慢心王の踏み台生活   作:匿名希望の金ピカ王

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 流石にプロローグだけじゃ物足りないだろうと思うので、連投です。
 このあとは本当に続くかわかりません。

 きっとリアルでの私の空き時間と、みなさんのご期待によると思われます。

 あと、この作品の主人公は、慢心王を知りません。


1ギル目 出会いは突然に

 この世界に来て早くも一週間が過ぎた。

 俺は街外れの廃ビルに居を持ち、最近は主に土地勘を養う為の散策をしている。

 

 この街は意外と面白い。遊園地や市民プールといったレジャー施設が充実している上に、大きな図書館や公園、雑誌に載るほどの有名な料理店。暇潰しには事欠かない。

 

 ……まあ、一文無しには関係のない所の方が多い。

 

 

 ……そう、俺は一文無しだ。

 街の散策中、誰かが落としたであろう財布や、封筒、アタッシュケースなどを見つけて、何とも言えぬ(やま)しい考えが浮かんできたこともあるが……庶民の心とは裏腹に、王の体はそれほど反応を示さなかったらしく……。

 

「……この我が何故、地に伏した紙切れ如きに興味を示さねばならぬ」

 

 ……とまあ、そんな感じで、目の前の100万円の札束に嘲笑する始末。

 ていうか、大金落ちすぎじゃね? 何なんだこの街は。裏社会の人間が集まる集会所でもあるのだろうか。

 

 

 で、まあ、金も持たない俺がどうやって食料を調達しているのかというと、基本は商店街の八百屋なのだが……。

 

「お、おい坊主! またお前か! うちの商品持ってくのはいいが、せめて代金を払いやがれ!」

「……ふん、王である我に対し口の利き方がなってないぞ、雑種。……その無礼、万死に値する!」

「なんだとぉ?」

「そもそも、王は民から搾取するものだ。与えるものなど何も無い」

「毎回毎回訳分かんねえこと言いやがって! 今日という今日は許さんからな! 警察に突き出してやる!」

「我は世界の頂点に立つ英雄王だ。我を縛る法など存在せん。……本来は貴様に裁きを下している所だが……このリンゴの味は気に入っている。良い物を仕入れているな。貴様の商人としての誇りだけは認めよう」

「ん……お? そ、そうか? ……へへっ、そう真正面から言われちゃ、照れるぜ」

「ふん、これからも我のためにこのリンゴを収めよ。忠道、大儀である」

「おう! いつでも食いに来いや! うちの果物は全部最高品質だぜ!」

「ではまた来るぞ」

 

 と、毎日こういう感じだ。……この街の人達は親切過ぎて泣ける。

 

「王としての勤めを忘れ、俗世に染まるのも悪くはない……か。我の退屈を紛らわせればよい」

 

 ……廃ビルの大将の台詞ではないというツッコミは、心の奥に留めていよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、まだ見慣れていない土地に差し掛かる。

 この辺りには確か、『翠屋』という有名な喫茶店があったな。……まあ、入れないんだが。

 

 ……何故か翠屋と聞くと、どうしても行かなければならないような衝動に駆られる。一体どういうことだ? この店に、何かがあるのだろうか。

 

 

 

 “原作知識”というものを植えつけられている俺だが、実のところ、その記憶は曖昧なものだ。

 

 元々存在しない知識を持つということは、それほど簡単なことではないらしい。

 よくわからない異世界の名称や、魔法の存在など、この世界の大元になる部分は覚えたのだが、この世界がどんな物語を歩んでいくのか、中心人物は誰なのか、わからないことも多い。

 きっと、時間をかけて思い出して行くのだろう。

 

「……まあよい、我の記憶を我自身が操れぬというのは些か不愉快ではあるが、思い出せぬものは仕方がなかろう」

 

 未来など分かってもつまらない。それに、あの神のいいなりになるのも不本意だ。しばらくは、何も知らない一般市民のままでいよう。

 

 

 

 

 海鳴臨海公園。そこが今回の散策の目的地だ。

 今は夏。気温は気にする必要はない。

 

 

 

 

 

 

 ……あの埃っぽい廃ビルより住み心地が良ければいいんだが。

 

 

 

 

 

 

 

「流石に子供の遊び場なだけある。黄金に輝くドーム状の遊具、あれは良いな」

 

 名前わかんないけどな。

 お、あの屋根付きの休憩所……広いテーブル付きか。ベッドに最適だ。

 あの滑り台の下、案外掘り出し物件かもしれん。

 ジャングルジムか。上からブルーシートを被せれば、理想的な快適ホームに早変わりだ。

 あの砂場、掘り進めて行けば縦穴式住居になるんじゃないか?

 公園……なんと素晴らしい場所。

 

「理想郷はここであったか…………」

 

 

 

 そうして公園の視察を続けていると、俺はあるものが気になり、いつの間にかそちらに視線を向けていた。

 

 明らかに居住に向かない遊具であるブランコ。鉄棒に次いで優先度が低い視察対象だったため、あまり目を向けていなかったが、よく見ると、一人の少女がずっとそこに座っていた。

 

 他の子供が砂場や滑り台で戯れているのに対し、その少女のみが、たった一人で力なく足を動かし、心の無い振り子と化していた。

 明らかに、あの年頃の女の子がしていい様な表情ではない。

 

「……ふむ、面白い」

 

 ……しまった、面倒事を避ける心より、娯楽を求める体が先に動いてしまった。

 俺の体が感情とは裏腹に少女の方へ向かっていく。

 

 そして、狭い公園だ。直ぐに少女は俺の目の前まで来ていた。

 

「……不愉快な顔だ。王の目前で不敬であるぞ」

「ふぇっ!?」

 

 これが俺と、未来の魔法少女との出会いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side ???

 

 

 私は、何のためにいるんだろう。

 

 そうため息を吐いて、私はブランコをキィキィと鳴らす。

 

 

 私の家は喫茶店をしているの。

 お父さんと、お母さんのお店。

 お兄ちゃんとお姉ちゃんも、剣の道場で修行をする合間に店の手伝いをして、雑誌の取材が来るくらいには繁盛していた。

 

 でも、ある日、お父さんが大怪我をして入院しちゃったの。

 

 その日から、お兄ちゃんは何かに取り憑かれたみたいに道場で剣を振っている。

 お父さんだけじゃなくて、お兄ちゃんまで倒れちゃいそうで、怖い。

 お母さんは、ただでさえお客さんの多い店で、お父さんの分まで働いて、こっちも無茶してるの。

 

 誰も私を…………なのはを見てはくれなかった。

 

 

 でも、それは仕方のないことなの。

 お父さんが倒れちゃって、忙しいんだもん。

 なのはばかり、構ってる暇なんてないの。

 

 

 だからなのはは……そんな家族の手伝いがしたかった。

 そうすれば、お母さんは忙しくなくなるし、なのはの事、みんなが見てくれるって思ってた。

 

 

 でも……なのははまだ小さいから。

 

 何かがしたくても、何にもできない。

 

 手伝えることを探そうとしても、なのはがウロチョロしてると逆に邪魔になっちゃう。

 

 だからなのはは、みんなに迷惑を掛けないように、忙しい昼と夕方はこの公園にいて、夜になったら、心配をかけないように家に帰る。

 

 それで、「おかえりなさい」って笑うの。

 

 

 そんな日々をずっと、ずっと送ってる。

 公園で遊んでいる子達からは「ブランコの主」とか言われているのは知ってるの。

 ……でも、私は家族に迷惑をかけなければそれでいいから。

 お友達に不気味がられて、遊びに誘ってくれる人がいなくても、それでいいから……。

 

 

 だから…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……不愉快な顔だ。王の目前で不敬であるぞ」

「ふぇっ!?」

 

 私と同じ歳くらいの、綺麗な金髪で紅い目をした、白シャツに黒いジャケットの見るからにホストな服装をした男の子に話しかけられたのは、予想外だったの。

 

 

「間抜けな声を出すな。この我に話しかけられるという名誉を誇るが良い」

「え……あの……。貴方は誰ですか?」

 

 外国人みたいな人に話しかけられて驚いたけど、よく聞くと話しているのは日本語で、少し安心したの。

 

「なにぃ? 我を知らぬと言うか? 全く、歴史は一体何を教えているのだ。それとも、貴様が特別無知なだけか? 雑種」

「ざ、雑種?」

 

 なんだか、とても失礼なことを言われたの。それに、態度も凄く悪いし、この人、本当になんなのかな?

 

「まあ良い。知らぬというなら名乗ってやろう。この王の名を貴様の魂にまでよく刻み付けるがいい。我は人類最古にして唯一の英雄王。……ギルガメッシュである!」

 

 胸の前で腕を組んで、綺麗な仁王立ちをした男の子は、ものの見事なドヤ顔でそう言ったの。

 

 

 

「ギルガメッシュ……君?」

「ん……うむ。そうだ。我は……ギルガメッシュ……だよな?」

「なんで急に自信なさげなの!?」

 

 

 偉そうだったり、急に態度を変えたり……この人よくわからないの。

 

 

「ああ、そうか……我は……ギルガメッシュか!」

「勝手に納得したの!?」

 

 

 この人、何をしに来たの……。

 

 

「ふん、まあそんなことはどうでもいい。おい、雑種」

「わ、私のことなの?」

「貴様以外に誰がいる。……貴様、まさか王であるこの我に名乗らせて、よもや自分が名乗らぬとは言わないよな?」

「え?」

「ウスノロが。我は貴様の名を聞いているのだ。疾く答えよ!」

「あ、はい!」

 

 すごく偉そうでムカつくのに、何故か普通に返事をしてしまった自分に驚くの。

 この人……性格は悪いのに、どうしてだか、逆らっちゃいけないようなオーラを持ってるみたい。

 

「……私は、高町……なのはなの」

 

 ギルガメッシュ君……長いからギル君に、なのはは自分の名前を教えるの。

 

「ほう……なのはなの、か。まるで道化のように愉快な名前だな」

「ち、違うの! なのはなの!」

「なのはなの、だろ?」

「な・の・は、なの!」

「だから、そう言っている。なんだ貴様、その年でもう耳をやっているのか。……いたわしい事だ」

「ちーがーうーのぉ!!」

 

 この人、なのはをからかってるの? いや、からかってる! だって目がすっごい笑ってるもん! あっ、ついに口もニタニタ笑い出したの!

 

 

「ふははは! いい、いいぞ。貴様は道化にふさわしい。我をここまで笑わせたのは貴様が初めてだ。栄誉に思えよ雑種」

 

 

 クツクツと笑う失礼なギル君が、なのはを見てまた笑い声を大きくする。

 ……なんだか、この人といると無性にはらだたしいの。

 

 結局、名前も呼んでくれないし……。

 

 

 

「そうだ。貴様、我のものになれ」

「……ふぇっ!?」

 

 だから、唐突な提案になのはの思考は一瞬停止したの。

 

 『おれのもの』……って、つまり……。

 

 

 

 

「我に仕えよ。……食前の余興の道化としてな」

「だー! そういう事だと思ったの!」

 

 もう! もう! ついに悟ったの! なのはとこの人はあいしょーさいあくなの! だから一緒にいるだけでこんなにも胸がムカムカするの!

 

 

「なのは、ギル君のこと嫌いなの!」

「ぎっ――!? な、貴様……何と言った?」

「ギル君のこと嫌いなの!」

「ぎるくんとは……まさか我の事か?」

 

 よ、よくわからないけどギル君がショックを受けてるの。……ふふふ、知らないうちにギル君にいっしむくいたの!

 もっとやり返すの!

 

「ギル君名前長いからギル君でいいの! ギル君なんか偉そうでムカつくからギル君って呼ぶの! ギル君はギル君でギル君なの!」

「や、やめろぉ! その訳の分からぬ呪文のように“ギル君”を連呼するな!」

「ふんっ、なの!」

 

 何故か顔を赤くして眉を顰めているギル君を見て、私は“ふてきなえみ”を浮かべるの。

 

「ふっふっふ~、これに懲りたら、もうなのはを虐めるのはやめるの!」

「貴様ァ……雑種の分際で、よくもこの我をコケにしてくれたなぁ……!」

 

 ……あ、あれ? なんだか、予想以上に怒ってるの……。

 

「その無礼、万死に値する! 貴様、せめて散りザマで我を愉しませよ!」

「ヒィ~! 滅茶苦茶怒ってるのー!」

「当たり前だ! 雑種ごときがこの王と取引を交わそうなど片腹痛いわ!」

 

 今にも襲いかかってきそうなくらい恐い顔をしているギル君が、ジリジリと私によってくる。ヒェ~、誰か助けてなのー!

 

 

「ふん、その罪、贖いたくば貴様の身の内を語るがいい」

「……えっ?」

 

 でも、ギル君が提示した罰は、あまりにも拍子抜けな内容。

 ……もしかして、意外と優しい人だったりするのかな?

 

「でも…どうして?」

「ふん、貴様があまりに無様な顔をしていたからな。そんな顔は過去のトラウマかそれに準ずる経験をしておらねばできん。……貴様の思い出したくない過去を洗いざらい吐かせてやれば、貴様も辛かろう」

 

 前言撤回! この人、最低のドSなの!

 

「さぁ、さぁ、劇を始めるがいい! 我に愉悦を感じさせよ!」

「うー! うー!」

「なんだ、豚の声真似か。それもまた愉悦。故に一興!」

「うーー!!」

 

 

 

 そして結局、なのははギル君に家族の事と、なのはが公園にいる理由を全部話してしまったのです。

 

 

 ……なんだろう、この敗北感。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふん、つまらん」

「んなっ!?」

 

 自分から聞いといてなんなの、この人!

 

「何故、人に気を遣わねばならん? 我の道は王道。誰も邪魔することは許されん。故に、貴様も他者など気にせず蹴散らせばよいではないか」

「ギル君の性格ならきっとそうだろうね……」

「だからギル君はやめよ」

 

 でも、正直言って、なのははギル君の唯我独尊な性格が羨ましいの。

 そんな自由な生き方ができていたら、なのはは今頃…………。

 

 

 

 

 

 

 

 ……やっぱ嫌だな。考えるのはよそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、なのははお母さんに迷惑をかけたくないから……」

「笑止! 娘に信頼されておらんとは、その母親も救われんなぁ」

「なのははお母さんを信頼してるの!」

「ほう? ならば何故、母に世話を焼かせてやらん」

 

 ギル君は、心底不思議そうになのはの目を覗いてくる。

 世話を焼かせる……それがお母さんを信頼すること……?

 

「どういうことなの?」

 

 なのはが聞くと、ギル君はふんっ、と鼻で笑う。

 ……行動の一つ一つがかんにさわるの。

 

「王の勤めは君臨すること。使用人の勤めは仕えること。そして母親の勤めは子を世話することであろう? 信用無き王は革命に堕ち、疑わしき使用人は職を辞される。なら、子に世話を拒まれる母もまた、信頼されておらんということではないか」

 

 ギル君の例えは、よく分からなかったけど、でも、言いたいことは何故かすんなり理解できたの。

 だからこそ、なのはは、自分の間違いにすぐ気付いたの。

 

「それは……」

「人には、肩書き毎の役割がある。それを成せないというのは、その者にとっては不名誉なことではないか?」

 

 お母さんの役割……。そう聞いてなのはは、役に立ちたいのに何もできない、なのは自身の悩みを思い出した。

 ……そっか。お母さんは、お母さんとしての役目があるんだ。

 

 ……じゃあ。なのはは……。

 

「……なのはの……子供の役目はなんなの?」

 

 なのはは、自分が泣きそうになるのを感じながら、鼻声混じりにギル君に聞くの。

 今までなのはがやってきたこと、それは……本当に意味があったことなのか。

 

 きっと、ギル君の返答だけが、その答えを教えてくれ――――

 

 

 

 

「知るか」

 

 

 

 げんじつは、ひどーである。

 

 

 

「ちょっ……そこはキリッと、『子供は世話を焼かれるのが仕事さ』って言う場面じゃないの!?」

「そんな額縁に収まる我と思うなよ雑種。王たる我に、童女の役目など知ったことか。我はただ、頂点に君臨するのみ」

 

 あ、駄目だこの人、早く何とかしないと。

 

「というか、貴様自身が答えを出したではないか?」

「ほぇ?」

「『子供は世話を焼かれる』……か。なるほど。言い得て妙だ。親は世話を焼き、子は世話を焼かれる。世界は上手く回っているではないか。やはり我の所有物はこうではなくては」

「あ……」

「貴様の真意を理解できるのは貴様自身と、王たる我だけだ。貴様の中に答えはあったではないか」

「ギル君は何も理解してなかったの」

「ギル君はよせ」

 

 でも……そっか。子供は、世話を焼かれるもの。

 

「じゃあ……なのはは、お母さんに迷惑を掛けても、いいってことなの?」

「なわけあるか、愚か者」

「えぇー」

 

 

 結局、最後の最後まで話が合わないなのはとギル君なの……。

 

 

「雑種、貴様の目的は母親に甘えたいなどと、そんなくだらぬ戯言だったのか?」

「え?」

「違うだろう? 貴様は、何故こんな公園に1人佇むようになったのだ?」

「それは……お母さんの、役に立ちたい?」

「そうだ。なのにお前、母親に迷惑を掛けてどうする? 貴様が童女としての役目を果たしたところで、それは母に迷惑を掛けたという結果を残すのみ。母の役に立ったとは言えんだろうが」

「う……そうでした」

「ふん、やはり愚か者か」

 

 言い返す言葉もないの。

 

 

 

「ならば、貴様にできることはただ待つのみだ」

「……うん」

「貴様のような小娘1人が仕事を手伝ったところでたかが知れてる。床の雑巾がけを命じられた所で歩みの邪魔にしかなるまい」

「ぐっ」

「ならば、貴様にできる唯一の報いは、邪魔にならぬように脇に避けている事。その点で言えば、貴様の選択は正解だったな。そこだけは褒めてやろう」

「……ありがとう?」

「つまり、貴様が自分の目的を成すためには、父親の復帰までこの公園で一人寂しく過ごしていることだな」

 

 ……それもそうなの。なのはが一生懸命考えて、その末に閃いた事がここで待っていること。なら、なのはにはそれをやり遂げる義務があるの!

 

「あ、ありがとう。ギル君」

「だからギル君はやめよと言っているだろう! なんだ? 貴様断罪されたいか?」

「断罪は嫌だけどギル君はギル君なの!」

「この……我に逆らうとは大した度胸だな、雑種! ……だが、まあ。こういうのも悪くない」

 

 こめかみに血管を浮かせてたギル君が、ふと柔らかい表情に変わったの。

 なのはと話している最中はニヤニヤした気持ち悪い笑い顔か、仏頂面だったのに、見たこともない顔になってちょっとビックリ。

 

 その、まるで小動物を見るような優しい目で、ギル君は言ったの。

 

 

 

 

「貴様、俺のものになれ」

 

 

 

 

 ギル君は、ずっと崩さずに組んでいた腕を下ろして、右手をなのはに差し出してそう言ったの。

 

 

「またなの? だからなのはは道化師さんじゃないの!」

 

 

 ギル君はやっぱりなのはをからかうのが好きみたいです。なのはは嫌だし、ギル君は嫌いだし、絶対にお断りなの。

 

 しかし、次のギルくんの一言で…………。

 

 

 

 

「いや、我の嫁になれと言っているのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 時が、止まった。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

「『ん?』ではない。我の嫁になれと言っているのだ。返事は“はい”か“よろこんで”のどちらかしかあるまい。英雄王の妃だぞ? 雑種にとってこれ以上の誉はあるまい」

「え……えぇええええええ!?」

 

 なのはの体温が急上昇するのがよくわかるくらい熱が出てるの。

 絶対に顔が真っ赤になってる。

 

 なんで!? どうしてこんなタイミングでぷろぽーずが出来るのかなぁ!?

 

 

 あと“はい”も“よろこんで”も一緒なの!

 

 

「な、にゃにゃ……にゃんで……」

「何を猫になっている。……ほう? そうか。それは我に飼われたいという自己主張の一つか」

「違うの! な、なんでなのはがギル君のおおお、お嫁さんにならなきゃいけないの!?」

「ギル君はやめよ」

 

 ギル君はさっきまでなのはをからかい甲斐のあるオモチャ位にしか思ってなかったはずなの! なのはの事を雑種とか呼んでるし、なのはの事を好きみたいな感じは全然出てなかったの!

 

「何故と? 王の選択に理由など必要ない。我が貴様を欲しいと思う。ただそれだけで十分であろう。他に何が必要なのだ?」

「…………」

 

 ぼ、暴君だ。この人本物の暴君だ!

 

「だが、一つ理由を作るとすれば……貴様に興味が湧いた」

「へ?」

「王である我にここまで刃向かった者は貴様が初めてだ。本来、無礼な民は生かすに値しないのだが、何故か貴様は処断する気が起きん。バカに割く時間はないと本能が訴えているのか、愚か者の戯言はたとえ世界を極めし俺にも解読不能なほどのものだったのか……貴様の無礼千万なセリフの数々は我の心に届いておらぬらしい」

 

 顎に手を当てギル君は、そう言う。

 

「長々と失礼な事聞かされてなのはの心はズタボロなの!」

「ふははは! まあ、そういうことだ。我は手に入りにくい物ほどどうしても手に入れたくなる主義でな。不敬な態度をさておいても、難攻不落な貴様の心、手に入れたくなった」

 

 難攻不落どころか崩落寸前まで傷付けられてるの……。

 ……でも、何故だろう。

 

 

 すっごく嫌な奴なのに、物凄く嫌いな奴なのに。

 

 

 

 欲しいと言われて、ホンの少しだけ……胸の奥が、熱くなったみたいな……。

 

 

「ふん、蒐集家(コレクター)として当然の事よ」

 

 

 やっぱなし! ときめいてなんか無い! 無いったら無い! こんな奴にときめかない!

 

 

「だから、貴様を特別に我の宮に招待してやる」

「……宮?」

「ああ、こんなチンケな遊び場よりは退屈せんだろう。嫁である貴様だからこそ入れるのだぞ?」

「……」

「家に居場所がなければ、我の所に来い。小娘一人程度、招けぬような狭量ではないぞ」

「……うん」

 

 もしかしてギル君、なのはに気を遣ってこんな事言ってるのかな。

 なのははやっぱり家には帰れないけど、でも、行く場所は公園だけじゃないんだって、教えてくれてるの?

 

 ……やっぱり、ギル君は。

 

 

 

「……いつの間にやら日が落ちてきたか」

「あ、そうだね。もう帰らないと」

 

 いつの間にこんなに時間が経ってたんだろう。

 空を見上げると、遠くに赤い空が消えかかって、頭上は満天の星で溢れ返っている。

 

「……綺麗」

「そうだろう?」

「……なんで、ギル君が自慢気なの?」

「ギル君はやめよ。……我は全ての頂点。最古にして唯一の英雄王だ。故に、この時空の果てまで、世界は余さず我の庭だ。よってこの星空すら俺の所有物となる」

「……なにそれ」

「ふん、今は分からずともよい。だが、いずれは貴様の物になるのだぞ? 貴様は我の嫁なのだからな」

 

 …………。

 

「んなっ!?」

 

 あ、危ないの……不意打ちのロマンチストに危うく落とされかけたの。……気を付けよう。油断は大敵なの!

 

「な、なのははギル君のお嫁さんじゃないの!」

「ギル君はやめよ。……そう反抗していられるのも今のうちだ。時期に貴様は我の魅力に気付くことになるだろうよ。何せこの俺の裸身は最高水準のダイヤに勝る」

「何言ってるの!?」

 

 流石になのはの前で裸になったり…………しないよね?

 

「は、恥を知るべきなの!」

「恥だと? この世界に誇る王の身体、恥じる要素がどこにある?」

 

 駄目だ! どうにかしないとこいつはホントに脱ぐ気なの!

 

 

 

「やっぱりギル君嫌いなの!!」

「だからギル君は……って、おい雑種、どこに行くつもりだ! まだ話は終わってないぞ!」

 

 

 

 遠くで叫ぶギル君の声を聞きながら、私は家に戻ってきたの。

 

「……ただいま。はぁ、今日はやけに疲れたの……」

 

ぐったりと肩を落としながら玄関をくぐると、リビングの方からバタバタと慌ただしい音が響いてきた。

 

「なのは! どこに行ってたの!?」

「ふぇっ? お母さん?」

 

 リビングからいきなり飛び出してきたのは、どこか必死な表情のお母さんだったの。

 

「心配したのよ! こんな遅くまで……」

「遅くって……お、お母さんこそ今日は帰るの早いね」

 

 いつもはこのくらいの時間、まだ誰も帰ってきてないはずなの。どうしてお母さんがうちにいるの? まだ店は開いてるはずなのに……。

 

「それはね、今日は恭也が店の手伝いに来てくれたから、私はなのはの様子を見に来たのよ」

「なのはの……? お母さん、なのはの心配してくれたの……?」

 

 お兄ちゃんが手伝いに来たといっても、お母さんは一番料理が上手なパティシエさん。たとえ手が空いたからって、そう簡単にお店を抜けられるはずないのに……。

 どうして、お母さんはなのはのところに?

 

「心配に決まってるじゃない! だってなのはは…………“私の娘”なんだから!」

「…………」

 

 あ……そうか。そうなんだ。

 

 

 

 お母さんは、なのはの事、見てない訳じゃなかったんだ。

 

 

 ちゃんとなのはの事見てくれて、心配してくれて……。

 

 

 忙しいはずなのに、こうして、なのはを抱きしめに来てくれたんだ。

 

 

「お母さん……」

「なのは……」

「お母さん……」

「なのは」

「お母さん!」

「なのは、なのはぁ!」

 

 なのはは、すっごく久しぶりに、お母さんの胸の中で泣いてたの。

 

 

 暖かくて、柔らかくて……とっても大好きな……なのはのお母さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふん」

 

 

 開けっ放しの玄関、その先の塀の影から、金の髪で紅い目で、ホストみたいな格好をした誰かが不愉快そうに、でも少しだけ優しい目をして引き返して行った事は、誰も知らない出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side ギル

 

「ふん、中々の道化ぶりであったな。とくと笑わせて貰ったわ」

 

 いやぁ、良かった! 良かったねなのはちゃん!

 

「雑種にしては良い笑いのツボを押さえている」

 

 「一人じゃ寂しいだろうし、一緒にいてあげるよ」と言ったつもりが、『俺の嫁』宣言になってしまった時は焦りに焦りまくったけど、結果として、お母さんと仲直りできたみたいだし、万事解決って感じだな!

 

「次会った時はどうイジメ倒してくれようか。くくっ、雑種の苦悶に満ちた表情が目に浮かぶわ! ふははははは!」

 

 グワー! このギルボイス誰かどうにかしろ!!

 

 

 真っ暗な住宅街を、堂々たる威厳を持って歩く少年が、内心で悲痛な叫びを上げていることなど、知る者は誰もいなかった。

 




 踏み台のノルマ
『士郎さん入院中に公園でなのは遭遇、俺嫁宣言』をクリアしました。


 一話目にしていきなりの視点変更。

 シリアスぶっこんだら、駄文のせいで中途半端に駄作感。
 慣れないことはするもんじゃありませんね。

 なお、このお話は、ギル様と魔王様のダブル主人公でやっていきたいと思っています。
 こういう転生モノって、なのはちゃんが主人公になるタイプが少ないですよね。


 ギル様はこんなやつじゃない! という方、たくさんおられるでしょうが、私にとってギル様は、ギャグ調こそ最も輝いているように思えます。

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