狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜 作:三月時雨
ぼくは篠宮さんを励まそうとして語りかける。
「あるよ。きっと」
「………それ、さっきも聞いた」
「うん、さっきも言った」
「でも、夢はご都合主義じゃないんだよ」
「大丈夫。いつか見つかるよ」
ぼくは楽観的な言葉を口にする。ぼくは心からそんなこと思ってはないけど、そう信じている方がぼくの、そしてそれ以上に篠宮さんにとって気が楽になるんじゃないかなと思ったからだ。
でも、こんなこと言ってまた篠宮さんがイライラした口調で言い返してきたりして…………。
言ってからぼくはそんな心配をしたが、篠宮さんの口調は予想していたのとは違っていた。もっと哀しみの混ざった口調だった。
「いつかって、いつのこと?」
「いつかだよ」
ぼくはとっさにそう返した。
「そんなの信じられないよ。今日も明日もその『いつか』じゃないかもしれないよ」
「だけど、明後日にはやって来るかもしれない」
「明後日も今日と明日と同じかもしれないよ」
「うん、そうだね…………。いつまで続くと思う?」
「さぁ。そんなこと知ってる訳ないでしょ? もし、知ってたら」
「知ってたら?」
「毎日指折りながら日にち数えてるよ」
篠宮さんは自分のやり切れなさを吐き出すように言った。それはこの森を抜けられないのではということへの怯えなのかもしれないとぼくは思った。
しかし、そんな篠宮さんのかよわげな姿はすぐに消え、篠宮さんはぼくを睨むように見た。
「何? その顏。当然でしょ? わたしはさっさとこの夢からも、桐原君と毎晩一緒にいなきゃいけないことからも解放されたいの。別におかしなことではないでしょ?」
「おかしなことだよ。だって、篠宮さんだって何だかんだでぼくと一緒にいることに同意して……」
「おかしくなんかないよ」
篠宮さんはぼくの言葉を遮り、早口で続けた。
「最初の夜に言ったでしょ? 『桐原君と一緒に行動してもいいけど、それは単にわたし一人じゃ抜け出せそうにないからで、森を抜けれたら、その時は一緒にいるのを止めて別れるんだから』って。わたし達は一つの共通の目的があってただ利害が一致しているだけなの。わたし達は仲間じゃないの」
ぼくは返す言葉がなかった。いや、本当はあるはずなのだ。ただ、頭の中の隅のある場所に濃い霧がかかっていてはっきりと周りの景色が見えないのだ。手元の剣を振り回しても霧は晴れない。無駄な足掻きでしかない。しかも残念なことに、目の前の巨大な扇風機があるのだが、故障しているせいか動かないのだ。直す方法を知らないぼくはただ剣を振り回すしかなかった。
篠宮さんはおもむろに立ち上がり、「薪を取ってくる」、と言ってぼくに背を向けて歩き出した。いつもはぼくが薪を拾いその後火を付け、篠宮さんが食材を探しに行っていた。
もしかしたら、篠宮さんはこの場にいるのが気まずいのかもしれない。そう思っていると、篠宮さんは突然立ち止まり振り返らないまま、
「……本当のことを言うとね、桐原君には感謝しているんだよ。お互いのことは干渉しないことにするって言ってた人が言う言葉じゃないとは思うし、さっきはあんな風に言ってたんだけど‥‥‥‥。でも、毎回毎回魔物が出た時に助けてくれたりくれてこれでも感謝はしてるんだよ。でも、それとこれとは違うの。感謝はしてるんだけど、わたし達は仲間じゃないの。それは、今もこの先も」
篠宮さんは一語一語ゆっくりと、まるで自分自身に言い聞かせるように言うと、そのまま薪を拾いに行ってしまった。
夕日の明かりはまもなく森の木々に隠れて消えてしまいそうだった。だんだんと視界が暗くなっていく。そうして完全に暗くなる前に、とぼくも食材を探しに行った。
以上、第2章でした。次は3章です。なんと、昼の話です。