狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜   作:三月時雨

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第38話

 授業一つで45分。それが3つで135分。休み時間も入れれば2時間半ってとこ? 映画1本が見られる時間をわたしは保健室で過ごした。先生は心配そうな顏でどこが悪いのとしつこく尋ねてきた。お腹が痛いと言っても具体的にどんな風になのか、お腹が痛くなった理由になりそうなものがないのか知りたかったらしい。わたしは適当に答えてベッドで横になり毛布にくるまっていた。結局、本当のことを言わないままクラスの保健委員が持ってきてくれた鞄を持って保健室を出て来た。絵の下書きも終わってないのに……。はぁぁっとため息をつく。

 

 目の前にはトイレの白い個室の扉。焦点がきっちり定まらない目でわたしはそれを眺める。当然だが、トビラはずっと白い。何もせずただそこに白いままあった。

 

 お腹の痛みは収まらない。そうでもなければここにはこなかったのだが、自分の嫌な部分も吐瀉物として吐き出せる訳でもない。壁に寄り掛かると頭がゴツンとぶつかった。

 

 雨音が聞こえてくる。今頃アスファルトの道路は水たまりだらけだろう。雨ですっかり気温が下がり、丈の短いスカートとハイソックスではどうしようもないむき出しの脚が夏前とはいえ寒さに悲鳴を上げていた。

 

 しよりはどうしてるんだろう……。わたしは頭の片隅で思った。放課後にクレープ食べに行くはずだったのに。終礼もとっくに終わっている。

 携帯を見れば何かメッセージが入っているかもしれない。例えば、『今どこにいるの?』とか『先行って待ってるからね』とか。ただ、どうであれ今のわたしには一緒に食べに行く気も、行く気力もなかった。

 

 今日は、帰ろう……。しよりに体調が急に悪くなったから先に帰らせてとでも送っておかないと……。

 

 わたしは鞄から携帯を取り出す。しかし、画面を明るくしようとしたところで止まった。しより達から何かメッセージが入っているのかと思うと、スイッチが押せなかった。

 

 電車に乗って一息ついてからでもいっか……。

 わたしは自分に言い聞かせ、携帯を鞄にもう一度しまうとのろのろとトイレのトビラを開けた。トイレには誰もおらず閑散としていた。

 

 小窓から降り続く雨が見える。この時になってわたしは教室に傘を忘れていたことに気が付いた。わたしは歩く気になれない自分を鞭打つ。自然とうつむきがちになってしまう。

雨のせいで運動部が室内練習をしていた。そのガヤガヤとした声が隔てられたその先にあるように聞こえてくる。もう慣れたけど……。時々こういう感覚になるのだ。周りに見えるもの、聞こえてくるものが全部自分とは別世界にあるように思えてくる感覚。例えば、教室でわたしに向かってのはずなのに、わたしじゃなくて別の誰かに話しかけているみたいに聞こえてくる。そういった時はわたしが仕方がなく代わりに反応しているみたいに思えて仕方がない。

 

 わたしは階段を1段づつ上がる。遅刻ギリギリの時は階段なんて1段飛ばしで上がれるのに。いつもよりも足が重く、それに階段も長かった。

 

「えっ? マジで?」

 踊り場来た所で自分の教室から声がすることに気付いた。とっさに足が止まる。

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