どうも、ふぁもにかです。今回から第2章。この第2章は少なくとも第1章よりは話数多くなるんじゃないかなと今は思っています。ちなみに。今回は伏線張り張り回なので、電の出番がありません。電大好きっ子の方々には申し訳ないと謝罪するしかありません。すまない。
0話 思惑と思惑に思惑を重ねる話
時は、深海棲艦化した電が第参鎮守府から旅立つ3週間前までさかのぼる。
その時、少女の意識は海の上で覚醒した。どうやら水面に背中を任せ、雲一つない青空を見上げていたらしい少女は体を起こし、周囲一帯を一瞥する。が、どこに視線を回しても、見えるのは青々とした海と水平線のみ。
「……」
己が一人ぼっちであること。目覚める前までの記憶がまるで霞がかかったかのように曖昧であること。それらが世界にたった一人投げ出された少女を不安たらしめる。頼れるものが、すがれるものが、答えをくれるものが何もない。現状、圧倒的な自由が少女に与えられていたが、少女は自由から逃げたくて仕方なかった。
少女は焦燥に駆られながら改めて周囲をキョロキョロと見渡す。何でもいい。何だっていい。とにかく自分を不安から解放してくれる何かがほしい。と、その時。少女の中で一部の記憶がジワリと蘇った。それは、少女の向かうべき場所――第弐鎮守府――。そこへ向かえば、少女の欲するものが手に入る。少女の記憶が語りかける。
行かなきゃ。少女は即決した。少女は目的地へ一直線に向かう。最初はゆっくりと歩いていた少女だったが、次第にその足は駆け足に、最終的には全力ダッシュとなっていた。早く、早く。記憶が示す場所へたどり着きたい一心である。
「……ゼェ、ゼェ……」
が、少女に永続的な体力は備わっていない。全力疾走を続けた少女は息切れとともに立ち止まり、肩で呼吸を繰り返す。かれこれ30分も走ってようやく息切れ程度で収まる辺り、少女の体のスペックは相当のものなのだろう。
どうにか呼吸を落ち着け、再び第弐鎮守府へ一目散に向かおうと顔を上げた時。少女の眼前には人影が存在していた。艤装を持ち水上に立つ艦娘たちの姿。彼女たちの姿を捉えた時、少女の曖昧な記憶の一部の靄が解かれた。
そうだ。私は彼女たちと同じ、第弐鎮守府の艦娘だ。人類を守るため、深海棲艦に対抗するため、妖精さんたちの手によって人に限りなく似せて作られた存在だ。いつの間に仲間たちとはぐれてしまったのか。第弐鎮守府は深海棲艦の殲滅に凄まじく熱心だ。艦隊の編成を乱し、時間を無駄に使わせたとなれば、旗艦に怒られることは避けられないだろう。
だが、少女はそれでも良かった。この広大な大海原でようやく自分以外の存在と会えたから。自分の不安を晴らしてくれる仲間たちと会えたから。怒られることぐらいどうってことはなかった。
「皆ッ!」
少女は心の底から笑みを浮かべて仲間たちの元へ走り寄る。が、その嬉々とした足取りは中断された。中断せざるを得なかった。砲口を向けられたからだ。それも、仲間から。
「エ……?」
「総員構え! 撃てぇぇええええええええええ!!」
正面からは砲撃。頭上からは艦載機による爆撃。水面下からは魚雷による雷撃。
容赦ない一斉攻撃。まるで想定外だったため、少女はロクに回避行動を取れずに、仲間のはずの艦娘たちの攻撃に晒される。
どうして。問いかけようとしても、声が出ない。上手く声に出せない。
声を出そうとしても、それだけの時間すら、目の前の仲間たちは許してくれない。体中を襲いかかる激痛が、戦場の激しい砲撃音が、少女の声を簡単にかき消してしまう。
改めて眼前を見やると、第弐鎮守府の仲間たちの姿。だが、そこに少女を歓迎する様子は一切見られない。彼女たちの両眼からありありとうかがえるのは、敵意。殺気。殺意。不意打ち極まりない仲間たちの対応に耐えきれず、ジワリと少女の視界が涙で滲む。どうして。どうして。どうして。やめて! やめてよ! 痛い、どうして! 私、敵じゃないよ! どうして!
少女は心の中で叫ぶ。畳みかけてくる連撃により思考の波が激痛に度々塗り替えられる中、少女は仲間たちに現状の理由の回答を求める。助けを求める。が、仲間たちの対応は変わらない。ただただ非情にも数の暴力をもって少女を轟沈させようとするだけだ。
(そう、そっか。皆がその気なら――私にダッテ考エガアル)
理不尽な目に遭い続ける内、少女はふと負の感情に囚われた。心の中にスゥと生まれた、負の感情という名のどす黒い闇の炎が揺らめきながら勢いを増し、少女の曖昧な艦娘としての記憶を呑み込んでいく。そして、空っぽとなった記憶に新たな感情が埋め込まれた。それは、自分に理不尽な仕打ちをもたらす仲間たちへの、艦娘への、そして艦娘が味方につく人間への憎悪。復讐心。
この時、少女の艦娘としての記憶は闇色に塗りつぶされた。心に巣を作った負の感情は少女を依代に、ドンドン質量を増加させ、いつしかそれは金色のオーラとして表に具現する。いつの間にか、少女の周囲には深海棲艦がそろい踏みしていた。その数20隻。少女が放つ濃厚な負の感情に惹かれ、引き寄せられるようにして集結したのだ。
少女は嬉しかった。己が一人ぼっちでないことが嬉しかった。同時に認識を改めた。
目の前でこれでもかと敵意を向けるあの連中は仲間じゃない、敵である。
私の傍らに立って共に戦ってくれるこの異形の者たちこそが仲間である。
「――大破ニシロ」
少女は命令を下す。深海棲艦たちは一斉に返事をする。深海棲艦たちは数に物を言わせて艦娘たちに多量の砲撃を浴びせていく。弾幕のごとき砲弾の雨あられに対し、艦娘たちは防ぐ手段を持たない。自分たちが放つ砲撃で迫りくる砲弾を誘爆させるも、圧倒的な砲弾の質量に呑まれ、艦娘たちは次々と大破となる。深海棲艦たちは艦娘たちにトドメを刺すべく、追い打ちの砲撃を一斉に放とうと構える。
「殺スナ。泳ガセロ」
だが、ここで。少女は深海棲艦に艦娘たちを轟沈させないように指示した。深海棲艦たちが若干ながら不満そうに少女を見つめる中、「殺スナ、二度ハナイ」と少女は言葉を重ねる。
「……私たちが敵じゃないとでも言うつもりか!?」
「ソウダ。マタカカッテコイ、何度デモ痛メツケテヤル!」
「深海棲艦風情が、ふざけるな……!」
「ホラ、無様ニ私ニ背ヲ向ケテ逃ゲテミロ! 深海棲艦風情トヤラガ、オ前タチノ情ケナイ後ロ姿ヲコノ両眼デシッカリ焼キツケテヤルカラヨ!」
「くそッ、覚えてろ! 次こそは、この戦艦長門が貴様を沈めてみせるッ!」
第弐鎮守府の艦娘たちを率いる旗艦の長門は仲間が轟沈するのを避けるため、少女によってもたらされた屈辱的な敗北を受け入れながら撤退する。
「オ前タチハ帰レ」
憎き艦娘たちが去ってなお、己に付き従う姿勢を崩さない深海棲艦たちに一言で命令し、大海原に一人ポツンと残る形となった少女はしばし沈黙した後、特に意味もなく海面をバシャバシャと踏んで、水紋の動きを楽しむ。
「アッハハハハハハハッ!」
己の散々傷めつけやがった艦娘たち相手に勝利した。
少女は勝利の余韻に酔いしれた。
◇◇◇
少女が第弐鎮守府の艦娘どもに敗北の二文字を突きつけることに成功した夕刻。水面上で鼻歌を奏で、クルクル踊り出すほどに上機嫌な少女の元にまた新たな人影が現れた。
「……随分と嬉しそうクマ。何かあったクマー?」
少女は声の元へ顔を向ける。少女の元に姿を晒した存在が艦娘であるとわかった瞬間、高揚した気分は急降下。一気に不機嫌になる。
「艦娘ハ敵。大破サセテヤル!」
艦娘は憎き宿敵。攻撃しないと、潰さないと。すぐさま艤装を艦娘に定める少女。しかし、少女には唐突に現れた艦娘に砲弾をお見舞いすることができなかった。己がこんなにも敵意を見せているのに、当の艦娘がポケーと少女を緊張感なく見つめ返すだけだったからだ。顔文字で表現するなら「( ̄◇ ̄)」な感じだろうか。
「……ナゼダ?」
「ん?」
「ナゼ、私ヲ攻撃シヨウトシナイ? 私ヲ敵視シナイ?」
「んー、球磨にやる気がないからクマ?」
「……ナゼ疑問形ナンダ? ナンデ私ニ聞ク? 自分デモワカッテナイノカ?」
「いや、そういうわけじゃないクマ。深海棲艦と積極的に戦う気がないのは本当だけど、改めて考えてみて、それって艦娘の存在意義的にどうなのかなぁって疑問に思っちゃってさ。だから、どうしたものかなぁって思ってたクマ」
「……」
少女は艦娘――球磨と言うらしい――に懐疑的な視線を注ぐ。少女に球磨の発言を受け入れるつもりなど欠片もない。艦娘は敵だ。この艦娘は敢えてのほほんとすることで私の油断を誘い、ここぞという時に不意打ちを仕掛けるつもりなのだと決めつける。
「球磨の言うこと、信用できないクマ? なら、はいドボーン」
と、ここで。球磨は艤装を取り外して海に捨てた。躊躇なく。
球磨の艤装はその重みによりズンズン海中へ沈んでいく。
「エ?」
「これで丸腰クマ。球磨に抗う術はなくなったけど、まだ信用できないクマー?」
「……」
球磨は首をコテンと傾けて問いかけてくる。少女は思わず言葉を失った。この艦娘は何をやってるんだ。命が惜しくないのか。これも私から油断を引き出すための策なのか。いや、でも武器がないのに不意打ちも何もあるものか。なら、一体、何が目的だ。わけがわからない。
「あ、ヤバッ。そういえば艤装の中に妖精さんが――」
少女が混乱している中、球磨はハッと自分がやらかしてしまったことに気づくと、海面を見やる。すると、水面からバシャアと妖精たちが顔を出す。
『球磨さん!』
『いきなり何をするぅ』
『水冷たーい』
『酷いや酷いやぁ』
「あははは、ごめんごめん。球磨の艤装に妖精さんたちがいること、すっかり忘れてたクマー」
その小さい体で頑張って艤装を海面上にまで持ち上げてきたらしい妖精たち。彼女たちの伸び伸びとした口調ながらの抗議に球磨は頭を掻きながら軽く謝る。真剣な謝意はまるで見られないのに、妖精たちは『なら仕方ない』『謝ったから許すのぉ』と球磨の行いを速攻で受け入れる。
眼前で醸造される、凄まじくゆるゆるな空気。球磨が艤装を装備し直す中、何だか警戒するのがバカらしくなってきて、少女は構えていた艤装を下ろす。
「お? 球磨を攻撃する気がなくなったクマ?」
「オ前ハ敵ダケド、無害ダカラナ」
「そっかそっか」
少女は眼前の艦娘に対する戦意を完全に失っていた。この艦娘には私への敵意がない。殺意がない。痛いことをしてこない。話せば答えてくれる。艦娘はどいつもこいつも問答無用で己に砲弾を浴びせてくるものと思い込んでいた少女なだけに、球磨はあまりにイレギュラーだったのだ。
「んー。ねぇ君、球磨と一緒に球磨の秘密基地に行かないクマ? 悪いようにはしないから」
「……何ノ話ダ?」
「今はまだ水面下で、手探りでやってる活動があってね。仲間がほしいクマ。君みたいな、艦娘だからって思考停止して襲いかかってこない深海棲艦の協力がいるクマー」
「……」
「どうかな?」
艦娘は少女に手を差し伸べる。少女は迷う。この手を取るべきか、取らざるべきか。艦娘は敵だ、普通ならこの手を取るべきではない。でも、この艦娘は悪じゃない。いきなり容赦なく一斉に攻撃しやがったあの艦娘どもと同じじゃない。なら、ついていくのもアリかもしれない。仮に何かを企んでいたとしても、それが露見した時に、改めて攻撃すればいい。それだけの話だ。少女はスッと艦娘の手を握った。
「やった。じゃあ案内するクマ! あ、球磨の自己紹介がまだだったクマ。球磨はね――」
「――知ッテル。球磨ダロ」
「クマッ!? なんで球磨の名前を知ってるクマ!? ま、まさか君は球磨の心を読める新種の深海棲姫クマ!? なら球磨の心が丸裸クマー!? なんてこったクマー!」
さっきから散々自分から名前を口走ってるだろ。少女は喉元まで浮上してきたツッコミを呑み込み、球磨に手を引かれていく。かくして。少女は球磨の秘密基地へと招かれた。後日、少女は深海棲艦側から命名される。奈落棲姫と。
少女→元艦娘の奈落棲姫。かつての仲間たちに攻撃されまくったことで闇堕ちしたが、球磨のファインプレーによりある程度救済された。今はまだ、電と会った時みたいにテンションが高くない。
長門→第弐鎮守府所属の長門型戦艦一番艦。凛とした武人のカッコよさを持っているのがデフォルト。第弐鎮守府の古株ゆえに、結構強い。深海棲姫の見た目をした少女が笑顔で走り寄ってきたため、旗艦として応戦の判断を下した。
球磨→第伍鎮守府所属の球磨型軽巡洋艦一番艦。まだ失踪してない。何かにつけてクマクマ言ってるのがデフォルト。何らかの思惑の元に、奈落棲姫を自らの元に引き込んだ。
妖精→球磨の艤装の中にいた謎の存在。艤装の中でのんびりしてたらいきなり海水を全身に浴びせられる被害に遭うも元凶の球磨をすぐに許した辺り、恨みを引きずらないタイプ。
というわけで、第2章0話は終了です。今回は奈落棲姫視点のお話でした。にしても奈落棲姫の闇堕ちルートは電が辿ってもおかしくなかった一つの道なんですよね。もし雷がいなければ電は第参鎮守府の面々に攻撃され続けたわけですから。電の意識が覚醒した時、敵意に満ち満ちた仲間たちの姿を見たら……おぉ、怖い怖い。
~おまけ(球磨の秘密基地に向かう途中の一幕)~
奈落棲姫「オオオ!? オ魚、素手デ獲ッタ! 凄イ!」
球磨「ふふふ、見たか! これぞ球磨のクマさん芸クマ! これが中々幅広い層にウケる万能芸なんだクマー♪ 鮭なんて獲った時にはもう大盛り上がりクマ!」
その後、球磨はキャッチ&リリースの精神で捕まえたカツオを海に逃がしたとか。