文章に関しては処女作ということで目を瞑ってくださると嬉しいです。
もう指の一つも動かすことはできそうにない。
意思に反して微動だにしない身体を、降雨が冷やしていく。
ーーーーーーー俺はここで死ぬのか。
闇に包まれた路地裏で、ふとそう思った。
頭の中に次々浮かんでは消えていく、過去の思い出。
決して幸せだ、と胸を張って言えるものではなかったが、不思議と満足感が生まれてきた。
ふっと緊張していた身体から力が抜けていくのが分かった。
ーーーーーーーまぁ、それも悪くはなーーーーーーーー。
暗闇へと沈んでいく意識に、身を任せようとしたその時、聞いたこともないような音が耳に届いた。
微かに聞き取れるほどの音量しかないが、確かに耳に残る音。
それも不快ではなく、むしろーーーー。
と、そこで自分が立ち上がって歩いていることに気がついた。
先ほどまでどんなに望んでも動いてくれず、もう諦めようとしていた身体が、一人でに動くように足を進めている。
まるでマリオネットになったような気分だが、そんなことに意識を割いている暇はなかった。
誘われるように路地裏を抜けると、月光が俺を照らす。
これほど月の光が眩しいと感じたことなんてなかった。
眩しさに耐えきれずに細めた目が捉えたものに、思わず息を呑んだ。
ーーーーーーーーー綺麗だ。
そんな陳腐な表現すらでてこないほどの光景に息をするのも忘れ見入る。
輝く月を背景に、屋根に腰をかけた一人の女性が、歌を歌っていた。
整いすぎた肢体に、流れるように美しいブロンド。まるで美の女神も裸足で逃げ出すような美しさに、見惚れていると、ふと彼女の歌が止まった。
それを残念に思う間もなく、彼女の宝石のような翡翠色の瞳が俺を捉える。
「ーーーーーーーーーこんばんは」
それが俺 ウィリウス・スターガと女神 アフロディーテの出会いだった。
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朧げだった意識がゆっくりと覚醒していく。
薄目をあけると、カーテンの隙間から漏れでる日光に眉根を寄せた。
上半身を起こしながら、隣で寝ている女性を横目で確認する。
女神 アフロディーテ。
8年前、ボロボロだった俺を拾ってくれた恩人であり、俺の主神でもある。
8年間毎日見ていたというのに、飽きることはないその美貌は、布団の中で規則正しく寝息を立てていた。
「.................んぅ」
どこか色を含んだ吐息と共に、はらりと落ちる一房の美しさブロンドに後ろ髪を引かれながらベッドから出て、身だしなみを整える。
現在、アフロディーテファミリアには俺一人しか所属していない。
というのも、女神アフロディーテとしての性質というか、ファミリアの指針だった。
アフロディーテは、愛と性を司る美の女神であるが、どこかの女神様と違ってその愛は一途だ。
幼い頃、ファミリアに人員を勧誘しないのか、と尋ねた俺に『あなたがいるわ』と返した女神様の姿は今でも覚えている。
頬を染めながらの上目遣いに、子供ながら胸を高鳴らせたものだ。
とはいっても、やはり所属団員が一人ではファミリアの運営はままならない。
愛する女神に負担をかけたくなかった俺は、金銭や住居に途方に暮れていた。
そこを助けてくれたのが【豊穣の女主人亭】である。
ダンジョン探索や依頼の合間を縫って、【豊穣の女主人亭】で働くという約束のもと、衣食住の面倒を見てくれているのだ。
いまでこそ生活が落ち着いて頻繁に顔をだせるものの、駆け出し冒険者であった俺を快く受け入れてくれた店主のミアさんには頭があがらない。
【豊穣の女主人亭】の制服に袖を通した俺は、音を立てないようにドアを開けると、自室をあとにした。
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迷宮都市オラリオの酒場は、その客入りに時間帯はあまり関係がない。
荒くれものの冒険者にとって、ダンジョンに潜る前に一杯ひっかけよう、なんて話は珍しくもなんともないからだ。
故に、日の出から慌しくなる酒場もここオラリオでは少なくなかった。
しかし、【豊穣の女主人亭】では他の酒場とは少し事情が違った。
客層の多くを男性が占める酒場ではあるが、【豊穣の女主人亭】ではこの時間帯に限って、店に入る客のほとんどが女性である。
だが、何も彼女たちは朝っぱらから酒を楽しみに来たのではない。
彼女たちの目的は、この時間帯だけ働いている男性店員にあった。
「ご注文はお決まりですか?」
話しかけらた女性は忽ち魅了されたようにぼーっと頬を染め、周りはすこし色めき立った。
ふわり、自然な微笑みで女性客を一瞬で魅了する男の名は ウィリウス・スターガ。
整えられた眩い金髪に、整った顔立ち、それに高い身長まで合わされば、彼に見惚れない女のほうが少ないだろう。
事実、女性客だけでなく同僚である女性店員も、頬を染めながら彼を見つめている。
そんな見慣れた光景を横目に、【豊穣の女主人亭】店主であるミアはため息をついた。
ウィリウス・スターガ。
アフロディーテファミリア唯一の団員であり、オラリオでたった二人しかいない最強のLv7。
その神のごとき美しい容貌に憧れる女性も多い。
そんな彼の大層な肩書きに、ミアはあのちびっこがいつの間にこんな立派に成長したのかと考えていた。
ミアにとって、小さなウィリウスが『僕をここで働かせてください!』と頭を下げにきたことは記憶にまだ新しい。
この8年間本当の母になったつもりで彼を見守っていたのだが、いつの間にかウィリウスはミアが見上げなかればならないほどの地位に登りつめていた。
ミアにとって、そのことが嬉しくもあり寂しくもあった。
何にせよ、ウィリウスはミアにとって自慢であり、誇りであった。
と、不意にざわついていた雰囲気が水をうったように静寂につつまれた。
ウィリウスのもとへ優雅に歩いていく一人の女性に、皆の目が釘付けになる。
歩みに合わせて揺れるブロンド。
均整のとれたまさに理想のプロポーション。
中でも、エメラルドのように輝く大きな瞳は、吸い込まれてしまいそうなほど美しい。
女神 アフロディーテ。
同性の女でさえも見惚れる、女神フレイヤと並び立つ最高の美神。
そんな彼女は、ゆっくりと歩を進め、微笑みを浮かべているウィリウスの腕の中へと収まった。
「おはよう。アフロディーテ」
腕の中にいる最愛の女神が可愛くて仕方ないとばかりに笑みを浮かべるウィリウスに、周囲の女性は余すことなくノックアウトされる。
「ええ。おはよう。私の可愛いウィル」
美男美女。
オラリオ一お似合い言われるその男女の、まるで映画のような一幕。
もはや見慣れたその光景に、苦笑しつつ、いつものように声を上げた。
「あんたたち! ボサッとしてないで手を動かしな!」
ーーーーーーーこれは、オラリオ最強といわれた一人の男と、最高の美神といわれた一人の女神の物語である。