13;00 PM 芝公園
昨日アマネと約束した時間通りに芝公園に着いた俺は、翔門会のオレンジ色の服を探していた。芝公園で、とは約束したものの細かい待ち合わせ場所を決めていなかったからである。それに加えて、現在の芝公園は山手線封鎖によって帰ることが出来なくなった人が溢れかえっているため、人を探すのも一苦労なのだ。とは言え、現在の彼女は翔門会の顔とも言える存在。翔門会の連中を探せば、比較的簡単に彼女に辿り着く事が出来るだろう。
「……っと、いたいた。すいませーん、ちょっといいですか〜?」
「はい?我々翔門会にどんな御用でしょうか?もしや、入門希望の方ですか?」
俺が声をかけたのは避難してきた人々に声をかけていた翔門会信者の女性。積極的に声を掛けていたところを見るに、随分と社交的な人物のようなので、接触しやすいと考えてのことだ。
「いや、生憎ですけど俺は無信教でして。入門とかは考えてないんですよ」
「そうですか……では、どういった御用で?」
「翔門会の巫女の九頭竜天音。彼女を呼んできてもらえないか?昨日ここで会う約束をしたんだが、見当たらなくて」
「…………アマネ様とどういったご関係ですか?」
「中学の頃のクラスメイトですよ。あ、後………」
こちらを訝しげに見てくる翔門会の女性の態度の変貌っぷりに苦笑しつつ、質問に対しての答えを返しつつ、ズボンのポケットからCOMPを半分ほど出して、女性に見えるようにする。
「《封鎖の真実を知る1人》だ。………これでも、信用出来ません?」
「それは………成程、わかりました。アマネ様にお伝えして来ます。……お名前は?」
「黒瀬隼人だ。よろしく頼む」
「黒瀬さんですね。………では、しばしお待ちを」
そう言うなり、翔門会の女性は人混みの中へと消えていった。……しかし、俺も随分と嘘をつくのが上手くなったものだ。封鎖についてなんぞ、何かしらの企みの上で進められたものだろうといった推測と呼ぶのすら烏滸がましい段階の考えしか持ち合わせていないのに、あたかも真相を知っているかのように振る舞うなんぞ、想像すらしなかった。
「………しかし、随分と随分と人が集まっているな。こんなところを悪魔にでも狙われたら、あっという間にパニックになるんじゃないか?」
とはいえ、翔門会の連中がいるのなら、ある程度の防衛は出来るんだろうが。とはいえ、悪魔を倒す為に悪魔を使うか……俺や先輩達の様な悪魔使いはともかく、何も知らない一般人からすれば、例え助けてもらったとしても疑いの目を向けられても可笑しくないと思うのだが、何か策でもあるのかね?
「………翔門会の方で、ここには結界を張って有りますし、万が一悪魔が襲ってきた時の備えとして、公園の各出入口に翔門会の信徒を数人ずつ配置していますのでよほど強力な悪魔でも無い限り大丈夫ですよ」
「ん?……アマネか。悪いな、少し遅れた」
「いえ、私も細かい場所を指定しませんでしたし、お互い様ということで。………貴女も、彼から言伝を引き受けてくださってありがとうございます。もう持ち場に戻ってくださって大丈夫ですよ」
「いえ、私は責務を果たしただけに過ぎないので……では、失礼します」
アマネが翔門会の女性に声をかけると、翔門会の女性は素直にアマネのいうことに従って、人混みの中へと消えていった。
「邪魔者が消えた所で……昨夜振りだな、アマネ。昨日を除けば、こうして会うのは中学の卒業式以来だったか?」
「そうですね……電話やメールでは何度かやり取りをしていましたが、直接言葉を交わすのは半年ぶりだったと思います。………何度か会う約束をしていたのに、会えなかったのは本当に申し訳ありません」
「別に気にしてないって。翔門会の方で急な用事が出来たからだろう?その都度連絡貰ってたから理解はしてるよ」
「そうですか………それなら良かったです。貴方との会話は、私にとっても日々の楽しみのひとつですから」
そういってアマネが薄く微笑む。……やっぱり、この笑顔がアマネには1番似合う。この笑顔だけは、誰にも奪わせるわけには行かないよな。
「───そう言ってもらえると、こっちとしても嬉しいよ………それじゃ、そろそろ本題に入るとしようか………今日ここに呼んだのは何の為だ?───まさかとは思うが、『これ以上悪魔に関わら無い方がいい』……なんて言い出さないだろうな?」
「………正しくその通りです。貴方が何時から悪魔と関わったのかを聞いたりはしません。ですが、これ以上『こちら側』に足を踏み入れる必要はないはずです」
アマネの真剣な表情から、アマネの言葉はこちらの事を想っての事だと感じ取れる。………だが、この言葉にだけは頷く訳にはいかない。
「───悪いが、それは無理な相談だ。
「ッ!!?…………何時から、それを?」
アマネの声が僅かにだが震えている。………多分、俺には知られたくなかった事なのかも知れない。……でも、俺としてもこの程度で諦めるわけには行かないんだよ。
「お前が、お前の父親とアズマとかいう奴と一緒にジゴクテンを倒した時だ。あの時の現場を隠れて見させて貰ったよ」
「───あの時感じた視線は、ハヤトさんのものだったんですか……分かりました。それであれば、私にはもう何か言う資格はありません。……けれど、ひとつだけ、覚えていてください」
「………何だ?『私の事は放って置いて』とかの内容以外なら聞くぞ?」
「そんな事ではないですよ……私の事を思ってくれているのは素直に嬉しく思います。ですが、無理だけはしないでください………貴方が居なくなってしまうと、私も、その……寂しく、なりますから」
そう呟くアマネは、まるで捨てられた子犬の様な、悲しげな表情を浮かべていた。……ヤバイ、スッゲー可愛い。この顔ずっと見ていたら、アマネの事を襲っちまいそうになる位の破壊力がある。落ち着け俺。平常心平常心……
「……ククッ、分かった。他ならないアマネの御言葉だ、素直に聞くことにするよ。……お前の珍しい姿も見れたしな」
「なっ!!?……もう、冗談は止めてください。……そろそろ戻らないと行けないようなので、私はこれで。………ハヤトさんの無事を祈っていますね」
「そっちこそ、あんまり無茶をするなよ?父親の手助けをする事は悪い事じゃないが、自分の人生を捨ててまでするような事でも無いんだからよ」
「………では、失礼します」
最後に泣いているような、笑っているような、非常に曖昧な表情を浮かべながら、アマネは人混みの中へと消えていく。俺はアマネが見えなくなるまでその後ろ姿を見つめ続け、見えなくなったのを確認してから、踵を返しバイクへと向かう。
「悪いな、アマネ。生憎と俺の目的を果たすには、俺の命を
そう独りごちる。今の俺じゃあまだあの薔薇の悪魔には届かないだろう。悪魔との戦闘経験を積むにしても、昨日と同じレベルの悪魔なら、一撃で吹き飛ぶから経験の積みようがない。………どうにかしたいとこだが、どうしようもない。
そう結論づけて、俺は芝公園を離れるのであった。
17:00 PM 九段下
芝公園を離れた後、1度バイクを置きに家に戻り、徒歩に移動手段を切り替えて大通りを外れた裏道をを探索すること4時間。時々出てくる悪魔共を瞬殺したり、足をくじいた少女の手当をしたりしていたのだが、山手線の外へと抜けられる道なぞ有るはずもなく、気がつけば武芸館の近くまで来ていた。
「やれやれ……先輩達には悪いが、正攻法じゃあ出口は見つかりそうにないな。ネットが使えれば、噂やら都市伝説やらを探れたんだが……無いものねだりをしてもしょうがないか」
こうした局面に出会って初めて、自分たちがどれほど文明の利器に頼ってきていたかが良く分かるってものだ。
「───ん?歌声……か?こんなところで?」
宛もなく歩いていると、武道館の方からかすかに歌声が聞こえてきた。それも、何処か聞き覚えのある声がだ。その声の方に向かいながら、思考を巡らせると、思い当たる人物が1人、浮かんできた。
「昼間、先輩達とあった場所で路上ライブしてた人の声か!!……もしかしてここでもライブしてるのか?」
呟きながら裏道から出て、歌声の主が視界に入ったのと、ほぼ同時に悪魔が彼女を取り囲むように出現する。
「おいおいマジかよ!!?───おい、そこのアンタ!!今すぐそこから離れろ!!」
「───ッ!!?」
女性の方へ駆け出しつつ声を掛けると、女性は驚いた様な表情を浮かべ、こちらを凝視しているが、そこから動く気配はなかった。
「クソッ!!チンタラしてんじゃ──ってあれは……先輩達か!!」
女性の元までおよそ200mほど、強化された身体能力にものを言わせても、10秒ほどは掛かる。それだけあれば悪魔が女性を襲うのに充分すぎるほどの時間があると思ったが、視界の端に先輩達の姿を捉える。先輩達は既にCOMPを手に持ち、悪魔共と交戦を開始し始めていた。
いきなりのことに悪魔たちにも同様が広がっているのか、動きが止まっている。これならッ──
「邪魔だッ──消し飛べッ………」
女性の元へと向かっていた勢いを拳に載せ、女性に近づいていた
「よっと……御無事ですか?
「え、ああ……ありがと。でも、無理しなくていいよ。私なんかの為に身体張る必要無いって」
「そういう訳にはいかないっすね。先輩達の知り合いみたいですし、見捨てるつもりは無いですよ……っと!!」
女性と会話しながらも
「後は任せても問題無いか……」
「……あんた、すごいね。あっちの子達もそうだけど、君は生身で悪魔を倒してる。……アタシなんかとは大違いだ」
「──代わりに俺は歌で誰かを元気づける事なんて出来やしない。俺は力で誰かを守り、貴女は歌で心を救う。適材適所ってやつですよ、自分に出来ることを精一杯やれば、自ずと結果は見えてくる………でしょ?」
「──────ハハッ、参ったね。まさか年下に慰められるなんて……アタシもヤキが回ったかな?」
女性がバツの悪そうな顔で俯きながら呟いた言葉を耳にした。……この人も何か重いもん抱えてるのかもしれないな。そんなことを考えていると、悪魔を全滅させた先輩達がこっちに向かってくるのが見えた。
「────ハルさんッ!!大丈夫でしたか!?怪我は無いですか!?」
「あ、ああ………こっちの彼が守ってくれたから、傷一つないよ」
「良かったぁ~貴方もハルさんを助けてくれてあり……って、ハヤト君!!?」
「どうも……って、気付いてなかったんですか?」
「悪魔の相手してたんだからそんな余裕無いわよ!!」
「それもそっすね。……それより、まだ山手線内にいるってことは、出口見つかってないんすか?」
俺の質問に、谷川先輩の様子を眺めていた峯岸先輩が返事を返してくる。
「ああ……どこもかしこも自衛隊の手で封鎖されてる。……まだ全部見たわけじゃないが、少なくとも線路沿いは全部ダメだと思う」
「そうですか……俺は裏道とかを重点的に見てみたんですけど、山手線内の近道はあっても山手線の外へ出れる所は無かったですね」
「裏道か……そうだな、線路沿いで出口を探すよりはそっちの方が可能性は有りそうだな」
「ええ……ネットが使えれば、裏道とかの情報も集められたとおもうんですけどね」
「ねえ、アンタ達。話し込んでるところ遮って悪いんだけど、ちょっといいかい?」
峯岸先輩と情報交換していると、谷川先輩が『ハル』と呼んでいた女性が声を掛けてきた。
「どうしました?ハルさん」
「ああ……そっちの女の子から聞いたんだけど、アンタ達の家って封鎖の外なんだろ?休む場所にも心当たりが無いみたいだから、アタシが今世話になってる所で良かったら話通してあげれるけど」
「それはありがたいですけど……大丈夫ですか?いきなり転がり込んでも……」
「別に問題無いでしょ。流石に全員分のベットはないけど、それでも野宿よりは数倍マシだと思うよ」
峯岸先輩の疑問にも、ハルさんはあっけらかんとそう答えた。
「いいじゃんカズヤ!!ハルさんがこう言ってくれてるんだし、お世話になろうよ!!」
「……そうだな、それじゃお願いしてもいいですか?ハルさん」
「あいよ……そっちの少年はどうする?一緒に来るかい?」
ハルさんは俺にも声を掛けてきた。……家に戻っても、特にやることもないし、それならラプラスメールで、ある程度の未来が予測出来る先輩達と一緒に行動していたほうがいいかもしれないな
「そうですね……お世話になります。けど、ちょっと行く場所があるんで、住所だけ教えて貰えますか?後で合流します」
「ん、わかった。場所は表参道の───だよ」
「表参道の────ですね、オッケーです。それじゃ、また後ほど」
先輩達と一時の別れを告げ、それなりの速度で自宅へと向かう。寝床を提供してもらうなら、せめて食料ぐらいは提供しないとな。
19:00 PM 表参道
一度家に帰り、幾つかカップラーメンなどの非常食を詰め込んだ鞄を持ち、バイクを走らせ、ハルさんから教えてもらった住所へと辿りついた。道中何度か悪魔に襲われかけたが、フロストエース1体で事足りた。言われた住所の場所には、小洒落た雰囲気を漂わせているバーがあり、本当にこの場所であっているのか不安になってきた。
「……『BAR JIN』か。本当にここでいいのか?」
考えるよりは行動に移すべし。眺めていても仕方が無いので、『CLOSED』と看板が掛けられているドアをノックする。すると、中から物音が聞こえてきたので、誰もいないという事は無いようだ。
「っと、スマンが表に看板が掛かってなかったかい?悪いが今日は店を開けてないんだ。また日を改めて……って、まだ子供じゃないか。ここは子供が来るような店じゃないぞ?」
扉を開けて出てきたのは、少しコワモテな雰囲気を漂わせたバーテンダー服の男性だった。その口振りからするに、彼がこの店の持ち主なのだろう。
「あ、どうも……ここの住所って─────で合ってますよね?実はハルさんにここに来るように言われまして。………話通ってます?」
「………ああ、君がそうなのか。ユズちゃん達の後輩の黒瀬隼人君だったね、話は聞いてるよ。こっちだ、何にもないが野宿より格段にマシだと思うよ」
「ご迷惑をお掛けします。………そうだ、これどうぞ。大量に買い込んでたんで、お裾分けとして持ってきました。この状況下ですし、それなりに重宝すると思います」
そういってバックに詰め込んでいたカップラーメン等をバーテン服の男性に手渡す。流石にお湯や何かは自分で用意してもらうしか無いが。あくまで停電だけで、ガスや水道は止まっていないから何とかなるだろう。
「これは……確かに助かるが、いいのかい?君もまだまだ食べ盛りだろうに」
「まだ家に山程あるんで大丈夫です。ここに来たのも先輩達と情報交換する為ですから」
「そうだったのか……じゃあ彼らの所へ案内するよ、こっちだ」
バーテン服の男性の先導でバーの奥へ行くと、そこには峯岸先輩とアツロウ先輩が椅子に座って寛いでいた。
「ちっす、峯岸先輩、アツロウ先輩。2時間ぶりっすね」
「ハヤト!!良かった無事だったか!来るのが遅いから心配したんだぞ?」
「スンマセン……道路の至るところに事故った車やらバイクやらが散乱してたんで時間取られたんですよ………女性陣はシャワーでも浴びてるんですか?」
「ああ、そうだよ。あのふたりが出てきたら君達も浴びるといい。それじゃ、俺はカウンターの方に戻るよ、何かあったら呼んでくれ」
「ありがとうございます、ジンさん」
峯岸先輩のお礼に、後ろを向いて右手をあげることで返事としたバーテン服の男性──ジンさんはそのままバーカウンターの方へと消えていった。動作がいちいちイケメンだな、あの人。
この後は先輩達と封鎖内の情報やラプラスメールの予言などについて情報交換を交わして、その日を終えた。
これで分かったことは、ラプラスメールも絶対では無いという事ぐらいだったが、未来が朧気ながらに分かっているということはかなりのアドバンテージとなるだろう。多分明日から、封鎖内は今日以上に混沌とした状況になるだろう。明日のラプラスメール次第で、先輩達と行動を共にするかどうかを決めるとしようか。
はい、最新話を投稿しました。
次の更新は何時になるか不明。でも早いとこ終わらせて、新しいの書きたい。ワールドトリガーとか。
放浪者と恋姫はもう更新しない可能性が高いから諦めてね