どうも、ふぁもにかです。今回は久しぶりにギャグに走りました。シリアス基調なこの作品なので、あんまりギャグのクオリティは高くないのですが、この辺の話は書いていて非常に楽しかったです。いくらシリアス重視な作品でもたまにはギャグを投入しないと疲れちゃいますし、これはこれでアリですよね?
暁型駆逐艦四番艦・電が海大Ⅵ型潜水艦一番艦・伊168をさも誘拐したかのように見せかけつつ第弐鎮守府から脱出することとなってから、少し経った後。島風型駆逐艦一番艦・島風はとある目的を胸に、当てもなく第弐鎮守府内を探索していた。
「うー。連装砲くんと連装砲たんが全然見当たらない。どこ行っちゃったんだろう? 最近妖精さんに作ってもらって、うちに迎えたばっかりだからまだ鎮守府の場所をわかってないだろうし、十中八九迷子だろうなぁ。早く見つけてあげないと」
島風は絶え間なく周囲に視線を向けながら、第弐鎮守府内をウロウロする。ついこの間、妖精さんに無理言って作ってもらった、心を宿した連装砲3つの内、2つが己が目を離した隙に忽然と姿を消してしまったのだ。島風が心配のあまり単独で捜索に乗り出すのも無理はない。
「全く、連装砲ちゃんはしっかり者で迷子になったりしないのに、連装砲くんと連装砲たんは遊び盛りで、迷子覚悟で鎮守府探索に出向いちゃうのがいけないね。ちゃんと見つけ終わったら、常識ってものを教えてあげないと!」
島風は盛大にため息を吐きながらも探索を続行する。その様はまるで我が子を育児にかかる手間すら愛する母親の様。とまぁそんな感じで。連装砲くんと連装砲たんの居場所を見つけ出そうとする島風は廊下の突き当たりにて、白黒の影と出くわした。それは、つい半日前に倒した電轟棲姫がダッシュで駆け抜ける姿そのものだった。
廊下の突き当たりでバッタリ出くわしたが故に、そして当の電が勢いよく走っていたため、島風と電は派手にぶつかる。大層に凄まじい装甲を備える電と違い、そこまで大した装甲を持ち合わせていない島風は「お゛うッ!?」と、電と衝突した衝撃で盛大に吹っ飛び、その体は廊下の壁に叩きつけられる。あまりに電の走るスピードが速かったため、その一撃で島風の意識はドゥッと亜空間へと吹き飛ばされた。
「速いだけじゃ、ダメなのね……ガクッ」
「ゴ、ゴメンナサイナノデスゥ!」
電の全く予期せぬ悲劇の事故。電は生来の性格から、つい反射的に謝罪の言葉を叫びながらその場を後にする。電の謝罪は、第弐鎮守府からのプリズンブレイクに挑戦している現状、島風の身を案じている暇がないがゆえの電の妥協点である。
◇◇◇
『島風の悲劇(笑)』から約30秒後。金剛型戦艦二番艦・比叡は得意げな笑みを浮かべながらルンルン気分で廊下を歩いていた。彼女の向かう先は、提督が高確率でいるであろう執務室。
「提督のために腕を振るってカレーを作ってみました。提督、ただでさえ二徹なのに今日も根を詰めているみたいですからね。ここの所は全然眠ってないし、眠る時はいつも気絶するように眠りについて……これではいつかガタが来てしまいます。ここは私の手作りカレーを食べて元気になってもらって、しっかりと睡眠を取ってもらわないといけませんね。比叡の腕の見せ所です!」
比叡はその両手で大盛りのカレーを乗せたお皿を丁重に持ちながらテクテクと執務室に向かう。比叡印のカレーは色合いが鮮やかで匂いも実に香ばしい。しかし、見る人が見ればわかるものと思われた。彼女のカレーからどことなく立ち上る暗黒のオーラに。
「~~♪ ~~、~~~♪♪」
実に上機嫌に鼻歌を歌いながら提督の元に向かう様はまさに死神。このままでは第弐鎮守府の提督は比叡のカレーから逃れられず、彼自身の寿命を幾分か縮めたことであろう。しかし、比叡が廊下の突き当たりに差し掛かった所で、提督にとって非常に幸運なイベントが発生した。
「ワワワワッ!? ソ、ソコヲ退イテホシイノデスゥウウウウ――ッ!」
比叡の前方からかけられる電の声。しかし、比叡は全然気づかない。自身の渾身のカレーを食べた時の提督がどのような反応を見せるだろうかと全力で妄想しまくっている比叡に、眼前のにっくき電轟棲姫の存在を察知する余裕などあるわけがなかったのだ。
「ミャァァアアアアアアアアア!!」
「へ!?」
全力で走る電は急に止まれない。比叡は電轟棲姫とぶつかる寸前に、眼前に迫りくる電轟棲姫の存在を視認するも、時すでに遅し。電と比叡は正面から盛大にドガッとぶつかる。その際、比叡が大事に持ち運んでいたカレーの皿が上空に吹っ飛び、重力のままにひっくり返り、床にぶちまけられる。ちなみに、カレーの一部は「ごふッ!?」と電との衝突により悲鳴を上げる比叡の口の中へと奇跡的に入り――。
「ふぁw:おぎねwq-9うjq-4w!?」
直後。比叡の脳内を強烈に侵食してくる未知の感覚。ざわざわとした、まるで宇宙人に脳みそを弄られているかのような、絶望的な悍ましさが薄暗い瘴気へと姿を変えて比叡の頭をじわりじわりと作り変えていく感覚。
(あぁ、金剛お姉さま……お姉さまが私をお茶会に呼んでいる。行かなきゃ……ガクッ)
結果、比叡は白目を剥いて気絶した。調理中、たった一度も味見をせず、料理があまり得意でない分際で、自身の料理に独自性を加えようと思いっきり前例のないトンデモアレンジに走った艦娘の哀れな末路である。
「ゴメンナサイ! 悪気ハナイノデスッ! 本当ナノデスッ!」
電の行いにより一人の提督の命が救われたことなど露知らず、電はカレーまみれで床に伏す比叡に謝罪の言葉を届けつつ、その場を慌ただしく走り去る。その後ろ姿に深海棲姫としての威厳など欠片も見受けられない。
◇◇◇
電は気絶した風を装う伊168を脇に抱えた状態で第弐鎮守府内を疾走していた。電お得意(?)の衝突芸により瞬く間に島風と比叡を気絶に追いやる中。電の心中はなぜか罪悪感でいっぱいだった。今の電の心境は、まるでジョークを言って場を和ませようとする人についマジレスし、場の空気を凍りつかせた戦犯のようだった。
「全く、なんで深海棲艦がこうも律儀に謝ってるのよ。敵の艦娘を撃破したんだから、もっと堂々とすればいいのに。一々謝ってたらキリがないわよ?」
「ウゥ、デモ……」
電が内心で島風と比叡に対してごめんなさいを連呼する中。気絶の演技の最中なため、極力声を潜めつつも率直に疑問を零す伊168に電は困ったように眉を寄せる。これ以上無駄に電を困らせる気のない伊168は「ま、いいわ。デンちゃんはそういう性格だしね」とテキトーに今の話題を打ち切った。
「さて。ここまでは何か無駄に油断してる連中を倒して戦力を削ってこれたけど……いい加減、妖精さんたちが私たちの姿を目撃してるでしょ。そろそろ放送が入るはず」
『緊急、緊急。先日鹵獲した電轟棲姫が営倉から脱走しました。現在、電轟棲姫は伊168を人質にして鎮守府内を逃走中です。艦娘たちは速やかに電轟棲姫の確保に動き、見つけ次第、捕獲してください。手段は問いません。例え電轟棲姫を殺してしまったとしても不問とします。また、場合によっては電轟棲姫確保の障害になり得る伊168を殺すことも許可します。以上』
と、ここで。伊168の想定と同じタイミングでけたたましいアラーム音が響き渡り、放送室にたどり着いた陽炎型駆逐艦八番艦・雪風による緊急通達が第弐鎮守府内に伝達される。この時、第弐鎮守府内にピリピリとした緊迫感が広がるのを電の肌が感じ取る。電轟棲姫の脱走が現在第弐鎮守府内にいる全艦娘に知れ渡り、電の鎮守府脱走の難易度が格段に跳ね上がった瞬間である。
「さ、ここからが正念場よ。頑張って。あ、そこの角を右に曲がって」
「ハイ!」
しかし、電と伊168はあくまで平常運行。電は伊168のボソボソ声の指示に従って逃走を続ける。伊168は電を鎮守府の地下区画へ誘導していた。バカ正直に鎮守府の正面海域から逃げようとすれば、追っ手の艦娘たちの一斉砲撃に遭う可能性が高いと判断したのだ。ゆえに、第弐鎮守府が地下に用意した、外へ繋がる隠し通路を逃走に利用しようと伊168は考えた。ちなみに、隠し階段を使って到達できる地下区画&隠し通路の存在を知る艦娘はごく一部である。
「見つけたぞ、始末してくれるわ!」
「長月、突撃する!」
と、ここで。電の行く先に姿を現した初春型駆逐艦一番艦・初春と睦月型駆逐艦八番艦・長月がそれぞれの艤装の砲口を電へ定める。その砲口がそれぞれ顔面と足首に向けられていると知った電は顔面を守るように両腕でクロスしつつ前方へジャンプする。
足首狙いの長月の砲撃を避け、顔面狙いの初春の砲撃を並外れた電轟棲姫としての装甲でしっかり防いだ電は着地と同時に初春の横顔を裏拳で殴り飛ばし、長月の横腹を蹴りつける。初春と長月は共に両サイドの廊下の壁に体を叩きつけられる形となり、壁にめり込まんばかりの強烈な衝撃に、そのまま床に「「ガハッ!」」と沈むここととなった。電が前回の戦いで右目を初春に撃たれ痛い思いをした過去の経験を活かした瞬間だった。
「ナイス、デンちゃん」
「ドウイタシマシテナノデス」
伊168の電を褒める言葉が電の鼓膜を打つ中。電は足を止めることなく逃げ続ける。地下区画へ繋がる隠し階段に向けてひた走る。と、電の視界の先に再び2名の艦娘が立ちはだかる。利根型重巡洋艦一番艦・利根と吹雪型駆逐艦四番艦・深雪だ。
「吾輩から逃げられるとでも思ったか!」
「ぃよーし!行っくぞぉー!」
電を迎撃するため、意気揚々と艤装を構える利根と深雪。が、ここで深雪に異変が起こった。電轟棲姫をしかと見据えた瞬間、「はうッ!?」と素っ頓狂な声を上げ、その場に硬直する。
深雪は困惑していた。眼前にいるのは憎くて憎くてたまらない深海棲艦。第弐鎮守府が総力を挙げて滅ぼすと決めた深海棲艦。なのに、そのはずなのに。ガクガクと震える体。例え彼我の実力差がどれだけあろうと、震えることのなくなったはずの体が、強靭に鍛え上げたはずの精神が、電轟棲姫を前に粉々に崩れ去る。電轟棲姫が足を止めることなく迫りくる姿が、深雪にはなぜか、地球上で何よりも怖い存在のように思えてしまった。
「う、うわぁぁああああああああ!」
「え、ちょッ、深雪ぃぃいいいいいいい!? どうした、一体何があったのじゃ!?」
結果、深雪は電から逃れるため、真横の窓を蹴り破り、鎮守府の外へダイナミックに逃走した。そんな深雪の珍行動に利根は思わず深雪の後を追いかけ、窓の外へと身を繰り出す。なぜか電の障害が自分から勝手に消え去ったため、電は利根&深雪と交戦することなく駆け抜ける。
(ここまでは順調だけど……こんなに楽勝な脱走でいいのです?)
「気にしない気にしない。楽なことに越したことはないでしょ? 日頃の行いが良かったんだとでも思ってなさい」
今現在無傷であり、大して脱走に苦戦していない電は内心で首を傾げずにはいられない。一方、電に抱えられたままな伊168は電が余計なことを考え、そのせいで動きが鈍ったりしないように気を付けつつ言葉をかける。かくして、電と伊168は全然苦労することなく地下区画へ通じる隠し階段の元まで到着するのだった。
電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。今の所、プリズンブレイクは順調に運んでいる模様。初春に目を撃たれた経験から、己の頑丈な装甲は完璧でないと認識し、その辺を意識した戦い方を採用している。ちなみに、彼女の十八番は衝突芸との噂がある。
伊168→第弐鎮守府所属の海大Ⅵ型潜水艦一番艦。電の逃走ルートを随時教えるお助け役のポジションを欲しいままにしている模様。
島風→第弐鎮守府所属の島風型駆逐艦一番艦。ここでは連装砲ちゃん(小・中・大)をそれぞれ『連装砲ちゃん』『連装砲くん』『連装砲たん』と名付けている。電の衝突により大破となった。
比叡→第弐鎮守府所属の金剛型戦艦二番艦。料理の腕が最低値な、××料理人。無茶な労働を続ける提督のために丹精込めて比叡カレーを作るも、電との衝突により轟沈一歩手前となった。
雪風→第弐鎮守府所属の陽炎型駆逐艦八番艦。妖精さんから電轟棲姫脱走の報を聞き、提督に判断を仰ぎ、放送室で第弐鎮守府の全艦娘に通達を行った。地味だが需要な役回りである。
初春→第弐鎮守府所属の初春型駆逐艦一番艦。前回と同様に電の目を撃とうとしたが、同じ手は弐度も通じず、結局大破となった。
長月→第弐鎮守府所属の睦月型駆逐艦八番艦。駆逐艦としての小さな体の割に、その精神は長門たち戦艦に負けないぐらい凛々しく気高いのがデフォルト。初春から電轟棲姫の対処法を事前に教わるも上手く活用できず、最終的に中破となった。
利根→第弐鎮守府所属の利根型重巡洋艦一番艦。リアクション芸人の素質を感じる反応を見せてくれた。将来有望である。
深雪→第弐鎮守府所属の吹雪型駆逐艦四番艦。電との衝突をネタにされやすいのがデフォルト。ここでは艦だった頃の電との衝突事件がトラウマ化している模様。電轟棲姫を見て無意識に電であると察知し、トラウマを呼び起こされた結果、窓をぶち破って逃走するという凶行に走った。
というわけで、第2章7話は終了です。とりあえず「第弐鎮守府の艦娘って練度の高い精鋭ぞろいじゃなかったの!?」とのツッコミはなしの方向で。ま、連合艦隊も電に半壊させられたわけですし、電轟棲姫を前にしたら個々の艦娘の実力なんてこんなものですぜ。多分。