どうも、ふぁもにかです。今回で第2章『優先順位は欲張りにこそ』という名の『第弐鎮守府編』は終了です。個人的には6、7話で終わる予定だったため、思ったより長引いた印象です。しっかし、現状で書きたくて書きたくてたまらなかったシーンのラッシュを執筆し終えた今、モチベーションが心配な所なのです。
第弐鎮守府を脱走し終えた暁型駆逐艦四番艦・電と海大Ⅵ型潜水艦一番艦・伊168。万一にも第弐鎮守府の追っ手に居場所を捕捉されることのないよう、電は第弐鎮守府から少しでも距離を取ろうと夜の海を数時間ほど駆け続ける。
十分に距離を取り終えた後、電は伊168の要望により彼女を脇に抱えるのをやめる。伊168は大破寸前の状況なため、小破状態の自分が抱え続けた方がいいのではと考える電であったが、そこは伊168の意思を尊重した。
「……イムヤサン。話、聞イテモイイデスカ?」
「ええ、いいわ。ちょうど頭の中で話す内容をまとめ終えた所だしね」
特にこれといった目的地を定めず、海上をテクテク歩く電と伊168。青葉に第弐鎮守府の異様さの原因を尋ねるも、上手い具合にお預けにされた電は伊168に早速問いかける。対する伊168は電の疑問に、まずは要点から伝えることにした。
「一言で言うなら、2か月前に川内さんが轟沈したからよ」
「……エ? 川内サンガ、ナノデス?」
「ま、その反応が普通よね。たかが艦娘一隻が沈んだなんてことはどの鎮守府だって経験してるありふれた悲劇だもの。でも、私たちにとって、川内さんの轟沈は特別だったのよ」
第弐鎮守府が一種の狂気に陥っている理由。第弐鎮守府の艦娘たちの様子からして凄惨な過去があったのだろうかと予測していただけに、電はきょとんとする。伊168は電の失礼ともとれる態度を特に気にすることなく言葉を続ける。
「第弐鎮守府は深海棲艦との戦争の最前線。毎日のように一進一退の攻防を繰り返してきた。どこまでも膠着状態の続く戦い。精神をすり減らして必死に戦う第弐鎮守府にとって、川内さんはムードメーカーだったの。川内さんは所構わずはしゃぎまくって。夜になったら『夜戦だ夜戦だ!』って騒ぎまくって。でも、ギャンギャンうるさいだけじゃないの。ちゃんと皆のことをよく見て、細やかに気を配って、支えて、元気づけて。どんなに戦争が辛く思えても、川内さんが手を差し伸べてくれるから頑張ろうって立ち上がれる。川内さんがニコニコしているから戦場から日常へ帰って、のんびり心を落ち着けられる。川内さんが長くて終わりの見えない戦争に希望を捨てないでいるから、どこまでだって戦ってやるって、人類を守ってみせるって思える。……第弐鎮守府の古株だったこともあって、川内さんは皆のお姉ちゃんのような存在だったの」
伊168はゆっくりと第弐鎮守府における川内型軽巡洋艦一番艦・川内について言葉を綴っていく。もう戻れない過去を懐かしんでいることが伊168の横顔から読み取れた。
「そんな不思議な魅力を持ってた川内さんは間違いなく第弐鎮守府の顔役だったわ。堅物で中々融通の利かない司令官のこともしっかりと支えて、お偉いさんとの話し合いの時もスムーズに進められるよう取り計らって、そういう場の雰囲気作りが素で上手くて、秘書艦としても優秀だったわ。司令官とケッコンカッコカリをした時に、司令官を狙っていた艦娘たちも『川内さんなら仕方ない』って満場一致で身を引くぐらい……全然完璧じゃないけど、愛嬌があって、なぜか皆を笑顔にできちゃうお姉ちゃんだったのよ、川内さんは」
「……」
「でも、沈んだ。2か月前に深海棲艦に轟沈させられた。失ってから気づいたけど、川内さんは紛れもなく、第弐鎮守府の精神的支柱で、要で、核だった。失ったものはあまりに大きかった。どの鎮守府でもありふれた悲劇のはずなのに、川内さんを失ったことは第弐鎮守府にはあまりに致命的だった。……皆で泣いたわ。散々悲しんで、嘆いて。でも、立ち直れない。川内さんがいなくなって、ポッカリ空いた穴を埋められない。埋められないまま拗らせて、第弐鎮守府は修羅になった。やり場のない感情をただひたすら深海棲艦にぶつけるようになった。深海棲艦を一隻でも沈めることに躍起になっていった。段々エスカレートして、確実に深海棲艦側にダメージを与えられるのなら例え自身が沈むことも厭わないと考えるのが当たり前だと言わんばかりの風潮になっていった」
「……」
「川内さんがいた頃は、深海棲艦との激戦に次ぐ激戦に辟易としつつも、過ごしやすい雰囲気が第弐鎮守府にはあった。でも、川内さんがいなくなってからはそんな空気は見る影もない。司令官も大体の艦娘も1日も早い深海棲艦の殲滅を目指して心も体も切り詰めるだけの毎日。川内さんが轟沈した瞬間から、第弐鎮守府の時はずっと止まったままなのよ。……ま、そんなわけで狂気あふれる異常な第弐鎮守府が爆誕しちゃいました、おしまいっと」
「……」
伊168はまるで詩を紡ぐように、第弐鎮守府の深海棲艦へのヘイト感情が強すぎる理由を告げ終える。電は何も言えない。伊168の話が上手だったために第弐鎮守府の面々に感情移入したというのもある。が、電は今、伊168が話してくれた内容に関することで頭を悩ませていた。
「川内さんは本当に凄い艦娘だったのよ。それこそ、元々潜水棲姫の記憶を抱えていて、内側からどうやって第弐鎮守府を崩して、滅ぼしてやろうかと考えて、地下区画やら色々探ってたこの私があろうことか懐柔されて、深海棲艦の本能に逆らってでも艦娘として人類のために力を振るおうって改心しちゃうぐらいにはね」
「……ソレハ、本当ニ凄カッタンデスネ」
「でしょ? でしょ?」
電が正直に川内を褒めると、伊168はまるで自分が褒められたかのように顔を綻ばせる。その様子一つ見ただけでも、伊168の川内への懐きようは明らかだった。電は一つ、悩みを振り切り決断した。そして、伊168をジッと見やる。
「デンちゃん? どうしたの?」
「イムヤサンハ、コレカラドウスルノデスカ?」
「……んー。そうね、ひとまず深海棲艦の本能をどうにかする方法を探す旅でもしようかなって思っているわ。オリョクル経験を積み重ねたおかげで資材の発掘場所は結構把握してるから燃料とかの心配はないし、後は深海棲艦や第弐鎮守府の皆に見つからないように気を付けながら旅をすればいいかなって。上手いこと解決策が見つかるなんて都合のいいことはあまり期待していないけど……それでも、やれる努力を全てやってない内から希望を捨てたくはないからね」
「――ナラ、私ト一緒ニ旅ヲシマセンカ、イムヤサン?」
「えッ?」
伊168は電の思わぬ提案に困惑の声を漏らす。電は伊168に向けて自分の立ち位置やこれまでの旅路を簡潔に説明する。今の自分が元の艦娘の体を取り戻すための旅をしていること。魂甲棲姫から遊撃の役目をもらっていること。深海棲艦を生み出した何者かが存在すること。その深海棲艦の生みの親と接触することを現時点の旅の目標としていること。その前段階として奈落棲姫から情報を聞き出そうとしていること。などなど。
「……深海棲艦の生みの親、ね。確かに、何も手掛かりのないまま勘任せで突き進むよりデンちゃんと一緒に旅をして、生みの親を見つけ出した方が良さそうね。でもいいの?」
「何ガデスカ?」
「見た目深海棲艦のデンちゃんが見た目艦娘の私を抱え込んだら厄介事になりかねないわよ。魂甲棲姫は艦娘を連れ歩くデンちゃんのことをよく思わないだろうから、今までと違って遊撃として動きにくくなるかもしれない。それに私自身、デンちゃんと比べたら戦力外もいい所だわ。私の事情に首を突っ込んで、荷物を増やして、積極的に自分を苦しめる必要はないんじゃない? もしも青葉に言われたことを気にしてるなら、気を遣うことないわよ。私はデンちゃんに誘拐されたって形で第弐鎮守府から一旦出てこれただけで十分なんだから」
「イムヤサンノ言ウコトモ一理アリマス。デモ、独リボッチノ旅ハ寂シイノデス。ダカラ、イムヤサント一緒ニ旅ガシタイノデス。……ダメ、デショウカ?」
「うッ。そんなウルウルとした目で聞くなんて卑怯よ。けど、本当にいいの?」
「ハイ」
「……ふぅ、仕方ない。なら、今日からは2人旅ね。改めてよろしくね、デンちゃん」
「ハイナノデス! 話シ相手ガデキテ、嬉シイノデス!」
電と伊168は握手を交わす。かくして、電の元の体を取り戻す旅に新しい仲間が加わった。元深海棲艦の現艦娘であり、深海棲艦の本能を制御ないし消し去る術を求めて第弐鎮守府から離脱した伊168が追加された。
「ま、そんなわけだから……えーと、黒妖精だっけ? いつまでも隠れてないで出てきなさいよ。というか、私は元々潜水棲姫なのよ? 姿を隠されるまでもなく貴女たちの存在は既に認知しているわ」
『ケケケ、何だよぉ。知ってやがったのか』
『そういや元深海棲艦って話だったな』
『艦娘に知られちゃマズいって隠れてたのがバカみてぇだな』
『てか、お前さっきの発言、どういう了見だ?』
『独りぼっちの旅はねぇだろ』
『俺たちが話し相手じゃ満足できないってか?』
「ア、アノ、ソノ――」
伊168が電の艤装(※伊168が夕立からくすねたもの)へ向けて呼びかけると、黒妖精たちが次々と顔を出す。その後、黒妖精たちは電が伊168を旅に誘う際の発言を取り上げ、電に詰め寄っていく。一斉に迫られたために電が黒妖精たちの対応に窮していると、伊168がさらっと爆弾を放り込んだ。
「貴女たちは所詮、一匹二匹のカウントだからデンちゃん的には対等の旅仲間として認識してなかったんじゃないの? 体がちびっちゃいと影が薄くて大変ねぇ」
「ファッ!? イムヤサン、何言ッテルノデスカ!?」
『何だとぉ!?』
『電轟棲姫、お前ぇぇ!』
「ワワワワッ!? ゴ、誤解ナノデスゥゥウウウ――!!」
『待ちやがれ!』
『逃がすな!』
伊168の言葉を機に、電に襲いかかる黒妖精たち。誤解を解く暇もなく逃げ出すことしかできない電。数の利と宙を自由に飛び回れる特性、およびちびっちゃい体ゆえの小回りの良さを用いて包囲網を築きつつ襲撃をかける黒妖精たち。電が黒妖精たちのやけに息の合った襲撃を回避できなくなるのも時間の問題だった。
「痛イ痛イ! 髪ハ引ッ張ラナイデ! 顔モダメ! イムヤサン、早ク助ケテホシイノデス!」
「……デンちゃんっていじると結構面白い反応を見せてくれるわね。暁で遊ぶ青葉の気持ちがわかったかもしれない」
「イムヤサン!?」
電はたまらず伊168に助けを求めるが、当の伊168に事態を鎮静化するつもりはないらしい。電には現状をただただ甘受し、断末魔をあげるしか道が残されていなかった。
「ミャァァアアアアアアアアアアア゛――ッ!!」
◇◇◇
電は伊168を少しだけ強引に自らの旅に巻き込んだ。黒妖精以外の話し相手――特に艦娘側の立場の話し相手――が欲しかったとの思いもある。青葉に言われた通り、自分を助けてくれた伊168への恩返しとして、伊168をサポートしたい思いもある。だが、一番の理由は。伊168を奈落棲姫と会わせるためだ。
ナッちゃんは川内さんかもしれない。第弐鎮守府で生き、轟沈した川内さんかもしれない。
だから、もしもイムヤさんとナッちゃんを会わせたら、2人が互いに言葉を交わしたら、ナッちゃんは艦娘だった頃の記憶を思い出すかもしれないのだ。
『ナッちゃん=川内さん』説の真偽を確かめられる。
もしも本当なら、イムヤさんは尊敬している川内さんと再会できる。
もしも違っても、私の友達をイムヤさんに紹介して悪いことはないはずだ。
でも、今はイムヤさんに『ナッちゃん=川内さん』説を伝えない方がいいだろう。もしも『ナッちゃん=川内さん』説が真実なら、第弐鎮守府がやったことは、第弐鎮守府にとって大切な川内さんを自らの手で再び殺そうとしたことに他ならないのだから。
(何はともあれ。まずはナッちゃんともう一度会わないとなのです!)
かくして。電の元の体を取り戻す旅は新たな境地を迎えるのだった。
電→深海棲艦の体に艦娘の心を宿した暁型駆逐艦四番艦。伊168の話に感情移入した影響か、伊168と奈落棲姫とを会わせようと考え、伊168を旅仲間として誘った模様。
伊168→前世が潜水棲姫だった海大Ⅵ型潜水艦一番艦。艦娘化したことをこれ幸いと第弐鎮守府を潰す算段をしていたのに川内の影響で改心する辺り、ちょろい気がしないでもない。成り行きにより、電と行動を共にすることとなった。
黒妖精→深海棲艦に全面的に味方をする妖精。割と煽り耐性が低く、乗せられやすい。
というわけで、第2章10話は終了です。実はこの作品のメインキャラの一角である伊168が電の旅のパーティーに加わった所で第2章もおしまいです。第1章と比べて色々と濃厚な展開になったんじゃないかなと思います。さて、続いては第3章。第2章がシリアス濃厚だったので、第3章の最初の方では基本的にギャグ基調にしたい所。私の脳内プロット通りに物語を進めるとなると、ギャグを挟むのならここら辺が最後のタイミングな気がしますからね。