Charlotte ~時を超える想い~ -after story-   作:ナナシの新人

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Episode10 ~夜空~

 古河ベイカーズとの試合後、俺たちは全員揃って、銭湯へ来ていた。

 

「フゥ、疲れが吹き飛ぶな」

「だな」

 

 風呂場特有のエコーがかかったような声。通常の湯槽よりもややぬるめの炭酸泉に浸かりながら、隣で息を吐いた有宇(ゆう)の言葉に同意して頷く。徐々に体の芯が暖まり、試合の疲れが癒えていくのを感じる。

 

「どうだ? なかなかいいもんだろ」

 

 提案者の秋生(あきお)さんが、頭に白いタオルを載せたクラシックスタイルで、別の湯槽から威風堂堂と歩いて来た。

 

「頼むから、前を隠してくれ......」

 

 少し離れた位置から岡崎(おかざき)が苦言を呈するも、まったく気に止めず、豪快に波を起こしながら湯槽に浸かり思い切り足を伸ばした。

 

「けっ、テメェのブツがチンケだからってひがんでんじゃねーよ」

「いや、別にひがんではないけど。てか、そこまで粗末じゃねーよ。少なくとも、春原(すのはら)よりは」

「僕を引き合いに出さないでいただけませんか!?」

 

 静かな癒やしのひとときが、一瞬で賑やかになった。

 

「あの、右手は?」

「問題ねーよ」

 

 ぷらぷらと、軽く右手を振って見せる。

 試合は、数字だけでいえば、古河ベイカーズよりも上回って勝利を収めた。しかし、内容に関していえば快勝とはほど遠い不本意な結末。

 ツーシームスプリットを捉えたピッチャーライナー、センター前へ抜けようかという痛烈な打球を、グラブを付けていない利き手の右手を差し出して止めにいく暴挙に出た。当然、無事にすむはずもなく、打球をまともに受けた右手を負傷して緊急降板。その後、後続の投手から得点を奪って逆転勝利と、なんとも歯切れの悪い結末に終わった。

 

「そうですか。あれで決着がついたとは思ってませんので」

「上等だ。いつでも相手になってやるぜ」

「もう勘弁して欲しいんだけど。つーか、負けた側が言うセリフじゃないだろ」

「あん? テメェ、(なぎさ)を負けを投手にしたまま引き下がるつもりか? それでも男か!」

「いや、オッサンが残したランナーなんだから、負け投手はオッサンだろ」

「なおさらだな! いつ招集されてもいいようにしておけよ。嬢ちゃんたちにも伝えておけ」

 

 大きくタメ息をついた岡崎(おかざき)は、顔を横に向けた。

 

「で。お前は、さっきから何仏頂面してるんだ?」

「......岡崎(おかざき)。女の子って、やっぱり脱ぐのに時間がかかるんだね。まだ声が聞こえてこないよ」

「ハァ、またかよ。オッサンにヤキ入れられるぞ?」

「仕方ないだろ、男のサガなんだよ!」

「お前なぁ......」

 

 もの凄い呆れ顔で、軽蔑の眼差しを向けている。

 

「クソ! (なぎさ)ちゃんがいるから余裕ぶりやがって! 僕も、彼女欲しいッス!」

「知るかよ」

「まっ、気持ちはわかるぜ」

「オッサンには、早苗(さなえ)さんが居るじゃないか」

「それとこれとは別問題だ。だがな――」

 

 春原(すのはら)の意見にうんうん、と頷きながら同意した秋生(あきお)さんは、じゃぶじゃぶと水面を揺らしながら移動し、ガッツリ肩をホールド。

 

「テメェ! 早苗(さなえ)(なぎさ)の声を聞いて何を想像する気だ!? また因数分解か? ああん!?」

「ひ、ひぃっ! 分解せず自然のままにしておいた方がいいと思いまして。こ、今度は、四色問題の証明を考えたいと思いますっ!」

「なら先ず、グラフ彩色から解きやがれっ!」

「結局、同じような展開かよ......」

 

 話しの内容からして、以前にも似たようなことがあったようだ。

 それにしても――あのふたり、姉妹じゃなくて、親子だったのか。そもそも、この人はいったい何歳なのだろうか。俺たちと同世代の娘が居るとは思えないほど、実に若々しい。

 

「なぁ、四色問題ってなに?」

「ん? 隣り合う図形同士が、同じ色で重ならないように四色だけで塗り続けることが出来るかどうかっていう証明の問題」

「ふーん」

 

 聞いてきた割には、あまり興味がなさそうだ。

 

有宇(ゆう)。お前が知りたいのは、そんなことじゃないだろ?」

「兄さん」

 

 入室してすぐ、熊耳(くまがみ)たちとサウナで耐久勝負を行っていたはずの隼翼(しゅんすけ)が、いつの間にか同じ湯船に入っていた。

 

「本当は、お前だって気になってるんだろ?」

「何を?」

「女湯」

 

 隼翼(しゅんすけ)の返答とほぼ時を同じくして、エコーのかかった聞き覚えのある声が、壁の向こう側から聞こえてきた。

 

『おっ、結構広いですね』

『ですねー』

『なんだ、露天風呂はねーのか』

『周りから丸見えっしょ。前みたいに、山の中じゃないんすから』

 

 奈緒(なお)と、黒羽(くろばね)姉妹の声。

 

『あんたたち、入る前にちゃんと掛け湯なさいよ』

『今回も風子(ふうこ)が一番乗りです!』

『あ! こらっ、走らないっ!』

 

 三人の会話から少し遅れて、古河ベイカーズの女性たちの声も聞こえて来た。

 

「なぁ、岡崎(おかざき)。この壁の向こう側に、女友だちがいるんだよね? どうしよう、僕......興奮して来ちゃったよ!」

「テメェッ! グラフ彩色はどうした!」

「ひいぃっ! す、すみません、問題の意味すらわかりませんっ!」

 

 怒鳴られてヘタレる春原(すのはら)を見て笑いながら、隼翼(しゅんすけ)は、岡崎(おかざき)の隣に移動。

 

「あははっ、岡崎(おかざき)でいいか?」

「ああ。お前は?」

乙坂(おとさか)隼翼(しゅんすけ)。あっちのふたりは、弟の有宇(ゆう)と、宮瀬(みやせ)。よろしくな」

 

 俺たちを指差して紹介。

 

岡崎(おかざき)朋也(ともや)だ。あれは、春原(すのはら)。見ての通りヘタレだ」

「どんな紹介の仕方ですか!?」

 

 存在な扱いを受けて憤る春原(すのはら)を交え、同学年同士の三人で話し始めた。

 

「ところで高城(たかじょう)、どうしたんだ?」

 

 それは、俺も気になっていた。

 今、有宇(ゆう)がかけた言葉通り、高城(たかじょう)は湯槽に入ってからひと言も発していない。と言うより、微動だにしない。湯中りでもしたのだろうか。

 

「気分が悪いんですか?」

「いえ、すごぶる快調です」

「じゃあ何だよ?」

 

 顔は真正面を向いたまま無言でスッ、と女湯の方を指差した。

 

柚咲(ゆさ)さんも、美砂(みさ)さんもデカイっすね』

『いえいえ、奈緒(なお)さんも、スタイル良いじゃないですかー。お肌もすべすべですし』

『......あたしは、もう少し欲しいっす』

『私も......』

『ムダよ。(なぎさ)奈緒(なお)。持ってる人にはわからない悩みだから』

『あゆからしてみれば、お三方ともナイスバディなのです!』

『てゆーか、彼氏いる時点で贅沢なのよ』

 

 なぜだろうか、とても気まずい気分なのは。まるで、開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったかのような感じだ。隣を見ると、有宇(ゆう)もどこか居心地が悪そうな顔をして、両手で掬った湯で顔を流し、わざとらしく、天井を仰いでいだ。

 

「おわかり頂けましたか?」

「いや。まったく、わからないんだが」

 

 正確には、わからないと自分に言い聞かせている、だろう。

 有宇(ゆう)の回答を聞いた高城(たかじょう)は、わなわなと小刻みに震えだした。

 

「なぜ、わからないのですか!? わかろうとしないのですか!? この忌々しい一枚の壁を隔てた向こう側に、一糸纏わぬ天使(ゆさりん)がいるのですよ!」

『ひくなっ!』

 

 魂が込められた咆哮の直後、奈緒(なお)美砂(みさ)の大声が壁の向こう側から男湯中に響き渡る。すまん、高城(たかじょう)。正直今回ばかりは、俺も有宇(ゆう)も引いた。

 

「ど、どうしよう? 岡崎(おかざき)。女湯には今、あの、西森(にしもり)柚咲(ゆさ)もいるんだよね? 僕もう、湯槽から上がれないッス!」

「知るか」

『やっば! そういえばここ、声が筒抜けだったわね。陽平(ようへい)~』

「は、はいっ! 何でしょうか!?」

 

 壁の向こう側から聞こえた(きょう)の声に、春原(すのはら)は背筋を伸ばしてかしこまる。

 

『変な想像したらどうなるか、分かってんでしょうね?』

「は、はい......」

 

 辛辣な言葉に、涙を流がした。

 

「へぇ、光坂も、もうすぐ文化祭なのか。」

「お前たちの学校もか。何をやるんだ?」

「さーな。俺は、生徒会長だから見回り――」

 

 隼翼(しゅんすけ)岡崎(おかざき)は、無視を決め込んで話しを続けている。同い年ということもあってか、会話は弾んでいるようだ。

 

『と、朋也(ともや)くんっ!』

「ん? (なぎさ)か。なんだー」

『よ、呼んでみただけですっ』

「......そうかよ」

「お手本のようなバカップルだな」

「ほっといてくれ」

 

 隼翼(しゅんすけ)に茶化された岡崎(おかざき)は、どこか気恥ずかしそうに俯いて黙り込んだ。

 

(しょう)くーんっ、聞こえますかーっ?』

 

 今度は、奈緒(なお)から俺への呼びかけ。

 

「聞こえますよー」

『うわぁ、ホントに聞こえるんすねー』

「それで、何か?」

『本当に聞こえるのか、呼んでみただけっす』

「......そうですか」

「バカップル」

 

 軽く絞ったタオルで目を覆った有宇(ゆう)は、天井を見上げながら小馬鹿にしたように呟いた。

 

『さてと。そろそろ、髪洗いますか』

『あ、お手伝いまーす』

『ありがとうございます。次は、あたしが手伝いますので』

『微力ながら、あゆもお手伝いいたします!』

 

 黒羽(くろばね)たちだけではなく、古河ベイカーズ女子たち声もまざって、仲よさげな会話が聞こえてきた。どうやらあちらも、既に打ち解けているようで安心した。

 

『あの、(きょう)さん、このお風呂は何ですか?』

『これ? 電気風呂よ』

『電気っ!? 感電しちゃうんじゃ――きゃっ!』

 

 芽衣(めい)の短い悲鳴と共にドボンッ! と、水に何かが落ちるような音。

 

「おい、春原(すのはら)芽衣(めい)ちゃんがまた、(きょう)にイジメられてるぞ? 助けに行ってやれよ」

「いえ、その、まだお風呂から上がれないッス」

 

 苦笑いの春原(すのはら)の背後へ回り込んだ秋生(あきお)さんが、肩越しに覗き込む。

 

「どれ。あれからちっとは成長したか?」

 

 覗き込んだ視線を、とても物悲しそうな表情で背けた。

 

「うぅ、いっそのこと笑い飛ばしてください!」

 

 いつぞや時とは違い、とても賑やかな時間だった。

 サウナから汗だくで出てきた、熊耳(くまがみ)たちと合流。先に上がることを奈緒(なお)たちに伝えて風呂を上がり、受付ロビーを出たところに移設された休憩所で、女性陣が出てくるのを待った。

「お待たせしましたー」

「いえ、どうぞ」

「ありがとうございますー」

 

 女湯の暖簾を潜って出てきた奈緒(なお)に、冷えた牛乳瓶を手渡す。ほんのりと頬が紅く染めた奈緒(なお)からは、普段と違うシャンプーに香りが漂ってきた。

 

「たまには、銭湯もいいですね」

「そうですね。今度、近所の銭湯にも行ってみましょうか」

「おっ、いいっすね」

 

 話をしていると周りにはいつの間にか、全員が集まっていた。各々、水分補給をしながら談笑している。

 だが、秋生(あきお)さんだけは、風呂上がりにも関わらず何故か汗かいていた。それに、息も切れているみたいだ。奈緒(なお)が近くで、秋生(あきお)さんの娘さんの(なぎさ)と話している岡崎(おかざき)に尋ねる。

 

「何があったんすか?」

「なんだ、見てなかったのか。早苗(さなえ)さんを追いかけてたんだよ」

「仲いいんすね」

「あ、ああ......まぁ、そうだな。仲はいいな」

「えへへ」

 

 遠い目をして妙に歯切れの悪い返答、彼女さんに関しては愛想笑いをしている。

 

「全員、行き渡ったか?」

 

 その秋生(あきお)さんが、コーヒー牛乳を片手にみんなを集める。

 

「よーし! 全員いるな。試合は負けちまったが、最高におもしれぇー勝負が出来たと思ってる。お前らと野球が出来たこと、一生忘れねぇ! ってことで、お疲れさん!」

 

 合図に、それぞれ瓶を合わせて乾杯。

 星ノ海学園対古河ベイカーズの一戦は、こうして幕を閉じた。

 

 

           * * *

 

 

 星ノ海学園の最寄り駅で寮住まいの有宇(ゆう)と別れ、神楽坂へ帰って来た。近所のスーパーで、夕食の食材を購入してから帰宅したのは、空も薄暗くなり始めた頃だった。

 

「すぐに作りますので」

「手伝いますよ」

「大丈夫っす、簡単な料理(もの)ですから」

 

 彼女の言葉に甘えて、寝室兼仕事部屋でパソコンを立ち上げる。画面を開くと、何件かメールが届いていた。自動に振り分けられた中から優先順位に高いモノから目を通していると、ノックが聞こえ、奈緒(なお)が顔を見せる。

 

「出来ましたよー」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 スタンバイモードにして、ダイニングテーブルへ向かう。

 

「いただきます」

「どうぞー」

 

 手を合わせ、手料理をいただく。いつも通り、とても美味しい。箸を止めて奈緒(なお)を見ると、機嫌よさそうに食べていた。どうやら、手の方はもういいみたいだ。

 

「もう大丈夫ですか」

「ん? う~ん......」

 

 少し考えてから、箸を置いた。

 

「いたいっすー、お箸も持てないっすー」

 

 左手で右手をさすりながら、演劇部もびっくりな棒読み。

 間違いなく茶番だけど、今日は痛い思いをさせてしまったから、少し付き合ってあげよう。席を立ち、料理をリビングのテーブルへ運ぶ。奈緒(なお)を呼んで、隣のクッションに座ってもらい、箸でおかずを掴んで、彼女の口元に差し出す。

 

「はい、あーん」

「あ、あ~ん」

 

 少し恥ずかしそうに口に入れた、飲み込み終えたところを尋ねる。

 

「次は、どれにしますか?」

「じゃあ、冷やっこをお願いします」

「これは、ちょっと難易度高いですね」

 

 いじわるっぽく、奈緒(なお)が笑う。

 豆腐に薬味と醤油をかけて崩れないように気をつけて運ぶ。

 

「う~んっ、おいしかったっ」

「ごちそうさまでした。片付けて来ますね」

「お願いしまーす」

 

 食器を流しに運んで洗い物を済ませ、リビングへ戻ると、クッションが三枚縦に並んでいた。

 

「お疲れさまっす。うつ伏せで寝てください」

 

 言われた通り、三つ並んだクッションの上にうつ伏せになる。すると、柔らかく温かい何かが腰の上に乗っかった。何は想像はつくが、顔を動かして、その正体を確かめる。思った通り、奈緒(なお)が跨がっていた。

 

「顔戻してくださーい。よっと......」

 

 首の付け根辺りに、心地よい圧迫感。

 

「首周りは......こってないっすね」

「風呂上がりにストレッチしましたから。でも、気持ちいいです」

「そうっすか? でしたら続けます」

 

 しばらく、マッサージを受ける。

 血行が良くなったのか、身体が温まってきた。

 

「もう十分ですよ、ありがとう。マッサージ上手ですね」

(かなで)さん、直伝っすから」

 

 お礼を伝えると、奈緒(なお)は笑顔でそう言った。前に入院してた時、毎日ようにマッサージしてくれたって言ってた。俺の腰から降りた奈緒(なお)は、クッションを元の位置に戻す。

 

「よっし! っと......んっ、なんすかっ?」

 

 後ろから肩を触ると、小さく声をあげた。気にせずに、軽く揉む。

 

「やっぱり。力抜いてください」

「大丈夫っすよ、このくらい」

「ダメ。ちゃんとしないと、明日デート行けなくなりますよ?」

「仕方ないっすね」

 

 諦めて、身体を預けてくれた。

 

「んっ、はぁ、ん......あっ、そこっ、やば......いっすぅ......」

「変な声出さないでください」

「うぅん......誰の、せい......すかっ、あっ......」

 

 結構な球数を放ったことが原因で張っている肩周りを中心にマッサージしているのはいいのだが、妙に艶っぽい声。気にしないように心がける。

 

「はい。お終い」

「えぇーっ」

 

 身体から手を離すと、奈緒(なお)は振り向いて、うらめしそうに少し火照った表情(かお)を向けてきた。

 

「さぁ、寝ましょう」

「むぅ~......」

「明日は早いんですから、先に着替えてください」

 

 クッションに座ったまま動こうとしない。

 仕方ない。彼女の腰に左腕をそえてる。不思議そうに首をかしげた。

 

「なんすか? って、わっ!」

 

 右手で、軽く額を押す。すると、奈緒(なお)の身体は滑る様に後ろへ重心が傾く。右腕を量膝の裏で抱えて持ち上げる。

 俗に云う、お姫様抱っこ状態。目の前には、真っ赤になった奈緒(なお)の顔。

 

「お、重くないっすか?」

「軽すぎて心配になりますよ」

 

 そのまま状態で寝室まで運び、部屋の手前側のベットに降ろす。

 

「着替え、どれにしますか?」

「じゃあ、淡い緑色の長袖のでお願いします」

「了解っす。パステルグリーンっと」

 

 クローゼットから、複数枚ある奈緒(なお)のパジャマの中から、ご所望のパジャマを取り出す。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、リビングに居ますので。着替えが済んだら、声をかけてくださいね」

「いえ、居てくれていいっすよ」

「そうですか? じゃあ、外見てますね」

 

 確か今日は、満月だったはずだ。窓辺に向かい、カーテンの外側へ回って窓を開けて、夜景を眺める。路地裏と街灯、秋の夜空に輝く満月の明かりと、少し肌寒い秋風が火照った体に心地いい。

 

「お待たせしましたー」

 

 着替えを終えた奈緒(なお)が、カーテンの外側へ入って来た。隣に来て、同じ様に夜空を眺める。

 

「今日は、月がキレイっすね」

「そうですね」

 

 夜空に輝く満月を眺めていると、奈緒(なお)は両腕を抱くようにして身震いをした。彼女の仕草を見て、窓を閉める。

 

「少し寒かったですね」

「そうっすね」

「寝ましょうか」

「うん」

 

 俺も着替えを済ませて電気を切り、自分のベッドに入る。

 隣で布団に入っている奈緒(なお)の方へ身体を向けると、殆ど同じタイミングで彼女もこちらへ身体を向けていた。

 

「明日、どこでデートしましょうか」

「うーん。定番ですと、遊園地、水族館、動物園あたりかなー?」

「そうですね。じゃあ少し遠出をして、遊園地と水族館に行きましょうか?」

「遊園地と水族館......はい、そうしましょう」

 

 返事あと、少し何かを考え込んでいるように想えた。

 

奈緒(なお)さん?」

「なんすか?」

「考え事、ですか」

「明日、何を着ていこうかな~? って考えてました。遠出のデートは初めてですし」

「そう、ですか」

「はい、そうです。おやすみなさい」

 

 そう言うと奈緒(なお)は、いつものようにお休みの挨拶をして、天井へ顔を向きなおした。何か気がかりなことがあるのだろうか、それとも考えすぎだろうか。

 そんな思いとは裏腹に、試合の疲れもあってなか、隣のベッドからは、すぐに寝息が聞こえた。

 ――考えすぎだったかも知れない。

 どうにせよ、明日になれば理由も分かるだろう。そう言い聞かせて目を閉じると、すぐに睡魔が襲って来た。

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