Charlotte ~時を超える想い~ -after story- 作:ナナシの新人
気がつくと、真っ白な世界に居た。
左右上下もわからない。まるで、宙に浮いているような不思議な感覚。けれど、怖さは感じない。むしろ、暖かく、ふわふわとした心地よさを感じる。
これはそう⋯⋯あの時、別の世界へ誘われた時と同じ感覚。あの子の心。ここで私は、声を聞いた。今度は私から、改めて問いかける「答えは、出ましたか?」と。問いかけに今度は、答えが返って来た。
――うん、もう大丈夫。ありがとう。
それはなによりです。てか、普通にお願いすればよかったのでは。まあ、将来に関わることですし、気持ちはわからなくないですが。大丈夫です、あなたはちゃんと愛されています、あなたの名前の通りに。ちょっとくらいワガママ言っても聞いてくれますよ。
――知ってる。ちゃんと話してみる。
そうっすか。どちらの進路を選ぶかわかりませんが、後悔はあとになってからでないとわかりません。ですので、今を後悔しない選択をしましょう、お互い。
――うん。ありがとう。幸せになってね、もう一人の――⋯⋯。
* * *
私を呼ぶ声が聞こえた。ハッとして、顔をあげる。
私は、駅のホームに立っていて。昼下がりの時間帯のホームは、朝のラッシュ時に比べると利用客は少ない。改札へ続く階段付近では、同じ学校の制服を着た生徒会の男女計三人が、こちらを見ている。
「
眼鏡をかけた男子、
「いえ、何でも。少し考え事していただけです」
何を考えていたんでしょう、頭に深い霧がかかっているような感じで思い出せない。何か重要なことだった気がする。
考え込む私を見て、まるで作り物のように整った容姿の女子生徒、
「考え事ですか?」
「夜何食べるか考えてたんじゃないか」
小バカにするようにテキトーに言った男子、
「痛ぇ!? な、何すんだよッ!」
「チョークの粉がついてたから払ってあげたんすよ」
「だから、ローキックは払うとはいわない! てか、行きにもやっただぞ!」
「はいはい、往来の迷惑になるから行くぞー」
苦虫をかみつぶしたような顔で悪態をつく
「なにか?」
「えっと、再来週末なんですけど」
「ライブならフツーに行きません」
「そ、そうですかー⋯⋯」
残念そうな顔を浮かべた
「なんだよ、
「偶然耳にしただけです。暑苦しいので離れてください」
――あれ? どこで聞いたんでしたっけ。まあ、近くに熱狂的なファンが居るからどこかしらで耳にしたんでしょう。その熱狂的ファンが鼻息を荒くして、私たちの前へ回り込んだ。
「もちろん私は、参戦致します!」
「ハロハロのライブ⋯⋯そういえば、
「ちょうどいいじゃねーか。お前の妹の分も用意してやるよ」
「いや、
シスコン。というか、いつの間にかライブに行くことになってるし。騒々しい三人の会話を聞き流し、駅を出た。今日は、ここで解散。男子二人は、帰宅。
私は、週末の試合の対策ため最寄りのバッティングセンターへ向かうも、マシンのメンテナンスで臨時休業だった。このまま帰ってもよかったのですが、なんとなく少し足を伸ばして、別の街へ。初めて来た街を、スマホの地図アプリを頼りに、湿り気の少ない爽やかな薫風に靡く後ろ髪を手で軽く整えながた、もえぎ色の鮮やかな新緑が映える葉桜並木を歩いていると、同世代の学生が、バス停で停車したバスから続々と下車してくる。時刻は、ちょうど下校の時間帯。
「腹減ったー」
「何か食ってくか、何食う?」
「焼き肉」
「んな金ねぇーよ」
「ねぇ、この間どうだった? あの学校の、気になった人いた?」
「いないいない。なんか話し合わなくてさー」
などなど、すれ違いざまに聞こえる会話。よくある光景に、ふと、懐かしさを覚えたのはどうしてだろう。ともあれ、目的のバッティングセンターに到着。相手投手の球速に近いゲージで、動画で見たプロ野球選手のフォームを参考にしたバッティング、ランナーが出たことを想定した送りバントの練習をしたりした帰り道。バスの時間がくるまで、バス停脇のカフェでひと休み。ホイップを追加した季節のフルーツフラッペを購入して、通りに面した窓際の一人席に座る。
守備は
「中間どうだった?」
「まずまずかなー。やっぱりレベル高いよね、授業外から問題出たし」
目線の先でチラッと見えたのは、桜並木の坂道を上った先に正門を構えるこの街の有名進学校の制服。毎週のように小テストがあるらしく、あまり遊んでる余裕はないと歎いている。
もし、特殊能力なんて
「てか今日、学校⋯⋯――」
「うそっ? 会いたか⋯⋯――」
頬杖をつき、ガラスの向こう側、通りを行き交う人波を見つめながら"ZHIEND"を聴いていると乗る予定のバスが見えた。スクールバッグを肩に担ぎ、空になったカップをゴミ箱に捨てて、お店を出てバス停に行こうとしたところ、物音が聞こえ、バス停の反対隣の店先で積荷が崩れた。踵を返し、対応にあたっている女性店員さんの元へ行き、声をかける。
「手伝います」
「あっ、ありがとう」
お店は、生花店。
手伝ったお礼にいただいた綺麗な花束を胸の前で抱えて、駅へ向かって歩いている。ユリ、かすみ草などの白系の花が多く使われ、さながらウェディングブーケの様な花束の中でひときわ目を引く紫色の小さな花をたくさんつけ、お店の看板脇にも吊されていた小町藤。
「運命、か」
店員さんが教えてくれた、小町藤の花言葉。思いやり、広い心、壮麗――⋯⋯運命的の出会い。
一定の間隔で規則正しく点滅する赤いランプと高い音を響かせる警報器が鳴る遮断機が下りた踏切で立ち止まる。向かって右からの電車が走り抜け、続けて左側からの電車が走り抜け、警報器が止まり、遮断機が上がる。踏切を渡り切り、駅前の大通りで信号待ち。ちょうど電車が到着したのか、駅方面から多くの人たちがやって来た。歩行者用の信号が青になり、一斉に横断歩道を渡り出す。
――もし、本当に運命なんてものが存在するのなら⋯⋯。
この街へ来たことも。
カフェに立ち寄ったことも。
生花店を手伝ったことも。
バスに乗るのを止めて、駅まで歩いて向かうことにしたことも。
その選択の全てに意味があって。
横断歩道を渡りきった先で足を止めた私が振り向いた時、きっとあの人も振り返る。
何の根拠もないのに、そんな確信めいた予感が不思議と頭を過った――⋯⋯。