Charlotte ~時を超える想い~ -after story- 作:ナナシの新人
月終わりの週末。今日は、三人一緒に外出。近所のスーパーに立ち寄り、昼食の食材を購入し、電車とバスを乗り継いで目的地の最寄りの駅で下車。近道の公園を通って、向かいのパン屋さんへ向かう。
「こんにちわー」
私は挨拶をしながら横開きのガラス戸を開ける。パンの香ばしいいい香りのする店内のレジ奥のイスに座ってスポーツ紙を読んでいる、パン屋の店主
「らっしゃい⋯⋯って、お前らか。よく来たな。ちょっと待ってろ。
「いらっしゃいませ。三人とも」
「ご無沙汰してます」
「まったくだ」
「たっく、変な気ぃ遣いやがって。肉か。よし、炭買いにいくぞ」
「わざわざ?」
「いい肉持ってきたお前が悪い。ホットプレートじゃ味気ねぇからな。
「わかりました。お昼の食材お願いできますか?」
「あたしの方からあとで連絡いれますので」
「おうよ。行くぞ」
「じゃあ、行ってきますね」
「お昼どうしますか?」
「そうですね。お二人は何かリクエストありますか?」
「何がいいっすか?」
「あたしに聞きますか。うーん⋯⋯」
腕を組んで真剣に考える仕草が何だか微笑ましい。私もこうだったのかな? なーんてことを思っていると、思案していた
「パスタとかどうっすか?」
「ん。いいんじゃないっすか。夜バーベキューですし」
「いいですね。今切らしているので、パスタソースと一緒に買ってきてもらいましょう。お願いできますか?」
「はい。メッセ送ります。お好きなパスタソースをどうぞ」
「あたし、カルボナーラで!」
「私は、
「はーい、と」
買ってきて欲しいものリストを本文に打ちこんだメッセージを、
「ところで、
呼び掛けに二人揃って「はい」と反応した私たちに、
「性別はわかりましたか?」
「まだです。明後日の診察でわかると思います」
「女の子じゃないっすか」
私と
「いや、なんとなくそんな気がしただけっす」
と言ったけど、妙にはっきりした答えだった気がする。まあ、確率は5割ですし。明後日の定期検診でわかることのためたいして気に止めることはなかった。
目線を私に戻した
「わかったら教えてくださいね」
「お気遣いなく」
「そうはいきません。
「はーい」
「合計360円になります。400円お預かりします」
「40円のお返しとこちら商品です。ありがとうございましたー」
連携プレーで無事乗り切った。お客さんがお店を出たことを確認してから、
「助かりました」
「たいしたことではないので。スマホ鳴ってました、はい」
「どもっす。今から帰ってくるって」
連絡をくれたのは、ここから10分くらい歩いたところにあるホームセンター。追加で夜の食材もお願いしたから荷物は多そう。バーベキュー用品もあるし。店番お願いして、迎えに行きますか。
「レジの使い方わかりますか?」
「見ていたのでなんとなくは。あたし行きましょうか?」
「重いっすよ」
「なおさらっしょ。安静にしててください」
そう言って奥へ下がっていった。大丈夫って言ってるのに、まったく。
「食った食った。さて、
「あたし、散歩行ってきます」
「仕度しますね」
「はーい。
「ご遠慮します。夫婦水入らずでどうぞ。
「ありがとうございます。紙コップと紙皿を縁側に持っていってもらえますか」
若干気を遣いすぎなところもありますが、こうして二人の時間を作ってくれる。身支度を整えて、店舗兼住宅の外へ。先に出て待ってくれている彼が差した少し大きめの日傘の陰の中に入る。行き先は特に決めていない。東京23区の中でも比較的自然が多く残る町の住宅街から一本横道に折れて、もえぎ色の新緑の葉桜並木が数100メートルに渡って延びる坂道を歩幅を合わせてゆっくり歩く。
「ここへ来る時はいつも葉桜っすね」
「来年は桜の季節に来たいね。でも、坂道でベビーカー危ないか。ここまでの移動もあるし、やっぱり少し歩けるようになってから――」
真面目に考え込んじゃった。気が早いなーと思いながらも、薄紅色の桜並木の下を手を繋いで歩く。少し先の未来を想像すると自然と心が弾む。それに、最近あまり携帯しなくなったビデオカメラの出番も増えそう。
坂道の上に立つ学校の正門が見えたところでUターン、登ってきた坂道を戻る。
「お茶して行きましょうか」
「じゃあ、そこのファミレスにしましょう。
進行方向の道沿いのファミレスに入る。少し大胆で派手な制服を着た女性店員さんの案内で、窓際の席へ。向かい合って座り「ご注文はそちらのタブレットをお使いください」と店員さんは一礼して下がっていく。店内をざっと見た限り、
注文した飲み物とパンケーキが運ばれてきた。二段に重なっているパンケーキの間にバターを塗って、小さな白い容器のメープルシロップを上から流しかける。甘い香り。ナイフで一口サイズにカットしたパンケーキを刺したフォークを口に運ぶ。
「ん~っ!」
ふわふわ食感とバターの香り、甘いメープルシロップの相性が抜群。味わいながらカットしたパンケーキを、正面に座っている彼の口元へ運ぶ。
「はい、どうぞ。あーん」
「いただきます。うん、美味しい」
「ですよねー」
他系列よりスイーツに力を入れているここのファミレスは、来る度に新メニューが増える。今日も三人だったら一品多く頼めたのになー。
「もうすぐひと月になりますね、
「はい」
あの子が⋯⋯
「有しているのは、”不可視”だけなんすよね?」
「ええ。間違いなく」
となると、やはり他者の特殊能力による影響。しかし、他人を別の世界へ送る能力なんていったい何が目的なのやら。考えたところで結局は何もわからない私たちに出来ることは、見守ることだけ。
「あまり訊かないですよね、生徒会のこととか。干渉することを避けてるのかな」
「それもあると思います。まあ、あの頃のあたしは誰ともプライベートの付き合いはなかったので優先順位が低いのかもしれませんが。あっ、兄のCDはこっそり聴いてますよ」
「あはは、そうなんですね」
「話し変わりますけど、明後日何時くらいに帰って来られますか?」
「普段より1時間くらい早く帰れますよ」
「じゃあ、報告は帰って来てからにします。寄り道せず帰ってくること」
ピッと指を差す。彼は「はい」と微笑んで頷いた。
スマホが鳴った。
* * *
そして、翌々日。お昼前に定期検診で訪れた産婦人科の待ち時間は思ったより長くなった。いつもより少し遅めのお昼を外で済ませて、近所のスーパーで買い物をして帰宅。寝室で部屋着に着替えてからエプロンを付けて、キッチンに立つ。テーブルに置いた材料をレシピに通り計量し、使う順番ごとに並べて置き直して、ケーキ作り開始。作るのは、フルーツ多めのスクエアケーキ。
レシピに習って材料を混ぜた色つきのスポンジが無事焼き上がり、粗熱を取り終えた頃、
「ただいまー。ん? 甘い匂いがする」
「おかえり。今、ケーキ作ってるとこ」
「ケーキ作れるんすか。旦那さんの誕生日っすか?」
「違いますよ」
まあ、ある意味記念日か。それは今は置いておいて、着替えを促して次の工程へ。冷蔵庫に入れたスポンジが冷えるのを待つ間に生クリームを泡立てて、ケーキに乗せるフルーツを用意。部屋着に着替えた
「すげー豪華。マスカットとサクランボもある」
「余ったフルーツはお弁当に入れるんで期待しててください。さてとー」
ここからが大変。冷やしたスポンジに生クリームを塗る仕上げの工程。彼女にも手伝ってもらって、薄くカットしたイチゴを生クリームを薄く塗った一段目のスポンジに乗せてスポンジを重ねる。側面もいい感じに仕上がった。最後にカットしたフルーツを配置して、フルーツたっぷりデコレーションケーキが完成。
「よし、完成。ありがとうございました、助かりました」
「たいしたことしてないので。では、課題やってきます」
「ただいま」
「おかえりなさーい。あっ、寄り道してきた」
「朝にね」
そう言って、右手に持った茶色の紙袋を持ち上げて見せた。
「そのパターンか。着替え用意するので、手洗って来てください」
背中に回って軽く押して促し、寝室のドアをノック。返事を確認してから入り、彼の部屋着とハンガーを洗面所へ持っていく。
「それで、どうでした?」
「順調っす。ご心配なく。ご飯のあと詳しく話しますのでもう少し待っていてください」
着替えを渡し、キッチンに戻って夕食の仕度。今日のメニューは、チキンステーキとグラタン、サラダ。食後に、冷蔵庫からさっき作ったフルーツケーキを出してテーブルの中央に置いて、切りやすいように温めた包丁を
「そっか。どうぞ、
「ありがとうございますっ」
「はい、
ケーキを取り分け終えると、彼は足下に置いた茶色の紙袋の中から取り出したピンクのラッピングをテーブルに置く。包まれていたのは、ピンクのチェック柄のフリル付きスタイ。
「かわいいっすね。でも、聞いてなかったんすよね? あたしもケーキ作りの時に気づいたし」
「その心配は必要ないっすよ。抜かりない人なんで」
「バレてた」
「あっ、青いラッピング。最初から二つ用意してたんすか。じゃあこれは、弟のっすね」
「――な、なにいってんすか。唐突に」
突拍子のない発言に思わず声がうわずった。
「いや、なんとなく男女の姉弟の方がバランスよくないっすか」
まったくこの子は⋯⋯遠慮がなくなったのをいいことに。しかも当の本人に悪気がないのがまた⋯⋯というか二人目前提だし。まあ、性別はどうあれ弟妹は居た方がいいなーとは思ったり。チラリと
「どうしたんすか?」
「うん。きっとこんな感じなんだろうなって思って」
――私も同じことを感じていた。
それは今日、お腹の子の性別がわかって急に湧いた実感。