どうも、ふぁもにかです。今回の話はちょっと難産でした。誰を登場させるかで迷った結果、執筆にやたら時間がかかっちゃったんですよね。この作品は主要キャラとなる艦娘が事前に決まっているだけに、それ以外の艦娘については誰に出番を与えるべきかが中々決まらなかったりするんですよね。……ま、結果的にはそれなりの形に落ち着いたと思います。
翌日。無人島で夜を明かした電は昨日のやたらすばしっこいイワシとの戦いで無駄に消費した燃料や弾薬を派遣された空母ヲ級を介して補給する。深海棲艦の責務を欠片も果たしていないのに補給の恩恵を受けることを少々恥ずかしく思いつつ空母ヲ級と別れた電は、昨日と同様にかつて自分が轟沈した地点を目指す。
(この調子なら、今日の夕方くらいには到着できそうかな?)
電は目的地への到着時刻を大まかに見積もる。と、ここで。電の深海棲姫ボディゆえに遥か遠くまで見渡せるほどに強化された両眼が一つの光景を捉えた。それは、艦娘と深海棲艦のそれぞれの部隊が五分五分の戦闘を繰り広げている光景。
「くぅッ!? うーわやべぇ。結構痛いの、もらっちゃった」
「望月、下がりなさい! 加古、アンタまだ動けるわね!? なら私と一緒に攻めるわよ!」
「りょーかい。窮地にこそ、加古スペシャルが輝くってもんよ!」
「荒潮は望月をカバーしつつ援護して!」
「ふふ、任されたわぁ」
タンカー護衛任務の帰り道にて深海棲艦の襲撃に遭ってしまった4名の艦娘たちは旗艦の吹雪型駆逐艦五番艦・
無理もない。現時点で、小破なのは叢雲のみ。中破の加古&荒潮、大破の望月を抱えた状態で戦闘が長引くようなことがあれば、その先に待っている、仲間が轟沈を迎えてしまうという展開は火を見るよりも明らかなのだから。
(あの艦娘たちは、確か第陸鎮守府の……)
かつて演習で彼女たちと会ったことのある電はすぐに彼女たちの所属を思い至る。
第陸鎮守府。深海棲艦との戦争の中で人類側が取り戻した海域が多くなり、既存の5つの鎮守府だけでは海域全てを守りきれないとの大本営の判断の元、2か月前に新設されたばかりの拠点である。新設ゆえに深海棲艦との実戦経験の乏しい艦娘が多い第陸鎮守府。それでも第陸鎮守府がどうにか機能しているのは、既存の5鎮守府からそれぞれベテランの艦娘が派遣されているからだ。ちなみに。第参鎮守府も指導官として天龍型軽巡洋艦二番艦・龍田が派遣されていたりする。
「クソッ、ドコマデモシブトイ奴ラメ……!」
「ル級サン! 下ガッテクダサイ! ココハ俺ガ!」
「オレモ行クゼッ!」
一方。深海棲艦側も全くの無傷でいるわけではない。大破状態の体を無理やり動かして戦闘していた戦艦ル級は望月を仕留められなかったことにギリリと歯噛みする。全身をほとばしる痛みに苦悶の表情を浮かべる様からこれ以上戦艦ル級に無茶させてはいけないと、見かねた軽母ヌ級と駆逐ロ級がこれまたボロボロな体で前に出る。戦艦ル級を庇うように前面に飛び出し、迫りくる叢雲と加古にカウンターを仕掛けるべく待ち構える。
(あ、あれ? 深海棲艦の言葉がわかるのです!?)
深海棲艦たちの言葉を鮮明に聞き取った電は心の底から驚く。当然だ。艦娘だった時、対峙した深海棲艦には人間の言葉を話せるタイプとそうでないタイプとに二分していた。だが、今は「ヌゥ!」とか「ロッ!」と鳴くことしかできなかったはずの軽母ヌ級と駆逐ロ級が何を口にしているかを理解できている。まるで頭に自前の高性能な翻訳機能を搭載したかのようだ。
(これも深海棲艦になった影響でしょうか? って、今は驚いている場合じゃないのです。この状況で私がするべきことは――)
電は己が最も後悔しないであろう選択肢を掴み取る。電は全力で駆け出し、空高く跳び上がり、艦娘と深海棲艦の間に着地する。ズシャアと派手に水音を響かせて舞い降りた電に艦娘と深海棲艦の両方から砲撃が命中するも、立ち上る白い煙が晴れた時、現れたのは顔や服にわずかに煤がついただけの無傷の電だった。
「戦艦ル級、軽母ヌ級、駆逐ロ級。ココハ私ニ任セテクダサイ。貴女タチハ退クノデス」
「ア、貴女様ハ電轟棲姫!?」
「ヒ、退クナンテトンデモナイ!」
「オレタチモ共ニ戦イマス! 指示ヲクダサイ!」
「……聞コエナカッタノデスカ? モウ一度ダケ言ウノデス。貴女タチハ今スグ退イテクダサイ。命令ガ聞ケナイノナラ、今ココデ沈メマスヨ? 反抗的ナ駒ハイラナイノデス」
電は遊撃の深海棲姫らしく、偉そうな口調を心掛けながら傷ついた戦艦ル級たちに撤退を促す。電という援軍が戦線参加したことにむしろやる気をみなぎらせる深海棲艦たちに、いかにも私は不機嫌ですと言わんばかりのオーラを見せつけながら脅迫染みた命令を下す。その効果はテキメンで、深海棲艦たちは「「「了解ッ!」」」と海中に潜っていった。圧倒的な武力を持つ姫級の高圧的な命令はよほど怖かったのだろう。
大丈夫ですか。深海棲艦の気配が遥か深海へと迷いなく向かっていったのを確認して、電はこれまたボロボロな艦娘たちに問いかけようとする。が、艦娘たちに視線を映した電が見たものは、一斉に砲門を向ける艦娘たちの姿だった。その瞳に映る恐怖心に、電は特にショックを受けなかった。今の自分が外部目線からどのように映っているかをもう誤解するような電ではない。だから。
「今日ハ見逃シテヤル。コッチニモ都合ガアルノデス」
電はいかにも深海棲姫っぽいセリフと共に海中に潜り、艦娘たちの視界からフェードアウトした。深海棲艦の体を持った自分が深海棲艦らしい挙動を取る。それこそが艦娘たちを無駄に動揺させず、事態を平穏に収める安定的な手段と心得ていたからだ。
『あのまま襲っとけばよかったのに』
『なんで帰っちゃうんだよー』
『怖気づいたとか?』
『敵は攻撃する気満々だってのに、お花畑だな』
「……アハハ、ワカッテイマス。返ス言葉モナイノデス」
海中を泳いで艦娘たちから距離を取る中。電は艦娘たちを沈めたい欲望にまみれた黒妖精の一斉ブーイングに苦笑いで返答する。
もしもあの艦娘と深海棲艦との戦闘を静観していれば、深海棲艦にも艦娘にも取り返しのつかない被害が生じていただろう。どちらが勝利を収めるにしろ、深海棲艦も艦娘も仲間が轟沈するという被害は避けられなかっただろう。
元艦娘として、艦娘を沈めたくない。かといって、深海棲姫な今の自分が艦娘の味方になって深海棲艦を積極的に沈めるわけにはいかない。それに、深海棲艦の言葉が、考えが理解できるようになった今、自ら進んで深海棲艦を殺そうとだなんて思えない。
だからこそ、私は自分が選ぶべき道を選んだ。
己が最も後悔しないで済むような、自分にとっての最善の選択肢を掴み取った。
「デモ、ソレデモ――コレガ私ノヤリ方ナノデス」
今後。もし今と似たような光景を見たら、きっと今日と同じことをするのだろう。
艦娘と深海棲艦との真剣勝負に無粋にも割り込んで、介入して、両者の犠牲がより少なくて済むような都合のいい甘々な選択肢を選ぶのだろう。
電は相変わらず甘々な自分の考え方に薄く笑みを浮かべる。
この考え方が艦娘としても深海棲艦としても失格なのはわかっている。
だが、不思議と悪い気持ちはしなかった。
◇◇◇
「……いなくなった、わね。はぁぁ、良かった、心臓が止まるかと思ったわよ……」
深海棲艦の消え去った海域にて。叢雲は深々とため息を吐く。叢雲の脳裏にフラッシュバックするは、唐突に戦場に現れたあの姫級の、周囲一帯の空気を絶望に塗り替えんほどの強力すぎる威圧。姫級の脅威は知っているつもりだった。けど、他の鎮守府から派遣されたベテランの艦娘から口で教えられるのと実際に肌で感じるのとは別問題である。
「もし姫級と出会ったら逃げろ、か。龍田さんに何度も念押しされた理由がよーくわかったわ。私はまだまだ未熟なのね……」
姫級との初邂逅を経験した叢雲の表情は固い。あんな化け物に私は追いつけるのか。勝てるのか。いくら深海棲艦との戦闘を積んで、強くなってもあの化け物と同じ土俵には上がれないのではないか。圧倒的な力の差というものを体で嫌ほど味わってしまった叢雲の心中は穏やかではない。叢雲の心に渦巻く不安は彼女に暗い影を落としていく。
「今の、何だったんだろうな?」
「んふぅ、よくわからないけれどぉ……助けてくれたのは確かよねぇ?」
「いやいや、それはないだろ。だって深海棲艦だぞ?」
「でもぉ、あの深海棲姫が介入してくれなかったらぁ、私たちの誰かは多分轟沈してたわよぉ?」
さっきまで電がいた地点を見つめての望月の問いかけに荒潮はほんわかとした笑みを浮かべて答える。その内容に思わずツッコミを入れる加古だったが、続けて荒潮が放った事実に望月と加古は「「……」」と黙り込む。図星だからだ。
「……あの深海棲姫はなんで私たちを見逃してくれたのかしらぁ?」
「んー、深海棲艦側も一枚岩じゃないとか? 派閥があるのかも?」
「戦うのが嫌いで平和主義者な深海棲姫って可能性はあるかな? それとも組織の言うことにはとりあえず逆らいたい反抗期のお年頃な感じ?」
荒潮がポツリと繰り出す疑問に望月、加古の順でそれぞれの見解を述べる。だが、段々と考えるのが面倒になってきた二人は真剣に考えるのをやめてテキトーに可能性を提示し始める。
「んぁ、あれだ。あたしと同じで敵と戦うのがめんどくさかったからに1票」
「じゃあ、こっちはあたしと同じで今日は眠たくて仕方なかったからに1票」
「あら~。私はどっちに投票しようかしらぁ? どっちの考えも捨てがたいのが悩みものねぇ?」
めんどくさがり屋の望月と暇あらば睡眠を取ろうとする加古。二人は電の性格を自分と似通ったものだと勝手に思い込んで電が自分たちに攻撃せずに退却した理由を挙げてみる。示された理由候補の中に答えがあるものとの見解の元、荒潮がどの理由が正解かを考える中、叢雲は旗艦として部隊のメンバーたる彼女たちの気を引き締めなければと声をかける。
「全く、アンタたちはたった一度の気まぐれを信用しすぎよ。奴らは深海棲艦、私たちの敵よ。油断した所をグサッと背後から、なんてこともあり得るんだから、ここは早く帰投するわよ。司令官に今日のことを伝えなきゃいけないしね」
「えー、あたし体ボロボロでめんどいんだけど。もうここから一歩も動きたくないんだけどぉ?」
「ZZZ( ˘ω˘)」
「あら~、気持ちよさそう。私も一緒にお昼寝しようかしらぁ~?」
速やかに第陸鎮守府へ帰ろうとする叢雲に仲間たちは従わない。望月は全力でだらけて現在地点から動こうとしない。加古は立ったまま夢の彼方へと旅立つ。荒潮も加古の夢路に追随しようとする。まるで統率の取れていない有様を前に、叢雲の額に怒りマークがピキッと浮かび上がる。
「あぁぁあああああああ、もうッ! そろいもそろって駄々っ子みたいにわがまま言ってんじゃないわよ! だらけてないで、さっさと帰るわよ! 私に続きなさい!」
「「「えぇー」」」
「返事!」
「「「はい!」」」
叢雲は強引に仲間たちに指示を下して第陸鎮守府へ向かう。さっきまで深海棲艦との戦いで轟沈するかもしれなかったのに。深海棲姫が襲ってきたら全員そろって轟沈したはずなのに。それでもいつも通りな仲間たち。大物なのかバカなのか。荒潮、加古、望月の胆力だけは羨ましいと内心で思えてならない叢雲なのだった。
電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。艦娘にも深海棲艦にもなるべく沈んでほしくないとの考えを持つ。
黒妖精→深海棲艦に全面的に味方をする妖精。今回も平常運行。
荒潮→第陸鎮守府所属の朝潮型駆逐艦四番艦。ほんわかとした口調の裏に危ない性格を抱えているような気がしてならないのがデフォルト。怒らせたくない艦娘ランキング上位をキープしている。
加古→第陸鎮守府所属の古鷹型重巡洋艦二番艦。目を離したら大体睡魔被害に遭っているのがデフォルト。1日18時間睡眠が普通とか考えてそう。
叢雲→第陸鎮守府所属の吹雪型駆逐艦五番艦。クールな一匹狼の皮を被った典型的なツンデレなのがデフォルト。この作品では真面目な性格を買われて一部隊の旗艦を担当していた。
望月→第陸鎮守府所属の睦月型駆逐艦十一番艦。サボれる所ではしっかりサボりたいと考えているのがデフォルト。だが、時と場合によっては惜しみなく本気を発揮する。
龍田→元第参鎮守府所属、現第陸鎮守府所属の天龍型軽巡洋艦二番艦。頭に謎のルンバらしきものを乗っけているのがデフォルト。風の便りによると、第陸鎮守府で鬼ドS教官っぷりをいかんなく発揮しているらしい。
というわけで、第1章3話は終了です。電の精神的成長がうかがえる話でしたね。そしてもしも私の妄想通りなら次回で第1章が終わりますので、その辺はよろしくなのです。