狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜   作:三月時雨

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第33話

 グルグルと思考を巡らしていたところで、聞きたくなかった声がした。おずおずとしたその声は蚊の羽音とは程遠かったが、どうして今この声を聴かないといけないのだ。

 

 わたしは振り返って、それからニコりと作り笑いを浮かべた。

「どうしたの、桐原君? あ、でも、わたしこれから図書室に行かなきゃいけないの。放課後も用事があるし。ゴメンね。また今度の機会じゃ駄目かな?」

 

 わたしと桐原君が現在微妙な関係になっていることを知っているのはクラスの中でもほとんどいない。勘付いているのはしよりくらいだろうか。どこで誰が見ているのか分からない。

 

 桐原君はわたしの笑顔を見てわたしに哀しみの眼差しを向けてくる。夢の中では何度も見た顔。表情は崩さなかったものの、わたしは苛立ちを覚えた。彼はわたしを憐れんでいるかのような顔でわたしをじっと見つめていた。

 

「……今がいい。時間はかからないから」

「ホント忙しいから明日以降にして」

 桐原君は手を頬に当てて一瞬迷った仕草をした。ただ、それは一瞬だけだった。

 

「嫌だ。先延ばしにしたくない。あの時から随分経ったけど、ようやく決心がついたんだ。篠宮さんのためにも」

「勝手に決めつけないで」

「そうだけど……。でも篠宮さんはこのままでいいの?」

「別に」

「嘘つかないで」

「嘘じゃない」

 

 とっさにわたしは嘘をつく。

 

「だいたい、このことは桐原君には関係ないでしょ」

「関係あるないの問題な訳? 人が心配しているのに」

 

 桐原君がもっともらしいことを言ってきて、わたしはじろりと睨み付ける。心配してくれているのは疑わないが、わたしは別に他の人の心配なんて求めていない。それなのにわたしを心配してくる桐原君は邪魔臭かった。

 

「相手を間違えてるわね」

「そんなことない」

「それはわたしがムサ苦しいバリバリの運動部男子だったとしても言える? 心配しているのはわたしが女だからじゃないの?」

「まさか」

 口では否定するが、桐原君は言いよどんだ。いい気味だとばかりにわたしはふんっと鼻を鳴らした。

 

「ほらね。結局わたしがオスの異性だからでしょ。色じゃない。そういうところ男っぽいよね。桐原君も。シャツ越しの胸とかミニスカートから見えそうで見えない下着に欲情してる」

 桐原君の顔がカッと赤くなる。挑発で簡単に怒り出すのが可笑しくてわたしは内心せせら笑った。

 

「どうせ階段上がってる女子とがジロジロ見てんでしょ。前から薄々気付いてたよ。桐原君がそういう人だって」

「勝手決めつけるなっ!! それに、ぼくがどんな人であろうと今の話に全然関係ないじゃないか」

「関係ない!? 大ありでしょ。そんな人からの助けなんてお断りよ」

「ふぅん……。なら、他の人ならいいんだ」

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