Charlotte ~時を超える想い~ -after story- 作:ナナシの新人
帰宅してほどなく、インターホンが鳴った。
ディスプレイに映った人の顔を確認してから、玄関のカギを開ける。
「お帰りなさい」
「ただいま。お客さん?」
「はい。先に言っておきます。絶対驚くので心しておいてください」
不思議そうに首をかしげていた彼でしたが、リビングに入ると一転して目を丸くして立ち尽くした。背中を両手で軽く押して着替えを促し、着替えを終えた彼が寝室から戻って来たところで改めて話し合いの場を持つ。テーブルに向かい合って座る。
「お邪魔してます。奥さんに拉致られました」
「人聞き悪いなー」
「事実ですので」
とまあ軽口を言って余裕ぶってみせていますが、これは先に話して主導権を握りたいがため。なぜなら私もそうするから。もうひとりの私の⋯⋯彼女の思惑を見透かしたように、
「実は妹さんがいたとか?」
「いません。アレを見せてください」
「はいはい、どーぞ」
彼女は自分の生徒手帳を開き、私たちに見えるように置いた。彼は置かれた生徒手帳を手に取り、目を通す。
「異変に気がついたのは三日前だそうです」
「三日前。なるほど⋯⋯話しはご飯のあとにしましょう。今日は外に出ましょうか」
「マジっすか。何がいい?」
「どーしてあたしに聞くんですか?」
「一緒に行くからに決まってるっしょ。お肉? それとも魚? 選ばないと、もやし炒めになりますよー」
若干恨めしそうな顔で渋々付いてきた。ある程度好きな料理を選べる、近所の鉄板焼きへ。通されたカウンター席に座って、メニューを拡げる。
「何にしよっかなー?」
肉、海鮮、米料理などひと通り揃っている中から生ものは避けて、赤身のステーキとライスをチョイス。二人も同じ料理を注文。目の前で調理された料理に舌鼓を打ちながら、いつものように会話。
「そうだ。今度一緒に顔を出すって話しになって、いつにしますか?」
「急だと二人も大変でしょうし、来週以降にしましょうか。都合はお任せします」
「はーい。連絡しておきます。一緒にいく? 美味しいもの食べれますよ」
「ご遠慮します」
時折話しを振ってみるも、こんな感じで素っ気ない返事が返ってくるだけ。当然ながらかなり警戒されてる。まあ、我ながらなかなか強引なコンタクトの取り方をしたので仕方ありませんが。
会計を済ませ、お店を出る。
「ごちそうさまでした。では、あたしは――」
逃げられないように、彼女の手を取る。
「あたしたち買い物してから帰ります。
「ちょっ――」
「お風呂沸かしておきますね」
「お願いしまーす」
遠ざかっていく彼の背中を見送り、隣へ顔を向ける。
「じゃあ、あたしたちも行きますか」
「⋯⋯どちらへ?」
「買い物。言ったっしょ」
たまに買い物に行くショッピングモール内のカジュアルショップで見繕った部屋着と私服を渡して、試着室の前で待つ。
「サイズはいかがですかー?」
「問題ありません。ですが⋯⋯」
「一度見たいので開けてください」
「はぁ~⋯⋯」
もううんざりと大きなため息から数秒後、試着室の仕切りが開いた。顔を上げた瞬間を狙ってスマホのシャッターを切り、フォトアプリを立ち上げて、今撮影した写真を見せる。
「なんすか?」
「よく見ててください」
人差し指で画面をスワイプして、試着中に送って貰った写真を表示する。
「ん? それいつ撮ったんですか? てか、そんな服⋯⋯」
「これ、あたし。ちょうど今のあなたと同じくらいの時の。似てるっしょ」
「似てるというか⋯⋯」
服装は違えど、ほぼ同じ構図の写真。附属校に通っていた頃の写真だから、髪型も今の彼女と同じハーフツインテ。スマホの画面にかじりつき、何度もスワイプして二枚の写真を見比べている。
「⋯⋯他人の空似では?」
「場所変えますか」
同モール内のカフェへ移動。二人掛けの席に向かい合って座り、家で見せ損ねた、いずれ必要になると思って取得した運転免許証を見せ。家族構成、家族の名前、実家の住所などを伝えた。
「で、名前も生年月日もあなたと同じ。結婚前の旧姓は"友利"です。唯一異なる点は――」
「見た目⋯⋯というか、年齢」
困惑を全面に出した険しい表情を浮かべ、10分ほど深く熟考した彼女は、小さく息を吐くと顔を上げた。当然ながらこの短時間では考えはまとまらず、眉をひそめながら頭を掻く。
「いや、けどそんなことって⋯⋯うーん⋯⋯」
「ま、あり得ないと思いますよね。昨日街で見かけた時、あたしも信じられなかったし。とりあえず、敵ではないので信じてください」
「⋯⋯まあ、晩ご飯奢ってもらいましたし」
「よし。じゃあ、続き行きますよ」
「続き?」
「買い物。三日はさすがに辛いっしょ」
着替え、下着などの生活必需品を買い揃えて、自宅マンションへ帰宅。
「ただいまー」
「おかえり。お風呂沸いてますよ」
「ありがとうございまーす。さあ、上がってください」
「お邪魔します」
荷物を寝室へ運び、クローゼットから取り出したバスタオルとフェイスタオルを彼女に手渡す。
「お風呂どうぞ。洗濯物は、脱衣所のカゴ。下着は、壁に掛けてあるピンクの洗濯ネットに入れてください。ちゃんと別々に洗うのでご心配なく」
お風呂場へ案内して、リビングへ入り。ソファに座っている彼の隣に、腰を降ろす。
「はぁ~」
「お疲れさま。説得上手くいったみたいですね」
「なんとか。警戒されているのでまだ深い話しは聞けてませんけど。これで少しは和らいでくれればいいんですが」
テーブルに置かれたアルバムに手を触れる。
「率直に答えてください。どう思いますか?」
「特殊能力によるものと考えて間違いない。まずは話しを聞いてみないことにはどうしようも。飲み物持ってきますね」
「ありがとうございます」
私も、彼と同じ見解。
あの子はドッペルゲンガーなどではなく、過去の私自身。
何者かが特殊能力を使用して、過去の私を今へ飛ばした。
目的が分からないのは言わずもがな。ひとつ引っかかっていることがある。それは、あの子が過去の私だとしたら。
私には、この「記憶」が存在していないということ。
* * *
ベッドに入って、1時間。隣で眠っている彼女を起こさないよう、静かに寝室を出る。リビングはまだ明るい。ソファでタブレットを操作していた
「どうかしました?」
「ちゃんと寝られてるかなって」
「大丈夫っすよ。まともに寝られなかったでしょうし」
あの子⋯⋯もうひとりの私が、この世界へ来て今日で三日目。身分証明も、スマホも、口座も使用不能な状況。夜は補導や人目に気を配りながら深夜も営業している店を転々とし、昼に少し仮眠を取る生活を丸二日。手持ちも限られていて、まともな食事もしていなかった。
「戸惑ってましたね、アルバム」
「そりゃそうっすよ。逆の立場なら絶対信じらません」
隣ではなく、対面に腰を降ろす。
「いかがでしたか? 実際あの子の話しを聞いてみて」
「特殊能力には、能力に応じた制約が存在します」
「いわゆる、特殊能力の不完全なところ、ですね」
私の能力「不可視」の有効対象は一人に対してだけ。彼の本来の能力、自身の記憶の「継承」は自分の意思では発動出来ない。
「強力な能力、特質性が高いほど制約も厳しくなります。他人を別の時代、別世界へ移動させる特殊能力⋯⋯
彼の言葉は、とても頼もしくそれでいて優しい。
そう、それはまるで「心配しなくていい」と安心させるように。
「本格的に調べてみます。奈緒さんは、どうしてあげたい?」
「そうっすね」
私がしてあげられること、してあげたいことがあるとしたら⋯⋯。
「
この新しい世界で、彼が私にくれた大切なもの。
本来過ごせていた日々を、時間を、日常を。
もうひとりの私に経験させてあげたい――。