狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜   作:三月時雨

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第30話

「ちょっと‥‥考えさせて‥‥」

「なら、正面の扉の先にある一番手前の客室をつかうといい。鍵もかけられるし、ゆっくり考えて」

 篠宮さんはコクリと頷く。それからぼくに「ごめんね」と言うと、小瓶を握りしめたまま扉の向こうに消えていった。

 

「ぼく、何か悪いこと言っちゃいましたかね?」

 奥で部屋の扉がバタンと閉じる音がした。

 

「大丈夫だよ。ちゃんと伝わってる。夕佳さんだって君の気持ちは分かってるから。夕佳さんは今すごく不安定なんだよ。だからこそ夕佳さんは迷ってるんだ」

 青年はぼくの肩をポンと叩いた。

 

「でも、ぼくにはまだ篠宮さんに言わないといけないことがあると思うんです。どうしても思い出せないんですけど、何か大事なことを。それを言わなくて、ちゃんと伝わってるんでしょうか」

 正直、本当に言いたかったことかも分からないまま言ってしまって良かったのだろうか。ぼくが不安げな顏をしていると、青年がぼくの前でニコリとした。

 

「そんなこと気にしててもしょうがないだろ。何を言うのが正しいなんて誰にも分からない。それに君はまだ夕佳さんと一緒にいられるよ。それを言う機会がまだ来てないんだろ? だから安心しな」

「……本当にそうですかね?」

「そう思えばいいんだよ。焦らなくても辛抱強く待っていればその機会はやって来る。そう思ってる方が気が楽じゃないか。どうせその機会っていうのは君の勇気なんだから。全ては君次第。まぁ、夕佳さんが選ぶまでしばらくはここでゆっくりしていって。夕佳さんの隣の客室がまだ空いている。足りない物があったら呼んでくれ。私は自分の部屋にいるから。さっき小瓶を取りに入った部屋だよ。じゃあ、ごゆっくり」

 

 青年はそう言い残して部屋を出ていった。

 

 夢の中なのに妙に的を突いたこと言ってくるよなぁ…………。

 青年の背中を見つめながらぼくは割と失礼なことを思った。

 

「勇気…………」

 

 ぼくは小さく口に出してみる。不思議と頭から離れない。あながち青年の言っていることも間違っていないのかもしれない。

 今のぼくには勇気を持って篠宮さんに何か言う図が想像出来なかった。

 どうしたら想像出来るようになるんだろう? 足りないものは勇気だけじゃない。ぼくが勇気を持つのに必要なものがぼくにはない。

 それは、何だろう?

 ぼくはもう一度頭のあの場所を覗いてみる。霧はかかったままだった。けれど、さっき見たときよりも霧が薄くなっているような気がした。

 なら、これでいいのかもしれない。霧が一向に晴れなくても、篠宮さんに代わりの言葉を言えば、そうすれば………。

 ぼくは頭の中で剣を振り回し続けた。




 以上、第6章でした。話も後半戦に入ってきました。
 次は学校の話です。

 余談ですが、今更になってこの作品のタイトルがとあるコミックのタイトルと似ていることに気付きました。しかも、主人公とヒロインの名前も似ているというビックリな話。
 偶然にしちゃ出来過ぎのような気が…………。
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