どうも、ふぁもにかです。第2章0話でしかと伏線を用意したので、今回からは初っ端から物語が加速します。でもってしばらくはシリアスが続くものと思われます。今までは何だかんだでギャグ要素を挟む余地があったけど、ここから数話はさすがにそんな余裕がなさそうですしね。
奈落棲姫は以前、電と出会った海域付近に再び出向いていた。目的は前に失敗した群れのリーダー格のイワシを今度こそ捕まえること。だが、例の海域に到着した時、あのイワシの姿はなかった。その代わり、奈落棲姫の両眼が捉えたのは、上空を飛ぶ偵察機。そして、遥か遠方より自分の元へ迷いなく近づいてくる、敵意に満ちあふれた艦娘ども。
「――来たぞ」
第弐鎮守府の艦娘で構成された連合艦隊。背後の第一艦隊と第二艦隊の11隻の艦娘を率いて先頭を歩く長門型戦艦一番艦・長門は言葉少なに奈落棲姫に宣言する。前に奈落棲姫に敗北した時の倍の戦力を引っさげて雪辱を果たしに来た長門の万感の思いが、今の一言に全て込められている。
「ヘェ、本当ニ懲リズニマタ来タノカ! 物好キダナ!」
「言ってろ」
奈落棲姫は出会って早速煽りにかかるも、長門は取り合わない。互いに倒すべき敵として睨み合う両者。険悪な雰囲気は瞬く間に周辺一帯を伝播し、戦場独特の空気へと変質する。戦闘の火蓋が切られるのは、もはや時間の問題である。
「戦う前に1つだけ。貴様の名を、聞かせてもらおうか」
「私ハ奈落棲姫! オ前タチニモウ一度絶望ヲ与エ直ス深海棲艦ダ!」
「残念だが、今回絶望の味を知るのは貴様の方だ。今日の私たちが、貴様を攻略するための最良の作戦を用意した私たちが、この前と同じと思うなよ」
「コノ、艦娘風情ガ!」
奈落棲姫なんて障害でないと言わんばかりに言葉を紡ぐ長門。奈落棲姫は憎き艦娘どもが涼しげな表情を携えていることが気に喰わない。余裕そうなその表情をまた敗北の屈辱に歪めてやる。奈落棲姫は一歩踏み出した。
かくして。奈落棲姫と第弐鎮守府の艦娘たちとの二度目の戦争が始まった。
◇◇◇
深海棲艦生産プラントを訪れたことで、今後の旅の方針が定まった暁型駆逐艦四番艦・電。電は深海棲艦の生みの親を見つけるため、まずは他の深海棲艦生産プラントの場所を知っている可能性のある奈落棲姫に会おうと海中を泳ぐ。電の暫定的な目的地は最初に奈落棲姫と出会った場所。あの場所へ行けば、奈落棲姫と再会しやすくなるのではと考えたのだ。
そうして。2日ほど時間をかけて。ようやく前に奈落棲姫と出会った海域へと到達した電はふときょとんとした顔つきになる。海水の振動具合から、地上で何事か尋常でないことが起こっていると悟ったからだ。
(何だか、上の方が騒がしいのです?)
電は潜水をやめて海上にバシャッと顔を出す。直後、電の視界に入ったのは、彼女にとって少々想定外な光景だった。
「クソッ、小癪ナ真似ヲ!」
「何とでも言うがいい! 所詮、負け犬の遠吠えだ!」
深海棲艦化により強化された電の両眼が捉えたのは、奈落棲姫と長門率いる艦娘の連合艦隊計12隻とが全力で戦闘を繰り広げている様子。
奈落棲姫は既にズタボロで、彼女を援護する深海棲艦は存在しない。奈落棲姫の周囲の海面上に浮かぶ残骸から察するに、奈落棲姫の負の感情に惹かれて集まった深海棲艦たちはもれなく沈められたのだろう。一方、連合艦隊を編成する艦娘たちの被害は軽微で、小破した艦娘が数隻いるだけ。現時点で、電が傍から戦況を見ただけでも、どちらに軍配が上がるのかは明らかだった。
(ナッちゃんが襲われてる!?)
このままじゃナッちゃんが沈められちゃう。助けないと。
判断は一瞬だった。電は内心に沸き上がる衝動に動かされるままに、海面に飛び出し、走る。「これでトドメだッ!」との長門の叫びと同時に放たれる、長門&金剛型戦艦二番艦・比叡&大和型戦艦二番艦・武蔵の計3隻の戦艦による大火力&大質量の砲撃が奈落棲姫にギュォォオオオと迫る中。回避行動の間に合わない奈落棲姫の眼前に電は割り込み、己の体をもって砲弾を防ぎきる。
「ウ、グ……!」
(お、思ったよりダメージが入っちゃったのです……)
しかし、電が無傷で済むことはなかった。当然だ。いくら電轟棲姫としての電の装甲が相当なものだとしても、複数の戦艦たちの一斉砲撃をモロに喰らってノーダメージでいられるほど、電の体は無敵ではない。以前、艦娘と深海棲艦双方を沈ませないために、練度の低い第陸鎮守府の艦娘たちと深海棲艦たちの攻撃を身を挺して防いだ時とはわけが違うのだ。
「ちッ、新手の姫級か!」
「デ、デンチャン!?」
奈落棲姫を倒せる好機を電の乱入により潰された形となり、長門が顔を歪める中。奈落棲姫はまるで幽霊でも見てしまったかのような驚愕の声を上げる。奈落棲姫の元へ参上し、共に戦っていた深海棲艦たちが全員沈められた後だっただけに、もう助っ人の存在はあり得ない。そのように決めつけていただけに、奈落棲姫の驚きは凄まじい。
「ナッチャン! 今ノ内ニ逃ゲテ! ココハ私ガ抑エルノデスッ!」
「エ? デン、チャン?」
「早ク!」
「マ、待ッテ! デンチャン! ソレハ駄目! 奴ラ、私ガ前ニ潰シタ時ヨリトンデモナク強イ! デンチャンダケジャ無茶――」
「御託ハイイカラサッサト行クノデス、ナッチャン!」
「ッ!?」
四の五の言わせない電の剣幕に奈落棲姫は目を丸くする。その後、電をしかと見つめて、電が己の意見をほんの少しでも曲げる気配がないことを感じ取った奈落棲姫は、電の指示を受け入れる。現時点で轟沈寸前な今の自分が無駄に電の主張に逆らって戦場に留まった所で迷惑にしかならないと心ではとっくに理解しているのだ。
「デンチャン! 危ナイッテ思ッタラスグ逃ゲテ! 絶対ダヨ!」
奈落棲姫の懇願に近いお願いに電は一つうなずく。その姿を確認した奈落棲姫は後ろ髪を引かれる思いで、しかし電への心配の念を振り切るように逃げる。戦場から撤退しようとする奈落棲姫。が、奈落棲姫の退却をみすみす静観するような連合艦隊ではない。
「せっかくここまで追い詰めたんだ! 逃がさないよ!」
島風型駆逐艦一番艦・島風はいち早く駆ける。深海棲艦にとって重要戦力だとわかりきっている姫級の奈落棲姫を轟沈できる絶好の好機を逸しないために、己の自慢の速力を存分に活用して電の奥の奈落棲姫に迫ろうとする。だが、電の脇を抜けようと目論む島風を許す電ではない。
「サセナイノデス!」
電は島風の位置を先に予測した上で砲撃を放つ。己の迅速な動きにしっかり対応してくると考えてなかった島風は思わぬ砲撃に「いいッ!?」とギョッと目を見開く。だが、電が島風の唐突な突撃にちゃんと反応していることに誰よりも早く気づいた陽炎型駆逐艦八番艦・雪風が「島風ちゃん、危ない!」と島風に背中から飛びついたため、電の砲弾が島風に直撃することはなかった。
「お゛うッ!?」
「うわッ!?」
島風と雪風が海面にバシャッとうつ伏せに倒れる中、電は真上と真下に続けざまに砲撃する。結果、島風という非常に目立つ囮の裏に隠された、翔鶴型正規空母一番艦・翔鶴が上空に放った数機の艦載機が撃ち落とされ、海中に潜む巡潜乙型潜水艦三番艦・伊19が放った酸素魚雷が爆破される。とにもかくにもまず奈落棲姫を沈めたかった旗艦・長門はギリリと歯噛みした。
「くそッ、あくまで立ち塞がるか。ならば貴様もろとも、奈落棲姫を沈めるまでだ!」
「総員構え!」との長門の号令に連合艦隊の艦娘たちはそれぞれ艤装を構える。その24の眼光には闘争心に輝いており、とても矛を収めてくれる雰囲気はない。
電は今さらながら思い知る。自分はとんでもない戦いに介入してしまったのだと。
電は眼前の艦娘たちのことを知っている。彼女たちは第弐鎮守府の艦娘だ。鎮守府の立地が深海棲艦との戦争の最前線であるがゆえに日々激戦を繰り広げ、海域を奪った奪われたといった毎日を強いられているため、第弐鎮守府所属の艦娘はとにかく強い。深海棲艦の殲滅を至上の喜びと位置づけ、訓練と実戦にほとんどの時間を注ぎ込む第弐鎮守府の艦娘たちは、その誰もが歴戦の戦士と形容していいほどの境地に達しているのだ。
私が艦娘だった時、第弐鎮守府との演習では私たち第参鎮守府が負け越していた。だからか、深海棲姫の強靭な体を抱える今もなお、彼女たちに勝てる気がしない。こうして対峙していること自体がいっそ愚かな行いのように思えてくる。
でも、ナッちゃんは逃がさないといけない。友達なのだ。深海棲姫になって初めての友達なのだ。失いたくない。黒い歯車の機構についても聞かないといけないのだ。絶対に目の前の艦娘たちに殺させてはならない。ナッちゃんが元艦娘の可能性がある以上、目の前の艦娘たちに仲間殺しの経験をさせるわけにもいかない。
電の目標は1つ。奈落棲姫が連合艦隊から逃げきれるだけの時間を稼ぐこと。奈落棲姫の体のズタボロ具合を鑑みれば、なるべく多く時間を確保できなければ、眼前の艦娘たちに追いつかれ沈められかねない。会話で時間稼ぎをできそうにない現状、電にできることは応戦一択。艦娘たちに撤退を選ばせるほどの大損害を与えること。
「……」
(でも、だからといって艦娘を沈めたくはないのです)
だから、もう1つだけ目標を追加しよう。電は心に決める。今から始まる第弐鎮守府の連合艦隊との戦い。そこでナッちゃんの逃走時間を十分に稼ぎ、だけど艦娘は一隻だって轟沈させないと。
そんな真似ができるのか。相手が何隻いると思っているんだ。相手のことばかり気に留めていたら自分が沈められるぞ。考え直してくれ。電の中の弱気な部分がバカな真似はよせとの制止の感情を乗せて語りかけてくる。
確かにその通りだろう。艦娘たちに撤退レベルの大損害を与え、だけど轟沈艦を一隻も出させず、さらにキリのいい所で己も逃げおおせるなんて都合がいいにも程がある。それも自分が数の面でも実力の面でも圧倒的に不利な状況下でそれを狙うなんて自殺行為もいい所だ。
(でも、それでも……)
やってみせる。絶対にやってのける。じゃないと。私は。例え元の艦娘の体を取り戻せたとして。胸を張って第参鎮守府の仲間たちの元へ、帰れないから。艦娘を沈めた手では、皆と触れ合えないだろうから。艦娘を轟沈させた経験があっては、皆と心から笑い合えないだろうから。
ナッちゃんを逃がすための時間稼ぎも。眼前の艦娘たちを一隻も轟沈させずに戦うことも。私自身の轟沈を防ぐことも。何でもかんでも優先する。優先順位なんて関係ない。ここが私の譲れない一線だから。どんなに無茶でも。やってやる。やってみせるんだ。
「フフッ」
電はつい笑みを零す。こんな風に自分の欲求を意地でも貫き通そうとするのは、何だかキャラじゃなくて、おかしい気がしたのだ。ここまで自分が強気に、挑戦的になっているのはきっと、今の自分が深海棲艦の体だからだろう。だけど、今はその変化が心地いい。心強い。
(電は、思っていたよりもずっと我がままで、欲張りさんみたいなのです。だから――)
電は深呼吸を1つする。意識的に瞬きを行い、相手たる12隻の艦娘たちを見やる。
覚悟はできている。後は、やり遂げるだけ。電は息を深く吸い込んで、声を張り上げた。
「カカッテコイナノデスッ!」
――電の本気を見るのです!
電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。現在小破状態。この度、第弐鎮守府の艦娘の連合艦隊相手に縛りプレイを所望した。
奈落棲姫→元々は第弐鎮守府の艦娘だった深海棲姫。前回コテンパンに倒した相手にリベンジを決められちゃう、噛ませ犬ポジションとなってしまった。
長門→第弐鎮守府所属の長門型戦艦一番艦。考えに考え抜かれた作戦で奈落棲姫を轟沈寸前まで追い詰めるも、電に邪魔されてしまったため、内心では激おこ状態である。
比叡→第弐鎮守府所属の金剛型戦艦二番艦。子供さとアホの子具合が上手いことブレンドされているのがデフォルト。ギャグ要員になりやすい艦娘だが、この作品ではどうなることやら。
武蔵→第弐鎮守府所属の大和型戦艦二番艦。褐色肌、メガネ、わがままボディなどと色んな属性が詰まっているのがデフォルト。この作品では存在感が薄くなるかもしれない。
島風→第弐鎮守府所属の島風型駆逐艦一番艦。とにかく己の俊足っぷりを誇りにしているのがデフォルト。キャラ立ちの点では文句なしの艦娘である。
雪風→第弐鎮守府所属の陽炎型駆逐艦八番艦。無邪気でストレートな物言いをするのがデフォルト。幸運の女神に愛されている。
翔鶴→第弐鎮守府所属の翔鶴型正規空母一番艦。「いない艦(妹)の名を呼ぶ病」を発症しがちなのがデフォルト。不幸に愛されている。
伊19→第弐鎮守府所属の巡潜乙型潜水艦三番艦。「泳ぐ18禁」の一言に全て集約されているのがデフォルト。R-18タグはつけたくないので、この作品では自重してもらう予定。
というわけで、第2章1話は終了です。島風の如き急展開でしたね。でも、それでも書きたかったんですよね、艦娘連合艦隊VS電の話。しかし、ここで障害として立ち塞がる、艦娘の戦い方の文章描写方法をあんまり理解していないという現実。その辺をどうごまかしつつ、しかし物語を盛り上げていくか。私のごまかし能力が今、試されている!
~おまけ(現状判明している第弐鎮守府の連合艦隊計12隻の編成内容)~
第一艦隊:長門、比叡、翔鶴、島風、??、伊19
第二艦隊:武蔵、??、??、雪風、??、??