【完結】元の体を取り戻すのです! by.電   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。前回は回想ターンだったため、電の行く末が描写されなかったので、今回はしっかり電がどうなっているかを以下に記しています。さすがに何話も電のことを引っ張って話数稼ぎをするようなふぁもにかではありませんぜ。



5話 意外と似ているのです!

 

 

「ン……」

 

 電は目を覚ます。寝ぼけているのか、パチパチと何度か瞬きを繰り返し、眠たげに目を軽くこすり、体を起こす。何か懐かしい夢を見ていたような。頭を捻って己が見た夢を探ろうとするも、電の頭から夢の内容はすっかり消え去っている。電は一つため息をつき、周囲に目を向けると、冷たい床に眼前の鉄格子。どうやら檻の中に放り込まれているようだった。

 

 

(ここは、一体……)

 

 未だ治療が施されておらず、全身ズタボロな電は思考する。確か、私はナッちゃんを守るために第弐鎮守府の艦娘たちと戦い、敗れ、轟沈したはずだ。なのに、どうして私は生きているのだろう。誰かが助けてくれた? 深海棲艦が、電轟棲姫としての私を助けてくれた? いや、それは考えにくい。それなら私は少なくとも怪我を手当てされて、もっと清潔な部屋に身柄を移されているはず。こんな薄暗くて冷たい場所に閉じ込められてはいないはずだ。

 

 

「ナラ、ドウシテ……」

『簡単だ』

『鹵獲されたんだよ、お前』

『第弐鎮守府の連中にな』

『ちなみにここは営倉だぜ』

 

 と、ここで。彼女の服の内から黒妖精たちがひょっこり顔を出し、電の疑問に答える。その内容に電は「エ、ソウナノデスカ?」と目を見開く。あの、深海棲艦に恨み辛みを溜め込み、深海棲艦を轟沈させずに生かしたまま鹵獲しようだなんてこれっぽっちも考えなさそうな第弐鎮守府の面々が自身を回収したことが意外だったのだ。だけど。深海棲艦に回収されたのではなく、艦娘に鹵獲されたのならこの状況は納得できる。何せ、今の自分は一切の治療を受けていないのだから。

 

 

(きっと私が万一にも逃走できないように、敢えて放置してるんでしょうね……)

『ったくよー、自業自得だ、バカ』

『お前が艦娘どもに情をかけるからこうなったんだ』

『容赦なく艦娘を沈めとけばお前は勝てた』

『中途半端に敵を大破放置した結果がこの体たらくだ』

『ケケケ、ザマァねぇな。情けないぜ』

「ゴメンナサイナノデス、黒妖精サン……返ス言葉モナイノデス」

 

 黒妖精たちの容赦ない、しかし深海棲艦に味方する存在としては至極真っ当な指摘に電はただ謝ることしかできない。電のわがままに付き合わせ、窮地にまで巻き込んでしまったのだ。黒妖精たちが電を非難するのは当然の権利。電にとって救いなのは、黒妖精たちがいつもの軽い口調で、何とも思ってなさそうな雰囲気で責めてくることぐらいだ。

 

 

「……私、ドウナルノデショウ?」

『もう察してんだろ』

『実験体だ、実験体』

『大本営に引き渡されるのさ』

『ロクな結末にゃならねぇだろうな』

「アハハ、デスヨネェ」

 

 営倉に放り込まれ放置されているだけで、別に体をどこも拘束されていない電は虚空を見上げて疑問を口にする。直後。黒妖精たちのオブラートに包む気のない、本当に容赦ない表現に、電は思わず苦笑いを返す。

 

 電はふと手のひらを見やる。深海棲艦化し、すっかり白くなった電の手は、わずかに震えていた。怖い。これから自分の身に降りかかる悲劇が、容易に想像できる今後の展開が、怖い。怖くて仕方ない。けど、これが欲張った結果なのだ。敢えて優先順位を設けず何もかもを強欲にも掴み取ろうとした、己の甘さが招いた結果なのだ。だから、後悔だけは絶対にしない。でも。

 

 

「……黒妖精サン」

『あ? 何だよ?』

「今ノ内ニ、貴女タチハ逃ゲテクダサイ。黒妖精サンタチナラ、コッソリ逃ゲラレルハズナノデス。……ソレデ。モシヨカッタラ、私ノ大切ナ仲間タチニ私ノ最後ノ言葉ヲ伝エテホシ――」

『ケケケ、何言ってんだ』

『面白れぇ冗談だな』

『離れるつもりはないぜ』

「……ソウ言ッテクレルノハ凄ク嬉シイデス。デモ――」

『やれやれ、わかってねぇな』

『世の中にゃ命よりも大事なものがある』

『それがわからないテメェじゃねぇだろ?』

「ウグッ」

 

 これ以上、自分のわがままで生じた被害の巻き添えを食らう必要はない。電は黒妖精だけでも今の内に第弐鎮守府の外へ逃がそうとするも、説得に失敗する。黒妖精たちの言葉に電は何も言えない。姉の雷を助けるために身を挺して守り、轟沈した経験のある電は何も言えない。奈落棲姫を助けつつも敵対する艦娘を沈めまいと奮闘し、敗北した電は何も言えない。

 

 

『ケケケ、そもそも逃げれねぇよ』

『艦娘どもの目はごまかせても、妖精はごまかせない』

『すぐに見つかってアウトだ』

『奈落棲姫を守るためにあれだけ頑張ったお前を見捨てるつもりもねぇ』

『仲間を見捨てて逃げるほど、俺たちは腐っちゃいねえよ』

『お前と俺たちは今、運命共同体ってことだ。諦めろ』

 

 かわるがわる黒妖精たちがこの場から真っ先に逃げない理由を次々提示する中、「フフッ」と電は笑みを零す。相変わらず刺々しさが感じられる口調ながら、自分のことを心配してくれている黒妖精たちの反応が嬉しかった。艦娘や人類の殺害願望の高い黒妖精と自分とは反りが合わないと思っていた。でも、そうとも言えないことがわかった。自分と黒妖精さんたちとは根本から考えが違う。だけど。黒妖精さんも意外と私と似ていて、意地っぱりで、欲張りなのだ。

 

 

「黒妖精サンモ、案外バカナノデスネ」

『うっせぇ』

『誰のせいだと思ってる』

『お前のバカが移ったんだよ、バーカ』

「フフフ、ソウデスカ……」

『笑うなよ、バカ!』

(バカって言った方がバカなのです)

 

 黒妖精たちが可愛らしく声を荒らげる中、電は背後の冷たい壁に背中を預けて座り、スッと目を瞑る。体はズタボロ。艤装はない。眼前の鉄格子も随分と強固そう。こんな状態で脱走なんて不可能だ。床も壁もしっかりとコンクリートで固められているため、穴を掘って脱出なんてことも期待できないだろう。でも、潔く諦めるつもりは全然ない。私は元の体を取り戻して、もう一度、皆の待つ第参鎮守府へ帰らないといけないのだから。

 

 この絶望的な状況で、それでもチャンスがあるとするのなら。ここから出され、大本営に身柄を引き渡される時ぐらいだろう。逃走が成功する確率は限りなくゼロだ。でも、やるしかない。だから。今は休息を取り、少しでも体力を回復させることが先決だ。ほぼ轟沈レベルの損傷で眠った所で大した意味はないだろうが、やらないよりはマシなはずだ。

 

 

『何だ、寝るのか?』

「ハイ、オ休ミナサイナノデス」

 

 目を瞑った電の意識はすぐさま夢の世界へと羽ばたこうとする。治療が施されていない以上、体の疲れが全然取れていなかったのだろう。だが。電がすやすやと寝息を立て始める、数秒前。薄暗い営倉に人工的な明かりが灯り、鉄格子越しに声が届けられた。

 

 

「この状況で眠ろうと思えるなんて、随分と余裕みたいね」

「ッ!?」

 

 黒妖精たちがちゃっかり電の服の内へと身を隠し終えている中。電がハッと目を開いて鉄格子の向こう側を見やる。電に声をかけたのは、海大Ⅵ型潜水艦一番艦・伊168。

 

 

「……私ニ、何ノ用デスカ?」

 

 電は伊168への警戒心を顕わにする。第弐鎮守府は深海棲艦に対して酷く憎しみを抱いている。そのため、伊168がわざわざ自分の元まで足を運んできたのもロクな用事じゃないと考えたのだ。例えば、大本営に引き渡すまでの間、死なないギリギリを見極めながら電を痛めつけるつもりでここへ来たかもしれないからだ。

 

 伊168を睨む電。対する伊168は姫級の深海棲艦に凝視されているというのに全く動じることなく、「ま、警戒するのも当然よね」と呟く。そして、伊168は話の口火を切った。

 

 

「――ねぇ。1つ提案があるんだけど、聞いてくれない?」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 少々時間が経過した後。第弐鎮守府の執務室にて。中年の提督が執務に励んでいた。書類の束を次々処理する提督の傍らで、彼を心配そうに見つめるのは秘書艦、朝潮型駆逐艦一番艦・朝潮。

 

 

「司令官、お茶を淹れました。少し休憩しましょう」

「いや、もう少しだけやらせてくれ」

「もう何回目ですか、それ。ただでさえ司令官は二徹しているんですし、これ以上の無茶は控えてください。お体に障りますよ?」

「これで最後だ、頼む」

「……本当に最後ですからね?」

「あぁ」

 

 提督はあくまで書類を見つめたまま朝潮の提案を突っぱねる。朝潮は内心でため息を吐きつつもお茶を乗せたおぼんを一旦下げる。その後、提督の負担を少しでも減らそうと自分でもできる書類の処理を手伝おうとした、その時。執務室の扉がバーンと派手な音とともに勢いよく開かれた。執務室に血相を変えて飛び込んできたのは、陽炎型駆逐艦八番艦・雪風だ。

 

 

「しれぇ! 大変です!」

「何事だ、騒がしい」

「も、申し訳ありません! でも緊急事態が発生したので、報告します! 先日鹵獲した電轟棲姫が営倉から脱走しました!」

「えッ!?」

「なに?」

「現状、電轟棲姫はイムヤちゃんを人質に(・・・・・・・・・・)鎮守府内を逃走しています! しれぇ、指示をお願いします!」

「……」

 

 雪風からのまさかの報告に朝潮はまるで石像のように固まり、提督は表情を険しくした。ギリッと歯噛みする提督からは深海棲艦への深い深い憎悪のどす黒いオーラが体からにじみ出ている錯覚を雪風と朝潮に抱かせる。

 

 

「電轟棲姫の身柄を確保するよう、鎮守府全域に速やかに通達しろ。が、もしも確保が厳しいなら、殺していい。全責任は私が取るから、各自の判断で動いてくれ」

「イムヤちゃんは?」

「助けられるようなら救助しろ。電轟棲姫の確保の邪魔になるなら、奴も殺して構わん」

「わかりました! すぐに通達を出します!」

「頼んだ」

 

 雪風は提督の指示にほんの少しも動揺することなく執務室から去っていく。提督は何事もなかったかのように再び書類の処理に取りかかるが、その両眼には未だ憎悪の炎が鈍く揺らめいていた。

 

 

(鹵獲された分際で、随分と往生際の悪い真似をする。だが、我々第弐鎮守府から逃れられると思うなよ? なぁ、電轟棲姫?)

 

 




電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。黒妖精への好感度が幾分か上昇した。
黒妖精→深海棲艦に全面的に味方をする妖精。いつの間にツンデレポジションとなったらしい。
伊168→第弐鎮守府所属の海大Ⅵ型潜水艦一番艦。何か腹に一物抱えてそうな感じ。
朝潮→第弐鎮守府所属の朝潮型駆逐艦一番艦。真面目な委員長タイプなのがデフォルト。朝潮型のあまりの愛くるしさから、朝潮型を好む提督はガチのロリコンだとの風評があったりする。
雪風→第弐鎮守府所属の陽炎型駆逐艦八番艦。電との戦闘では全然目立たなかった幸運艦(笑)なので、ここで少しだけ出番が与えられた模様。
第弐鎮守府の提督→第弐鎮守府所属の艦娘たちを率いる立場の中年男性。堅物。ワーカホリックに陥っている節があり、徹夜を重ねるのは日常茶飯事。自分に厳しく、他者にも厳しい。

 というわけで、第2章5話は終了です。電の元を訪れ、提案を持ちかけてきた伊168。その真意やいかに。そして、電はどうして伊168を人質に脱走を試みることとなったのか。キリがいいので謎は次回へ持ち越しです。お楽しみに。
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