ベルキチ   作:鎌鼬

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第1話

 

拳と拳がぶつかり合い、互いの拳が砕ける鈍い音が聞こえる。だが砕けた程度で痛がっていたらこの時代では話にならない。左足を軸としてその場で回転し、頭部へ目掛けて踵をぶつけーーー様としたが腕を盾にしているのが見えたのでそこから軌道を変えて金的に変える。一般兵や権力だけで成り上がったなんちゃって将軍なら何が起きたのかわからないままに悶絶するだろうが目の前にいる青年ーーークラウスは見てからその蹴りに対応してガードして見せた。

 

 

その程度なら予想は容易かったので防がれた足の握力で腕を引いて体制を崩すのと同時に身体を持ち上げて軸にしていた左足でクラウスの顎に蹴りを叩き込む。爪先から入った蹴りは感覚からして顎にヒビを入れただろうがそれと同時に仕込んでおいた鉄板が壊れてしまった。

 

 

相変わらずの頑丈さに呆れながら蹴り上げた足をそのまま下ろして踵落とし。それはクラウスが自分から頭を上げて踵にぶつかることで威力が完全に乗り切る前に受け止められ、さらに骨にヒビが入るのを感じた。

 

 

流石に離れて一度体制を立て直そうとしたところを無拍子で潜り込まれ、体重の乗ったパンチが放たれる。受けて仕舞えば落ちるのは目に見えて分かっているので袖を掴んで軌道を逸らして回転。遠心力の乗った肘を筋肉の薄いところにある臓器の腎臓に叩き込む、のだがしなやかな筋肉に威力を吸収されてしまう。

 

 

そしてお返しだと言わんばかりに放たれた肘が脇腹に突き刺さる。全身を脱力させてそれを受け止めたが湿った音と共に喉の奥から鉄臭い液体が込み上げてくる。どうやら肋骨が折れて肺に傷がついたらしい。そのせいで多少呼吸がし難くなったが、その程度だ。まだ動ける。

 

 

肘打ちに逆らわずに飛ぶと視界に腰を落として拳を引いているクラウスの姿が映った。この距離から打てる打撃など一つしか知らない。

 

 

「ーーー断空拳」

 

 

クラウスの代名詞とも言える技が放たれた。断空拳と名前が付いているが正式にはそれは技ではなく技法、足先から練り上げた力を拳足から打ち出すそれが『断空』になる。離れた場所から放たれたはずの断空が空気に伝わり、衝撃を伴った不可視の攻撃として襲い掛かってくる。

 

 

一番の対処法としては撃たせないことだったがすでに撃たれてしまったので却下。となると避けるか受けるかに限られてくるが避けるとしても不可視で範囲が広いので避けきれず、受けるにしても今の状態ではそのまま断空に飲み込まれることが目に見えている。

 

 

なので、取るべき手段は迎撃。

 

 

「ーーー人世界に紡がれる英雄譚を聴くがいい」

 

 

砕けた拳を握り締めると同時に肘まである黒い籠手が展開される。それは武具などでは無く、とあるスキルを起動させる為の物で個人的には『黒金』(くろがね)と呼んでいる。宙で体制を立て直しながら着地と同時に大地を足で掴んで迫る断空の衝撃を、

 

 

人世界・英雄譚(ミズガルズ・サーガ)ーーー!!」

 

 

黒金の一撃にて()()()()人世界・英雄譚(ミズガルズ・サーガ)、それは断空と似たスキルを発現させた時の打撃につけられた名前。そしてスキルは『自壊』ーーーつまりスキル発現時に触れた存在の自壊を促して殺すのだ。友人曰く、無機物有機物どころかコンディションによっては事象までも自壊させることが出来るスキルらしいがそのまではまだ至っていない。精々この衝撃波や気体である毒ガスを殺すのが関の山だ。これだけ聞くと無敵にも見えるだろうが弱点はある。それは当てられない程に速い敵や時間を操作するスキルホルダーだ。

 

 

前者は対抗策を開発中で近い内に殺すことが出来る様になるが後者だとスキルでは殺せなくなる。過去にその手のスキルホルダーと戦った時には時間を止められて自壊を防がれてしまった。しょうがないのでその時は技術で殺したのだが。

 

 

断空の衝撃を殺すのと同時にスキルを終了させる。と同時にクラウスがノーモーションで懐に潜り込んできた。完全に呼吸を盗まれていて動きが取れず、クラウスは喉を掴んでそのまま押し倒そうとするーーーそれに対して反射的に下半身を持ち上げて変則的であるが三角締めに持ち込む。

 

 

これで五分五分、お互いに締め合うという状態に移行する。握力と脚力では差があるはずなのに同等という辺りクラウスがいかに規格外かを教えさせられるがこうなって仕舞えばただの我慢比べでしかない。

 

 

顔が真っ赤になりながらも締め合っているとーーー

 

 

「そこまでです!!」

 

 

横合いから吹き飛ばされたことで締めが外れる。受け身を取りながら呼吸を乱さずに新鮮な空気を吸い込む。クラウスに至っては吹き飛ばされながら宙で四回転を決めるというアクロバティックな着地を見せてくれた。

 

 

止めに入ったのは義手をつけた緑と赤のオッドアイの金髪の少女ーーーオリヴィエ。そしてその側には黒髪の中性的な顔の人物ーーーエミリアが控えていた。

 

 

「いったた……やっぱりシオンは強いな」

 

「クラウスに言われても嫌味にしか聞こえねぇんだよな〜なんで蹴りに行った足が砕けるのさ」

 

「それはこう、受けの極みだよ。完全な状態で撃たせていると思わせつつタイミングをズラして当たるのと同時にカウンターを決めてる」

 

「あったまおかしいわ」

 

「解せぬ」

 

クラウスが言いたい事は分かる。そしてそれはやろうと思ったらこちらも出来ることだ。だが実戦でやろうとは考えない。クラウスはさも当たり前の様に言っているが僅かにでもタイミングがズレれば大惨事になってしまう。そんなことをするなら避けた方が良いに決まっている。

 

 

「はぁ……どうしてクラウスとシオンが訓練すると毎回殺し合いになるんですか?見ているこっちが冷や冷やします」

 

「殺し合い?違うよ、訓練だよ!!殺すつもりが無かったらどんなに殺し合いに見えても訓練だから!!ね、クラウス」

 

「そうそう、僕たちから殺気は感じなかっただろ?だから殺し合いじゃなくて訓練訓練!!」

 

「端から見たら殺し合いに見える時点で殺し合いだから」

 

「「エミリア!!キサマァ!!」」

 

 

エミリアも時々こんな感じの訓練をしているというのにオリヴィエ側に回られてしまった。クラウスと一緒に叫ぶものの素知らぬ顔で口笛を吹いている。オリヴィエに至っては怒っていますと言いたそうな姿勢になっているが彼女の容姿ではそんな動作ですら可愛く見えてしまうので意味を成さない。

 

 

オリヴィエの小言を聞きながら訓練が終わると同時にやって来た侍女たちの手当てを受ける。クラウスは顎骨と右手にヒビと軽い打撲、こちらは左手と右の踵の骨にヒビと肋骨が二本程完全に折れているらしい。あと少しズレていたら肺に刺さっていたそうだ。始めの頃は慌てていたが慣れたのか侍女たちは怪我の具合を報告しながら淡々と治療をしてくれた。

 

 

骨を正しい位置に戻して繋げてもらう。繋げるとは言っても仮癒着で日常生活が送れる程度、激しい運動をすれば離れてしまうのだがここまで治してもらえれば一日もあれば完治するので問題は無い。

 

 

立ち上がって服に付いた砂埃を払っているとエミリアは呆れ顔になりながら近づいてきた。

 

 

「本当に良くやるよね君たちは。どうして訓練であそこまでやれるんだい?」

 

「おう、自分のこと棚に上げるなよ。エミリアだってやる時はあれくらいやるだろうが」

 

「僕は骨折するまでやらないから。で、はぐらかさ無いで教えてよ」

 

「そりゃあこんな時代だからな、戦える力くらい付けとかないと。いざっていう時に弱かったから勝てませんでしたじゃ話にならないからな」

 

 

この国、シュトゥラーーーというよりもこのベルカという時代はどうしようも無く詰みに向かっている。痩せ続け疲弊していく大地と人々。止まることを知らぬ争い。その中で幾つかの国が『禁忌兵器』(フェアレーター)に手を出したという噂もある。水と大地を穢す猛毒の弾薬、人も草木もすべての命を腐らせる腐敗兵器……そうした物に手を出さなければいけなくなる程に誰もが追い詰められているのだ。

 

 

王族であるクラウスやオリヴィエの様に民草を護りたいだなんて崇高な願いを持っているわけじゃない。こちらはただのスキルホルダーの人間に過ぎない。偶然クラウスと知り合う機会がなければ一般兵として雇われて戦場で殺し合いをしていただろう。

 

 

「ん?どうかしたの?」

 

「いんや、何でもない」

 

 

精々、惚れた奴を護りたいくらいなものだ。

 

 

「ヘイ!!皆の衆!!」

 

 

そんな時に現れたのは細身の紫の挑発をした青年。洗いたてなのか汚れ一つない白衣を着て軽い調子で話しかけてきた。

 

 

「よっす、ディー」

 

「どうかしたのかい?また部屋を爆発させたの?」

 

 

ディーと呼ばれた青年には名前というのが無い。一族の仕来りらしく『無限の欲望』(アンリミテッド・ディザイア)という名称を与えられただけらしい。名前とも思えないので誰もがディザイアから取ったディーという愛称で呼んでいる。

 

 

彼は見た目通りに戦う者ではない。領分は学者で様々な分野に手を伸ばしていてそのどれもがその筋の専門家レベルまでいっている。自壊のスキルの仕組みを解明したのも彼だ。

 

 

「いつま私が部屋を爆発させているみたいに言うのは止めてくれないかねぇ……そうそう、さっき早馬が届いて国境付近で賊が現れたらしいよ。これその報告書ね」

 

 

ディーから手渡された報告書を流し読むと確かに国境付近で賊が現れたと書かれていた。数は少ない様だが少数精鋭、人的被害こそ少な目だが物資が略奪されている。。さらに国境付近ともなれば自国では無く他国の間者かもしれない可能性がある。

 

 

「なるほどね……クラウス!!」

 

 

クラウスに報告書を投げ渡すと同時に兵の詰所に向かって歩き出す。被害はもう出ていて、それがここまで伝わっているということは向こうもこちらを警戒している頃だ。なら遠慮無しに正面から叩き伏せるのが一番手早い。

 

 

「おう!!テメェラ!!仕事だぞ!!」

 

 

「 ヴィッヴィ様!!」

 

「「「「「ハイ!!!!」」」」」

 

「ヴィッヴィ様!!」

 

「「「「「ハイ!!!!」」」」」

 

「オラァ!!!!」

 

「「「「「隊長ォォォォォォォォ!!!!」」」」」

 

 

詰所に入ると法被とハチマキをした集団が何やら儀式めいたことをしていたので扇動していた奴を容赦無く蹴り倒す。顔を確認したら兵士たちの隊長だった。

 

 

「おう、国境付近で賊が出たから行くぞ〜」

 

「よっしゃ!!賊狩りじゃぁ!!!!」

 

「フッフッフッ……我が槍も血に餓えている……!!」

 

「おい!!俺の剣知らねえか!?」

 

「お前の剣ならそこで物干し竿になってるぞ」

 

「誰だ!!俺の防具に落書きしたのは!?」

 

 

ふざけたことをやっていた様だが流石はシュトゥラの兵と言うべきか、指示すれば即座に切り替えて賊狩りの準備を始めた。この調子なら10分そこらで出れる様になるだろう。それまでにはクラウスも用意が終わっているはずだ。

 

 

「はぁ……本当にベルカって地獄だな」

 

 

終わりに向かっているベルカの世界で、今日も生きています。

 

 





ベルカ王子のクラウスとオリ主のシオンは殺し合いの事を訓練だと言い張っている様です。まぁ、死ななかったら訓練だよね!!

そしてさらりと無限の欲望さん登場。あくまでも無限の欲望であってスカさんではないのでそこのところ間違えない様に。


シオン……オリキャラ、スキル『自壊』持ち。スキル発現時には手に黒い籠手が現れる。技術で戦うテクニカルタイプ。

クラウス……ベルカ王子。パワーでゴリ押すタンクファイター。殴って壊せないものは無いらしい。

オリヴィエ……天使、非汚れ系。シュトゥラの兵士たちがファンクラブを設立している。

エミリア……男装系美少女、常識的な部類。シオンとクラウスの殺し合い(くんれん)を見て呆れているが彼女も参加していることを忘れてはいけない。

ディー……無限の欲望(アンリミテッド・ディザイア)、学者キチ。名前がないらしいので親しい人間からはディーという愛称で呼ばれている。よく研究部屋から悲鳴の様なものが聞こえてくるらしい。


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