マルガレーテ《完結》   作:日々あとむ

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■今までのあらすじ

モモンガさん、アインズ・ウール・ゴウン卒業。
 


Epilogue

 

 

 ――気配を感じて、ツアーは目を覚ました。

 

「やあ、リグリット。それにインベルン――そして、初対面の君」

 

 いつものように、こっそりと近寄ってきたリグリットと、そして珍しく自分を訪ねてきた吸血鬼の少女に――ツアーの知らない、仮面をした魔法詠唱者(マジック・キャスター)

 

「…………?」

 

 その仮面に、違和感を覚える。どこかで見た事があるような気がしたのだ。少し考えて――

 

(ああ……思い出した)

 

 泣いているような、笑っているような、怒っているような――そんな不思議な仮面。確か、プレイヤー達が持っていた仮面だ。仲の良かったプレイヤーから見せてもらった覚えがある。

 

(……ぷれいやー)

 

 つまり、この見知らぬ魔法詠唱者(マジック・キャスター)はプレイヤーなのだろう。そこまで考えて、もしかしたらこのプレイヤーはツアーが知っているプレイヤーなのかもと思い至った。何せ、キーノと一緒にいるのだし。

 

「……もしかして、インベルンと一緒にいた、トブの大森林で会った人かな? ぷれいやーの」

 

「……知っていたのか? 俺がプレイヤーだと」

 

 驚いたように口を開く男の声に、やはりツアーは聞き覚えがあった。間違いなく、あのトブの大森林で出会った漆黒の戦士――アインズだ。

 

「うん。だって、君――ケイ・セケ・コゥクの正確な発音を知っていたし」

 

「…………え?」

 

 アインズの驚いた様子に、ツアーは思わず苦笑した。

 

「気づいてなかったのかい? 君、結構抜けてるね」

 

「……これから、気をつけるとしよう」

 

 眉間らしき部分に手をやったアインズを眺める。そして視線を外し、リグリットとキーノを見た。

 

「それで、何か用かな? もしかして、彼の紹介かい?」

 

「そうじゃよ、ツアー。わしもインベルンの嬢ちゃんから連絡があった時は、驚いたがの」

 

 カカカ、と笑う老婆にキーノはジト目を作って見つめる。

 

「な、なんだリグリット……というか、なんでついてくるんだ! 私は、“蒼の薔薇”を抜けるのに、さすがにお前に内緒にするのはまずいと思って声をかけただけなのに……ツアーのところまでついて来て!」

 

「だってこんな面白そうなこと、放っておけるわけがないんじゃもの。“蒼の薔薇”を男と一緒に抜けるとあれば、そりゃ気になるわ」

 

「“蒼の薔薇”?」

 

 ツアーが疑問符を漏らすと、リグリットが教えてくれる。

 

「なんじゃ、わしが冒険者をやっているという噂は届いてなかったか? その冒険者チームじゃよ。王国――おっと、今は帝国じゃったな。そのアダマンタイト級冒険者チームじゃ」

 

「ふうん。……あれ? リグリット、その様子では君は冒険者をやめていたのかい?」

 

「そうじゃよ。インベルンの嬢ちゃんに後釜を任せて、引退したんじゃ」

 

「……インベルン。君、よく了承したね」

 

 彼女の性格なら、むしろ嫌がりそうなものだと思ったが。

 

 キーノはツアーの問いに、口篭もりながら答える。

 

「だって……自分が勝ったら冒険者チームに入れって、リグリットが。……それに、かつての仲間と本気で殺し合うわけにもいかないし……」

 

「ああ……チョ」

 

「チョロくない!」

 

 ツアーが呟こうとした言葉を遮り、キーノが叫ぶ。それに三者で笑っていると、アインズが声をかけた。

 

「あー……お邪魔なら後で用件を済ますが」

 

「ああ、ごめんよ。……何か用があったんだね。身内だけで盛り上がって悪かったよ。それで何のよ……う……」

 

 ツアーはアインズに視線をやろうとして、途中で言葉が切れる。仰天した。リグリットの手に、ツアーが渡したはずの指輪が無い。

 

「ちょ……リグリット! 君にあげた指輪はどうしたんだい!?」

 

「あー……アレか。若いのにやったよ」

 

「えー……」

 

 あの指輪は大切な指輪なのだ。あまり他人の手に渡って欲しくない。特に漆黒聖典などには。

 それに、ツアーはリグリットを見て気づいた。彼女も気まずそうな顔をしている。という事は――あまりよくない事態になっているのではないだろうか。

 

「リグリット……指輪は今どうなっているんだい?」

 

「あー……実はの。指輪をやった若いのは死んで、今は帝国にあるんじゃ」

 

「……帝国かぁ」

 

 法国よりはマシだが、それでも国に管理されていると思えば少し厄介な気がする。何せあの指輪は、ツアーが“始原魔法(ワイルドマジック)”で作り出した、今となっては同じ物の製作は難しいマジックアイテムだ。

 そしてさすがの帝国では、内緒で回収するのは難しいだろう。あそこには“逸脱者”フールーダ・パラダインがいる。

 

「……もしかして、その、君達が言っている指輪の持ち主はガゼフ・ストロノーフだったりするか?」

 

 そこでアインズが口を開き、リグリットに訊ねた。リグリットは目を見開いて驚き、アインズを見る。

 

「そうじゃよ、モモンガ殿。わしはガゼフの小僧に指輪を渡しておった。……何か知っておるのか?」

 

(モモンガ……?)

 

 以前名乗った名前とは別の名前だ。ツアーが内心で首を傾げていると、キーノがこっそり教えてくれた。

 

「アインズ・ウール・ゴウンはギルド名だったらしいぞ。ユグドラシルでの名前はモモンガというらしい」

 

「へえ……」

 

 ユグドラシルからきたプレイヤー達はそのままの名前を名乗る事もあるが、中には名前を変える者もいる。彼もそうしたプレイヤーの一人だったのだろう。

 しかし、どういう心境の変化か。元の名前に戻したようだ。

 

「その……実はだな」

 

 アインズ――モモンガは言い辛そうにしている。

 

「なんじゃ、はっきりせんか」

 

「あー……その指輪の行方、知っているかもしれん」

 

「え?」

 

 全員が思わずモモンガに視線を集中させる。モモンガは視線が集中したのに少し気まずげにして、語った。

 

「……その指輪が戦士を強くする、ユグドラシルとは別のシステムで作られた指輪なら――俺がガゼフに遺言で頼まれて、帝国から盗んで別の奴に渡したんだが……」

 

「……え?」

 

 それはあまりにも驚きの一言だ。モモンガの返答に、思わず瞳を丸くした。

 

 ……モモンガの言う戦士を強くする、という効果の指輪は間違いなく件の指輪だ。しかしとっくに帝国にも存在せず、まったく別の人間に渡ったらしい。それはさすがに見過ごせない。一体誰の手に渡ったのだろうか。

 それに――帝国から、フールーダにも気づかれずに盗むことが出来る実力に、少しだけモモンガの事を警戒する。フールーダにも気づかれなかったという事と、今の格好――おそらく、第七位階魔法以上の使い手であり、八欲王級の強さだろう。

 

(やれやれ。今回の揺り返しは強烈だな)

 

 ユグドラシルプレイヤーは、およそ一〇〇年周期で現れる。アインズは今回やってきたプレイヤーだ。

 ツアーがそう内心で溜息をついている内に、二人の会話は続いていく。

 

「ガゼフの小僧の遺言、ということはそれほど変な奴に渡ったとは思わんが……誰に渡したんじゃ?」

 

 リグリットの質問に、モモンガは気軽に答える。

 

「ブレイン・アングラウス。ガゼフの永遠のライバルだな。今はどこで何をしているんだか……」

 

 ブレイン――知らない人間だ。しかし、リグリットやキーノは知っていたらしい。

 

「ああ、あの小僧か。……なんじゃ、アイツ改心したのか。しかしまあ、あの小僧ならそう変なことにはならんじゃろうな」

 

「確かにブレインなら安心か……」

 

 リグリットやキーノの言葉から、それほど危機ではないらしい。ならば――もうツアーから言う事は何も無い。二人の事は信用も、信頼もしている。

 

「――ふう。じゃあ、指輪の件はもういいよ。それでえっと……モモンガでいいのかな?」

 

「ああ。そっちの名前で頼む。もうアインズ・ウール・ゴウンを名乗ることは無いからな」

 

「じゃあモモンガ、一体何の用事で私のことを訪ねたんだい? 私のことは、インベルンから聞いているみたいだけど」

 

 自分の秘密を喋った事については、それはいい。どの道、プレイヤーが相手ならいつかは話さなくてはならないと思っていた。

 しかし、そのプレイヤーがわざわざ自分を訪ねに来たというのは疑問が残る。単純に自分を確認しに来た――という雰囲気では無い。彼は確実に、自分に用があって来たのだ。

 

「……その前に、少し聞きたいんだが。その剣(・・・)……もしかして、ギルド武器か?」

 

「そうだよ。ちょっと預かっているんだ」

 

「そうか。なら、ちょうどいい。俺の持っているギルド武器も預かって欲しい」

 

「…………え?」

 

 その頼みに瞳を丸くする。あまりに意外な頼みだった。ギルド武器というのはプレイヤー達――特にギルドを持つプレイヤーにとっては重要なマジックアイテムだったはずだ。それをツアーに自主的に預けよう、と思うとは。

 

「実はだな、俺はギルド武器は持っているがギルドは一緒にこっちに来なかったんだ」

 

「あー……なるほど」

 

 ギルド武器を破壊すれば、そのギルドは統制を無くす。ギルドがあるならギルドの奥底に封印しておくだろうが、しかしその肝心のギルドが無いなら持ち歩くのは憚られたのだろうか。

 

 だが、モモンガは続けて――少しばかりの哀愁を漂わせて語った。

 

「それに……俺のギルドであるアインズ・ウール・ゴウンは既に、俺以外のメンバーは全員ユグドラシルを去ってしまっていてな。俺以外にギルドのプレイヤーはいないんだ。……そして俺も、もうギルドを名乗るのはやめる。だから、自分で持っているのは憚られてな」

 

「ふぅん……。まあ、預かって欲しいって言うなら、かまわないよ」

 

「感謝する」

 

 モモンガはそう言うと、プレイヤー特有のアイテムの取り出し方をして――その、禍々しい武器を取り出した。

 

 ――それは杖。七匹の蛇が宝石を咥え、神聖さと禍々しさを持った――そして恐ろしいほどの魔力を感じさせるマジックアイテム。

 

「――――」

 

 全員、息を呑む。一目見て、これがギルド武器だと確信した。いや、ギルド武器どころか、傾城傾国のような更にその上のマジックアイテムだと言われても信じてしまいそうなほどだった。

 

「……じゃあ、これは大切に預かっておくよ」

 

「そうしてくれ。……もしかすると、返してもらう日がくるかもしれないけどな」

 

「その時は、ちゃんと渡すさ。――ただ」

 

「うん?」

 

「私からも、頼みごとをいいかな?」

 

 

 

 

 

 

「――よかったのか、本当に。ギルド武器をツアーに預けてしまって」

 

 訊ねるキーノに、モモンガは頷いた。

 

「――いいんだ。これで、よかったんだよ」

 

 ……そう、アインズ・ウール・ゴウンは既に終わったギルドだ。ギルドメンバーは現実に還り、そして最後のギルドメンバーである自分も今、ギルドに対して踏ん切りをつけた。

 ならば、もうギルド武器は不要だろう。

 ……それに、アレを持っていると、いつまでもうじうじと悩んでしまいそうだ。それはよくないと、そう思う。

 

竜王(ドラゴンロード)に預けていた方が、安心出来るさ」

 

「まあ、ツアーに預けておけば万が一壊されることもない……って言ったのは私だが」

 

 だから、この話は終わりだ。

 いつか返してもらう日が来るかもしれない、と言ったがそんな日は来ないだろう。仮にあったとすれば、それはギルドが――ナザリック地下大墳墓が転移してきた時。その時は、自分の手で、あの円卓の間に返しに行こう。

 

「しかし、ツアーも厄介な頼みごとをする。冒険者をやめた俺達に、ユグドラシル産のアイテムを探してきて欲しい、とは」

 

 ツアーがギルド武器を預かる代わりに提案してきた頼みごと。それはユグドラシル産の強力なマジックアイテムを集めてきて欲しい、という事だった。

 

「仕方ない。ぷれいやーなら集めやすいと思ったんだろう」

 

「そりゃあ、プレイヤーだったらユグドラシル産の有名なアイテムはある程度分かるけどさぁ」

 

 キーノの言葉に、溜息をつく。確かにユグドラシルプレイヤーの自分ならば、そういうのに適していると思う。

 それに、ツアーの心配事も分かる。ユグドラシル産のマジックアイテムは強力過ぎるのだ、この異世界では。あまり放っておけるものでは無いだろう。

 

「それに、私達はこれから色んなところを旅するんだ。ちょうどいいじゃないか」

 

「うん、まあ、そうだけど」

 

「ならいいだろう」

 

「――あ、はい」

 

 確かにそうだ。それに、そこまで気にしているわけではない。当てのない旅に、少しくらい目的があってもいいだろう。

 ――未知のマジックアイテムを探して旅をする。少しだけ、その行為に感傷に引き込まれそうになるが頭を振ってその気持ちを追い出した。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 ――そう。いつか本当に、なんでもないと思えればいい。こんなこともあったと、本当に懐かしく、笑える思い出になって欲しかった。いいや、きっとそうしてみせる。

 

 あの、光り輝く勇者のように。いつかきっと、ほんの少しでいいから前を向いて歩いてみよう。こんな負け犬のような自分でも、変われるはずなんだと信じ、告げてくれた男のために。

 

「行こうか、キーノ」

 

 キーノに手を差し出す。キーノは手を握り、微笑んだ。

 

「ああ、サトル!」

 

 二人手を繋いで、評議国を離れる。

 彼女の笑顔は、少し一緒に行動を共にしていた少女が浮かべていた笑顔みたいで、太陽のように輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 ――そして朽ち果て、忘れられた大墳墓から、最後の一人が旅立った。

 

 最後の一人……陰鬱とした墓守は、太陽の輝きに眩しそうに瞳を細めながら、しかしその光の下を歩いていく。

 今は暗いけれど、しかしいつかきっと、その光の下を他の皆と同じように笑顔で歩く日がくるだろう。

 

 ……人間は良くも悪くも慣れる生き物だ。彼もいつかは、他の皆と同じようにそういう人生に慣れていく。

 

 だから、いつかきっと――彼が憧れた輝きを、例えそれがちっぽけな光であっても手に入れる日がくるに違いない。

 

 

 

 彼は、かつての仲間達と同じところに並ぶために、今――足を一歩踏み出した。

 

 

 

 

 




 
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