Charlotte ~時を超える想い~ -after story- 作:ナナシの新人
ビィーッ! と、決勝開始とほぼ同時に失格を知らせるブザーが鳴り響いた。
「って、いきなりかよ!? しかも、ひとつじゃなかったぞ」
「
「あり得ますね」
決勝に参戦しているチームは、約30組。参加者は、90人前後。
決戦会場は、予選の仕切りが外されて広く、障害物も多い。
割り当てられたスタート地点からは、対戦相手の姿は見つけられなかった。おそらく、乱戦を避けるための配慮なのだろうが、開始直後に複数人が脱落。まんざら大袈裟な話しではないのかもしれない。
「慎重に行きましょう」
「はい」
「あ、ああ」
障害物の死角を利用し、見つけた相手を確実に仕留め行くが、その間も遠くで何度もブザーが鳴り止まない。
徐々に歩み寄る悪魔の足音に、より警戒をしながら進む。
曲がり角から現れた敵を、
「今ので、何人目だ?」
「17人だな」
「順調っすね」
「ええ、けど......」
今の敵は、ひとり。周りに気配は感じない。つまり、仲間は既にやられた。決勝開始から40分が経過し、そろそろ勝者も絞られる頃。生き残りも、実力者が揃っているはず。
その時――。
「うわぁーっ!?」
すぐ近くで、聞き覚えのある声の悲鳴と、馨しいブザーの音が鳴り響いた。
「今の声、
「向こうだ、行こう」
声の聞こえた場所へ向かうと、壁に寄りかかるようにして
「
「と、
「き、気を付けてください、まだ近くに――」
「
「えっ?」
「や、やられた!? どこからっ!?」
「
「はいっ」
彼女の手を取り、プレハブで作られた物陰に身を隠す。すると、そこには既に先客が居た。
「あなたたちっ」
「ゆり先生? どうしたんすか?」
ゆり先生は、胸を手で隠して座り、物陰に身を隠していた。
「水着、引っ掛けちゃって」
「どうぞ。少し大きいと思いますけど、使ってください」
着ていたラッシュガードを脱ぎ、彼女に手渡してから背を向ける。着替えが済んだ合図をもらい、彼女たちに視線を戻す。
「ありがとう。助かったわ」
「ゆり先生、ひとりっすか?」
「......ええ。同じチームの
「そうですか。俺たちも、
「そう。本物の軍隊なら、みんな死んで、全滅じゃない。酷いのリーダーね」
ゆり先生は、自虐の念に駆られているのか、体育座りでうつむいてしまった。
「あの、
この重い空気を変えようと、
「一瞬、反射する光が見えました。おそらくあれは、鏡面反射を利用した攻撃かと」
「なるほど、鏡ですか」
道具の使用は直接の打撃でなければ、ルール上は問題はない。手鏡ほどの大きさなら、照明が薄暗いエリアでは持って来いの代物。精神的な動揺を誘う効果もある。
「そういうこと。そういえば、
ゆり先生は、納得したように顔を上げた。
「そろそろ、行きましょうか」
「はい。ゆり先生も一緒に行きましょう」
「そうね、そうさせてもらうわ」
正体不明の悪魔に対抗するため、即席の共闘チームを結成。
プレハブの影から周囲の様子を窺う。視界には、誰もいない。先に出て、周囲の安全を確認してから、ふたりに合図。逃げる途中にはぐれた
「あっ、待ってください!」
「どうしました?」
「あそこ、少しヘンな感じがします」
「軽く触ってみてください」
「なんすかね? これ。白いヒモ?」
「たこ糸じゃない?」
水面ギリギリに張られたたこ糸は、踏むか、引っ掛けるかすると、ストッパーが外れて撃たれるブービートラップ。単純だが、効果的なトラップ。
「こんなもの、いったいどこから......」
「これね。よく見ると、使えそうな物が結構あるわね」
障害物の隙間などに、停め金具、たこ糸などが隠されるように置かれていた。
「てっきり、銃だけの勝負かと」
「よくよく考えれば、直接攻撃以外は何でもありのルール。予め用意されていたと考える方が自然だわ。最初から想定して然るべきことだったわね」
「盲点でしたね」
悔い改める暇もなくバシャバシャと、水しぶきを立てる音が後方から聞こえた。確認すると、男性三人のグループが辺りを見回しながら迫って来ていた。威力を確かめるには、うってつけのカモ。
「逃げましょう。踏まないように気をつけてくださいね」
「はい」
「ええ!」
トラップを飛び越え、角を曲がる。直後、ブザーが鳴った。
「三人同時っすか」
「奪った銃を使ったわね。何丁仕掛けたかしら? 実戦なら蜂の巣よ」
やられた
「もう、時間がないですね。おびき出しましょう」
「どうやって?」
「中央のステージへ行きましょう。そこなら、奇襲も少ないと思います」
地図上で一番広いメインステージへ移動。途中、遭遇した敵を仕留め、銃を回収しておく。相手は、10人仕留めればいい予選で、わざわざ全員を仕留めた。なら、ポイントで上回っていようとも必ず現れるはず、決着をつけるために。
「何してるんすか?」
「ちょっと仕掛けを。よし」
決勝終了まで、あと五分。ついに、その時が来た。
突然、
だけど――バケモノか。
いくら、軟らかい素材で造られているとはいえ、二階建てに匹敵する場所から飛び降りて、硬直時間もほぼなく、攻撃を仕掛けて来た。
「このっ!」
ゆり先生は、引き金を弾きながら、悪魔へ突進していくが、当たらない。寸でのところ身を翻し、すべての攻撃を紙一重でかわされている。
「スゴいっすね、あの人!」
「援護しましょう」
二手に分かれて、相手のネックレスを狙うが、あっさり避けられたあげく、両手に持つ銃で牽制射撃を受けた。咄嗟に物陰に隠れる。
――よし、行くか。息を整え、物陰を飛び出す。
引き金を弾くが当たらない。けど、これでいい。狙いは動かすこと、敵の攻撃を避けながら応戦。
――あと一歩、来た。
仕掛けておいた、たこ糸を線を引き、回収した銃の引き金を遠隔で弾くが、上体を90度反らして避けられた。
「なかなかやるじゃねぇか......小僧」
ゆっくりと反らした身体を戻し、両手の銃を降ろした悪魔が、その正体を見せた。
見た目は、20代後半くらい。赤毛で整った顔立ち、鍛え上げられた身体、まるで更生し損なったヤンチャが大人になったかのようにギラギラした好戦的な眼をしている。
「嬢ちゃんたちも出てきな」
隠れている、
「もう、時間はねぇ。連射が利かねぇ
「わかりました。合図をお願いします」
「あたしが出すわ」
倒した数では相手にならない。逆転するためにも、赤毛の悪魔の提案に頷き、ゆり先生が合図を申し出た。
お互いに後ろを向き、合図に備える。
「行くわよ?」
「はい」
「いつでも来やがれ」
パン! と、静寂を切り裂く音。
振り返り、引き金に手を掛ける、と同時に終了を告げるアナウンスが流れた。
その場に、立ち尽くす。
「チッ、ケチがついちまったな。おい、小僧。続きは、また今度だ」
赤毛の悪魔は身を翻し、去って行った。
「あたしたちも戻りましょう」
「あ、はい」
「そうね」
ロビーに戻ると、ゲームオーバーになった
「どうだった?」
「あたしと、
「そうか。とりあえず、生存ポイントは稼げたな」
「ああ。だけど――」
おそらく、あの人には届かない。
少しして、主催者から結果が発表される。
生き残ったチームは、全部で三チーム。俺たちは、三位だった。
そして、一位は――。
「あたしたちの勝ちよっ!」
「やったわね。ゆり」
大きく勝利宣言。
優勝したのは、クラスSSSチームゆり。話を聞くと、
「ペアの温泉旅行かー」
「届かなかったですね」
三位の景品は、四人まで半額で宿泊出来る特典付きのペア温泉旅行券。十分過ぎるくらい豪華な景品だけど、少し残念そうだった。
「交換してくれるかしら?」
「えっ?」
声に振り向くと、ゆり先生たちが立っていた。
そして声の主、
「温泉旅行と交換してくれないかしら?」
「いいんですか?」
「カメラより、温泉の方がいいわ」
「ありがとうございます」
「ありがとう。ゆり、お盆休みに一緒に行きましょう」
「ええ。
「うん」
「
彼女たちは、楽しそうに旅行の計画を立てながら仲間たちのもとへ歩いて行った。
「よかったですね」
「はいっ」
笑顔の彼女と手を繋いで、
「おっ、来たな。じゃあ帰るか」
太陽はまだ高いが、さすがに疲れた。
「夜飯どうする? 食べていくなら今日は、俺が奢るぞ」
「マジかよ、
「どういう風の吹き回しぃ~?」
「ちょっと、臨時収入があってな」
「あたしたちもいいのかっ?」
「もちろんさ。
みんな乗り気、魅力的な提案だけど......。
「すみません。これから用事があるんです」
「そうなのか?」
「はい。
「そっか。なら、仕方ないな」
納得した様子の、
別れる前に、
「じゃあ、お先に失礼します」
「ああ、また今度な」
彼らに別れを告げて、
電車に揺られ、最寄り駅の外に出ると、スマホに同時に着信が来た。送信者は、
「これ」
「まったく、アホっすね」
二人で笑いながら、送られて来た画像を見る。
そこには騒がしそうに焼肉を奪い合う
「あっ、そうだ! あたしたちも撮りましょー。
リクエストに答えて少しかがむと、彼女は隣に来てスマホのカメラを起動。画面に二人の姿が収まるように角度を調整して構える。
「じゃ、撮りますよー? 笑ってくださーい」
「はい」
カメラのレンズを見ながら、二人で軽く微笑む。
「よし、撮れた。送っておきますね」
「じゃあ行きましょうか?」
「あっ、もう一枚いいっすか?」
「ん? あ、はい」
もう一度かがんで同じ様にレンズを見る。
「撮りますよー?」
彼女を見ると、してやったりと満面の笑顔。
「お母さんが待ってます、急ぎましょーっ」
少し早足で前を歩く、
スマホに、また着信が来た。メッセージの送信者は、前を歩く、
立ち止まって開くと、先ほど撮った二枚目の写真が添付されていた。一枚は、二人で微笑んで写真。
もう一枚は、目をつむった彼女が、不意打ちでキスしてきた写真。
本文には「待ち受けにしておいてください!」と、イタズラっぽく書かれていた。
さすがに出来ないな、と軽い足取りで前を行く、彼女の背中を見ながら想ったのは、言うまでもない。
日向たちは、この回一発のゲストですので以降は出す予定はありません。ゆりは星ノ海学園の担任設定なので、学園回ではちょくちょく登場します。