狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜 作:三月時雨
「光がなくて、真っ暗な部屋。わたしは、そこに一人いて‥‥。周りにはお気に入りの家具とか小物が、並んでいるんだけど、わたしは‥‥どこか寂しくて、わたしは独りなんだって思うと、何でだろう‥‥‥胸がつぶれるくらい、苦しくて‥‥‥‥わたしは泣いているの。そんな夢」
篠宮さんは片手で自分の顏を覆う。
「………そうだったんだ…」
「あんなに嫌な夢は、久しぶりだと思う。夜の山の中に、誰かと触れ合わずにいる‥‥孤独とか‥‥‥‥真っ暗な場所で遠くの山を、眺めてる畏怖感や‥‥恐怖でも‥‥‥‥比べられないくらい‥‥‥‥。ヤダな‥‥‥‥こんな風に、思うなんて‥‥‥‥‥」
‥‥‥ねぇ、桐原君は、‥‥‥どうして、いなくならないの。わたしと一緒にいてくれようとするの」
質問していることが理解出来ずにぼくは篠宮さんのことをじっと見つめる。
「‥‥聞いてる?」
「あ、うん………」
「じゃあ、どうなの?」
篠宮さんの目を見て嘘や中途半端なことを言ってはいけないと分かった。
ぼくが、篠宮さんと一緒にいる理由……。
初めの頃、篠宮さんは、昼ではぼくのことを避け、夜では罵り、早く目の前からいなくなれと叫んできた。
それでもぼくが毎晩一緒にい続けたのは、それは篠宮さんに言わないといけないことがある気がしたからだ。
頭の中の霧のかかったあの場所。ぼくはその言葉を伝えないといけない。そうぼくの直感が言っていた。
「それは、ぼくが篠宮さんと一緒にいないといけない気がするからだよ」
ぼくが霧の中の言葉を思い出すためにも。そして、それを言ってぼくは………。
………あれ、何だっけ? 言ってぼくは何をしたいのだろう? たしか、ぼくはこのことをあの日学校で決心したんだけど……。
現実世界の記憶が朧げではっきりしない。勿論、夢から醒めれば思い出せるんだけど、また寝てしまうと忘れてしまうから困ったものだ。ぼくが桐原正也という名前であることは間違いない。それはこの世界でも現実世界でも。なのに、二つの世界は隔てられてはいないが、完全に繋がってもいない。こっちでもあっちでもぼくは同一人物なのに、こっちであっちのことが思い出せないのは実に気持ち悪かった。
う〜んと、何だっけ? 思い出そうしても、うんともすんともしない。篠宮さんは頭を抱えるぼくを見て鼻を鳴らした。
「‥‥‥バカみたい。理由になってないし、それに、わたしと一緒にいたいなんて」
それからプイッとそっぽを向いてしまった。
「もういい。また寝る」
「はいはい、分かったよ。時計はないけど後で起こせばいいんでしょ?」
ぼくは思い出すことを放棄して相槌を打つ。
「そう」
「それと、もし化け物がやって来たりしたら」
「うん、その時は、頼んだからね」
篠宮さんは呟くと横になって動かなくなった。
寝息は………立てていない。
ひょっとしたら寝たフリだったりして。
そうだったらいいなと思いながら、ぼくは篠宮さんを起こすまでまた向こうに広がる緑を眺め出した。
以上、物語も中盤になってきた第4章でした。
次は昼サイドになります。