Charlotte ~時を超える想い~ -after story- 作:ナナシの新人
約束の週末。
集合時間の少し前に、プールに到着。
ここまでの移動中に「混む前に場所取りをしておく」と、事前に連絡を受けたため、二人分の入場券を買い求めて中に入る。
「じゃあ、入口付近に居ますね」
「了解っす。では、のちほど」
先日、一緒に新調した水着などの着替えを入れたバッグと、朝早起きして作ってくれた昼食が入ったバスケットを持って、お互い別々の更衣室へ。手早くに着替えを済ませ、貴重品等の必要最低限の物を持って、プールへと続く通路を抜ける。
プールは、屋外と屋内施設が混在する大型複合施設。かなりの規模だった。探すのに苦労しそうだ。
「お待たせしましたー」
到着したことを知らせるメッセージを送信した直後、着替えを済ませた
「その水着、やっぱり似合ってますね」
「ど、どもっす。えーと、
照れ隠しのように視線を、人混みの中へ向けた。
「今、連絡をいれました。既読になったので――」
「おーい、こっちだ!」
言ったそばから、その人物が、俺たちへ向かって手を振ってアピールしている。
「行きましょう」
「あっ、そうだ。日焼け止めクリームなんですけど」
それはたぶん、俺が預かっているバッグの中に入っている。ここで渡しても、他の客の迷惑になる。水着と一緒に買った、お揃いの白いラッシュガードを、彼女の肩にそっと添える。
「あとで渡しますね」
「はい。では、行きましょー」
大勢の人混みではぐれないように、しっかり手を繋いで、
「相変わらず、仲はいいみたいみたいだな」
「おかげさまで」
「あの、
「もうみんな、好き勝手に遊び回ってる。荷物は、向こうにまとめてある。こっちだ」
ただ、昼食のこと以上に気になることがある。
「どうして、麻雀やってんすか?」
四人掛けの小洒落たテーブルには相応しくない、麻雀卓がセッティングされており。
「アイツらは、生徒会室でも暇があると打ってるよ」
今の星ノ海学園は、はたして大丈夫なのだろうか、とも心配になったが。巨大組織を束ねていた
とりあえず、手に荷物をレジャーシートに置き、日焼け止めクリームを渡す。
「誰が、トップ?」
「
「またえらく断トツだな。つーか
「狙い打ちされてるからねー」
「さっき、なかなかの大物手が入っていたみたいだけど、欲張って振り込んでから運を持っていかれたんだよ」
「チッ! 他ヤツも狙えよ」
「フッ、お前は、分かりやすいからな」
ずいぶんと盛り上がっているみたいだ。
「手伝ってもらってもいいですか?」
「どの辺りですか?」
「背中と腰の間辺りをお願いしまーす」
レジャーシートの上に座って、背中を向けた。肩甲骨の下辺りから日焼け止めクリームを塗る。くすぐったいのか、小さく身じろぎをした。
「なんか、こそばゆいっすね」
「もう少しで終わるんで......はい、終わりましたよ」
「ありがとうございまーす。使いますか?」
上は着てる。逆に、顔と手だけ日焼けするのもバランスが悪いため、素直に借りておくことにする。
「手伝います、後ろ向いてください」
言われるがまま、されるがまま、背中を向けたのはいいのだが。確かにこれは、こそばゆい。ふと、
「キズ痕ないんすね」
「ああ......」
失態で負った刺し傷の痕も、“
「消えてしまっても、ちゃんと心に残っています。護ってくれたこと。ということで、ここだけ塗らずに日焼けで再現しちゃいましょう」
「本気ですか?」
「もちっす。クリームの厚みを微妙に変えて、グラデーションを作って、と」
いたずらな笑い声。本気なのか、冗談なのか、どっちなのだろうか。どっちでもいいか、楽しそうだし。
「いい?」
麻雀をしていた
「ごめんね。お邪魔だったよね?」
「いえ」
返事を聞いて、近くにしゃがんだ
「あなた、あの時の、附属の生徒さんよね?」
「はい。その節は、ご迷惑とご心配をおかけしました」
「ううん、大事に至らなくてよかった。ふたりとも、
どうやら、俺たちのことは覚えていないようだ。
先日、町中ですれ違った、
「あっ、ごめん。自己紹介がまだだったわね。私は、
「あたしは、
「
答えたのは
「えっ? そうなのっ?」
「恩師なんです、先生は」
莫大な資金と、政財界と太いパイプを持つ先生の力添えがなければ、目的を達成することは到底不可能だった。目的を達成した後も、何かと世話になっている。正しく、人生の恩師と呼べる人。
「なんだ、そういうこと。びっくりした。苗字違うし」
「あはは、まぁ、俺たちにも関係あることだけどな」
「どういうこと?」
「機会があれば話すよ。先ずは、
それだけを言い残し、
「もー、肝心なところはいつもはぐらかすんだから。じゃあ私は、飲み物を調達に行こうかな。
「あ、はい。いいですよ」
「ちょっと待て。こっちの準備、終わってんぞ?」
「三人でも出来るじゃない。あ、そうだ。麻雀打てる?」
いつか聞かれたのと同じ質問、同じ返事を返す。
「いえ、やったことありません」
「そっか。うーん、とりあえず入ってくれる? ルールは教えるから、
「俺かよ!?」
「いいでしょ。行きましょ」
「はい。じゃあ、行ってきます。アイスコーヒーでいいっすよね?」
「お願いします」
話しをしながら、フードコートへ歩いて行くふたりを見送り、空いている席に座る。
「失礼します。
「僕は、
右隣の
「ルール、説明するぞ」
「何か?」
「
「ええ、理事長繋がりで」
「そうか。ところで、どこかで会ったことないか?」
「いいえ、初めましてですよ」
この世界では――。
だけど、驚いた。
「勘違いか。悪いな」
「いいえ」
「続けていいかー?」
「ああ、すまん」
説明の続きを聞き終えると、前回トップの
「手札と役の数が多いポーカーみたいな感じかな」
「まあ、そんなところだな」
「点数計算は、アプリを使えば出来るから。難しく考えなくて大丈夫ですよ」
「解らないことがあれば、その都度聞いてくれ。さて、始めるとするか」
親決めのサイコロが振られ、
「どんな感じ? トップは、やっぱり
「コイツ、全然振り込まねぇーんだ。そのクセして、危険牌だろうがお構いなしに打ちやがる」
「それがまた、通るんだよね」
「へぇ、いいカンしてるんだ」
「間違いなく、
ツモ切りで、リーチ棒を雑に卓上に放り投げた
「どうしたんすか?」
「アレやられちゃったら降りるしかないのよ。今、
山積みは、手動。
相手の動きを封じるリーチ。
その証拠に
「どうぞー」
「ありがとうございます」
少し汗をかいたアイスコーヒーを口に運びながら、疑問に想う。
「気のせいです。で、勝てそうっすか?」
「うーん、難しいでしょうね」
点差は、約二万点。跳満以上の直撃か、倍満以上のツモアガりでなければ逆転は不可能。そして
普通に考えれば、難しい。そう、普通に考えれば。
「無茶すれば勝てます」
「目には目を、歯には歯をっす」
上等。
手牌と捨牌、仕掛けるタイミングと周囲の様子を窺いながら、静かに場を回す。一巡後、
「どうなってる?」
「見ての通りだ」
「相変わらず容赦なしだな~」
「ねぇ、
「今、飲み物買ってる。すぐ来るよ」
「なら、この局で打ち切りにするか。どうせ、これで終いだ」
親指の腹で引いた牌をなぞった
「どうした? プー。おっかない
「いや、思い違いをしていたようだ」
リーチしているため、アガり牌以外はツモ切りするしかない。宣言して、牌を倒す。
「それ、ロンです」
「――なッ!?」
「役は、清一色。ということは」
「うげっ!? 跳ねやがった!」
「うっそ、跳満直撃!? 土壇場で逆転じゃないっ」
「おいおい、マジかよ」
「この局で打ち切りでしたよね?」
「ああ、逆転だ」
ひとつ息を吐き、潔く負けを認めた。イカサマだと気づいている。抗議しないのは、積み込みを認めることになるから、といったところだろうか。
「今の、どうやったんですか? 違う色の牌が何個かあったはずでしたけど」
「すり替えただけですよ」
全員の意識が
「しっかし、驚いたな。プーが、素人相手に負けるなんて」
「いや。俺は、素人相手に飛ばされたことがあるぞ」
「いつですか?」
「......忘れた。ただ、飛ばされたことだけは覚えてる」
「へぇ、不思議なこともあるのね」
もしかすると。その出来事が、あまりにも強烈に印象に残っていて若干覚えてるのかもしれない。
「ただいまなのですー!」
考え込んでいたところへ、つい先日聞いた声が聞こえた。顔を向ける。紙コップを持った、
「おっ、来たな。
「あっ、もしかして、お二人が、
「うん、そうだよ。あたしは、
「はいっ、こちらこそよろしくお願いしますなのですー!」
久しぶりに、彼女の笑顔を見た。
記憶の中と変わらない、無垢な笑顔だった。
「ほら、
「いや、知ってるし」
「どういうことっすか? まさか――」
「......覚えてるのか?」
返事は、イエス。
黙っていた理由は、非常にシンプル。今日のサプライズのため、
「言っておくけど、仮に口止めされてなかったとしても。あの状況で声をかけられるほど、僕は、メンタル強くないからな?」
あの時は、腕を組んで歩いていた。
もし、同じ立場なら声をかけれた自信はない。
「とにかく、元気そうでよかった。
「お互いさまです。ところで、他のみんなは? 来てるんすよね」
「アイツらは――」
振り向いた先のプールサイドに、大きな人集りが出来ていた。
「あの中?」
「ちょっと噂が流れた途端にあれだよ。今は、
「それで、彼女は――」
不安と期待。ふたつの感情を胸に抱きつつ、帰国前から抱えていた懸念の真相へと迫る。
「あたしは、
けど、彼女の声質とは微妙に差異を感じた。
「そういうことだよ」
「そっか」
「よかったっすね。ちゃんと届いて」
重ねた手を通じて、同じ想いを分かち合う。
届いた。在りし日の約束を、長い時を越えて――。
「おい、
「ハァ、ちょっと行ってくる」
飲み物を預かる。
「お昼の準備をしましょう。なんだか、お腹が空きました」
「ですね」
一足先にレジャーシートに座り、持参したバスケットから紙皿などの食器と、
ちょうど準備を終えた頃、人集りがまばらになり、三人組の男女がこちらへ歩いてきた。ひとり足りない、と不思議に想いながらも出迎えるため立ち上がる。すると、ひとりの女性が駆け寄ってきて、軽く蹴りを入れてきた。
「なんですか?」
「
「なにしたんすか?」
「
「ここでーす」
三人とは反対側から、ひょこっと姿を現した。
「いつの間に」
「
「流されて来ましたっ」
「そういうことです。見てください、この名誉の負傷を!」
軽くメガネに触れた
「あはは~、お手数おかけしてすみませーん」
「いえ、むしろ私にとっては、勲章といってさしつかえありません!」
「ったくよ。でよ、お前たちで合ってるんだよな?」
どうやら、記憶はおぼろげのようだ。
「確証持たずに蹴ったんすか?」
「
先ほどの勢いが嘘だったかのように、突如、言い淀んだ。
「気恥ずかしいんだろ」
前世で、ストレートな気持ちを綴った手紙を送ったわけだから。いってみれば、思いの丈をぶちまけた翌日、シラフで会うような感じなのかもしれない。
「本来なら居ないはずのあたしが今、ここに居るのは、お前のおかげだからよ。感謝してる。ありがとな」
「覚えていてくれたんですね」
「ああ、
そんなの些細なことは、どうでもいい。
今、ここに居る。それだけで、十分すぎる。
「それで、蹴った理由は?」
目を細めた
「
話しが振り出しに戻った。
要約すると。先に記憶を取り戻した
「じゃあ、一番最初に思い出したのは、
積もる話しもあるだろう、と気を利かせてくれた
「そうなんですよー。過去の復帰ライブで歌った新曲のレコーディング中に、突然、いろいろな映像が映画みたいに流れ込んできた感じで」
「
先に記憶を取り戻した二人は、異変に気づいた
「ぶっちゃけ、我が目を疑ったぜ。お前、まるで別人みたいなオーラを纏ってたからよ」
「ですですっ。顔付きとか雰囲気が急に、あの頃の感じになってビックリしちゃいました」
「そんなにかな? 自分じゃよく分からないよ」
死と隣り合わせの危険な旅をしていたから、心に余裕ができるのは当然。
「ところで
会話に参加せず、背中を向けていた
「ふっふっふ、祝杯の準備をしていたんです! 再会を祝して、乾杯といきましょう。それでは
「何で、僕が......」
「いいじゃないですか。我々、星ノ海学園旧生徒会が再集結した記念すべき日なんですから」
「ハァ。はい、乾杯」
おそらく、世界で一番祝う気のない乾杯。
シラけた空気が漂う。
「分かったよ、やればいいんだろ!」
空気に耐えられなくなったのか、自ら仕切り直して、改めて乾杯。再会を祝して、各々、紙コップを重ねる。
「終わったんだよな?」
「ああ、終わった」
「そっか。おつかれ」
今のやり取りを、昼食を食べ終えてこちらへ来た
「いったい、なんのお話しでしょーか?」
「お勤めご苦労さまって話しだよ」
「んー? ちんぷんかんぷんなのです~」
両手の人差し指を、こめかみに持っていき、頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「それで? どうしたんだ」
「そうでしたっ。波のプールへお誘いにきた所存でありますっ」
「ああー、行きたいって言ってたな」
どうする? と、伺うような視線を送ってきた。
「そういうことは、ちゃんと言ってください」
「弾んでいたみたいだったんで。なんの話しをしていたんですか?」
「水着の話しっす。褒めてくれましたよ」
「それは、よかった」
「
「ですね。あ、そうだ。
麻雀をしていたテーブルで、
「コイツは......」
「これ、プーのアガり牌じゃないか!」
「ホントだ、どうして......?」
「勝負の最中に目を切るのは、自滅行為ですよ?」
「フッ、そうだな。肝に銘じておく」
誘いを受けた波のプールへ行く前に、標準のプールで軽く身体を慣らす。三時間あまりが経ち、初めてプールに浸かったことを知った
「うーん、スッキリした」
「はい、どうぞ」
「あっ、ありがとうございまーす」
プールから上がった
「お前ら、引くぐらい仲いいな」
「当然っす」
「おかげさまで」
「あら、あなたたち」
「あっ」
その女性は、白いビキニ姿。赤紫がかったセミロングの髪に、鮮やかな緑色のリボンを巻いた特徴的なカチューシャを頭に着けている。
「こんにちはっ、ゆり先生~」
「ハロ~、
休憩所でダベっている
「えっと、そっちの二人は......初めましてよね」
「わたしたちのお友だちでーす」
「
「
「
前世では英語教師だったはずだが。今は、クラスを受け持っているらしい。
「あなたたちも、参加するの?」
「参加? 何の話っすか?」
「あれよっ!」
彼女が、指差した方を見る。
そこには、大きなテント設営されていた。
そして、入り口にがげられている垂れ幕には、こう記されていた。
赤い稲妻ゾリオン・サバイバルゲーム会場、と。