どうも、ふぁもにかです。今回は多分、第2章のクライマックス部分となります。クライマックスといっても盛り上がりには欠けた静かなものなんですが、個人的には中々いい感じの展開になったんじゃないかなと思っています。それでは、どうぞ。
第弐鎮守府から脱走するため、地下区画へ通じる隠し階段へと向かう暁型駆逐艦四番艦・電と海大Ⅵ型潜水艦一番艦・伊168。
「はい、ストップ」
『島風の悲劇(笑)』『比叡の悲劇(爆笑)』『深雪の悲劇(大爆笑)』などを経て、伊168のナビゲートのおかげで危なげなく鎮守府内を走っていた電は、脇に抱える伊168からの指令にピタリとその場に立ち止まる。伊168は真横の壁をノックする。不規則に5回、コンコンと伊168が壁を叩くと、壁の一部が音もなく上へとスライドした。
(こ、こんな仕掛けがあったんだ。全然気づかなかったのです……)
「さ、行くわよ」
伊168の先を促す声に従い、電は隠し扉の先の階段を駆け下りる。背後で隠し扉が自動的に閉じられたのを尻目に電は前へ突き進む。電は安心しつつあった。伊168の話によれば、地下区画は秘密裏に設けられたために一部の艦娘しか存在を知らない。そのため、ここまで来たらもう脱走できたも同然だと考えたのだ。階段を駆け下り、地下区画へ到着した電は通路を走る。前方で道が二手に分かれている中、「左に曲がって」との伊168の指令のままに電は左の通路を選択する。そして、電は思い知る。第弐鎮守府はこうも易々と電の逃走を許すほど甘くはないと。
「「ッ!?」」
ドォンとの砲撃音を引き連れて、唐突に前方から迫りくる砲弾。慢心しつつあった電は砲撃を放って砲弾を誘爆させることも砲弾をかわすこともできず、伊168を抱えていない左腕をとっさにかざすことしかできなかった。電の体を鋭い衝撃が突き抜け、電の体は後方へと幾分か吹っ飛ばされる。幸運なのは、今の砲撃で電が小破未満の損傷で済んだこと。そして砲撃の巻き添えを伊168が受けなかったこと。
(待ち伏せされたのです!?)
「待っていたぞ、電轟棲姫。賢い貴様のことだ。ここを探り当てると思っていたぞ」
「まさか本当に長門の言う通り、電轟棲姫がここに来るとはな。飛んで火に入る夏の虫とはこのことか」
電が砲撃により醸成された白煙の向こう側を睨みつけていると、通路の奥からスタスタと二名の艦娘が現れる。長門型戦艦一番艦・長門と大和型戦艦二番艦・武蔵。第弐鎮守府内でトップクラスの火力を誇る艦娘たちだ。
(うーわ、よりによって長門さんと武蔵さんがそろい踏みで立ち塞がってくるの!? これは結構厄介なことになっちゃったかも……)
「貴様を通すつもりは毛頭ない。ここで散れ、電轟棲姫!」
「この武蔵の主砲、味わうがいい!」
長門と武蔵にバレないようにより慎重な気絶演技に入りながらも伊168が内心で頭を抱える中。長門と武蔵は電轟棲姫が伊168を抱えているにも関わらず、容赦なく砲撃を次々と放っていく。ここが前に戦ったような海の上なら砲撃を横に避けるだけでよかった。が、地下区画の通路では左右に電の逃げられるほどのスペースはない。迫りくる砲弾を誘爆させるため、正確に狙いを定めて砲撃を放とうとも、そんな芸当ができるのはさすがに数弾が限度だ。
予期せぬ不意打ちを喰らった以上、むやみに長門&武蔵に特攻し、強行突破を目論むのは非常に危険だ。だからここは一旦退いて、体勢を立て直すべきだ。すぐさま判断した電は長門と武蔵に背を向け、一時退却を試みる。全力で走ってもなお追いついてくる砲弾を砲撃の応酬で誘爆させつつ、電は二手の岐路まで戻り、右の道へ滑り込む。長門と武蔵の砲撃の射線上から逃れるためだ。
「イ、イムヤサン。コレカラドウスルノデス?」
「……どうするも何も、このまま突撃するしか手はないわ」
「ケド、ソノ方法ハカナリ危険デスヨ?」
「今さら引き返したって危険度は変わらないわよ。長門さんたちがあんなにバカスカ砲弾撃って爆音を撒き散らしてきてるせいで、上の艦娘たちが地下区画の存在を察知するのももはや時間の問題。下手に引き返そうものなら長門さんたちと挟み撃ちにされかねないわ」
「デ、デモ……」
「デンちゃんの装甲なら戦艦の砲撃でも何発かは余裕で耐えられるでしょ? 私も大破までなら気合いで我慢するから、強行突破一択でお願いするわ」
「……ハイナノデス」
絶え間ない砲撃音が左の通路から響く中。伊168に判断を仰いだ結果、多少の無茶をしてでも強行突破することとなった電は1つ、深呼吸をする。そして。「どうした!? 隠れてないで早く出てこい!」などと煽りを入れる長門と武蔵の元へその身を曝け出した。
「ッ! 来たな!」
長門と武蔵がすぐさま電目がけて連続砲撃を放つ中。電は走る。走る走る走る。間近に迫る砲弾を撃ち落とすことに一切思考を割かず、電はぐんぐん速力を跳ね上げていく。
「グァッ!?」
ここで。電は2発もの砲弾をその身にモロに喰らい小破状態となる中。大した装甲なんて持ち合わせていない伊168が直接砲弾を喰らったわけでもないのに大破スレスレとなる中。電は己の体を起点に生じる白煙に紛れて長門たちに艤装の照準を向け、砲撃をばらまく。
いくら夕立の艤装が駆逐艦にしては火力が素晴らしいとはいえ、今の砲撃で長門たちを戦闘不能に追い込むことは不可能だ。しかし、それでも電は構わなかった。目的を履き違えてはいけない。自分は第弐鎮守府を脱走できればいいのだ。眼前の艦娘たちを無理して倒す必要はないのだ。
「「ぅぐッ!?」」
白煙を切り裂く形で現れる砲弾に長門と武蔵の反応は遅れ、ガードが間に合わずにその身に直接着弾する。その隙に、電は電轟棲姫としての体が持つ最高速で長門と武蔵の間を抜けた。
(や、やったのです!)
電は長門と武蔵を突破できたことに内心で歓喜する。前の戦闘にて長門と武蔵は自分のスピードについていけてなかった。だからこそ。二人を突っ切れたのならば、後は足に物を言わせて全力で距離を離すだけ。そう思いつつ、電は背後に視線を向けて――映ったのは、電に迷いなく砲口を向ける長門と武蔵の姿。
「……ウソ」
自分の速さに目が追いついていないはずなのに、どうして。電の瞳が驚愕に見開かれる。電の疑問の答えは簡単、長門と武蔵も己の目が電を捉えきれないことをしかと自覚していたからだ。賢い電轟棲姫ならば、前回の自分たちの戦いぶりから速力を武器として仕掛けてくるだろうと決め打ち、それゆえに電に砲撃された時点で間を抜けられたものと決めつけ、砲口を自分たちの背後へと回したのだ。己の弱点を武器に、好機を掴み取る。第弐鎮守府の艦娘の強さの一端がここにある。
ここで砲撃されるのは非常にマズい。電の表情に焦りが浮かぶ。自分は大丈夫だ、今のまま二人に背を向けて全力疾走すれば中破くらいの損傷で逃げきれる。だが、それをすれば現時点で大破一歩手前な伊168の死亡は避けられない。電は追い詰められていた。
(どうする……どうすればいい……!?)
電が必死に現状を打破する起死回生の策を巡らせる中、無慈悲にも長門と武蔵の砲門から砲弾が射出される――かに思われた。だが、そうはならなかった。
「がはッ!?」
「ぐあッ!?」
長門と武蔵が何者かに背後からゼロ距離で撃たれたのだ。背中を撃たれた長門と武蔵が背後の存在を確認するより早く、続けざまにゼロ距離の連続砲撃が放たれる。ズドドドドッと襲いかかる強い衝撃に長門と武蔵は身近い悲鳴を上げて、その場に倒れ伏す。
「エ……?」
長門と武蔵が倒れたことで二人に砲撃をぶちかました張本人の姿を両眼でしかと捉えた電はついその場で制止する。電の元に姿を現したのは、紺色の髪をストレートに伸ばし、薄紫色の瞳をした艦娘。暁型駆逐艦一番艦・暁――電の一番上の姉だった。
暁を見た瞬間、電の心に生じたのは抗いようのない恐怖。第弐鎮守府の艦娘は深海棲艦に酷く憎しみを抱いている。だから、暁が電を拒絶するのではないかと思ったのだ。電に対して艤装を構え、殺気を突きつけてくるのではないかと思ったのだ。
「――行きなさい。ここは押さえるから」
だがしかし。当の暁は電の元へ数歩近づくと、電に背を向ける。落ち着いた口調で、電の逃走を支援する構えを見せる。暁の優しい声色。電はたまらず「ドウ……シテ……?」と問いかける。長門と武蔵が床に伏している今、脱走の最大のチャンスが巡ってきていると理性ではわかりきっているのに。それでも電は問いかけずにはいられない。
「そんなの決まってるでしょ? 例え見た目が変わっても、声が変わっても。愛しい妹を見抜けない姉はいないのよ。ね、電?」
「――ッ!!」
暁は顔だけ電の方へ向けて、ニィッと満面の笑みを向ける。電は強く、強く衝撃を受けた。暁に自分の正体を見抜かれたこと。深海棲艦な今の自分を当然のように受け入れてくれたこと。電は驚きを隠せない。沸き上がる嬉びを隠せない。
「暁、オ姉チャン……!」
「私のことはいいから早く行きなさい!」
「ッ!」
「どうして轟沈したはずの貴女が深海棲艦の姿になってるのかとか、イムヤを連れ去って何をする気なのかとか、聞きたいことはいっぱいあるけど、貴女は誰かを進んで傷つけられるような子じゃない! そんな優しい貴女のすることに間違いなんてないんだから!」
電はつい暁の元へ駆け寄ろうとするが、暁は電の行動を言葉で制し、逃走を促す。だが、電は動けない。暁が電の味方としてこの場に残ろうとしていることが、この後暁にどのような未来をもたらすのか、想像に難くないからだ。
「……行くわよ、デンちゃん」
「デモ、ソンナコトシタラ暁オ姉チャンガ――」
「言いたいことはわかるわよ。でも、ここに留まった所で暁のためにはならないわ。ここは暁の意思を尊重するべきよ」
「ウ……」
ここまで事態を静観していた伊168が電の背中を押す。伊168の意見に電は反論できない。先ほど、目的を履き違えてはいけないと考え行動したのは紛れもなく自分なのだから。
「ゴメンナサイ、暁オ姉チャン」
「違うわよ、電。こういう時、一人前のレディは謝ったりしない。別の言葉があるでしょ?」
「……アリガトウ、ナノデス!」
電は暁に謝罪でなく感謝の言葉を残して、通路の奥へと走り去る。
その耳に「どういたしまして」との暁の呟きは届かなかった。
◇◇◇
「一応最初に言っておくけど、別に私は電轟棲姫に操られてるとか、弱みを握られてるとか、そんなことは一切ないから。誤解しないでよね」
電が通路の奥に姿を消した後。おもむろに立ち上がる長門と武蔵に暁は弁明する。中破状態の長門と武蔵は暁に存分に殺気をぶつけるも、対する暁はどこ吹く風だ。
「……この利敵行為、どうするつもりだ?」
「別に。自分のしでかしたことはわかってる。だから、解体処分でも何でも好きにしていいわ。でも、足止めはさせてもらうから」
「なぜだ? なぜそこまで電轟棲姫に加担する?」
「あの子は私の妹だと確信した。だから脱走に協力することにした。それだけよ」
「本気で電轟棲姫を妹だと思ってるのか? ……気でも狂ったか」
「何とでも言いなさい。一人前のレディは、その程度の暴言で傷ついたりしないもの」
吐き捨てるような長門の言葉に暁は腰に両手を当ててエッヘンと胸を張る。状況が状況であれば微笑ましいと感じる所なのだが、今のタイミングでの暁の態度は長門と武蔵の暁への敵意を高めるだけだった。
「最後通牒だ。そこをどけ。私たち戦艦二隻を止められるとでも思っているのか?」
「止められないわね。でも、しばらくの間、貴女たちを通さない障害物にはなれるでしょ。あの子が逃げきれるだけの時間は稼がせてもらうから」
「そうか……」
電轟棲姫を追いかけたい長門と武蔵。電轟棲姫を守りたい暁。双方が一歩も譲らない以上、言葉での応酬は無意味である。それゆえ、三名の艦娘たちは艤装を構える。
(感謝したいのは私の方よ、電。どんな形であれ、生きていてくれてありがとう)
第弐鎮守府の艦娘同士の戦闘が幕を開ける直前。暁は心の中で電に感謝する。その後、長門と武蔵に立ち向かう暁の姿は、姉の威厳に満ちあふれているのだった。
電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。ただいま小破状態。長門&武蔵の待ち伏せでそれなりにピンチになるも、暁のおかげで切り抜けることができた。
伊168→第弐鎮守府所属の海大Ⅵ型潜水艦一番艦。ただいま大破寸前。気絶演技がバレないように、メチャクチャ痛くても声を殺して我慢していた模様。
長門→第弐鎮守府所属の長門型戦艦一番艦。電轟棲姫の逃走ルートを先読みし、回り込んでくる優秀さがいっそ恐ろしい。伊168ごと電轟棲姫を仕留めようとするのはもはやここでは通常運行。
武蔵→第弐鎮守府所属の大和型戦艦二番艦。長門経由で地下区画について知り、長門とともに電を待ち伏せていた。ここの武蔵は長門と比べるとやはり目立ちにくい傾向にある。
暁→第弐鎮守府所属の暁型駆逐艦一番艦。隠し扉に入る直前の電轟棲姫を目撃し、瞬時に電轟棲姫が電だと悟り、後追いで地下区画へ入っていったらしい。
電「ア、暁お姉チャンガチャント『レディ』シテル……コンナノ絶対オカシイノデス!」
暁「ちょっ、電ッ!?」
というわけで、第2章8話は終了です。暁ちゃん大正義の話でしたね。いやぁ、第2章でこのシーンを一番書きたかったんですよね。ようやく届きました。いっそこのシーンのために隔日更新をここまで頑張ってきたと言っても過言ではないかもしれません。
閑話休題。この作品では現状、特に長門さんが悪役っぽくなっちゃってますが……私、長門さんが嫌いってわけじゃないんですよ? むしろ大好きです。ながもんとかビッグ7(歳)とか超大好物――ゴホンゴホン。今のは忘れてください。