Dies irae 〜Rusalka route   作:霧夜 沙姫

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どもども投稿が遅れてすみません!
とは言っても前書きで言うことはあまりありませんが…なので早速本編へどうぞー!


episodeⅡ[L∴D∴O]

「やあアンナちゃん!元気かい?あんたがいると店も繁盛するからね、しっかりやんなよ?」

なんだか照れくさいけどそう言ってもらえると嬉しいな、なんてね…

「さあ、今日も店を盛り上げていくわよ!」

うん!とことん盛り上げちゃお!

「ところであんたさ…」

どうしたの?おばさん。

「もしかして…魔女だったりしないかい?」

えっ?そんなのいるわけないじゃん。

「ならいいんだけどね…ごめんね変なこと聞いて!」

いいよ別に!私は気にしてないから!

「やあアンナちゃん、今日もまたべっぴんさんだねぇ、おじさん浮気しちゃいそうだよー」

ええっ、やだなぁ〜

「まっ、アンナちゃんならいいってうちの嫁さんも言ってるしな。でもアンナちゃんは嫌だろ?」

どうしてそんな答えにくい質問するのよー?

「いやぁ、確認のためみたいな感じかなハハハ」

ふふっ、変なお客様。

「ねえ君ってさ…」

…その質問さっきもされたような。

「君ってさ…」

やめて。私はそんなんじゃない!

「もしかして…魔女なのかい?」

やめてっ!!

 

「――はっ!」

…夢、だったのかしら…

「昔の夢を見るなんてね…本当に気分の悪い朝ね…」

そう独り言を呟き私はベッドから起き上がる。本当に気分が悪い。学校は…今日くらいは休んじゃおうかな…

 

episodeⅡ[L∴D∴O]

 

「お目覚めですかマレウス准尉」

「あなたは――」

ロート・シュピーネ。実際の名前は誰も知らない。諜報員の役目を果たしていて、一番世間に出ている人。

「さて、お目覚めが悪いところ恐縮ですが聖餐杯のご意向に従う為にもこれからは私の指揮に従っていただきたい。」

「それはいいんだけど、ベイは了承したの?」

「ええ、先程申し上げさせてもらったところ御許しを頂けました。」

「そう…わかったわ。」

…?聖餐杯のご意向に従う為にも?いや、何を疑問に思っているのだろうか私は…

「どうかなされましたか?マレウス准尉」

「いえ、なんでもないわ…少し出かけてくるわね…」

「そうですか、では私はこれで」

シュピーネが部屋を出た後私服に着替えて外へ出ようとした時レオンハルトが話しかけてきた。

「あなた、学校は?」

「今日は別にいいわ…あなたは行くんでしょう?」

「ええ、まあ…」

「ならさっさと一人で行ってきなさい。今日は一人になりたいの。」

「…わかったわ。けどマレウス」

「勝手な行動はやめろ、でしょう?わかってるわよ。」

最近入ってきたばかりの小娘に言われたくはないと、心の中で呟いて。

 

さて、街に来てみたはいいものの…

「…殺人事件があったばかりなのにどうしてこんなにうじゃうじゃと人がいるのかしらね」

そう、ツァラトゥストラによる前座。度々起きていた斬首。殺人事件。ここ1週間起きてはいないもののなんというかこう、日本人って呑気過ぎじゃないかな…

「…まあ、逃げられても困るんだけどね。そうでしょう?神父様」

「おや、私がいることに気付いていたのですか?」

クリストフ。彼の名前はヴァレリア・トリファ。

「ええ、気付いてたわよ」

「おかしいですねぇ、気配は消したつもりなんですがねぇ」

女の後ろに男が気配を消して近寄るのは傍から見れば変質者が女に近づいてるようにしか見えないようなものなんだけど…

「視線が後ろばっか見てるから…んで消極法でいったらクリストフが一番の候補だったってわけ。」

「なるほど、それは大きな誤算でした。」

…聖餐、杯のため。

「…どうかなされましたかマレウス」

「いえ、なんでもないわ」

そうか、私は今まで自分のために頑張ってきたつもりなのに――

「ふむ。」

まるでクリストフに、いや。ハイドリヒ卿に、メルクリウスに操られているような都合のいい操り人形。

「マレウス、やはりどうかなされましたか?」

「なんでもないわよ――ただ、この人生が誰かに操られているようなそんな気がしてね。」

「なるほど――」

それはクリストフも思い当たる節があるのだろう。

「――確かに、そうかもしれませんね。」

しかしだからと言って…

「私達がどうにか出来る問題でもない。そうでしょう?マレウス。」

「そうね…わかっているわ。」

ならばどうするか。今更自分の渇望を変えるなんてことは誰にも出来ない筈だし。

「一つ、いいことを教えてあげましょうかマレウス。」

「…何よクリストフ」

「自らの意思を強く持てば、自らの渇望の否定も不可能ではありませんよ。」

それはどういうことだろう。死を意味するのではないだろうか。

「ねえそれって…」

「ええ、簡単なことではありません。」

「…まあ、それはわかるけど」

「ならば結構。」

…やはり渇望の否定がわからない。どういうことなのか考えていると突然別れを切り出される。

「では、私はこれで――Sieg Heil」

「ええクリストフ。Sieg Heil」

クリストフと別れの挨拶をし私は再び歩き出す。

 

「――さて」

トリファは考える。なぜ渇望の否定が出来るなどと前例も無いのに言えたのか。

「しかしいやはや、マレウスは何かが変わっている。否、何かが変わろうとしている。」

または――

「――何かを変えようとしている。」

わからない。心理に関しては人一倍長けていた筈なのにマレウス――ルサルカ・シュヴェーゲリン=マレウス・マレフィカルムという人間がわからなくなってきている。

「私も鈍りましたかねぇ…」

いや、そんなことはない。そもそもこの劇自体が異常なのだからこれぐらいの誤算はあって当然。

「――」

異常?なぜそんなことが分かるのだろう。なぜ確信も無いのに自然とそういう考えになるのだろう。

「…あなたはどう思いですか、ザミエル卿」

「知らん、まあただマレウスが鍵となりそうなのは確かだがあくまでも予測――あまり深く考えん方がいい。」

何故かそこにクリストフ以外はいないのに誰かの声がする。

「なるほど。」

「まあ――これからの活躍、健闘を祈るよ。」

「ええ…それでは」

謎の声が消える。

「やれやれ――まさか思念だけを飛ばしてくるとは。しかし、スワスチカが一つ開いただけであの圧力。尋常ではありませんね。」

ザミエル。エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ=ザミエル・ツェンタウア。大隊長。赤騎士。

その力はさすがハイドリヒ卿の側近と言う他ないだろう。

「残るスワスチカは七つ。八つ全てが開いた時どんな怪物が現れるのでしょうね…」

スワスチカ。全て開けば黄金錬成が完成する。

そしてより上質なスワスチカを開くためには彼の存在が必要。そう、ツァラトゥストラが――

 

 

――なぜか私は学校のそばまで来てしまった。今はまだ授業中なのだろうか。そう思い私はふと屋上を見上げると蓮くんがいた。

「――ちょっとからかってあげようかしら」

そう私は微笑みながら飛び上がった。

「お前…」

突然屋上にやってきた私を見て驚く蓮くん。

「Guten Tag!蓮くん何してるのー?」

「…このッ」

話しかけたとたん殴りかかってきたよこの人!?とりあえず平静を装い…

「ちょっと何してんのよ〜…」

蓮くんの拳が当たったコンクリートの壁にはヒビが入っている。

「…悪い、ちょっとむしゃくしゃしててな」

「あら?悩みかしら?このお姉さまが聞いてあげるわよ?」

そう言うと蓮くんは力を抜き始める。その途端流れ出す殺意。これは――

「――もう言わなくてもいいわ、あなたが真のツァラトゥストラなのねやっぱり。そしてその左腕に宿る誠意物を扱いたいと。」

そしてそれを自在に扱えるようになった暁には私たちを殺すと。

「ああ、だから――」

「いいのよ蓮くん。教えて欲しいんでしょう?」

「違っ…」

「違わないの?ならこのまま聖遺物に食べられちゃう?」

そう、これは嘘偽りない。このままでは蓮くんが聖遺物に食べられる。

「なっ…」

「それに、ね。別に私たちは聖遺物を自在に操ってるわけじゃくて聖遺物に操られているような感じなのよ蓮くん」

「つまりは…お前らでも制御出来ているだけってことなのか?」

さすが蓮くん。飲み込み早いわね。

「そういうこと、まあ操れる人なんてそんなのハイドリヒ卿ぐらいでしょうし」

「…ハイドリヒ卿?」

あ、まだハイドリヒ卿のことは言ってなかったんだった。

「そう、ハイリヒ卿。聖槍十三騎士団黒円卓第一位、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ=メフィストフェレス。」

「聖槍十三騎士団黒円卓第一位…つまりは」

「私たちのトップね。まあ、舐めない方がいいわよあの人は特にね。並の人間なら見ただけで死んじゃうような人だから。」

「なっ…」

「ってじゃなくて…どうするの?聖遺物、使えるようになりたいの?」

「…ああ。」

意外と蓮くんはすぐに答えた。

「じゃあそうね…机あるかしら?」

「机?ないけどベンチなら…」

確かにある。まあいいか。

「じゃあそれでいいわ。そこに手を置いてね。」

「ああ…」

蓮くんが手を置いたベンチの周りを私のナハツェーラーで覆い尽くす。

「…なんだこれは!?」

「ああ、私の影よ。」

「…何故影が動くんだ?」

「あのねぇ、質問ばっかりするんじゃないの。考える頭ついてるんでしょう?というか今はこれに集中しなさい。」

ナハツェーラーが蓮くんの手を包み込む。

「じゃあまず指導から入るわよ?」

「ぐあぁっっ――!」

「まずあなたが活動位階。活動の次が形成。とは言ってもあなたはまだ満足に力を使えないみたいだからせめて活動を使えるようにはなってね?」

さて、どれくらいで蓮くんは活動位階を完全に習得するのか…30分かかれば早い方だけどね…

「このままだとあなたの腕、もぎ取れるからね。」

「あああぁぁぁぁッッ―――!!」

「ほらほら早くしてよーねー?」

「――」

バゴンッて音が屋上に鳴り響く。

「合格ね、それが活動位階」

「活動…これが…」

「そう。まあまだまだなんだけどね。」

次は形成あたりにもチャレンジして欲しいところだけれど…

「今日はこれでおしまい、また明日ねー!」

そう言い残し私は屋上から飛び降りようとした。

「――どうもこんにちはツァラトゥストラ」

シュピーネ!?どうしてここにいるのだろう…

「ああ、失礼。申し遅れました――私はシュピーネ、聖槍十三騎士団第十位ロート・シュピーネ。以後お見知りおきを。」

「あんた…どうしてここに?」

「マレウス。勝手な行動は謹んでもらいたいですが、今回は許してあげましょう。何せツァラトゥストラを教育したのですから。」

「…俺に何か用かよ?」

場の空気が一変する。

「いえいえ、顔を見たかっただけですよ。しかしまあどうして副首領閣下と瓜二つなことか。」

シュピーネは震え声でそう言った…まあ、確かに。どうして気付かなかったのだろう。

「なんだよその副首領閣下ってのは?」

「カール・クラフト、メルクリウス、他にも名前があるらしいですが…まあその人ですよ。」

「なるほどな…改めて聞くが聖槍十三騎士団っていうのはなんなんだ?」

そう蓮くんが質問する。

「そもそも単なるドイツ内部によるお遊びの軍団でしかありませんでした、がある二人が魔神の軍隊に変えてしまったのですよ。」

「…その二人ってのは?」

「ハイドリヒ卿、メルクリウス。この二人ですよ。」

「あー待って、ここからは私が説明するわね。」

「ではどうぞマレウス」

「まずなんの運命なのか聖槍十三騎士団の初期からいる団員となる人が一つの場に集まっていたのよ。」

「…なるほど」

「その場で戦闘していた四人はハイドリヒ卿にぶちのめされてそれ以外の人はゲシュタポ直行。その後私たちは契約をした。願いを叶えるために聖槍十三騎士団に入ったの。」

「…それってまるで――メフィストフェレスみたいじゃねえか?」

「――え」

場に沈黙。確かにハイドリヒ卿は正しくメフィストフェレス。命と引換に願いを叶えてもらう。ならば私の願いは――

「…マレウス、どうやら気付いたみたいですね。」

「…ええ、だけどこんなところで話をするべきじゃないわ。」

ならばどこで――

「俺の家に来たらどうだ?…少なくともあまり盗み聞きはされないだろ。」

「蓮くんいいの!?」

なんという幸運!すごい!これぞ青春!

「ああ、話は聞いておきたいしな。」

「しかし――隣人の方は?」

「まだ帰ってこないだろ、多分。」

蓮くん、落ち着いてるなあ…

「じゃあ早速行きましょ?」

「なんでお前が仕切ってるんだよ…まあ行くか」

 

「なあルサルカ――」

「なにー?どうかした?」

「シュピーネは必要なのか?」

「失礼な、これでも情報量はある方ですよ?」

なんてことを話してるうちに蓮くんの家に着いた。

「わーい!蓮くんの家だー!」

「ふむ、必要なものしか置いてませんね――おや?包丁が無いですね…」

「あー、刃物は嫌いなんだよ」

まるで青春。たわいない会話をして時間を過ごした。

「――で、シュピーネ」

「なんでしょうか?ツァラトゥストラ。」

「そもそも聖遺物ってのは一体何なんだ?」

「ふむ――この場合だと大量の血を浴びたようなものですよ。他にも信仰により聖遺物となったものもありますがね。」

シュピーネと蓮くんが話をしている中私はお茶を淹れる。

「私の場合だと絞首刑に使われる縄ですが――昔いた同胞は確か宝剣だった筈。そしてマレウスは拷問器具が書かれた本。とまあ色々ですよ。」

「なんだかここにいる3人は人を裁くという点で聖遺物に共通点があるな。」

よし、お茶入った!

「お茶勝手に入れたよー?」

「ああ、ありがとうルサルカ。」

!?蓮くんが私にデレた!?やったぁーっ!

「…何を考えてるかは察しがつくが違うぞ。」

蓮くんが私の心を読んだ!?ということはもうそんなに深い仲に!?

「…で、お前らの考えを聞かせてくれ。」

まずはシュピーネが答えることに。

「首領閣下も副首領閣下も大隊長達もここに戻ってきてはいけないと思いますよ。何せ化物ですからね。」

次に私が答える。けど――

「私は…どうしたいのかなあ…」

希望を断たれたのだからどうすればいいかわからない。

「ルサルカ…」

「自分の渇望に語りかけて見てはどうでしょうかマレウス。私は生憎そのようなものは持ち合わせていませんがね。」

「私の…渇望…」

先を走る者の足を引きたい…同じ土俵に立ちたい…

「私の…」

止まって、お願いだから私を置いていかないで…

「…そうだ、私は…」

どうして私を置いて行ったの■■■■――置いて行かないでよ…

「…置いて行かれなきゃそれでいいわ。」

「マレウス…?」

「ルサルカ…?」

あっ、自分の世界に入っちゃった…

「ううん、ごめんね!何でもないわ!」

「…そうか」

余計な心配かけたかな…なんて考えてると

「ふむ――では私は一足先に教会に戻りますかね。」

「教会…?」

「そう、教会ですよ。何か変ですか?」

「いや、何でもない。忘れてくれ。」

「そうですか?わかりました、では。」

シュピーネは部屋を出た。

 

 

「やれやれ――」

自壊衝動に囚われるとは情けないと言いかけシュピーネは歩き出す。

「しかし…私もこれで冷静に計画に移せます。自壊衝動に囚われていては何も出来ませんからね。」

公園のあたりに着いた時――

「よお――シュピーネ」

突然背後から殺気を感じ飛び上がるシュピーネ。

「ベイ中尉、どうかしましたか?」

「お前、ハイドリヒ卿をこの世に戻したくないらしいな?」

「ええそうですよ、それがどうかしましたか?」

「どうもこうもねえよ――裏切り者は殺す、それだけだ」

「そうですか――」

「まあ、せいぜい足掻いてみせろや」

「Yetzirah――!」

シュピーネは聖遺物を形成する。

「かはっ、行くぜぇぇッ――!」

獣のように攻撃をするベイ。だがその攻撃を華麗に躱すシュピーネ。

「――てめえ、一皮剥けたな」

「これはどうも恐縮です。が、あなたは変わりませんね?」

「言ってろ糞蜘蛛がァッ!」

どんどん逆上していくベイ。だがすればするほどシュピーネはその攻撃を読み、そして躱す。

「ちょこまかと動いてんじゃねえよクソがァッ!」

「これもまた戦法ですよベイ中尉。」

「なら、本気出してやろうか?てめえがそうするならな」

「どうぞお好きに――」

《■■■■――■■■■》

「――」

なんなんだろうか今の声は――聞いたことがない。

「じゃあやらせてもらうぜ――」

「キヒヒヒヒ――さあ、やってみせなさい」

「ここまでコケにしたんだ、何かあるんだよなぁっ!?」

 

「かつて何処かで そしてこれほど幸福だったことがあるだろうか

(Wo war ich schon einmal und war so selig)」

ベイの口から紡ぎ出される必殺の気配。

「幼い私は まだあなたを知らなかった(Ich war ein Bub', da hab' ich die noch nicht gekannt.

)」

木が、草が枯れていく――

「いったい私は誰なのだろう いったいどうして 私はあなたの許に来たのだろう(Wer bin denn ich? Wie komm'denn ich zu ihr? Wie kommt denn sie zu mir?)」

夜が更に深くなっていく――

「ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ(Sophie, Welken Sie)」

今ここに――

「死骸を晒せ(Show a Corpse)」

総てが枯れていく紅い夜が完成する。

「創造(Briah―)」

「死森の薔薇騎士(Der Rosenkavalier Schwarzwald)」

「ふむ…」

シュピーネは落ち着いている。落ち着かないと精気がごっそりと吸い取られるからだ。

「さあ創造だ――どうするよ形成さんよぉ!」

だがそれは逆にシュピーネをどん底に落とすことになる。

「ギィッ――」

地面から杭が飛び出しシュピーネの胸元を掠る。

「ほらほら行くぜぇぇぇッ!」

逃げるシュピーネ。だが少しずつ精気が奪われていく。それに反し追撃していくベイ。現状シュピーネは不利になっている。

「やっぱてめえは雑魚だな――まあ、五秒以内にどうにかしてみせろや。」

「このぉッ!」

シュピーネが攻撃に転じるがそのことごとくを躱される。

「おいおいてめえ、それが奥の手かよ?俺に勝てるとかいう確信かよ?」

「ヒヒッ、何を言ってるのですか?」

「ああ?まさかまだ何か隠してんのかよ?なら出し惜しみしてんじゃねえよォッ!」

「ギャオォッ!」

ベイの杭を生やした拳がシュピーネの顎にヒットする。シュピーネが意識朦朧とする中――

 

なぜどいつもこいつも私の邪魔をするのか。私は平穏が欲しいだけなのに――

そんなことを考えるシュピーネ。

「…さて、どうしてくれましょうかね」

本当にどうしたものか。平穏を乱すものは排除せねばならない。

私に――永劫たる平穏をッ!

 

「――キヒヒ、ヒヒヒヒ」

「…なんだこいつは…!?」

紅い夜がひび割れていく。まるで何も無くなるような。

「さあ、私のターンですよベイ中尉――ヒャオッ!」

シュピーネから無数の縄が飛び出す。

「その程度のもので俺を捕らえようなんざ―」

「何を言っているのですか?よく足元をご覧なさい。」

「なぁっ!?」

四方八方から飛び出す縄。木々や街灯などに巻き付けておいたものだ。

そしてベイの足元に滴る血。間違いなくベイのものだ。

「何をやったてめぇ…!」

「平穏な世界を作ったまでですよベイ中尉。あなたは些か次の世界には相応しくない――ヒヒッ」

「アァッ!?」

縄がベイの体に食い込んでいく。体が切れていく。このような光景は数年前の危機感破壊を彷彿とさせる。

「てめえ、糞があぁっ!!」

ベイの怒号を余所に指をくねくねと動かすシュピーネ。

「Auf Wiedersehen――と、なってしまいますねベイ中尉。では、グラズヘイムへ行きなさいッ!」

「てめえぇぇッ!シュピーネェェェッッ!!」

最終的にベイの首から上が切断され、ベイの体が消滅していく。これこそ正しく絞首刑に使われる縄の正しい使い方。

「さて――バレた以上戻る訳にはいきませんね…やはりマレウスと手を組みますか。」

そう言いシュピーネは周囲を確認した後さっき来た道を戻った。

 

「――え、蓮!?」

「香純っ――」

なんと、家に蓮くんの幼馴染――綾瀬香純が帰ってきた。というよりは勝手に家に来た。

「あんた、この一週間話さないなーって思ってたらルサルカさんと何してんのよーっ!」

え、何してるって話してるだけなんだけど?いやでも、少し…

「いや、これは――」

「蓮くーん、ご飯食べに行きましょ?」

少しからかってやろうと思う。

「ぽかーん…あ、ああ、急に――」

香純ちゃんも面白いわねー。やはり幼馴染は似るところもあるのかしら?

「ああ、あれだ。これは――」

「私達付き合ってるのよ、ねー?」

「ちょっ、ルサルカ!?」

「…え、ええええええ!?」

何この二人面白い。

「いやあの実は…そうなんだよ」

蓮くんノリがわかってるわねー。それとも本当にそう思ってくれちゃったりして、キャーッ!

「じゃあいつか…ら…」

「おや、皆様お揃いで」

そこにシュピーネが来た。

「え!?えーっと、どちら様…?」

「私ですか?彼の友人ですよ。まあ、お気になさらず。」

というか血なまぐさいんだけどシュピーネ…何したのよ…

「今しがた襲われましてね、返り討ちにしてやったところですよ。」

ああ、裏切り者コノヤローって感じで…って、え?

「何っ!?蓮くんの友達は私の友達!そいつ誰か教えなさいっ!今すぐぶっ飛ばしてやるーっ!」

「ああそんな心配はいりませんよ――病院送りにしてやりましたからね。キヒヒッ」

うーん、少しシュピーネに話を聞きたいな…

「…ねえねえ香純ちゃん?自分の家に戻ってくれないかな?」

「いーや!今この場で蓮に一言言ってもらいます!」

「…なんだよ香純」

「この場でルサルカさんに愛の気持ちを叫べぇーっ!」

「…は?」

「…ふふっ」

何それ最高!さあ蓮くん!

「おやおやフジイ、恥ずかしがらずとも言っていいのですよ?」

シュピーネナイスフォロー!

「お、俺は…」

「「うん!」」

「言わねえよ」

「「はぁっ!?」」

「あのですねフジイ、それは少し違うのでは無いのでしょうかねぇ?」

なんとそこから愛してるコールを二、三時間続けた。その後――

「ル、ルサルカを…愛していま…す」

「キャーッ!蓮くんったらぁっ!」

「わー!でも蓮、声が小さい!」

「そうですね、声が小さすぎますよフジイ。」

にしても、誰の魂でスワスチカが――

 

あれから2時間してようやく香純ちゃんが帰って寝た後――

改めてシュピーネに聞いてみることにする。

「あなた、誰をやったの?」

「ベイ中尉ですよ。まあ、楽勝でしたかね。」

まさか、形成しか出来なかったシュピーネが!?

「じゃあ何をしたの?」

「それはですね、創造ですよ。」

「創造…あなたが!?」

「そもそも創造ってなんなんだ?」

「それは――うーん、まあ自分の渇望を具現化するってことかな?」

「なるほど、渇望か…」

ここで一つ疑問が浮かんだ。

「そういや蓮くん、ちょっと前までは日常ぶっ壊しやがってぶっ殺してやるーって感じでかなり敵対心燃やしてたわよね?どうして急にこんなに仲良くしてくれてるの?」

「ん?あー、わからないな。なんか急にそうしようって思えてきて…」

「ふーん…まあ、いいんだけれどね」

んー…なんだろ、違和感が…なんてことを考えているとシュピーネが立ち上がる。

「ツァラトゥストラ、形成の練習をしましょう。」

「形成…?」

「そう、形成ですよ。活動の一段階上の位階。あなたならば形成さえしてしまえばレオンハルトならば倒せるでしょう。」

まあ、確かに早いほうがいいけれど――

「では、行きましょうか――」

 

家を出る蓮とシュピーネ。

「にしても一体どこでやるんだ?」

「ふむ…あなたはどこがよろしいですか?」

「…お前的にはどこがいいんだよ?」

「学校のグラウンドでしょうか――しかし、あそこは…」

「わかった、学校に行こう。」

そして二人は学校へと向かった――

 

「――なるほど」

いきなりかなりの大番狂わせ。ベイがやられた。

「あくまでも私たちを裏切るつもりですか、シュピーネとマレウス。」

しかし、シュピーネが創造位階に到達するとは誤算だった――そんなことを考えつつクリストフは一人の女に話しかける。

「リザ――トバルカインを起こしなさい。」

「トバルカインを――?」

「ええ、今のところ彼らが優勢。ならばこそトバルカインが必要でしょう。」

「…わかったわ」

「それとリザ」

「わかってるわよ、戦場に変な感情は持ち込まないわ。」

その場を後にするリザと呼ばれた女――リザ・ブレンナー=バビロン・マグダレナ。大淫婦と呼ばれたそれはトバルカインという怪物を操れる。

「しかし、早速ですねぇ…」

《ほう――》

「――首領閣下」

即座に一番の席に現れた悪魔と呼ぶにふさわしい者に跪くクリストフ――彼こそがラインハルト・ハイドリヒ。メフィストフェレス。黄金の獣。

《卿にはこの現状をどう捉える?》

「それは…」

最悪。そういう他何も無いのだ。

《最悪――であろうな。だが私はたとえ謀反を爪牙が起こしたとしても咎めせん。私は総てを愛している。》

「恐縮ですハイドリヒ卿。」

《しかし私はこう捉える――これもまた運命なのだと。》

運命に未だ囚われている。彼はそう言う。

《なればこそどんな者でも愛しなければならないだろう――今は二つ開いている。ならば更に二つを開くがいい。》

二つ――一体どうするべきか。

《まずはバビロンを、次にシュピーネを殺せ。無論バビロンが死ぬ際にはテレジアを目の前に置くがいい。だが――》

その次に紡ぎ出される言葉は以外。いいや恐怖。

《バビロンは私が愛そう。その後ツァラトゥストラの元へ向かう。》

「ハイドリヒ卿が、ですか?」

《不服か?》

「いえ――」

《そも、これは一つの賭けだ。》

「賭け、でございますか」

《そうだ、カールとの賭けだ。》

メルクリウスとの賭けだと――彼は言う。

「確かに、ツァラトゥストラを成長させるのにはよろしいでしょうが…」

《そうであろう?それに私が出た程度で怖気付くようでは怒りの日の演者にはなり得んよ。》

それは確かにそうだと考える。

「わかりました、では仰せのままに。」

《ではまずはテレジアとバビロンの元へ向かう――良いな?》

「Jawohl――」

今、舞台は更に展開を迎える――

 

episodeⅡ[L∴D∴O]――end




なんと投稿する直前に完成したものを貼り付けしたのですが文字数がとんでもなくて驚いてる私ですwしかし急に物語が動き出しましたね!彼女が云々のところはデジャヴるんですがまあいいでしょう!では次の作品で!Auf Wiedersehen!

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