Charlotte ~時を超える想い~ -after story-   作:ナナシの新人

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Episode8 ~舞台~

 厳しかった残暑も影を潜め、いくぶん過ごしやすい陽気の日が増え始めた初秋の休日。今日は、プールで対決した「赤毛の悪魔」こと、秋生(あきお)と名乗った男性が率いるチームとの野球の試合当日。

 決戦の舞台は、数え切れないほどの葉桜並木の長い坂道を上った先に校門を構える学校――光坂高校。

 桜の季節になると、薄紅色の可憐な花を無数に咲かすこの桜並木の坂道には以前、伐採計画があった記憶があるが。作業が進んでいる様子を見受けられないところをみると、中止か、中断か、それとも白紙になったのかもしれない。

 真実はどうあれ、俺にとって、この坂道は懐かしい風景であることに変わりはない。

 

「相変わらず、長い坂道っすね」

 

 隣を歩いている奈緒(なお)は、坂の上に構える校門を見上げながら、少し懐かしそうに微笑んだ。

 

友利(ともり)さんは、これから行く学校へ行ったことがあるんですか?」

 

 美砂(みさ)と並んで前を歩いていた黒羽(くろばね)が、後ろを振り返る。

 

「事前調査で来たことがあったんすよ。と言っても、無駄骨に終わりましたけどー」

 

 若干、批難めいた視線を向けられた。とりあえず、愛想笑いを返しておく。

 

「確か、宮瀬(みやせ)さんが通っていた学校だったと記憶にありますね。陽野森高校と並ぶ、都内名門進学校。やはり、星ノ海学園とは異なった雰囲気ですか?」

 

 と今度は後ろから、高城(たかじょう)に聞かれたが。実際に通っていたのは、ひと月に満たない短い期間。文字通り、ただ在籍していただけで、思い出といえるようなものは皆無に等しい。

 ただ、出席日数の関係もあるから登校だけはしてくれ、としつこく催促されていたけど。特別厳しい校則はなかったような気がする。

 

「おや、存外変わらないものなのですね」

「成績優秀な生徒が集まる学校だからじゃないっすか? 勉強第一で、悪さしてる暇なんてないでしょうし」

 

 それは、あり得る。潜在的なヤンチャは少なからず存在しているだろうけど、一般入学組も、スポーツ推薦組も、学業・部活動で各々結果を残さなければならない訳だから他にかまけている余裕はない。結果的に厳しく縛る必要性がないのかもしれない。

 そうこう話している間に、長い坂道を登りきり、光坂高校に到着。記憶を頼りに、校舎裏のグラウンドへ。相手は既に来ていて、運動着姿で身体を動かしていた。

 一塁側のベンチ前でタバコを咥えている例の人物が、俺たちに気づいた。

 

「来やがったか。ほう、なかなか体格(ガタイ)いいのが揃ってるじゃねーか」

 

「こりゃ面白い勝負になりそうだ」と、隼翼(しゅんすけ)たちを見てニヤリと笑い、三塁側のベンチをアゴで差した。

 

「裏の部室を使えるように手配してある。審判は、こっちで用意した。試合開始は、三十分後だ。楽しみにしてるぜ」

 

 ベンチに荷物を置き、裏の部室で着替えを済ませ、ベンチの前で軽くストレッチをしながら、女性陣を待つ。

 

「そう言えば、兄さん。誰が出場するの?」

「ああ~、そうだな。あちらさんは――」

 

 有宇(ゆう)とキャッチボールをしていた隼翼(しゅんすけ)は、ベンチに戻って談笑している相手チームの面子に視線を移した。

 

「半分以上が女子つっても、いい動きしてるし、結構手強そうだな。ピッチャーは、あの人か......」

 

 ベンチ横のブルペンに入った赤毛の悪魔は、一球ごとに悲鳴をあげて受ける金髪のキャッチャーを相手に投球練習をしている。

 

「速いな、あの人のボール」

「肩慣らしの投球練習であれってことは、本番はもっとギアを上げてくるだろうな。比率的に、有宇(ゆう)たちで六人だろ。んで、俺と――」

 

 着替えを終えた女性陣が、ベンチへ戻ってきた。

 

目時(めどき)、頼めるかい?」

「ん? うん、いいけど」

「これで、八人。あと一人は......」

 

 これでもかと、七野(しちの)が鋭い素振りでアピールしている。前泊(まえどまり)はと言うと早々に、文庫本を開いてベンチの奥に座って静観モード。

 

「プーで」

「俺か? まぁ、いいが」

「って、オイ! オレは!?」

 

 バットを放り出して、隼翼(しゅんすけ)に迫る。

 

「ここぞって時の切り札だよ。代打の神様、七野(しちの)様ってな。美味しい場面で結果を出せば、アピール効果も絶大だぞ」

「......マジか?」

 

 ――アピール。

 何の話しかと疑問に思っていると、前泊(まえどまり)が理由を教えてくれた。動機は、単純明快。七野(しちの)は、黒羽(くろばね)のファンらしい。張りきって素振りしていた理由も納得。意外とミーハーだった。

 

歩未(あゆみ)は、応援よろしくな」

「了解であります! 不肖乙坂(おとさか)歩未(あゆみ)、全力でみなさんの応援に精を出す所存であります!」

 

 とこんなテキトーな感じで、スターティングメンバーが決まった。軽くキャッチボールをしたり、ノックを受けたりして、試合開始予定時刻五分前にベンチに戻って、各々水分補給などをしながら試合開始に備える。

 

宮瀬(みやせ)。打順とポジションは、お前が決めてくれ」

「俺がですか?」

「勝負を受けたのは、お前だろ。それに昨夜、有宇(ゆう)から聞いた。魔球と謳われるナックルを、場外までかっ飛ばしたってな」

 

 仕留め損ねて、ファウルだったけど。

 

「じゃあ、決めさせてもらいます」

 

 両チームのウォーミングアップ中の動きを参考に、ポジションと打順を組み、集まってもらって発表。すると、どよめきが起こった。

 

「マジでか?」

「当然ですよ。ベストオーダーを組みました」

 

 奈緒(なお)が投手で、捕手は俺。二遊間は、美砂(みさ)目時(めどき)。サードに隼翼(しゅんすけ)、ファーストには、経験がある有宇(ゆう)を据え。外野は、左から熊耳(くまがみ)高城(たかじょう)黒羽(くろばね)の並び。

 

「まっ、いいか。奈緒(なお)ちゃん、ピッチャーの経験あるのかい?」

「ありません。けど、試合の話しを聞いてから一緒に練習してました」

 

 バッティングセンターとブルペンがある、近所のスポーツアミューズメント施設で。実力も特長も知っているから、組み立てもしやすい。何より相手チームに女性が多いからこそ、彼女にマウンドを任せることに大きな意味を持つ。

 

「さて、時間だ。始めるぞ!」

 

 呼びかけを受け、グラウンドに両チームが集まる。

 

「安心しろ、ジャッジは公平だ。もし贔屓しようもんなら......早苗(さなえ)のパンだ」

 

 審判団と、相手チームの数名の顔色が青ざめた。

 どうやら彼らにとって「早苗(さなえ)のパン」なる代物は、バツゲームの類なモノなのかもしれない。

 

「......ではこれより、古河(ふるかわ)ベイカーズ対。あの、チーム名は?」

 

 球審に聞かれて初めて気がついた。何も決めてなかった。

 

「星ノ海学園でいいですよね?」

「ああ、いいんじゃないか」

 

 無難に、学校名をチョイス。奈緒(なお)も通っていたから問題ないだろう。隼翼(しゅんすけ)が同意したことで、すんなりと決まった。

 

「星ノ海学園でお願いします」

「わかりました。では改めて、古河(ふるかわ)ベイカーズ対星ノ海学園の試合を始めます」

 

 先攻は、古河(ふるかわ)ベイカーズ。

 一度ベンチに戻り、準備をしてから各自ポジションに散らばる。防具を装備した俺は、キャッチャースボックスに腰を下ろし、真ん中にミットを構える。

 

「行きますよー」

「どうぞー」

 

 山なりの緩いボールが、ミットを構えた場所にドンピシャリ。その後も同じようなボールで投球練習を終え、マウンドの奈緒(なお)と打ち合わせ。

 

「じゃあ、手はず通りお願いしますね」

「了解っす」

 

 球審に礼を伝え、腰を下ろすと、頭髪を金色に染めた相手の先頭バッターを務める男子が、意気揚々と左打席で構えた。

 

「なーんだ。あの人が再招集かけるから、どんな強敵かと想ったけど、この程度なら楽勝だねぇ」

「プレイボール!」

 

 球審のコールで、試合開始。

 くるっと回したバットを得意気に、ライト方向へ向かってへ掲げた。

 

「よーし、全盛期の由伸を彷彿とさせる先頭打者ホームランで先制してやるぞー!」

春原(すのはら)ー、誰も期待してないぞー」

「なんでだよ!?」

 

 味方ベンチからのヤジにツッコミを入れている間に、奈緒(なお)が投げたボールが、構えたミットに収まった。そして球審が、右手を挙げてジャッジを下す。

 

「ストライク!」

「ええっ!?」

「インプレー中だ。ワンストライク、ノーボール」

「......岡崎(おかざき)、テメェ!」

「あんたバカ? 試合中に目離してんじゃないわよ」

「僕が悪いんですかねぇ? くっそー、絶対打ってやるからな!」

 

 ネクストバッターの女子に罵倒され、構えにリキみが入った。こちらにとっては好都合この上ない。打ち合わせ通りに攻める。甘いコースを引っ張られ、若干緩い当たりで深めに守っていたことで広く開いていた一・二塁を抜けていった。

 

「どうだ、(きょう)! 恐れ入ったかっ!?」

「でさぁー、そん時の陽平(ようへい)のビビりようってば」

「あははっ、そりゃ傑作だわ」

 

 (きょう)と呼ばれた女子は、隣の女性と談笑していた。

 その姿を見た金髪の男子――春原(すのはら)は、不服そうに仏頂面になった。

 

「こうなったら、福本バリの瞬足で度肝を抜いてやるからな!」

 

「誰それ?」と、両ベンチから疑問の声が挙がっているが、どうやら足に自信があることに間違いなさそうだ。二番バッターの(きょう)が、やや面倒そうに右打席に入る。

 

「あんた、何年?」

「一年です」

「じゃあ二個下か。他の人も同い年なの?」

「いえ、まちまちですよ」

 

 隼翼(しゅんすけ)たちと同じ、三年生。準備中の会話の中で、相手チームの構成も知れた。本職の野球部はひとりもおらず、文系の演劇部に所属している部員と、知り合いの寄せ集めだそうだ。

 

「そう。で、あんたたちもあの人に巻き込まれたんでしょ? お互い苦労するわね。って、うっさいわね」

「リーリーリーッ!」

 

 一塁ベースを大きく離れた場所から、大袈裟に叫んでいる。

 セットポジションで構える奈緒(なお)も、鬱陶しそうにしている。乱されるのは厄介。ウエストのサインを送り、構えたコースから意図的に大きく外角へ外し、素早く一塁へ牽制球を放る。

 慌てて滑り込んで帰塁して来た金髪の脳天に、有宇(ゆう)のグラブが思い切り入った。

 

「アウト!」

 

 憤死、牽制タッチアウト。

 そのまましばらく起き上がらず、塁審に注意されてようやく起き上がると、恐る恐るベンチへ顔を向ける。相手ベンチでふんぞり返っている例の悪魔、秋生(あきお)さんが、首の前で横に切った親指を地面に向かって落とすジェスチャー。

 

「ひ、ひぃっ!」

 

 独特な悲鳴をあげながらも、背中を丸めれてベンチに戻っていった。

 

「い、いやー、美佐枝(みさえ)さんって――」

「ふんっ!」

 

 何かを言い終える前に、ドロップキックが炸裂。ベンチの隅に転がり、そのまま動かなくなった。

 とにかく、これで塁上の邪魔者は居なくなった。気を取り直して、ミットを真ん中に構える。初球を見送った後の二球目を、上手く逆方向へ運ばれた。

 続く三番は、春原(すのはら)を蹴り飛ばした女性、美佐枝(みさえ)さん。二球目を叩き、ゴロで奈緒(なお)の横を抜けセンター前へ抜けそうな当たりだったが、美砂(みさ)が上手く回り込んで捕球し、グラブトスでセカンドベースに入っている目時(めどき)に送り、フォースアウト。しかし、ファーストは間に合わず、二死一塁で四番の秋生(あきお)さんを迎える。

 

「あの打球に追いつくとは、あの嬢ちゃん、なかなかやるじゃねぇか」

「でしょ?」

 

 美砂(みさ)を内野で一番判断の難しいセカンドに置いたのは、打球勘の良さと、ポジション取りのセンスが抜群だから。ショートに入っている目時(めどき)もハンドリングが上手く、届く範囲の打球は無難に処理してくれる。

 が、しかし――。

 

「甘ぇッ!」

 

 初球を、フルスイング。

 思い切り引っ張った打球は、その守備力を無力化させる程の放物線を描き、レフト熊耳(くまがみ)の頭上を越え、さらにその先のフェンスも越えて地面に着弾した。二死から、四番の一発で二失点。続く五番、灰色のロングヘアーの女性にも、ポール際ギリギリに飛び込むホームランを打たれて、三失点目を喫してしまった。

 

「ナイスバッチ! 智代(ともよ)

「むぅ、岡崎(おかざき)か」

「どうした?」

「やはり、女の子らしくないのではないか?」

「こだわるなー。取れるときに取っとかねーと、前みたいになるぞ?」

「それもそうだな。よし、今回は勝負に集中するとしよう」

 

 六番の大柄の男性。七番のツインテールの少女に連打を浴びて、二死一・二塁と更にピンチが広がる。ベンチからの応援で、男性は芳野(よしの)。少女は、芽衣(めい)という名前と判明した。

 八番は、ホームランを打った智代(ともよ)と言葉を交わしていた岡崎(おかざき)という名の男子。どこか、構えが小さく感じる。奈緒(なお)の一球目......空振り。

 彼のスイングは、まるで波を打つような振り、かなりぎこちない軌道のスイングだった。

 

「どこか痛めてるんですか?」

「......何でもねぇよ」

「そうですか」

 

 見た感じ痛めてるのは、おそらく腕回り。

 中腰でミットを真ん中高めに構える。二球目、釣り球に手を出して空振り。明らかにバットのヘッドが上がりきっていなかった、痛めているのは右肩。もういい。立ち上がり、右手を外に上げる

 

「タイムッ!」

「タイム」

 

 隼翼(しゅんすけ)の要求を受け、主審が手を上げて宣言。隼翼(しゅんすけ)は手招きをして、内野をマウンドに集めた。

 

「どういうつもりだ?」

「ただの敬遠ですよ」

「だから、何で追い込んでから敬遠するんだよ」

「最初から決めてたんすよ」

「え? どういうことだい? 奈緒(なお)ちゃん」

 

 彼女にした打ち合わせの内容は、何点取られても構わないから、打者の力量を測るために初回で一巡させて欲しい。

 

「と、いうことです」

「理由はあるってことね」

「なるほどな。まぁ、次は九番だし、ここで切れば致命傷は免れるか。わかった、奈緒(なお)ちゃん、頼んだよ」

「はい、お任せください」

「あとで、その理由(わけ)ってのを聞かせろよな!」

 

 全員がポジションに戻り、プレイ再開。予定通り敬遠して、九番との勝負を選択。低い位置で長い髪を大きな青いリボンで束ねている少女、風子(ふうこ)。彼女を三球三振に打ち取って、スリーアウトチェンジ。

 ベンチに戻ると休む間もなく、美砂(みさ)が詰め寄ってきた。他のメンバーも視線を向けている。

 

「で、どういう理由(わけ)だっ?」

「ちょっと待って下さい。防具外しますんで......」

 

 プロテクターを外しながら、前泊(まえどまり)奈緒(なお)のビデオカメラを渡して、マウンドに立つ秋生(あきお)さんの投球練習を撮影しておいてもらう。

 

「じゃあ、行ってきまーす」

「あ、はい、行ってらっしゃい」

 

 プロテクターを外し終わったところで、一番バッターの奈緒(なお)がバッターボックスへ向かった。

 

「さっきも言いましたけど、最初から初回に一巡させる予定でした」

「三点やってまでか?」

「妙なことをしていると思っていたが、あれは、わざとだったのか?」

 

 外野にいたためマウンドでのやり取りを知らない熊耳(くまがみ)、同じく外野にいた高城(たかじょう)柚咲(ゆさ)も不思議そうな表情を見せた。

 

「もしかして、失点イコール負けに近づくって思ってます?」

「当然だろ、なぁ?」

 

 同意を求めるように、隼翼(しゅんすけ)は周りに同意を求めた。ただ一人、有宇(ゆう)を除いて、全員が頷いた。

 

「その考えは間違いですよ。将棋でも、勝つために飛車や角を捨てることもあるんです。この三点の代わりに重要な情報(モノ)を拾いました」

「重要な情報(モノ)? それは何だ?」

「次の回になれば解りますよ。次の回からは、ランナーは出ても点はやりません」

 

 ――キンッ! と、甲高い金属音が響いた。

 グラウンドを見ると、奈緒(なお)が一塁に出塁していた。

 

友利(ともり)のヤツ、出塁したんだな」

「じゃあ、行ってきますね」

「あ、ああ......」

 

 若干困惑しているベンチをよそに、バットを持って右バッターボックスに立つ。トントン、と二回ホームベースの真ん中を軽く叩き、スイっとピッチャーに向けて戻したバットを肩に担ぐようにしてから、ゆったりと前に倒す。

 

「ほぅ、神主打法か、おもしれぇ! おい、逸らすなよ?」

「おう! 任せろいっ!」

 

 セットポジションから、第一球。

 ランナーの存在を無視して放られたボールは、ストライクゾーンのど真ん中を通過し、バンッ! と、なかなかに重そうな音を立てキャッチャーミットに突き刺さった。球速はおそらく、120キロ後半、回転数は平均値の17~20回転。バッティングセンターで速球を打ち込んできた甲斐あって、目で追えないレベルじゃない。

 

「次、行くぜ?」

 

 二球目――インハイのストレート。

 右肘を身体に巻き付かせるようにして畳み、体の前で捉える。

 

「これで、一点差っと」

 

 打球は、先に打たれたのホームランと同じく高い放物線を描き、レフトフェンスを越えた。

 それを見て、古河ベイカーズのナインは信じられないといった感じに唖然した表情(かお)。対照的にマウンド上の秋生(あきお)は、まるで新しい玩具を手に入れた子どものように嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

「ふん。なるほど、内角高目(アレ)を捌くか。手加減はいらねぇってか」

 

 ――本気じゃない。向こうも力量を探ってたらしい。

 ゆっくりベースを回ってホームベースを踏むと先に、ホームインしていた奈緒(なお)が笑顔で出迎えてくれた。

 

「ナイスっす!」

 

 ハイタッチを交わして、ベンチへ戻る。

 

奈緒(なお)さんも、打ったんですね」

「見てなかったんすかー?」

隼翼(しゅんすけ)さんたちに意図を説明していたものですから。それに絶対に出塁してくれるって信じてました」

「なら、しょうがないっすね」

 

 笑顔の彼女とベンチに戻ると、軽く叩かれながら迎えられる。

 

「ナイスバッティングだったな! よっし、次は俺の打順だなっ!」

「あっ、隼翼(しゅんすけ)さん」

 

 バットを持った隼翼(しゅんすけ)に声をかける。

 

「なんだ?」

「気をつけてください。今からが本番みたいです」

「――本番。わかった」

 

 仕切り直しの第一球は、ズドンッ! と、俺と奈緒(なお)に投げた時とは明らかに違う音を奏でていた。はったりではなかったようだ。

 

「ひいぃーっ! 手が持たねえよっ!」

「あんたの手なんかどうでもいいから、ちゃんと捕りないさいっ」

「あなた酷すぎませんかっ!?」

 

 ショートを守る(きょう)に、キャッチャーの春原から批難の声。どうやら彼は、弄られ役らしい。今はそんなことよりも、ここからは手加減無しの真剣勝負。二球目――空振り。

 

「次、フォークいくぞ。前に落とせよいいなっ?」

「うっすっ!」

 

 相当自信があるのか、フォークを投げると予告。

 

前泊(まえどまり)さん。投手だけ映るように撮影してください」

「了解」

 

 三球目、予告通りベースの手前で大きく落下、隼翼(しゅんすけ)も狙ったが空振り。しかし、鋭い変化に捕球できずにワイルドピッチ。バックネットに転がるボールを追う間に、隼翼(しゅんすけ)は一塁に到達、振り逃げで出塁。

 

「テメェ、また、俺のフォークを封印させる気かっ!」

「つ、次は捕るっすっ!」

 

 迫力ある秋生(あきお)に気圧される春原(すのはら)

 無死一塁で四番は、有宇(ゆう)

 

有宇(ゆう)お兄ちゃんっ、ホームランでござるっ!」

「って、言われてもな。当たる気しないんだが?」

有宇(ゆう)

「ん? なんだ?」

「フォークは無いぞ」

「了解、行ってくる」

 

 右バッターボックスで構える。

 セットポジションから一度隼翼(しゅんすけ)を目で牽制してから、奈緒(なお)の時は使わなかったクイックモーションで投球。

 

「ストライーック!」

「くっ!」

 

 二球目。打ち返すことは難しいと判断した有宇(ゆう)は、バットを寝かせて当てにいった。セーフティの構えを取った瞬間、秋生(あきお)さんは、マウンドから飛び出した。コンッ、バントで転がした打球は、やや一塁寄りに転がる。

 

「セカンッ!」

 

 素早い打球処理で迷わず、二塁へ送球。ショートの(きょう)がベースカバーに入り、フォースアウト。一塁はセーフ、一死一塁。

 

「守備も上手いっすね」

「ですね。有宇(ゆう)も、上手く転がしたけど」

 

 五番の熊耳(くまがみ)が打席へ向かう。初球、ど真ん中のストレートと、思いきや、手元で鋭く曲がった。内角を抉るシュートを引っ掛けて、サードゴロ併殺打でスリーアウト。

 

「すまん......」

「僕も送れなかった」

「仕方ないですよ。守備、お願いします」

 

 プロテクターをつけて、グラウンドへ向かう。

 

「行きましょー」

「ええ、手はず通りお願いしますね」

「お任せください」

 

 こっちも、ここからが本番だ。

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