魔導師とは、特異な戦力である。
人はみな魔力を持っているとされるが、それを適切に運用する能力を持つ者は、総数に比すればぐっと限られてしまう。そこから更に実戦に耐えうる練度を求めるのであれば、それはより希少な存在として、個々の価値は高まっていく。
故に、魔導師は貴重な存在である。広い次元世界を見渡すと、魔導師を最も保有している組織は他ならぬ時空管理局であり、正規・非正規を問わねば、その総数は数万人という単位になるだろう。
それほどまでとは言わずとも、一個の勢力として集中運用するのであれば、魔導師は1000人もいればいい。正しき指揮官が動かせば、それだけで一国の軍隊となりうる戦力なのである。
番号を割り振られた管理世界の中には、大小様々な国家が存在しており、常備軍を保持する国、非正規戦力でもって自衛する国、管理局に防衛委託する国など、質量兵器を破却しているという共通点を除けば、その体制は多岐に渡る。
これは勿論、管理世界にのみ適応できる状況ではなく、管理外世界 ──質量兵器を運用する世界においても、同様であった。
時空管理局による規定観測第2165号により発見された辺境指定第115管理外世界。そこに、周辺国家を軍備の傘に納める大国が存在した。
総人口12万のその世界において、当該国の保有する魔導師数は、およそ1000。その8割が、同一部隊において運用されていた。
質量兵器と戦術魔法を併用する、精強無比の魔導軍であった。
◇◇◇
「──まぁ、ご立派な前置きはいいのよ。そんなことより、ねぇ、ウーノ。一つ賭けをしない?」
「実働試験3分前。不謹慎よ。ドクターに叱られたいの」
「誰が叱るって? 私を? 面白いこと言うわ、ウーノ。こんな試験(モノ)、ただの茶番よ。そんなことはドクターが一番理解しているわ。貴女だってそう。分かってないのは、当の本人だけよ」
「…こんな姉をもったあの子が可哀想ね。そしてこんな妹を持った私も」
「不毛なこと言わないの。どうせみんな同じよ。生まれついてどうしようもないのよ。貴女も、私も、あの子も。なんせ3人とも同じヒトから生まれたのよ」
「…ハァ、もういいわ。──で、何を賭けるって?」
「そんなもの決まってるじゃない。この茶番の行く末よ。試験(テスト)なんて言うくらいだもの。採点(リザルト)は当然出すんでしょ?」
「…妹の晴れ舞台で賭けをしようなんて、貴女は悪い姉ね、ドゥーエ」
「そんなこと、とっくにご存知ですわ。それより、私は5分。貴女はどうする?」
「タイムアタック? スコアではないのかしら」
「どちらでもよろしくてよ。でも、それじゃあ賭けにならないんじゃない? それこそ茶番よ」
「まぁ、そうね。私の予想はあなたの予想より短い、とだけ言っておくわ」
「なによそれ。ずるーい」
「──この試験。試験官が誰かご存じかしら、ドゥーエ」
◇◇◇
「さて、実働試験開始よ。追加要項として制限時間は5分。以下指定項目なし。頑張って行ってきなさい、トーレ」
『了解(ラジャー)』
◇◇◇
この日、とある世界の軍隊が壊滅した。
生存者曰く、下手人は機械じみて恐ろしい、たった一人の女だったそうだ。
「3分50秒。私の勝ちでいいかしら」
「ずるぅい」
「あら、フェアプレーのつもりだけど? 私は5分以内と言った。あの子の性格なら、きっかりで終わらせることもあり得るわ」
「はぁ…あのね、お姉ちゃん大好きなあの子が『頑張って』なんて貴女に言われたら、それはもう頑張っちゃうに決まってるじゃないの」