────夢を見ている。今俺がいるのは俺が通っていた中学校の屋上。そこで独りで黄昏ている自分を、別視点で見ている。俺の記憶が正しければ、このあとは………
「どうしたのですか?黒瀬さん。貴方が1人でいるのは珍しいですね」
「ん?……ああ、九頭竜か。お前こそどうした?何時もは直ぐに帰っているだろうに」
そう、彼女が屋上に訪れたのだ。《
この時はまだ知り合い以上友人未満という曖昧な関係だったはずだ。
「…もう私達も卒業ですからね。最後に、ここから見える景色を記憶に残しておこうと思いまして」
「……そういえば、お前は進学しないで親父さんの手伝いをするって言ってたな」
「ええ、勿論そのことについての不満は無いつもりです。………ですが、学生として過ごせるのはもう数えるほどしか時間が残っていない、そう考えると少しばかり思うものがありまして」
「……そうだな、俺が此処に来たのも似たような理由だ。……と言っても俺は普通に進学して高校に行くから、お前ほど感傷的になってる訳じゃないけどな」
過去の俺達の言葉を聞きつつ、九頭竜に改めて目を向ける。色素の薄い髪に、あまり表情の変わらない、どこか冷たい雰囲気を感じさせる顔付き。服装は学校にいるので、当然ながら制服。冬服であるブレザーを羽織っている彼女は、当然の事ながら記憶にある彼女そのままだった。
「───そう言えば九頭竜。お前携帯持ってたっけ?」
「はい……?一応いざと言う時の為の連絡用として持っていますが、それが……?」
「いや、連絡先の交換しないか?いきなりこんな事言うのもどうかとは思ったんだが、これも何かの縁だと感じてな」
確かこの時、俺の顔は真っ赤になってた筈だ。夕焼けで誤魔化せていたと信じたい。
「フフっ……黒瀬さんがそのような事を言うとは思いもしませんでした」
「言うなよ………柄じゃないっていうのは自覚してるんだから」
「そんな事はないと思いますが?………とはいえこんなにロマンチストだとは思いませんでしたが」
「お前、実は楽しんでるだろ……取り敢えず、返答を聞かせてくれないか?」
「ふふ……すみません。連絡先の交換でしたら、喜んで」
そう言いながら、柔らかな笑みを浮かべる九頭竜。
─────ああ、そうだ。この笑顔を見てから俺は気付いたんだった。俺はずっと彼女の事を
─────
「………ーい、おーい。起きろって黒瀬。もう終業式も終わっちまったぞ〜」
「………あ?おお、わざわざ悪いな」
クラスメイトから声をかけられたことによって夢から目覚める。まだ半年程度しか経ってないっていうのに、我ながら随分と女々しいな。
「気にすんなって。それよりお前、夏休みどっか遊びに行かね?」
「あー………スマン。人に会いに行く予定があってな。夏休みは丸々使うつもりでいるから無理だわ」
「マジで!!?なら仕方ないか。………で?会いに行くって誰に?まさか……女か!!?」
「誰が教えるかバーカ」
そう、明日から高校に上がって初の夏休みに入る。その間に1度、九頭竜……いや、アマネに会いに行くつもりだ。同じ都内に住んでいて、2、3日に一度は連絡を取り合ってはいるが、直接顔を合わせてはいない。
別にその程度なら問題は無いのだが、先日アマネが不思議なメールを送ってきたのだ。曰く、『出来れば夏休みの間、山手線内から離れたほうがいい』との事だった。どう考えても違和感塗れなので、直接会いに行くことを計画していた。幸い、アマネの父親が興した宗教、《翔門会》の本部ビルの居場所は分かっている。そこで人の出入りを見張っていれば、彼女に接触するのはそう難しい話ではない。
…………行動がストーカー染みているのには自覚している。だが、彼女に接触するにはそうでもしないと難しいのだ。この半年の間、翔門会の巫女として活動している彼女に会いに行こうと連絡をしたとしても、アズマとかいういけ好かない男にほぼ急用が入った等の理由で追い返されているのだ。まぁその夜には謝罪のメールをくれるのだからあまり気にしてはいないのだが、どうも作為的な匂いを感じるのだ。
それを突き詰める為にも、夏休みをフルに使って翔門会という組織を見極めるつもりでいる。 アマネの性格からすれば、わざわざあんなメールを送ってくる時点で翔門会が何かを企んでいると言っている様なものだ。
アマネが何か良からぬことに利用されているかもしれないと考えると、今すぐにでも翔門会に殴り込みをかけたいところではあるが、それをしてしまえばアマネにも迷惑がかかる恐れがある為に自重しなければならない。なかなか難しい状況ではあるが、それもまた一興だろう。
「おーい。また
「っと、悪い悪い。とまあそういう訳だから、また今度誘ってくれ」
「あいよ。じゃあ、俺は先に帰るわ。あんまり無茶はするなよ〜」
「前向きに善処させてもらうよ」
そう声をかけて、去っていくクラスメイト。……生憎と、折角の忠告も無駄になりそうだ。
とはいえ、何時までもこうして学校にいても何にもならないし、とっとと帰るとしますかねっと。
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「おーい!!隼人ー!!ちょっと待てよ〜」
身支度を整えて、校門を出ようとした瞬間に、聞き覚えのある声に呼び止められる。
振り向くと、そこには予想通りの顔触れが揃っていた。こっちに向かって手を振っているのが、
「篤郎先輩?それに峯岸先輩に谷川先輩まで。どうしたんですか?」
「おいおい、……随分と連れないな〜。俺とお前の仲じゃないかよ〜」
駆け寄ってくるなり肩を組み、握り拳を軽く頭に押し付けてくる篤郎先輩。それを苦笑いで見守っている峯岸先輩と谷川先輩。出来れば止めて欲しいのだが、静観の構えを解く気は無いようだ。
「いやいや、だって皆さん普段は授業終わったらすぐ帰るじゃないですか。今日が終業式で終わるのが早かったとはいっても、終わってから随分時間経っているから、とっくに帰っていると思ってましたから」
「………そう言われると、その通りだから何も言えなくなるな」
「まあ少し驚いただけですから。……それで、何か用ですか?」
「おおっと、そうだったそうだった。いや実はな、今日から夏休みだろ〜?そこでだ!!これから一週間程ぶっ通しでデビルバスターズを攻略しないかというお誘いに来たんだよ!!」
俺が要件を聞くと、篤郎先輩は仰々しい動きで要件を伝えてくる。本当にこれを言いに来ただけなのかを後ろに控えている2人に目線で聞いてみる。因みにデビルバスターズとは、オンラインゲームで、篤郎先輩とは、このゲームを通じて仲良くなったと言っても過言では無い。
「俺はその付き添いで」
「私は和哉がアツロウに付き合うって言うから付いてきただけだけどね」
………本当に要件はそれだけらしい。篤郎先輩らしいといえば、らしくはあるが。
「………非常に魅力的なお誘いでは有るのですが、生憎と今年は夏休みを丸々使う用事がありまして」
「なんだとぉ!!?クッソー……俺の知り合いで、この強行軍に付き合えるのはお前くらいだったのによ〜」
「あ、あはは……」
何がそこまでこの人を駆り立てるのだろうか……谷川先輩も呆れた顔を隠そうともしていないし。
「ったく、このアホロウ!!自分の欲望に後輩を付合わせるなっつーの!!」
「アホロウって言うな!!ソデコ!!」
「ソデッ!!?だ・か・らぁ……その渾名は止めろって言っているでしょうがぁぁあ!!!」
「痛ったああああ!!?」
篤郎先輩の言葉が谷川先輩の逆鱗に触れたのか、えらく腰の入った一撃を篤郎先輩に叩き込んでいる。ソデコと言うのは、篤郎先輩が谷川先輩に付けたあだ名で、何でも『柚子』と『袖子』の字面が似ているかららしい。……それも質が悪い事に最近教師陣に間違われているのも谷川先輩の怒りを助長しているらしい。……何故そのような事を知っているかというと、つい先日谷川先輩の愚痴に付き合わされたからだ。
「……峯岸先輩、よくこの2人と何時も一緒に居られますよね。……疲れません?」
「小さい頃からずっと一緒だからな。もう慣れた」
「慣れちゃいけない類のものだと思うんですけど……まぁいいや」
あんまりこういう事を思うのは良くはないのだが、この人も大概だよなぁ……
ふと時計に目を落とすと、もう昼を大きく回っていた。明日から調査に向かうつもりである以上、そろそろ家に帰って準備をしておきたい。
「すいません。そろそろ明日以降の準備をしなくては行けないので、先に帰りますね」
「ったくアツロウは……!!っと、うん。またね、隼人くん」
「悪かったって……おう、暇が出来たら連絡しろよな〜」
「気を付けてな」
「先輩方も、気を付けて下さいね」
三者三様の挨拶を受けて、家への帰路につく。
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青山にある簡素なマンションの一室。そこが現在俺が住んでいる場所である。
「ただーいまっと………ま、誰も居ないけどな」
両親ともに海外での勤務である為、生家を離れて一人暮らしをしている。何でもやり手のトレーダーだとかなんとか。あまり親の仕事に興味は無いが、バイトをしなくても充分に暮らせる程度の仕送りが出来るほどの稼ぎはあるらしい。
「さて、翔門会を張り込むのはいいが、実際にはどう動くべきか……」
品川にある翔門会本部への張り込み。なるべくなら近場で宿を確保してしまうのがベストではあるが、ホテルに宿泊出来るほどの金銭的余裕は無い。……とはいえ、一々帰るのも時間の無駄になる。こうなると、漫画喫茶か何処かに寝泊まりして、一週間経ったら1度家に帰って消耗品の補給をする………といった感じで行くか。
「……となると、今日と明日で必要なものを揃えるとしますかねっと」
取り敢えず、日持ちのする携行食や手動式の充電器。あとは撮影用の機材って所か。出来る事なら、早めにケリが付けばいいんだがな………