高校生活初めての夏休みに入って早一週間。現在俺は翔門会本部ビル近くの喫茶店で、翔門会の人の出入りを観察している。幸い学校からの課題という長時間居座っても文句を言われづらいものがある為、観察も容易になっている。
「しっかし……随分と信徒が多いんだな、翔門会は。てっきりもっと小規模なものかと思ってたんだが……」
この一週間、ひっきりなしとまでは行かないが、そこそこの人の出入りがある。特徴的なオレンジ色の服装をしている為、見間違うことはまず有り得ない。……とはいえ、その殆どが一般教徒らしき人物ばかりで、翔門会の核心に迫ることが出来そうな情報を持っていそうな人物は表に出て来ていない。……ネットからの情報から、急速に勢力を広げているのは知っていたが、ここまでとは思いもしなかった。
「………上役に近い連中はやっぱり別の出入口から出入りしているのかねぇ?」
そうなってくると、ここを見張っていても徒労にしかならない可能性が非常に高くなるのだが………
「っと、噂をすれば……って奴だな。これまたゾロゾロと……ってアマネ!!?」
思わず座っていた席から立ち上がる。俺の視線の先には、数人の翔門会信者に囲まれたアマネが翔門会の本部から出て来ていた。更にその後ろから、幹部と思わしき、黒いコートを羽織った人物と、アマネと同じ髪色の男が現れる。
「………っと、こんなことしてる場合じゃないな。さっさと追いかける準備しねぇと」
レジで会計を済ませ、店の近くに止めてあったバイクに乗込む。16の誕生日を迎えてすぐに免許を取得して、それ以来ちょくちょく使っている。バイク自体は親父が使っていた中古品だが、こういう場面ではかなり重宝している。
アマネ達は既に車に乗り込み、何処かへと向かおうとしている。俺は、それを見失わないように、且つ気付かれないように尾行を開始する。
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跡を尾けること数十分、アマネを乗せた車は浅草のとある寺院へと辿り着いていた。
普段ならば、参拝客が少なからずいる筈なのに今日に限っては一般の参拝客はおらず、視界に入るのは翔門会のオレンジ色の装束ばかりであった。
「………こんなあからさまに封鎖しているのか?……少なくとも、ただの一宗教が出来る事じゃないぞ…」
……翔門会が急速に勢力を拡大しているのを理解してはいるのだが、それにしたってやっている事の規模が大き過ぎる。………本気で、何を企んでいるんだ?
「……っと、このままぼーっとしてても意味が無い。どうにか侵入しないとな」
ただの一学生に過ぎないが、そこそこやれるってとこを見せてやるとするかねっと。
気分は伝説の男、ダンボールが欲しいところだ。………では、ミッションを開始する!!(大塚ボイス)
「侵入成功っと……それじゃ、何をしでかそうとしているのか拝見させてもらうとするか」
翔門会の信徒の目をくぐり抜け、無事寺院内への侵入に成功する。ありがとうボス。貴方のおかげで無事潜入出来ました……!!今度即席ラーメンでも備えておきます!
さて、閑話休題。今俺は境内からは見えないが、こちらからは見えるという絶好な場所に陣取り、様子を伺うっている。翔門会という組織、ここで見極めてやる……!!
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「な、何なんだ、これは………!!?」
正直、翔門会の連中がここに来たのも、何かしら後ろめたい連中とコンタクトをとる程度だと思い込んでいた。だというのに、今俺の目の前に広がっている光景は一体何なんだ!!?
今俺の視界に映っているのは、まるでこの世のものとは思えない光景だった。
アマネと同じ髪色の男が何か呟いたかと思えば、寺院内から鬼神が現れ、それに続いてアマネの身体からも薔薇に似た形状をした化け物が現れると、両者は闘い始めた。雷撃が降り注ぎ、獄炎が舞い上がる。それはまさしく、人外同士の争いに他ならなかった。
「こ、これが翔門会の裏側だと……?」
翔門会の思わぬ秘密を握れたのは良かったのだが、それ以上に気になるのは、アマネだ。薔薇の怪物を呼び出してからずっと苦悶の表情を浮かべている。あんな化け物が身体に宿っているのなら、それは当然だろうが俺が気になるのは、そこではなく、
この半年のあいだにアレが宿ったのなら、それはそれで腹が立つが、どうしようも無かった。………だがもし、それ以前からアレが宿っていたとしたら、俺は自分を許せない。あいつは以前俺に、普通の学生生活を過ごしたいという想いを伝えてくれた。
あいつは翔門会の巫女として生きる覚悟をしていたが、それはあの化物を宿していたが故の諦めだったなら?だとすれば、アレを潰せばアマネは俺や先輩達と何ら変わらない学生として暮らせるんじゃないか?
「………少なくとも、あんな表情見せられて、今のアマネが幸せだとは思えないよな」
目の前では薔薇の化け物が鬼神を燃やし尽くしたところだった。あとに残されたのは、鬼神が使っていた武器と、化け物が消え、憔悴し切って崩れ落ちた様子のアマネ他、翔門会の連中だけだった。
黒コートの男とアマネと同じ髪色の男が会話し始めたので、これからの行動の指針を固める為にも、出来る限り彼等の言葉に耳を傾ける。
「…………です。教祖様、アマネ様。これで……の均衡は崩れ、試練と……………をお迎えする為の下準備が済みましたね」
「ああ。……とはいえ、まだ下準備を済ませただけであって、悪魔…………バーも、改造……も未完成だ。……もまだ半月程は……も状態を保つ………。それまでにすべての準備………て、万全の状態で……をお迎えするのだ………お前も、………い事ばかり言わずに準備に専念しろ」
「わか…りま………した、お父様」
「では行くぞ。ここにはもう用はない」
会話を止め、落ちていた鬼神の武器を拾い、車の方へと身を翻す、教祖と呼ばれた男とそれに追随する黒コートの男。
アマネはそれには付いていかず、息を整えるかのように蹲っていたが、一分もしないうちに立ち上がり、こちらを一瞥してから去っていった。
誰も居なくなったのを確認してから、境内へと進む。………もしかしたら、アマネには隠れていたことがバレたかも知れないが、翔門会の連中が戻ってこない事を考えると、黙っているのかも知れない。とはいえ、絶好の機会だ。何か証拠になりそうなものを探すとしよう。
「…………つっても、せいぜいが焼け焦げた地面くらいしか残って無いしなぁ……」
さっきの鬼神が遺した武器でもあれば違ったんだが、回収されてしまったからな……
「……にしても、悪魔……ねぇ?まったくもって信じられないが……見ちまったからな」
そして、アマネが悪魔とやらを宿しているのが分かった以上、手をこまねいているつもりは無い。どんな手段を使ってでも、悪魔に対抗できる手段を手に入れないとな……
とまあそんなふうに思案を巡らせていると、突然目の前に先程の鬼神と似たような鬼神が現れた。
『ヌウウウ……結界の揺らぎを感じ、まさかと思い来てみれば………まさかジゴクテンが倒されてしまうとは……!!』
「うぉおおおお!!?な、何だ一体!!?」
『ヌウ……?人の子が、何故ここに?……もしや貴様がジゴクテンを……!!』
「違う違う!!俺じゃないって!ジゴクテンってのがどんな奴かは知らないが、アンタに似ている奴が倒されたのは見た!!」
『何だとぉお!!?詳しく聞かせよ、人の子よ!!』
目の前に現れた鬼神に、先程見た光景を伝える。……とはいえ、悪魔とやらをアマネが呼び出したことは伝えずに、翔門会が悪魔を呼び出したと濁しておいた。
『ヌウウ………まさか人の子が我等の結界を超えて悪魔を呼び出すとは……』
「結界……?おい。悪いが、1人で納得してないで、俺にも説明してくれないか?」
思わず口を挟む。結界がどうとかよく分からないが、アマネをあの悪魔から解放する為には、悪魔についての知識は必要不可欠な筈だ。
『ン…?貴様、悪魔について何も知らぬと言うのか?』
「ああ、正直な所、翔門会の連中を尾けて来ただけで、その…ジゴクテン?が倒されたのを見たのは全くの偶然なんだ」
『ヌウウ……あまり人の子に、悪魔について教えるのは得策では無いのだが……これも何かの縁であろう。大まかにであれば、お主に悪魔について教授してやろう』
「本当か!!?助かるよ。ええっと……」
『我は鬼神ビシャモンテン。結界の北方を守護せし四天王の1人である』
「ビシャモンテン……確か上杉謙信が祀った戦勝の神……だったか?」
『ウム。では早速ではあるが悪魔についての説明に入るとしよう』
「ああ、宜しく頼む」
『相分かった。そも、悪魔とはお主ら人の子が定義付けた名であって、我等神や、天使などといった連中もさほど悪魔と変わらぬ。共通して言えるのは、人の子の力では太刀打ちする事は出来ぬという事だ』
「何だと!!?それじゃあ、悪魔はどうすれば倒せるんだよ!!?」
思わず声を荒らげる。どうにかしてあの悪魔をアマネから引き離さないとアマネを救えそうに無いっていうのに、その手段が無いだと……!!?
『落ち着け、人の子よ。何も方法がまるで無いと言う訳では無い。極稀にではあるが、悪魔に対する力を持って生まれる人の子が現れるのだ』
「悪魔に対する力だと……?」
『ウム。それは我等が使う魔の法を扱う才であったり、お主が見たように悪魔を使役したりと、方法は幾つか存在する』
「成程、な……」
つまりアマネは、その身に悪魔を宿し、使役出来る体質だったのか。……だが、どう見ても制御出来ていないように見えたのだが……おそらくは自らの力量を超えている悪魔だからだろう。鬼神と呼ばれる存在を簡単に燃やし尽くしたのだ。おかしな話では無いだろう。
『そして、その資質はお主にも眠っているようだ』
「何だと!!?」
『とはいえ、眠っているだけで目覚めてはおらぬ。現状では宝の持ち腐れであろうよ』
「………その力を開放するためには、どうすればいい?」
『解放するだけならば、我が力を持ってすれば容易い事だ。……だが何故、力を求める?』
ビシャモンテンに問われ、暫し目を閉じて考える。何故力を欲するか……その理由を考えようとした瞬間、アマネが屋上で見せた笑顔が浮かんだ。……成程。我ながら随分と単純な理由だったようだな。
「……今回ここでジゴクテンを倒した悪魔は、遠からず俺の惚れている女を不幸にするだろう。俺はそれが我慢ならない。一刻も早く始末したいが、生憎今の俺は無力だ……だからこそ、俺は力が欲しい……!!あいつを助け出すためにも、力が……!!」
『フム………その覚悟、確かに見届けた!!人の子よ、名をなんという?』
「黒瀬隼人だ。宜しく頼むぜ、ビシャモンテン」
『応ッ!!黒瀬隼人の中に眠りし魔の力よ、我が力に呼応し、目覚めよッ!!』
ビシャモンテンの声と共に体の内側から、力が湧き上がってくる雰囲気を感じる。何処か今までの自分とは変わってしまった事に、戸惑いがある。
『ウム。これでお主の中の力は完全に目覚めた。……では、我はこれにて去る。他の四天王達とも結界について相談せねばならぬからな』
「そうか……ありがとうな、ビシャモンテン。………何か、俺に出来ることは無いか?せめてこの恩は返しておきたいのだが……」
『フム………その気持ちだけ、貰っておこう。黒瀬隼人よ、お主にはやらなければやらない事があるのだろう?』
「…………分かった。恩に着る、ビシャモンテン」
『ウム。ではさらばだ、人の子よ!!汝の道に幸多からん事を!!』
その言葉と共にビシャモンテンは姿を消した。……それにしても、ほんの十数分の間に今までの常識が一気に崩壊してしまったが、アマネを取り巻く現状を理解出来たと考えれば悪くない。
……取り敢えずは、魔の力とやらの把握に専念するとしますかねっと。