どうも、ふぁもにかです。前回の展開を見て「今回はどんな脱走劇になるんだ!?o( ̄▽ ̄o)」とワクワクしている方がいたら非常に申し訳ないんですが、この脱走劇は前回がピークなのです。そろそろ第2章が終わりを迎える頃合いなので、まとめにかかりたい所ですね。
第弐鎮守府から脱出するため、地下区画の通路をひた走る暁型駆逐艦四番艦・電(小破状態)。海大Ⅵ型潜水艦一番艦・伊168(大破寸前)を脇に抱えて走る電の前方で通路はプツリと途絶え、そこから先は海水で満たされている。ザバァと定期的に波が通路端へと打ち付けてくることから、どうやらこの水路トンネルは直接海へと繋がっているようだ。
「ここまで来ればもう脱走できたも同然ね。全く、一時はどうなることかと思ったけど、何とかなってよかったわ」
「……ハイナノデス」
電が海面上をバシャバシャと駆ける中。伊168は深々と安堵のため息を吐く。一方、電の表情は暗い。当然だ。電と伊168の脱走成功には、電のための足止め役を買って出た姉――暁型駆逐艦一番艦・暁の存在が大きいのだから。
(暁お姉ちゃん……)
もしも、もしも私が危なげなく戦艦の艦娘二隻を突破できたなら、暁お姉ちゃんは自らの所属する第弐鎮守府を敵に回してまで私を守ろうとはしなかっただろう。深海棲艦を酷く憎む第弐鎮守府の艦娘たちが、私を庇う暁お姉ちゃんのことを許すとは思えない。解体されたって不思議じゃない。そして、その結末は、私が不甲斐なかったせいで起こる事象なのだ。
「そういえば。さっき暁が貴女のことを、その……妹だって言ってたけど」
「……」
「その様子だと本当なのね。なるほど、道理で私たち艦娘を沈めないように気を遣って戦ってくれたわけ。まさかデンちゃんが元艦娘だったなんて、驚きだわ」
「ソウ言ウ割ニハ落チ着イテイルヨウニ見エルノデス」
「そう? これでもかなり驚いているわよ。けど、そんなに衝撃がないのは私も似たような立場だからかしら? ――私ね。実は艦娘化した深海棲艦なのよ」
「ヘ? ェェェエエエエエエエエエエエエエエエエ!?」
伊168がサラッと口にした衝撃の事実。伊168のカミングアウトに電は驚愕の声を通路に響かせる。だが、電の心は同時に伊168の発言に納得もしていた。そうだ、あり得なくはないのだ。私のように深海棲艦化した艦娘がいるのなら、艦娘化した深海棲艦がいたっておかしくないのだ。艦娘の体に深海棲艦の心を宿した、私とは対極の存在がいたっておかしくないのだ。
「イムヤサン、元ハ深海棲艦ダッタノデスカ!?」
「ええ。まぁ正確には前世が潜水棲姫だったって所よ。伊168としての記憶もちゃんと持ってるしね」
「ジャア、第弐鎮守府カラ抜ケ出シタカッタノハ、モシカシテ――」
深海棲艦としての記憶を抱えるイムヤさんにとって、深海棲艦をひたすら憎み、手段を選ばず殲滅にかかる第弐鎮守府が酷く居心地の悪い場所だったからなのか。そのように考え、尋ねようとした電の問いを先読みした伊168が「違うわ」と遮ると、己の目的を語り始めた。
「むしろ逆よ。私が真の意味で第弐鎮守府の艦娘になるために、一旦出ていきたかったの」
「?」
「私は元々深海棲艦だけど、色々あって、今は艦娘として戦いたいと思ってる。人類を深海棲艦から守るために第弐鎮守府の仲間たちと一緒に戦いたいと思ってるわ。でもね、そうなると深海棲艦としての記憶が、本能が邪魔になるのよ。……今まで深海棲艦と戦う中で、無意識の内に味方の艦娘の方に魚雷を発射しようとしていた時があった。デンちゃんと戦った時も、私は危うく魚雷を武蔵さんに向けて発射する所だった。これまでは直前で我に返って、ギリギリの所で標的を修正できたから事なきを得たけど、このまま鎮守府に留まっていたら、私はいつか仲間を轟沈させてしまう。それが凄く怖いのよ」
「イムヤサン……」
「私はまだ、深海棲艦の本能を制御できていない。こんな体たらくで、これ以上鎮守府に居続けるわけにはいかない。間違いが起こってからじゃ遅いもの。だから、深海棲艦の本能を完璧に抑えられるようになって、真の意味で第弐鎮守府の一員だって、元々は深海棲艦だけどそれでも私も第弐鎮守府の艦娘なんだって胸を張れるようになるまでは、一時的に離脱したかった。これがデンちゃんに私を連れ出してほしいって依頼した答えよ」
伊168は複雑そうな表情を浮かべながら、至極冷静に目的を語る。本当は第弐鎮守府に留まりたいのだろう。出ていきたくないのだろう。でも、己が抱え込んでしまった深海棲艦の本能が、人類への復讐心が、その伊168の望みを許さない。だから、第弐鎮守府に迷惑をかけない内に離れざるを得なくなった。
「ソウイウ事情ダッタノデスネ……」
伊168の抱える事情を知る中で、電は伊168に親近感を抱いていた。電もまた、深海棲艦化したために、第参鎮守府に迷惑をかけたくなくて元の体を取り戻す旅を選んだのだから。
「お、出口が見えてきたわね」
と、ここで。長い水路トンネルの終着点が見え始める。電は駆け続け、トンネルの出口の穴はドンドン大きくなっていく。そして。出口に差し掛かった時、前方から声が届いた。
「――なるほど。そういうことでしたか」
「「ッ!?」」
もう艦娘の追っ手はないものと考えていた電と伊168が水路トンネルに響き渡る女性の声に驚愕を顕わにする中、出口の海域からスタスタと姿を現したのは、青葉型重巡洋艦一番艦・青葉。どうやら電と伊168をここで待ち受けていたようだ。
(あ、青葉!? どうしてここに!?)
「いやはや、イムヤさんが電轟棲姫の脱走を支援し、自分をも連れ出してもらおうとした時は一体何を考えているのかと思いましたが、そのような裏事情があるのなら青葉、納得です。深海棲艦化した艦娘に、艦娘化した深海棲艦とは……事実は小説より奇なりとはよく言ったものですね」
「……」
「あ、気絶演技は結構ですよ、イムヤさん。全部聞きましたから」
「……デンちゃんに盗聴器を付けてたのね」
「エッ!?」
「ふふふ、正解です。この青葉が未知の深海棲姫の情報収集をサボるなんてあり得ません。うかつでしたね、イムヤさん」
どうして青葉が電と伊168を先回りできたのか。その原因は、いつの間にやら電に取り付けられていたらしい盗聴器にあったようだ。
(え、でもどこにも盗聴器がないですよ!? どれだけ小さいのです!?)
電が己の体を見渡し、盗聴器らしき物体が見当たらないことに困惑する中。どうだと言わんばかりに勝ち気な笑みを浮かべる青葉とは対照的に、伊168は厳しい表情で青葉を睨みつける。どうにか青葉の真意を見抜こうとする。
「……それで、青葉はこれからどうするつもり? 号外でも出しちゃうわけ?」
「出してほしいですか?」
「できれば、やめてほしい」
「なら、青葉が聞いたことは全て青葉の胸の内に仕舞っておきましょう。あと、青葉に貴女たちと戦う意思はありませんので、通るならご自由にどうぞ」
青葉の試すような問いかけに伊168は第弐鎮守府という帰る場所を失いたくないとの正直な気持ちを吐き出す。すると、青葉はあっさりと伊168の事情を秘匿する旨を伝え、ついでに電の眼前に立ち塞がるのをやめ、水路トンネルの側壁へと移動する。青葉の態度が意外だったのか、伊168は目をパチクリとさせた。
「……えっと、見逃してくれるの?」
「仕方ないでしょう? イムヤさんが人類を裏切り深海棲艦に味方しようと企んでいるのならともかく、深海棲艦としての本能のせいで戦闘の度に仲間を誤爆する脅威に怯えないといけない今の貴女を鎮守府に連れ戻し、精神的苦痛を強い続けるなんて、そんなのお断りです。貴女の抱える事情を知ってしまった今、脱走を認めない理由はありません」
「でも、私は元々深海棲艦なのよ?」
「関係ないですね。今のイムヤさんは中身はどうあれ見た目は艦娘ですし、心も艦娘であろうとしているじゃないですか。貴女はもう艦娘ですよ。それに、実は私、今はそんなに深海棲艦に憎しみを抱いているわけじゃないんですよ」
「え、そうなの?」
「はい。ただ正直にそんな態度を取ってたら村八分になりかねないから表向きは『深海棲艦絶対殺す艦娘』の振りをしてるだけです。青葉の見立てでは他にも何名か、そういうスタンスの艦娘がいますよ。青葉の目はごまかせません」
今まで知らなかった意外な事実に伊168の目が点となる中、青葉は二人の会話の動向を一歩引いて眺めていた電へと視線を向ける。
「電轟棲姫。いや、暁ちゃんの妹さん。もし良ければイムヤさんのこと、今後もちょくちょくサポートしてくれませんか? 第弐鎮守府から脱走できた恩返しを誠実にしてほしいなぁと青葉は考えているのですが」
「……貴女モ私ヲ信ジルンデスネ。イインデスカ、私ハ敵デスヨ?」
「わかってます。でも貴女は元艦娘で、それも暁ちゃんの妹さんなのでしょう? 暁ちゃんのことはよく知っています。あの子の妹さんなら、疑うだけ無駄ってものですよ」
「ワカリマシタ。私ニデキル範囲デナラ、サポートサセテモラウノデス」
「よろしくお願いします。では、私の頼みを聞いてくれたお返しに暁ちゃんのことは青葉に任せてください。バレないように根回しをして、解体されない程度に処分を軽くしておきますから」
「ッ! ア、アリガトウナノデス! 本当ニアリガトウゴザイマスッ!」
「どういたしまして。でも、そんなに頭を下げることないですよ。貴重ないじり対象がいなくなると私が寂しいから暁ちゃんを助けようとしているだけですしね」
暁に最悪の事態が訪れないように青葉が取り計らってくれることに電は心から感謝の言葉を青葉に捧げる。一方、普段のおちゃらけた性格のせいで真正面から感謝の言葉をぶつけられる機会の乏しい青葉はむず痒くなり、ぷいっと電から視線を逸らしてごまかしにかかる。
そのような青葉の姿を見て、電はわからなくなった。第弐鎮守府の艦娘たちは概して深海棲艦を酷く憎み、一刻も早い殲滅を望んでいる。だが、青葉のようにそこまで深海棲艦に対して思う所のない艦娘も第弐鎮守府に所属している。この歪みは、異様さは一体何なのか。
「1ツ、聞イテイイデスカ?」
「なぜ、第弐鎮守府は深海棲艦に対するヘイトが異常に高いのか、ですか?」
「ハイ」
「それについてはイムヤさんから聞いてください。私がいつまでもダラダラ話していたら、執念深く、勘の鋭い艦娘がここにたどり着くかもしれませんしね」
電の問いをあらかじめ予測していたらしい青葉は伊168に回答を任せ、「そろそろこの密会もお開きにしましょうか」と言葉を紡ぐ。その後、「あ、そうだ。青葉がここへ来た最大の目的を忘れる所でした」と青葉は少々わざとらしくポンと手を打つと、再び伊168に視線を戻した。
「青葉?」
「イムヤさん。深海棲艦の本能とケリがついたら、必ず帰ってきてくださいね。いつでも待っていますから」
「ッ!」
青葉が第弐鎮守府から離脱する伊168を見送るためにわざわざ水路トンネルまで出向いていた。その事実に伊168は思わず感極まる。何だかんだ、元深海棲艦であるために第弐鎮守府での日々にそこはかとなく疎外感を感じていただけに、青葉の伊168を大切な仲間として見送ろうとする姿勢は、伊168の胸に迫るものがあった。
「……ありがとう、青葉。それじゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
が、伊168はあくまで平静を装って、普段通りの口調を心掛けて青葉に言葉を残す。青葉の己の今の心境を見透かしたような声色が、今は何だか嬉しかった。かくして、電は伊168を連れ立って水路トンネルを出ていく。第弐鎮守府からの脱走が完了した瞬間だった。
電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。ただいま小破状態。今回はそんなに目立たなかった印象。青葉が暁のことを何とかしてくれるみたいなので、安心している。
伊168→第弐鎮守府所属の海大Ⅵ型潜水艦一番艦。ただいま大破寸前。元々は潜水棲姫だったが、轟沈後、伊168として建造された。今は潜水棲姫の記憶と潜水艦・伊168の記憶とが併存している。艦娘に対して時々毒のある言葉を放つのはその影響。
青葉→第弐鎮守府所属の青葉型重巡洋艦一番艦。電にこっそり取り付けたマイクロサイズの盗聴器から事の一部始終をしっかり聞いていた。サバサバとしており、第弐鎮守府の艦娘にしてはそこまで深海棲艦を憎んでいない模様。
というわけで、第2章9話は終了です。前回の暁に引き続き、青葉の株が急上昇するお話でしたね。ちなみに、青葉の言っていた「表向きは『深海棲艦絶対殺す艦娘』の振りをしてる」第弐鎮守府の艦娘は暁、朝潮、島風、利根です。といってもこの辺の裏設定は裏すぎて今後の伏線にすらならないんですけどね。