Charlotte ~時を超える想い~ -after story-   作:ナナシの新人

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※前作と同じく基本主人公視点。生徒会活動日誌は奈緒視点になります。
※性格や設定などは引き継いでますので、原作とキャラの性格が若干違います。


Episode1 ~家路~

(しょう)くーん」

「はい? どうしました?」

 

 空から降り注ぐ日差しが本格的に厳しくなった、八月の初旬。

 寝室のモニターに映し出される数字の波を眺めていたところへ、リビングに繋がるドアが開き、名前を呼ばれて振り返る。

 そこには、最愛の女性。エプロン姿の友利(ともり)奈緒(なお)が居た。

 綺麗な大きな瞳、見慣れたツーサイドアップ......ではなく、ポニーテール。暑いから、と最近は、ポニーテールやアップにしていることが多い。

 様々な分野で影響力を持つ多くの人たちの協力の下、世界中の特殊能力を消滅させた後、久方ぶりに日本へ帰国した俺は、彼女の兄で恩人である一希(かずき)さんが、かつて入院していた病院近くの岬で、彼女との再会を果たした。

 再会当初はまさか、一緒に暮らすことになるとは夢にも思ってもいなかったけれど。彼女の母親の許可を得て、こうして一緒に暮らすことになって、もう、二週間近くになる。

 一緒に生活していると相手の嫌なところが見えてくる、なんてことを聞くけど、むしろ以前は気がつかなかった、新しい魅力を発見できて、毎日が新鮮。

 ただ、一つだけ不満あるとすれば、もっと甘えて欲しい。

 そう想ったきっかけは、一緒に暮らすことが決まった翌日のこと。奈緒(なお)の母親が、生活の援助を申し出てくれたのだが、彼女は、自分のわがままだからと申し出を断り、アルバイトをすると言い出した。だけどそれは、全力で止めた。校則違反だし、何より学業の負担になることはさせたくなかった。にも関わらず、最初に家事分担を決める話をした時「アルバイトを認めてくれないなら。家事は、あたしにさせてください」と言って決して引かず、結局、最後は根負けして押し切られてしまった。

 だからこそ、絶対に家計のことは心配させたくないし、させるつもりも無いし、その必要も無い。

 何故なら俺は、伝説の相場師唯一の弟子なのだから。

 

「電話でーす。隼翼(しゅんすけ)さんからだったんで、出ちゃったんですけど」

「ぜんぜん、構いませんよ」

 

 十二時前、昼食の用意をしてくれていた奈緒(なお)は、リビングのテーブルで充電していたスマホを持ってきてくれた。別に、見られて困るようなこともない。身元や所在が漏れる可能性がある通信機器の類いは、いっさい持たなかったし、所持品等も帰国前にすべて処分してしまった。そんな訳で、電話帳にも両手で足りる程度の数しか登録されていない。スマホの扱いも、まだ不慣れだったりする。

 

「はい、宮瀬(みやせ)

『よう、ご無沙汰だな』

「ええ、二日ぶりですね。それで、何か用事ですか?」

 

 実のところ、帰国した日に彼と再会してから、ちょくちょく会っている。と言うのも、星ノ海学園と、奈緒(なお)が通う国立大の附属との学校交流の打ち合わせで隼翼(しゅんすけ)は、附属の学校へ最近よく訪れている。学校から近いということもあってか時々、顔を出しにやって来る。

 なんだかんだ気にかけてくれているみたいだ。あるいは、奈緒(なお)が作る昼食が目当てなのかも知れない。

 

『週末、プールに行くぞ。水着の準備しておけよ』

「......は?」

 

 隼翼(しゅんすけ)の鶴の一声で、有宇(ゆう)熊耳(くまがみ)を始めとした星ノ海学園の生徒会一同も参加予定の、プールへ行くことになった。みんなとも久しぶりの再会。

 

「う~ん、どれにしよっかな~? どう思いますか?」

「えっと......」

 

 少し目のやり場に困る。ショップは、女性と女性物の水着で溢れかえっている。隼翼(しゅんすけ)の提案により、週末都内の室内プールに行くことになったのは構わないないし、水着を持っていないためショップへ来たのまではいい。しかし、これは想定外もいいところ。

 

「これ、どうですかっ?」

 

 真剣に水着を選んでいた奈緒(なお)が持ってきた水着は、チューブトップで青と白のストライプビキニ。少し大胆な水着だった。彼女も、いい機会だからと水着を新調することにした。どことは教えてくれなかったけど。去年までとは、サイズが合わなくなったらしい。

 

「似合うと思いますよ」

「うーん、なんか、普通の反応っすね」

 

 返事が思っていたのと違ったのか、どこか不満そうに水着をハンガーラックに戻した。そしてまた、物色を始める。真剣な表情(かお)で選んでいる彼女は、眺めているだけで微笑ましい。

 

「ん? なんすか?」

 

 視線に気がついたのか、小さく小首をかしげた。

 大きな瞳が、俺を捉える。

 

「可愛いなって思って」

「どれですか?」

 

 隣に来て、聞いてきた。どうやら、水着のことだと誤解させてしまったらしい。

 

「水着のことじゃなくて。真剣に選ぶ、奈緒(なお)さんが」

「......真面目に手伝ってください」

 

 目を細め、小さくタメ息をついた奈緒(なお)は、視線を水着に戻す。仰せのままに。彼女の隣へ行く。

 

「気に入った物は、見つかったんですか?」

「う~ん、いくつか」

 

 候補はあるみたいだが、どれも決め手に欠いているらしく迷っているみたいだった。三種類の水着を、ハンガーラックから選んで棚の上に並べて置いた。

 

「どれが、いいと思いますか?」

「どれも似合うと思いますよ」

 

 真面目に答えろ、と言わんばかりに目を細めて非難の視線を向けてくる。正直、どれも似合うと思ったのは本当なんだけど。

 

 

「はぁ、じゃあどれがいいか、お互い選びましょう。で、一緒に指を差す、どうっすか?」

 

 提案に頷いて、三種類の候補に改めて目を通す。どれも、特徴のある水着。先ほどの水着と色違いの、オレンジ色と白のストライプビキニ。フリル付きのピンクのビキニ。ちょっぴり大人びた、黒いビキニに膝下丈のパレオ。これ、好きそうだなと、候補の一つに目が留まる。

 

「決まりましたか?」

「あ、はい。奈緒(なお)さんは?」

「あたしも決まりましたっ。では、せ~のっで指しましょう」

 

 候補の水着を三つを少し間隔を開けて並べて――よしっと、奈緒(なお)は軽く気合いを入れた。

 

「じゃあ、行きますよー? 心の準備はいいっすか? せ~のっ!」

 

 彼女のかけ声に合わせて、選んだ水着を指差す。奈緒(なお)を見る。彼女は、どの水着にも指を差していない、選んだのは俺だけだった。

 

「これにしまーすっ」

 

 笑顔で言うと、他の水着をラックに戻して、俺が選んだ水着を持って足早で、会計へ歩いていく。やられた。最初から、これが狙いだったんだ。上機嫌で前を歩く奈緒(なお)の後ろを付いていくと、ふと、彼女のスカートが不意に揺れた。

 

奈緒(なお)さん」

「ん? なんすか?」

 

 数歩先を歩いていた奈緒(なお)は立ち止まって、振り向いた。

 

「もう少し、ゆっくり歩きましょう。えっと、その、下着が――」

「......いや、あたしの下着なんて需要ないっすから。はっはっは~」

 

 まったく感情のこもっていない声。なんだか、怒っているようだ。けど、女性物のショップとは言え、俺のように連れられている男性客も少なからず居る。

 

「ありますって。少なくとも、俺には」

「......前は、興味なさそうだったクセに」

 

 小さな声だったが、辛うじて聞き取れた。下着に関連する記憶を探る。下着について話した機会なんて、“念写”の能力者の時くらいしか思い当たらない。あの時のことを深く思い出してみる。そう言えば、能力の活用法を考えていた時、彼女も撮られたようなこと言っていたような......。

 

「どうしたんすかー?」

 

 ジト目のまま、聞いてきた。

 

「......“念写"で、下着姿を撮られたって言ってたのを思い出したら、ムカついて来て。他の男には、見られたくない」

「ハァ~、そう言うことなら仕方ないっすね」

 

 大きなタメ息をつきながらも、どこか嬉しそうに隣に来て「これなら早く歩けないっしょ?」と腕を組んで来た。髪の匂いなのか、甘い香りがする。それと肘の辺りに、温かく柔らかな感触。

 

「さぁ、行きましょうっ」

「あ、はい」

 

 このままの状態で会計を済ませる。店員の視線を感じた気がしたが、気のせいだと信じたい。次は。男物の水着売場へと向かった。組まれた腕は、そのままで。

 

「次は、あなたの水着っすね」

「適当なのでいいですよ」

 

 特に、こだわりはない。

 

「ブーメランにしますよ?」

「......すみません、無難な水着にしてください」

 

 素直に頭を下げる。彼女のチョイスで、膝くらいまであるロング丈の水着。それとお揃いで、白いパーカータイプのラッシュガードを購入。買い物を終えて、ショップを出る。最寄り駅へ歩いていると、前方から一組の男女が歩いてきた。二人は、見覚えのある顔で。とても懐かしい顔ぶれだった。

 

「明日のプール、楽しみなのですー」

「そうか?」

「だって! ゆさりんに会えるんだよっ!」

「いや、僕はほぼ、毎日会ってるし」

「むぅーっ、有宇(ゆう)お兄ちゃんばかりズルいのですー」

 

 次第に距離が縮まり、人混みの中ですれ違う。

 

「今年のあゆは、ビキニに挑戦でござるっ」

「いや、引っ掛からないだろ」

 

 兄妹は、俺たちに気づくことなく通り過ぎて行った。

 

「気がつかなかったですね」

「まあ、わかってたことっす」

 

 そう言いながらも彼女の表情(かお)は、少し寂しそうだった。乙坂(おとさか)兄妹の後ろ姿を見ながら俺は、とある女性のことが頭をよぎった。上手く引き継げなかったのか? なら、彼女も......。

 

「どうしたんすか?」

「いえ、なんでもないです。行きましょう」

「女っすかー?」

 

 図星を突かれた。緊急事態だったとはいえ、柚咲(ゆさ)を泊めた時も思ったけど、勘が鋭い。さて、どう答えたものか。やましいことではないのだけれど、少し返答に迷っているたところ、呆れ顔でタメ息をつかれた。

 

美砂(みさ)さんのことしょ?」

「......はい」

 

 彼女も、俺と同じことを思っていたみたいだ。乙坂(おとさか)兄妹、特に繋がりの強かった有宇(ゆう)に記憶が無いということは、彼女――黒羽(くろばね)美砂(みさ)も、記憶を引き継げていない可能性が高い。

 別れの日、彼女の死の原因であるバイク事故を阻止するため、原付でのニケツは絶対にしないようにと念を押した上で約束してくれた、彼女のことが気がかりだった。

 

「隠す必要ないっしょ? あたしも、気になりますし」

「ですよね」

「はい、そうです。ですので、負い目に感じる必要はありません」

奈緒(なお)さんは、星ノ海学園へ行ったんですよね?」

「はい。でもあの時は、体調が悪くて。乙坂(おとさか)さんと目時(めどき)さんが居たのは覚えているんですけど」

 

 星ノ海学園に訪れた時、奈緒(なお)はまだ、記憶を取り戻していなかった。そのため強烈な既視感と倦怠感に見舞われて体調を崩していたとのこと。

 

隼翼(しゅんすけ)さんに、聞いてみましょうか?」

 

 スマホを取り出す。明日のプールには、隼翼(しゅんすけ)の組織の面子と、旧星ノ海学園生徒会の面子が集まると言っていた。現役超人気アイドルの柚咲(ゆさ)が居るため、日焼けは厳禁。海ではなく、室内プールになった理由の一つ。

 

「いえ、いいです。明日になれば、わかりますから」

 

 そう言った奈緒(なお)の表情は、少し固かった。

 心の準備が必要なのは、俺も、彼女も同じなんだ。

 

「そうですね。奈緒(なお)さん」

「なんすか?」

「夜は、外食にしましょうかはて」

「おおっ、マジっすかっ?」

「はい、行きましょう」

 

 少し寄り道をして、住み慣れた街へ。

 かつて居住を構えていた、六本木へと目的地を変更。

 

「やっぱり、ここのピザは美味しいな~っ」

 

 六本木タワー近くのカフェで、運ばれてた来たピザを笑顔で。その姿が、とても幸せそうで微笑ましい。因みに彼女が食べているのは、新作の牛タンピッツァ。以前はなかったメニュー。過去を変えたことで、この世界にも少し変化が起こっているようだ。

 

「牛タン、うっまっ! ん? 食べないんすか?」

 

 目の前の料理に手をつけないのを見て、不思議そうに首かしげた。

 

「食べますか?」

「あたしが食べても、あなたの栄養にはならないっしょ」

 

 なんだか、どこかで聞いたようなセリフだ。

 

「それに明日は、プールへ行くんですから。しっかり食べてください」

 

 念を押されてしまった。彼女の言葉に頷き、冷製サラダパスタを口に運ぶ。うん、美味い。夏にぴったりな爽やかさがある。

 

「美味しいっすか?」

「はい、どうぞ」

 

 答える代わりに、パスタを巻いたフォークを彼女の口元へ運ぶ。少し恥ずかしそうにしつつも口に入れた。

 

「うっまっ! このソースなんだろー?」

 

 メニューを見る。

 

「主にレモンとか、複数の柑橘系の果物を使ってるみたいですね」

「柑橘類の酸味っすか。うーん、ポン酢をベースにして使えば代用出来そうですね。今度、挑戦してみます」

「楽しみにしてます」

 

 少し早めの夕食を食べ終え、神楽坂の駅に着いた頃には日も落ちて、辺りは夜になっていた。繁華街から路地に入り、自宅へ続く道を歩く。東京とは思えない落ち着いた雰囲気の路地、街灯が石畳を照らし、敷居が高そうな老舗料亭の門前では着物姿の女性が、恰幅のいい男性客を出迎えている。学生が、夜にここを歩くのは場違いな感じだ。

 

「この辺りって、すごい落ち着いてますよね」

「そうですね。でも、夜は一人で歩いちゃダメですよ」

「心配っすか?」

「もちろん」

「じゃあ、片方荷物貸してください」

 

 両手に持っている、それぞれの水着の入った袋を片方渡すと、空いた手を手が包み込んだ。彼女の右手の薬指に付いている指輪のひんやりとした感触と、柔らかな手の温かい体温を感じる。

 

「これなら安心しょ?」

「うん、安心」

 

 月明かりの下、手を繋いで、少しゆっくり家路を歩いた。




拝読ありがとうございました。
前作の伏線を回収しつつ、こんな感じで進みます。
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