、強すぎず弱すぎず絶妙な力加減で士道の背中をこする。

 

「前は自分でやりますからね」

 

「だから安心しろっつってんじゃねえかよ。俺だって無理やりはもうしないって、反省してるんだから……」

 

 呟くような野獣の声にふと、深い後悔をにじませる暗い色が混じったが、背中を向けている士道にはそれが伝わっていない事を野獣は安堵した。

 自身の過去を知られたら、いくら友好的な士道といえど嫌悪感を催すだろう。

 士道だけではない、十香や四糸乃にも、誰にも伝える訳にはいかない、一時の気の迷いといえど自らが犯してしまった過ちを、野獣は一人背負い続けなければならないのだ。

 

「白菜かけますね」

 

 背中についていた泡を桶に溜めた湯で一気に洗い流すと、野獣が先に湯につかり、シャンプーまで終えた士道が後から湯に入った。

 2人は他愛もない会話をポツポツと続けながら30分ばかり風呂につかり、上がってからコーヒー牛乳を飲み終えると、店主に挨拶して銭湯を後にした。

 

「お~いい格好だぜぇ!」

 

 風呂上りのまだ濡れた髪の士道を見て野獣は言った。

 水も滴るいい女ではないが、野獣には湯上りの士道の姿が色気を感じさせたのだ。

 

「ありがとナス」

 

 苦笑する士道。今の野獣からは変な視線は感じないので単純に褒めただけだろう。悪い気はしなかった。

 フイに顔に冷たい物が当たる。髪から滴るしずくではない。

 空を見上げると、そこははもう夏空ではなかった。辺り一面黒雲に覆われている。

 

「もーなんかソフトクリームみてぇじゃぁん」

 

 雨雲を見上げていた野獣が無邪気に言う。

 一滴二滴と空から降るしずくはたちどころに量を増し、街を歩いていた人達は慌てて屋根の下へと避難し始めた。

 士道たちも急いで手近にあったゲームセンターへと難を逃れる。

 その時であった。

 慌てていたため足元を見てなかったせいで、士道はゲーム筐体の配線コードに足を引っかけてしまった。

 そのままつんのめって床に向かって倒れ込む所を、すぐ前を走っていた野獣が振り向き様に受け止める。

 しかし走っていたため勢いがついたおかげで、野獣も巻き込んで士道は盛大に転倒してしまった。

 手をついて体を支える間もなく顔面から突っ伏したというのに、不思議と痛みは無い

 士道が閉じていた瞳を開けると、すぐ目の前に野獣の顔があった。

 顔がデカすぎる。否、それは距離が近すぎるせいだった。

 士道と野獣は唇を起点に接触していた。つまり、キスしちゃっていた。

 劇的な瞬間を見とけよ見とけよ~、とでも言わんばかりにその光景はフラクシナスの大画面のスクリーンに映し出されている。

 

「ンアッー!」

 

 愛する兄の凄惨な姿を見た琴理は獣の様な雄たけびをあげ白目をむいた。

 この瞬間が来るのは覚悟していたが、あまりにも唐突であったため心の準備が出来ていなかった。

 

「ビーストと士道くんのキスを確認! 霊波測定開始します!」

 

 そんな琴理の衝撃などどこ吹く風か、クルーの誰かがそう叫んだ。

 真っ白に燃え尽きた琴理はただ椅子にうなだれたまま座り込んでいる。

 なんにせよ、これで終わったのだ……。

 

「し、指令ッ!!」

 

 ふいに、まるで怒っているかのような焦ったクルーの声が響いた。

 

「何よ、いったいどうした……」

 

 顔を上げた琴理は事態が呑み込めず息を呑んだ。

 正面のスクリーンには、野獣が士道の首を両手でつかみ、その体を宙に持ち上げている姿が映されている。

 

「これは……どうなってるの!?」

 

「ビーストの霊波がマイナス値を示しています!」

 

「そんな!?」

 

 直前まで観測されていた野獣の士道に対する好感度メーターは、キスによる霊力封印を可能にするのに十分な値を示していた。

 それがキスを切っ掛けに、一気にマイナスにまで下降してしまったのだ。

 それによって引き起こされるのは反転という現象。

 まるで多重人格の様に精霊の凶暴な面が表に現れる状態であり、非常に不味い兆候だ。

 

「や、野獣さ……ん……!」

 

 のど元を締め上げられた士道が苦しげに野獣の名を呼びかける。

 

「荒れてるんだよ」

 

 野獣はつぶやくように言った。

 

「俺の心が、荒れてんだよなぁお前のせいでよお、なぁ!」

 

 今までの様なおちゃらけた態度とは一変し、これまでに見せた事の無い怒りの形相で叫ぶ。

 その理由を士道は知っている。先ほどのキスを通して、野獣の過去の記憶が頭の中に流れ込んできたのだ。

 野獣はかつて一人の男を愛し、愛ゆえの暴走から男の意志を無視して手を出し、強硬的な手段をもって自らの物にしようとしたのだ。

 結果、男と野獣の間には修復不能な亀裂が入り、男は野獣の前から去って行った。

 独り残された野獣に唯一残されたのが、男とのキスの思い出であった。

 そのただ一つの宝物が、事故とはいえ士道のせいで塗り替えられてしまった。

 

「じゃあ、死のうか」

 

 凶悪な犯罪者のように暗黒的微笑を浮かべる野獣。

 暴走した精神は歯止めがきかず、士道の命を奪わんとその手に力を込める。

 その時、物陰から二つの影が飛び出した。

 

「フ・ザ・ケ・ン・ナ! ヤ・メ・ロ・バ・カ!」

 

 叫びと共に、影の一つである十香が背後から野獣を羽交い絞めにした。

 野獣の腰にも四糸乃がすがりつくようにしてしがみついてる。

 

「流行らせコラ! ドロヘドロ!」

 

 野獣は2人を振りほどくと、勢いで士道の体も手放した。

 

『士道くん大丈夫か?』

 

 床に投げ出され咳き込む士道に十香と四糸乃が駆け寄り、人間の鑑のようなよしのんが声をかける。

 

「だ、大丈夫だ……。それより、お前ら何でここに……?」

 

「シドーの事が心配だったので、こっそりあとをつけていたのだ」

 

 十香の言葉を肯定するように、四糸乃がコクコクとうなづいた。

 

「ヤジウ、シドーに何てことを…… さっきまであんなに楽しそうだったのに、急にどうしたというのだ!?」

 

「いつもこうだよ」

 

 やにわに立ち上がった十香が憤怒の表情で野獣に詰問するが、当の野獣はそれを涼しい顔で受け流す。

 

「なんだその偉そうな……すわわっ!」

 

 十香は怒りのあまり野獣に掴みかかろうとするが、それを士道が制止した。

 

「よすんだ十香! 悪いのは俺の方なんだ」

 

 士道は立ち上がると、野獣に対して頭を下げる。

 

「申しわけナス!」

 

「申しわけは聞き飽きたわ! それしか言えんのかこのサルゥ!」

 

 士道の謝罪を野獣はとりあおうとはしない。

 

「笑顔だけかお前はぁ!? もう許さねぇからなぁ?」

 

 野獣が士道に向けて一歩踏み出す。

 

「けしからん 私が喝を 入れてやる」

 

 これ以上士道に危害は加えさせまいと、その前に十香が立ちはだかった。

 両者の間にピリピリとした空気が流れる。

 やべえよやべえよ。士道は2人を止めようと考えるが、一高校生の体力しか持ち合わせていない彼では、どうあがいても精霊二体の戦闘に介入する事は不可能である。

 

「け、喧嘩はダメ……です……!」

 

 一触即発のその時、2人の間に四糸乃が割って入った。

 

「2人とも、おち、落ち着いて……ください」

 

『あ゛~や゛め゛な゛さ゛い゛』

 

 今にも零れ落ちそうな涙を必死にせき止めながら四糸乃とよしのんが言う。

 少女の健気な姿を見て、怒り心頭だった野獣も冷静さを取り戻した。

 

「俺もそんなにさぁ……殺すほどの悪魔じゃねぇんだよ」

 

 ボリボリと頭をかきながら、野獣は困ったような表情を浮かべる。

 

「それじゃあ勘弁していただけるんですか?」

 

「何勘弁するぅ~? 勘弁はしたことねぇなぁ~?」

 

 頭が冷えたとはいえ、チンピラのような声色で話す野獣はまだ士道との一件を根に持っているようだ。

 そう簡単に許してもらえるわけがな~い!

 その時、困り果てた士道の姿を見かねたよしのんが投げやりな感じで呟いた。

 

『あのさぁ……もう喧嘩はいいから、ゲームやってもらってさ、終わりで良いんじゃない?』

 

 今4人がいるのはゲームセンター。どうやらこ↑こ↓のゲームで勝負して、遺恨を流そうと言っているようだ。

 

「ああ、いいっすねえ~」

 

 無理無理無理無理、ダメ絶対、と最初からあきらめていた士道だが、野獣は以外にもあっさりとこの提案を飲み込んだ。

 

「そんなことでいいんですか?」

 

 士道も驚いて問い返す。

 

「そん変わり負けたらあとでお前らに罰を与えっからなぁ、わかったかぁ」

 

 野獣はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「お前には、正義の鉄槌でその腐った心を矯正してやる……こっちへ来い!」

 

 十香もノリノリだ。先陣を切ってゲーム筐体の前に歩いていく。

 

「何をしているのだ、皆も早くクォーイ!」

 

 野獣たちもゾロゾロと十香の下へ集まる。

 

「このゲェムで勝負をつけるぞ!」

 

 腕組みをし、フンスと鼻息を荒くした仁王立ちの十香の隣にある筐体にはゲームのタイトル画面が表示されており、そこには『迫真空手部 正義の裏技』という文字が大きく光っていた。

 最近流行っている対戦型の格闘ゲームで、通常は1vs1で行われる戦闘を最大で4人が同時に対戦できるという代物だ。

 

「十香、お前格ゲーなんてあんまりやったことないだろ。大丈夫なのか?」

 

 士道が耳打ちする。

 

「大丈夫だって安心しろよ~。きなこパンを取る事ができた私とシドーのコンビネェションがあればヘーキヘーキ」

 

 以前、十香が士道と初めてデートをした日、2人はクレーンゲームで協力してヌイグルミを取った事があった。

 それと今回のゲームに関連性は全くないのだが、なぜか十香はその時の経験から強気の姿勢である。

 四糸乃に関しては日中ドラマを見る以外にも、独りでゲームをして暇つぶしをしていた事もあったようでそれなりに自信がある様子だ。

 

「準備はいいみたいだな。それじゃ、ほらいくど~」

 

 野獣の声を合図にゲームは始まった。

 対角線上に配置されていたそれぞれのプレイキャラクターであったが、試合開始と共に野獣のキャラが士道のキャラの下へと一直線に向かって行った。加速コマンドを使った早業である。

 

「ホラ手ェ!」

 

 野獣が吼えた。画面上では野獣のキャラが、拳の連打を士道のキャラへとはなっている。

 

「ホラ、足ィ!」

 

 次は蹴りだ。見る見るうちに士道のライフゲージが減少していく。

 

「ハイ、足、手! ホラ!」

 

 流れるような野獣の猛攻に対し士道は反撃することも防御することもできず、あっという間にゲームオーバーで敗退してしまった。

 

「うっそだろお前! 笑っちゃうぜ」

 

「あ、あ、はい」

 

 野獣は余りの手応えの無さに、士道も自分の情けなさに素に戻った。

 3vs1という圧倒的戦力差を開幕早々くつがえした野獣。どうやら格闘ゲームはかなりやり込んでいたことがうかがえる。

 

「おのれ、シドーの仇だ! いくぞ四糸乃!」

 

「は、はい……!」

 

 十香と四糸乃が野獣に向けてキャラクターを走らせる。

 挟み込んで挟撃するつもりのようだが、それをわかっていながら野獣は棒立ちのまま静観していた。

 

「おう打ってこい打ってこい」

 

 そう野獣が発した時、十香たちのキャラが野獣への攻撃範囲内に入った。

 両者は共に必殺技のコマンドを入力する。

 攻撃が放たれた瞬間、野獣は自らのキャラをジャンプさせ2人の放った技を回避した。

 そのまま十香と四糸乃は、お互いの技をお互いがくらう羽目になった。

 このゲームは協力対戦ではないため、全てのキャラクターが均等にダメージを受ける仕様となっているせいだ。

 強い攻撃によるダメージによって動きが固まった瞬間を見逃さず、野獣は両者に連続攻撃を見舞う。

 

「くぅッ……!」

 

 ダメージから復帰した十香と四糸乃は何とか野獣と距離を開ける。

 

「こんなんじゃ勝負になんないよ~」

 

 野獣は2人を挑発するように棒読みで言った。

 

「四糸乃、もう一度やるぞ!」

 

「わ、わかりました……!」

 

 2人は再び同時攻撃を試みる。

 

「次は上かなぁ」

 

 野獣が洩らす。

 

「……と見せかけて~……下だな!」

 

 野獣は今度はしゃがんで2人の攻撃を回避する。

 

「最後の一発くれてやるよオラ!」

 

 十香たちはふたたび互いの攻撃がヒットするが、今度は動きが固まるまではいかなかった。

 追撃を加えようとする野獣から逃れようと、慌てて回避行動を取ろうとする。

 その時士道が叫んだ。

 

「よけるな! 近づいて攻撃しろ!」

 

 咄嗟に反応した四糸乃が、士道の言葉通り野獣のキャラに近づき攻撃コマンドを入力した。

 すると接近状態で発動する特殊技によって、四糸乃が野獣のキャラを掴み、十香のキャラクターの方へと投げ飛ばした。これには野獣も虚を突かれる。

 

「十香! 今だ!!」

 

「かしこまりっ!」

 

 地面に完全に落下してしまう前の滞空状態を狙って、十香がパンチキックの連続攻撃を見舞う。

 落ちるたびに上空へ打ち上げられる野獣のキャラは、回避する事もままならずライフゲージを減らしていく。

 なすがままの野獣であったがそこは熟練者の実力か、どうにか攻撃の隙をぬい二弾ジャンプで十香の元から飛び去っていった。

 しまった、と十香が叫ぶ。

 

「まだだ!」

 

 士道も叫んだ。

 

「お前たちのキャラクターはすでにライフが残りわずかだ。だが、だからこそ最強の超必殺技が使える状態になっている。野獣さんはまだ落下途中だ。着地する前に攻撃を決めれば勝てる!」

 

 勝利を信じ諦めていない士道の声色が、十香と四糸乃と、3人の心をより強く結びつける。

 

「「「3人に勝てるわけないだろ!!」」」

 

「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!」

 

 十香と四糸乃の2人が放った超必殺技が真っ直ぐに野獣の下へと向っていく。

 未だ空に浮いている野獣は防御する事は出来ない。

 苦し紛れに2人に向けて放った必殺コマンドも、ライフゲージにまだ余裕のあるため通常の物であり力が足りなかった。

 2体ぶんの超必殺技に押され、ついに野獣のキャラクターがダウンした。画面上には敗北の2文字が浮かび上がる。

 

「やったぜ。」

 

 迫真の決闘の末、十香と四糸乃、そして士道の勝利がここに決定した。

 3人は手をとりあい喜びを共有する。

 野獣はしばし『Your lose』の文字が光る画面を見つめ、ひとつ溜め息を漏らして士道たちの前に立った。

 

「やりますねぇ! ハァ~……これって……勲章ですよ」

 

 小さな拍手と共に3人に賞賛を送る。

 

「野獣さん、俺」

 

 士道の言葉を野獣は手をかざし止めた。

 

「いいんだよ。もう終わったことだ」

 

 そう言うと両手をポケットに突っ込み、天井の向こうにある空を見上げる。

 野獣の瞳は何かを諦めたような哀しげなものだった。

 

「俺もさ、もうちょっと上手くやってれば、お前らみたいな関係を築けたかもしれなかったんだよなぁ……」

 

 過ぎ去りし遠い夏の日の思い出がよぎる。楽しかったと同時に苦々しい記憶が。いつまでも大切にとっておきたいと同時に忘れ去ってしまいたい記憶だ。

 

「今からでも遅くないですよ」

 

 士道が励ますように言う。野獣はゆっくりと顔を左右に振った。時はやり直せない。

 

「俺がここにいるのも、なんかの間違いかもしれねえなぁ」

 

 それは自分で自分に罰を与えるような言い方だった。

 士道は、そんな風に全てを諦めきってしまったような野獣の姿に我慢ならなかった。

 しかし記憶を共有した士道だからこそ、今の野獣を立ち直らせるような劇的な言葉を紡げないでもいる。

 救いの手を拒み、むしろ救われない事を望んでいる節がある野獣の態度に、十香と四糸乃もかける言葉が無かった。

 水底の泥のような重い沈黙が流れる。

 ふと士道は気付いた。静かすぎる。ゲームセンターだというのに周囲には人々のざわめきが聞こえないのだ。辺りを見回しても人っ子一人存在しない。士道たち4人だけがポツンと空間に取り残されていた。

 いきなり視界が暗闇に閉ざされた。センター内の電気が全て消えたためだ。

 

「停電か……?」

 

 士道が呟いた。瞬間、野獣たち精霊にただならぬ悪寒が走る。

 野獣が何事か叫ぼうとした時、それを遮るように一瞬の閃光が店内を強烈に照らした。

 直後、彼らがいたゲームセンターは大爆発を起こし、跡形も無く吹き飛んだのだった。




次回 『田所ドリーム』
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