ガールズ&パンツァー これが私達の戦車道です!   作:YUJIKONI

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戦車道、やりたくありません!

 戦車道とは、戦車を用いて行なわれている武道であり、現在ではマイナーな武芸とされているが、かつては華道・茶道と並び称されるほどの伝統的な文化であり、世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきた。

 礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸とされる。

 

 これは、そんな戦車道に青春と情熱を懸ける少女達の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん、準備はいいでありますか?」

 

 車長の掛け声に、戦車内の仲間が呼応する。

 

「操縦手、オッケーだよぉ!」

「こちら砲手、問題なしです」

「通信手および装填手……問題ない……」

 

 マイクを通じて聞こえてくる声々に車長は安心する。

 

「チームかまぼこ、準備完了であります!」

 

 続けて車長はそのマイクを使いどこかと通信を始める。

 

『はーーい、チームフカヒレ問題ありませーーん!』

『チームマンボウ、問題なしです!』

『チームずんだ、もちろん大丈夫でーーす!』

 

 この車長と同じ高校に通う生徒だ。

 

「了解しました。 それではみなさん、ご武運を祈ります。 全速前進!」

 

 車長のこの一言を合図に4輌の戦車が一斉に発進した。それらはひし型に隊列を組み前進する。だが、それはお世辞にも見栄えがするものではなかった。相手高校の凄まじい戦力に比べると、この高校は赤子同然だった。

 

「それでは早速、作戦行動に移りたいと思うであります。 『ヌルヌル作戦』開始!」

 

隊長車を除く3輌の戦車が散り散りに行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡って2ヶ月前。1人の少女がガラス越しに空を眺めていた。

 

「本日も、晴天なり……」

 

 長い黒髪が印象的な少女はふとそう呟く。と、突然吹いた風が彼女の髪をかき上げた。

 

「きゃあ!」

 

 思わず少女は声を上げた。かき上げられた黒髪は、ゆっくりゆっくり元の位置へと戻っていく。

 

「大丈夫、池田愛生(あき)ちゃん?」

 

 と、()()が少女の名字を口にした。その声は甲高く、いわゆるアニメ声と呼ばれるものだった。池田愛生と呼ばれた少女ははっとして()()のほうに顔を向ける。

 

「せ、生徒会長!?」

 

 そこには生徒会長の仙台舞と副会長の清水よし子、そして広報係の長野皐月(さつき)が立っていた。愛生は思わず飛びのいてしまう。3年生であるはずのこの学校の生徒会の面々が、なぜ2年である自分のクラスにいるのか分からなかったからだ。

 

「そんなにビックリすることないでしょ?」

「い、いや……。 だ、誰だってビックリしますよ、いきなり目の前に生徒会長が現れたら!」

「んーー……そかな?」

 

 舞はすっとぼけた表情を見せる。

 

「んでさ、ちょっと頼まれてほしいことがあるんだけどさ……。 いいよね?」

「え……?」

「いやーー、ここじゃなんだからさ、放課後に生徒会室に来てよ?」

 

 愛生には嫌な予感がした。わざわざ生徒会室に呼んで話をするということは厄介事に巻き込まれる前振りだ。少なくとも、彼女の経験上ではそうなのだ。

 

「じゃ、よろしくね!」

「あ、あの……」

 

 と、愛生が止める間もなく生徒会のメンバーはその場を立ち去って行った。後に残されたのは、どんな話をされるのかを必死に探ろうとする少女の姿だった。

 

 

****

 

 

 生徒会室は学校の一番奥にある。一部の生徒しか立ち入りは許可されておらず、そのすべては謎に包まれている。

 愛生が部屋に入ったとき、舞はお気に入りのソファに腰かけていた。

 

「あの……話というのは……?」

「まあまあ、とりあえずそこ座りなよ?」

 

 と、舞が指さしたのは無機質なパイプ椅子だった。愛生は大人しく腰を下ろす。

 

「戦車道、やらない?」

「え? うわぁ!」

 

 不意にそう言われたので愛生は危うく椅子から転げ落ちそうになった。が、舞はそれをただ見ているだけだった。

 

「愛生ちゃんってさ、『池田流』の一人娘なんだよね?」

「え、えと……それは……」

「知ってるよ? 戦車道の家元だった『池田流』の一人娘・池田愛生……」

「あ、あの……」

「数年前までは『東は島田、西は西住、北と南は池田流』って言われてたのにねぇ。 いつからか勢いは止まって……」

「ちょっと待って下さい!」

 

 話を止めない舞に愛生は思わず声を上げた。

 

「私、戦車道はやりたくありません!」

 

 愛生が言った一言に舞は少しばかり驚く。

 

「やりたくない? どして?」

「それは……戦車道は二度とやらないと決めたからです!」

「あのさ……それ、理由になってないからね?」

「と、とにかく……やりたくないんです!」

「それは、自分がヘマしたから?」

「……!」

 

 愛生は思わず息をのんだ。

 

「どうして……それを……?」

「知ってるよ? 確か、5年前だっけ? 格下相手との練習試合のときに、愛生ちゃんの指揮ミスで仲間が危険にさらされた。 で、『池田流』の信頼はガタ落ち。 愛生ちゃ

んは責任を感じてそのまま逃げ出した。 これで合ってるよね?」

「そ、それは……」

「でも、それは過去でしょ? 過去は過去ってことでさ、もう決着つけてもいいんじゃないかな?」

「決着……」

「あと、戦車道やってくれたら、かまぼこ1年分を……」

「ふざけないでください!」

 

 愛生は再び声を上げた。

 

「いきなり呼びかけて、いきなり戦車道に誘って、人の言うこともろくに聞かないでどんどん話を進めようとして! いくら生徒会長でも横暴すぎます! 私は絶対に戦車道をやりたくありません! 失礼します!」

 

 それだけ言うと、愛生はドアを勢いよく開けて廊下に飛び出した。さすがの舞も、しまったといった表情を見せる。

 

「ちょっと……まずかったかなぁ?」

「会長は話をすっ飛ばし過ぎなんですよ」

 

 と、どこからか副会長のよし子が現れた。

 

「しょ、しょうがないだろ……。 こうでもしないと、愛生ちゃんやってくれそうにないしさぁ……」

「今のでも十分にやってくれそうにありませんが?」

「ハハ……確かに……」

 

 呑気に笑う舞によし子は呆れるのだった。

 

 

 

 

 


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