狼少女の夢日記 〜ぼくらはあの時同じ月を見ていたんだ〜 作:三月時雨
「そういうもんなのか‥‥‥‥そうだね。連絡してみるよ」
「そうしてあげて。きっと喜ぶから。でも週末はどうする? 2人だけでも遊ぶ?」
「仕方がないね。沙菜とはまた今度会えばいいし」
今度っていつなんだと自分でも突っ込みたくなる。インクの赤色は色あせやすいという話をどこかで聞いたことがある。大事に大事に思い出を仕舞ったアルバムも毎日太陽の光に当てられてちょっとずつ色あせていく。そしていつか昔を懐かしんでアルバムを開いた時には写真の赤色はもう赤色でなくなっているのだろうか。最初の時にどのくらい赤かったのか思い出す術もなくしてしまって‥‥‥‥‥‥‥。
歩く速度が遅いせいで、横を歩く生徒がわたし達を追い抜いていく。
みんな歩くの速いよなぁ。
誰かと話ながらだからそりゃそうだけどと思っていたところ、わたしは一人の生徒が視界に入ってきてドキッとした。
桐原君だ………。
桐原君は車道を挟んだ向かい側の歩道を歩いている。うつむきがちで横を見もしない。わたし達には気付いていないようだった。
「あ、あそこに桐原君がいる」
目ざといしよりはわたしにそう囁いた。
「………どこに?」
「ちょうど真横だよ。反対側の歩道の」
「見つからないよ」
「ほら、今薬局の立て看板を通り過ぎたリュックをしょってる」
「………あぁ、いるね。だけど、そろそろ急がないと。学校に間に合わないよ」
「そう? まだ大丈夫だよ」
「でも、急ぐにこしたことはないから。それに遅刻は一度もしたくないし。急ごう、しより」
わたしは早口で言うと、しよりの腕を掴んでグイグイと引っ張る。
「ねぇ、夕佳ってば!」
しよりが何か言いたがってそうだがわたしは構わず引っ張り続ける。追い抜かれる身だったのが追い抜く身に。駆け足気味でそのまま学校に行き、教室の入口の扉を開ける。いつもなら15分はかかる駅からの道のりがコンビニでの待ち時間を入れても今日は3分速かった。
「しより、おはよ。それに夕佳も」
「うん、おはよ」
わたしは笑顔で挨拶した。
「おはよ〜、夕佳ちゃん」
「夕佳としよりんだ。おはよう。どうしの。2人とも息を切らして」
「え? うぅんと、学校に遅刻しちゃいそうだったから」
わたしはえへへと笑う。そしてようやくしよりの手を離した。しよりはそのことに何も言わず黙っていた。
「まだ後7分はあるよ。マジメだよね〜」
「ホント、マジメ。遅刻くらいしちゃっても別にいいのに」
「…ま、まあね」
「夕佳って「ザ・優等生」って感じだもんね」
「優等生じゃないってば」
「雰囲気がまずそうなの」
「それね。昨日返ってきた英語はクラス1位だったんでしょ?」
「そうだけど………」
「ほら、やっぱり優等生じゃん」
「だよねぇ」
そんなたわいもない会話がしばらく続いた。ケラケラと笑い合える、心が落ち着く時間。ただ、しよりは仏頂面のままだった。一通り終わった頃、1人の女の子がそのことに気付いて言った。
「あれ、しよりはさっきから何でずっと黙っているの? しかも考え込んだ顏しちゃって」
「あ、いや……1限の英語の和訳どうしようかかなって」
しよりの言葉にわたしは、はたと思い出して、肩にかけた鞄のファスナーを開いてノートを取り出す。
「ごめんごめん、忘れてた。はい、ノート。授業始る前に返してね」
「うん、ありがと……」
しよりは歯切れの悪い口調で言うと、わたしのノートを持って自分の席についてしまった。