どうも、ふぁもにかです。とりあえず、この第2章はプロローグよりも話数が多くなりそうだとわかってホッとしている今日この頃です。第1章はあまりにも話数が少なくてもはや第1章(笑)になっちゃってますからね。良かった良かった。
奈落棲姫を守るため。敵対する艦娘たちを誰も轟沈させないため。
たった一人で第弐鎮守府の連合艦隊12隻に立ち向かい、敗北し、鹵獲された電。
意識の失った彼女は、無意識に遠い過去の記憶へと思いをはせる。
◇◇◇
それは電が深海棲艦化する遥か前のこと。
まだ電が艦娘として第参鎮守府に所属していた頃のこと。
夜中。同室のベッドでぐっすり眠る姉の暁型駆逐艦三番艦・雷を決して起こさないよう細心の注意を払って、暁型駆逐艦四番艦・電はこっそりと艦娘寮を抜け出る。特に目的の場所があるわけでなく、テキトーに歩く電は、気づけば港に行きついていた。
「……」
電は一人、海を見る。深夜であるため、ほとんど何も見えない、真っ暗でしかない景色。それでも構わずに電は海を見つめる。電の表情からは、揺れる双眸からは、彼女が何やら複雑な心情を抱え込んでいることがうかがえた。
「私は、どうしたら――」
「ヘーイ! いなづまぁーッ! こんな時間に会うなんて奇遇ネー!」
「ふぇッ!?」
深刻そうな面持ちで漏らす電の呟きが最後まで紡がれることはなかった。突如、電の背後から元気たっぷりな声が届けられたからだ。電が驚きにビクリと肩を震わせ、バッと慌てて背後を振り向くと、ニシシッと純粋そうな笑みを浮かべる金剛型戦艦一番艦・金剛の姿。
「こ、金剛さん!? どうしてここに!?」
「それは内緒デース! それより、電。随分と浮かない顔をしてるけど、どうしたネー?」
「え、えっと……」
「もしかして、明日の大規模作戦が心配で眠れないとか? 大丈夫、私が全艦薙ぎ払うから心配ないデース! だから電はもう眠るデース! 夜更かしは美容の敵、こんな夜更けまで起きてたらよくないネー!」
金剛に問われ、電は答えようとする。が、電の返答を待つより早く金剛は的外れな予測を持ち出し、電の悩み事は解決したと言わんばかりに電の背中を押して艦娘寮へ帰そうとする。戦艦たる金剛の力に駆逐艦な電は逆らえないため、電は金剛に為されるがまま。だが、電の表情は一向に晴れない。確かに明日に控える、第壱、第参、第伍鎮守府合同での大規模作戦を憂慮する気持ちもある。が、電の悩みは全く別の所にあったのだ。
「……金剛さん」
「電?」
「少し聞いてほしいことがあって、付き合ってほしいのです」
「もちろん、私でよければいくらでもウェルカムヨー!」
いつまでも自分で抱え続けることに限界を感じていた電は、ちょうど自分の目の前に現れた金剛に悩みを話そうとふと思い至り、お願いする。電の上目遣いの頼み事。金剛は電の背中を押すのをやめて快諾し、ドンと胸を張る。が、ここで。金剛は「あ、電。ちょっと準備するからここで待つデース!」と言葉を残して港から走り去る。
金剛の意図がわからず首を傾げる電。数十秒後。電が見たのは、ガーデンテーブルセットやティーセットを器用に両手に抱え持って駆け戻る金剛の姿。金剛はテキパキと白を基調にした丸テーブルと椅子2脚を地面に置く。テーブル上にティーセットを置き、実に手際よく紅茶を淹れていく。
「……凄い」
電はつい感嘆の息を吐く。これまで無駄に洗練された無駄のない紅茶淹れの全工程を間近で鑑賞することがなかったためだ。その後、すぐに「フィニッシュ!」と金剛が歓声を上げると、再び電の背中を押して「こっちデース!」と椅子に座らせる。
金剛自身も対面の椅子に座り、紅茶を注いだティーカップをススッと電に渡す。「あ、ありがとうなのです」と電が頭を下げる中、金剛は己のティーカップにもティーポットから紅茶を入れて、「サァ、どんとこいデース!」と胸を叩く。どうやら電の悩みを聞く準備を整え終えたようだ。
「私、どうすればいいか、わからなくて……」
「というと?」
「ッ……」
金剛の相槌に、電の体がこわばる。話そうと決めたばかりなのに、ここから先のことを誰かに話すのが怖くて仕方なくなったのだ。言葉を続けられず、電の視線は金剛から下を向く。電の視界でスゥと淹れたての紅茶の暖かな香りが巻き上がる。香りに釣られる形で顔を上げ、金剛の反応を見てみると。金剛は紅茶を一口味わい、ご満悦といった笑みを浮かべている。その純粋で、あまりに子供っぽい金剛の無邪気さに、いつの間にか電の体から力が抜けていた。
紅茶の香りを巻き込むように軽く息を吸って。吐いて。
今度こそ己の悩みを打ち明けようと決めた電はゆっくりと話し始めた。
「……私、あまり深海棲艦と戦いたくないんです。確かに、深海棲艦は人類に仇なす存在で、敵意を持って侵略してきます。だから私たちは人類を守るために深海棲艦と戦争しています。深海棲艦に奪われた海域を取り戻すために戦って、深海棲艦を轟沈させています。でも、私は深海棲艦を沈めるのがとても残酷で、可哀想で、間違ったことのように思うのです。深海棲艦は私たち艦娘とよく似ていて、敵だって、沈めていい相手だって素直に思い込めないんです」
「ふむふむ」
「迷っちゃうのです。人類を守る艦娘として、深海棲艦と戦うこと自体が嫌なわけじゃないけど、なるべく深海棲艦を沈めたくないんです。例え深海棲艦を沈めるしか道がなくても、その深海棲艦もできたら助けたいんです。でも、私は司令官さんや鎮守府の皆を敵に回して、傷つけて、嫌われてまで深海棲艦を助けたいとは思えないんです」
「……」
「……こんなの、おかしいですよね。自分勝手で、身勝手で、偽善で。わかっているのに、迷いを断ち切れないのです。艦娘っていう、自分の意思で自由に動かせる体を持っている分、余計に迷ってしまうんです。もしも私が今もただの駆逐艦だったら、迷わなくて良かったのに。難しいことは全部乗組員の皆に委ねて、何も考えなくて良かったのに。私は、どうしたらいいんでしょうか」
一度口に出したら、スルスルと言葉が滑り出てくる。それは電の心の底からの吐露だった。ずっと抱え込んでいて、今まで誰にも言えなかった本音だった。仲間にも、姉にも、提督にも打ち明けられなかった胸中だった。
正直に話してしまえば、引かれてしまいそうで。異端者扱いされてしまいそうで。今まで紡いだ関係が跡形もなく崩壊してしまいそうで。それでも電が今日、金剛に本心を告白できたのは。きっと。電にとっての金剛の位置が絶妙だったからだろう。仲間だけど、他者。近すぎず。遠すぎず。その距離感だからこそ、金剛には話せたのだ。
「……」
「ご、ごめんなさい。こんなこと考えちゃうの、やっぱり変ですよね。ごめんなさい、今言ったことは――」
ひとしきり電が悩みを語り終えると、金剛はさっきとは一転して難しい顔で紅茶を一口飲む。金剛さんに自分がおかしいと思われてしまった。電は慌ててペコペコ頭を下げて謝り、今話したことはほんの冗談だから忘れてくださいと取り繕おうとする。と、その時。金剛はティーカップをテーブルに置いて立ち上がると、電の元まで赴き、電の頭を優しく撫で撫でし始めた。
「あ……」
「変じゃないデース。立派な悩みだと私は思うネー」
「……金剛さんは、その、非難とかしないんですか? 甘いとか、深海棲艦は敵なんだから躊躇するなとか、思わないのですか?」
「思うデース。電の考えはまるでドバドバお砂糖入れまくった紅茶の味ネー!」
「そう、ですよね……」
電はしゅんと意気消沈する。金剛もまた自分と似たような考えを持っているのではないか、そうでなくとも自分の考えに共感してくれるのではないか。金剛の意外な反応からそのような期待が生まれていたため、電はすっかり元気をなくす。
「けど、これから先は電のようなスウィートな考えが必要な時代なのかもしれないネー」
「え……?」
「電にだけ告白してもらうのはアンフェアなので、私も少し思っていることを話すデース。正直な所、このままじゃあ人類と深海棲艦との戦争は、いつまで経っても終わらないと思ってマース」
「終わらない?」
「イエス。深海棲艦が数に物を言わせたごり押しを続け、人類が質に物を言わせた艦娘で対抗する……このような衝突をいくら続けても、フィニッシュは来ない。人類が奪われた海域を取り戻し深海棲艦を滅ぼす未来もなければ、深海棲艦が艦娘を滅ぼし海を制圧し人類への復讐を遂げる未来もない。そう、思えるデース。いつまで経っても艦娘の全滅はあり得ない。逆に深海棲艦の全滅もあり得ない。直感がネー、私の耳元で囁くデース」
「……」
「だからこそ、そろそろ別の道を模索すべきだと私は思っているデース。これまで常識と考えられてきた概念を粉々に打ち壊すような、斬新で革新的なアイディアが必要なのかもしれないデース」
と、ここで。己の胸の内を語っていた金剛は腰をかがめて電と視線の高さを合わせる。両手でピタッと電の両頬を挟み込み、戸惑いの浮かぶ電の両目をしっかり見つめる。
「こ、金剛さん?」
「電。私は賢くないから、貴女の悩みをズバッと解決できないデース。でも、艦娘と深海棲艦の在り方に疑問を持ち、悩み続けるのは決しておかしいことじゃないネー。だからどうか、今の考えを、迷いを捨てないでほしいデース。苦しいでしょうが、その悩みを持ち続けていることこそが、この深海棲艦との長い戦争に終止符を打つ、ジョーカーになるかもしれないデース。そして、それができるのは、誰に言われるでなく艦娘と深海棲艦との関係性に疑問を抱いた、電だけデース」
「――ッ!」
金剛はパチリとウインクをしたのを最後に電の頬から手を放し、再び元の椅子に座ってティーカップに紅茶のおかわりを注ぎ始める。電の中に、憂いはなくなっていた。悩みが晴れたわけじゃない。解決したわけじゃない。でも、悩んでいる今の自分が決して間違っていないと金剛がしっかりと肯定してくれたことは、電にとって何よりも嬉しかった。
「元気、出ましたカー? とってもキラキラした顔をしてるデース!」
「はい! ありがとうなのです、金剛さん!」
その後。電はもうしばらく金剛と真夜中のお茶会を楽しんだ後、金剛が持ち出したガーデンテーブルセットやティーセットの片づけを手伝い、艦娘寮で眠りについた。
――そして。翌日の大規模作戦で、金剛は轟沈した。
電→まだ深海棲艦化する前の暁型駆逐艦四番艦。艦娘と深海棲艦は敵同士。だから艦娘は深海棲艦を沈めて当然との一般認識に違和感を抱き、深海棲艦をなるべく沈めずに済ませたいと思っている模様。優しく、甘く、いい子である。
金剛→第参鎮守府所属の金剛型戦艦一番艦。とにかく提督が大好きで、持ち前の明るさでぐいぐい攻め込んでいくのがデフォルト。お姉ちゃんの貫録を備えたり、エセ外国人っぽい口調だったりと、キャラに事欠かない。
というわけで、第2章4話は終了です。今回は唐突な回想シーン及び『妖怪紅茶くれ』初登場の巻でしたね。私はあんまり英語が得意じゃないので、ここの金剛はそんなに発言の随所に英語を入れ込んだりしていません。違和感あったらごめんなさい。いやぁ、まさか金剛の口調再現がこうも難解だとは思いませんでした。私の貧相なボキャブラリーが私に牙を剥く!