「たっだいま〜」
「ただいま〜」
「あ、お帰りなさいクラウス、シオン」
賊の討伐を終えて帰還するとオリヴィエが出迎えてくれた、クラウスはすぐに馬から降りたのだが、まだすることがあるのです降りられない。クラウスの頭目掛けて唾を吐き捨てる。
「んじゃ、俺は捕まえた賊を牢に入れてくるから」
「おい、その前に僕に向かって唾を吐いたことを謝れ」
「分かりました。あ、エミリアが料理をしていたので終わったら食堂に来て下さいね」
「はいよ……オラ!!キビキビ歩けや!!この人間のゴミ共が!!」
馬に乗ったまま進むと後ろからモヒカンにトゲ付きの肩パッドを付けた集団が付いてくるーーー亀甲縛りで縛られているという危ない絵面の状態で。生け捕りにした賊の拘束を頼んだところ、兵士たちの何人かぎ嬉々としてこの縛り方を実行したのだ。こちらとしてはキチンと拘束されているなら文句は無い。
今回の賊は他国から流れ着いたものだった。少数精鋭で統率が取れていたのは元々は兵士の出だった為、その時の矜持があったのか弱者である民には極力手を出さないでくれていた様だが。
賊を牢に放り込む。その時に顔を赤らめたり、危ない表情になっている奴が何人か見えた気がしたが気のせいだと思いたい。この後の賊の処遇についてはシュトゥラの国王であるクラウスの父親に任せるしか無い。あの人なら悪い様にはしないだろう。
井戸で顔を洗ってから食堂に向かうとそこにはクラウスとディーとオリヴィエ、それに黒いエプロンを付けたエレミアの姿があった。テーブルの上には雑目にカットされた食材で作られた料理が置かれている。
「お帰り、どうだった?」
「ただいま、クラウスから聞いてると思うけどまぁそこそこの相手だったよ。見かけによらずコンビネーションも取れてたし、魔力変換でも無いのに火炎放射器みたいに炎を出された時には驚いたな」
「火炎放射って……大丈夫?怪我してない?」
「クラウスは突貫するつもり満々だったけど俺はそこまで頑丈じゃないからな〜小声で火傷したらオリヴィエに治療してもらえるかもって呟いて兵士たちが壁になってくれなかったら危なかった」
「さらりと兵士たちを盾にしない。お腹減ってると思って作ったけどいるかい?」
「もっちろん、腹減ってたところだからな」
エレミアの料理は適当に切った食材を焼いたり煮たりと男の料理といえる物だったが味付けは良い。席に着いて料理に手をつけようとした時ーーー
「は〜いお待たせ〜シャマルちゃんの手料理フルコースよ〜」
ーーー地獄がここに顕現した。出てきたのはコポコポと沸き立つ紫の液体を盛り付けられた皿、出したのはディーが作ったスキルや魔法を蒐集する魔道書『夜天の書』の守護プログラムである湖の騎士シャマル。彼女の作る料理はどんな過程を経たとしても
「おい、
「どこが
「これがシチューだと言い切れるお前の目が節穴だよぉ!!」
「あれ?ディーとクラウス殿下は?」
さっきまでいたはずのディーとクラウスの姿が見えない。それだけならまだしもオリヴィエの姿も見えず、穴の開いたテーブルの上にひっくり返った皿があるのが不安を煽って仕方が無い。
「ディーさんとクラウス殿下なら疲れてたのかシチューを食べたら寝ちゃったわ。オリヴィエ様が寝室へ運んでくれたのだけど……」
「クラウスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!ディィィィィィィィイ!!!!」
ディーとクラウスの迎えた結末を理解してしまって思わず絶叫する。オリヴィエが寝室に運んだなどと言っているが今頃二人は医務室に運ばれて心肺蘇生が施されているだろう。
というか誰か教えろよ、こいつの作る料理は全部
「お、俺エレミアの料理食べるから要らないし……」
「そうなの?残念ね……あ!!そうだ!!帰ってきた兵士さんたちに食べてもらいましょう!!」
そういったシャマルは寸胴鍋一杯に作られた
「ーーー行ったな?」
物陰から現れたのはシャマルと同じ夜天の書の守護プログラムである烈火の将シグナムだった。剣一本で戦場を駆け巡る彼女でもシャマルの料理は怖いらしく今まで隠れていた様だ。
「シグナムぅ……どうしてシャマルを止めなかった?」
「うむ……実は私とエレミアで料理をしていたのだが……目を離した一瞬の隙にシャマルが料理を完成させていたんだ。訳が分からなかった……目を離したのは僅かな時間だと言うのにシャマルは当たり前の様に寸胴鍋を紫の液体で一杯にして掻き回していたからな……」
その時の光景を思い出しているのかシグナムはガタガタと震えている。戦場では武者震いとして流されるだろうがここではシャマルの料理に対する恐怖で震えているのだろう。あれはヤバい。ディーは兎も角タンクファイターのクラウスさえも沈める兵器だからな。
「と、ところでヴィータとザッフィーは?姿が見えないけど」
これ以上この話をしているとここにいる全員の精神衛生上よろしく無いと判断して無理矢理だが話を逸らすことにした。今挙げた二名はシグナムとシャマルと同じ夜天の書の守護プログラムで鉄槌の騎士ヴィータ、盾の守護獣ザフィーラ。珍しいことでは無いのだが姿の見えない二人のことが気になってしまう。
「あぁ……ヴィータとザフィーラならシャマルの料理の味見をさせられてたよ……」
「ヴィィィィィィィィタァァァァァ!!!!ザッフィィィィィィィィイ!!!!」
話を逸らしたと思ったら戻ってきた。思わずシャマルの犠牲になった二人の名前を叫んでしまう。シャマルは一体どれだけの犠牲を出せば気がすむのだろうか?実は隣国からの間者だったと言われても驚かない自信がある。
「まぁそれはさて置き、料理が冷めるから早く食べてくれないかい?」
「うむ、今日のは自信作なのだ。出来れば一番美味しい内に食べてもらいたい」
「シャマルの料理に比べたらどんな物でもご馳走に思えるんだよなぁ……」
「シャマルの料理は
料理では無い。いいな?」
「アッハイ」
さらりと
「いや〜美味い美味い。ホント二人は料理が美味いよな〜」
「ちゃんと手順を踏まえてたら大きな失敗はしないよ」
「シャマルの料理が異常なのだ……何故直前までは普通だったのに仕上げの段階に入ると毒化するのだ……」
「あぁ……」
その時の光景を思い出しているのかエレミアは遠い目になり、シグナムはガタガタと震えて自分を抱いている。シャマルのことに関してはどうにかしないと国が傾くかもなぁ、なんて思いながら今は二人の料理に舌鼓をうつ事にした。
その一時間後、予想していた通りに兵士たちとたまたまその場にいたシュトゥラの国王が心肺停止状態で医務室に運ばれたりしたが、今日も生きています。
シャマルの料理は
前々から問題に上がっていたが今回国王が犠牲となったことで規制する事になった様です。
そしてこの小説ではディーが夜天の書を開発した事になっています。